25話「犯人は、お前だ!」
「ユージさんの服って、どうしてそんなに丈夫なんですか?」
王都へ向かう馬車の中でサチが何気なく聞いてきた。
確かに、今着ているローブは不思議だ。
魔獣の攻撃や炎狼の炎ではビクともせず、俺の体に異常に馴染む。
部屋の中やちょっとしたお出掛けの際にはこの世界の庶民服を着ているが、戦闘時やクエストの際にはスゥにもらったこのローブを着用している。
なので相当酷使しているのだが、傷どころか解れすらない。
「それは、アバターに取り憑かれていた際に向かってきた人間が着用していた物ですね。とても丈夫で、主人と共に成長するローブらしいです」
スゥが耳元で教えてくれた。
混乱しそうなので、霊王アバターがスゥを乗っ取っていた事やスゥが四神だという事はミーナとサチに伝えていない。リアビ村でスゥが広めていたが、2人は聞いていなかったらしい。
その為、一部省略しつつスゥの説明を伝えた。
「もしかすると、『聖装』の一種かもしれないわね」
「せいそう?」
清掃?
「聖なる装備で『聖装』よ。特殊な能力が付与された装備で、使い手を選ぶ代わりに絶大な力を与えると言われているわ」
「魔道具みたいなもんか?」
「確かに似てるけど、大きく違う点が2つあるわ」
詳しいみたいなので、ミーナ先生の講義を暫く聞くとする。
「まず、魔道具に比べて性能が遥かに高い事よ。聖装の一種である『聖剣』なんて、一振りで山を両断出来るらしいわ」
聖剣なんてあるのか、まさにファンタジーだ。名前の通り、威力も凄いらしい。
まぁ、山の両断ぐらいなら工夫すれば素手でできそうだが…それは黙っておこう。
「次に、意思があるという事よ」
「意思?」
「そう、聖装は意志を持っていると言われているの。それ故に使い手を選ぶらしいわ」
装備が意志を持っているのか、面白いな。
このローブにもお世話になっている。何やかんやでスゥの次に出会った相棒なのだ。話せるのなら話して見たい気はする。
「聖装なんて数えるほどしか存在しないから違うと思うけどね。この国にも1つしかないし」
「…だな」
スゥの場合、たまたま話した人間が伝説の勇者なんて事もあった。たまたま持っていた装備が『聖装』であっても、何ら不思議ではない。
今は気にしても仕方ないので、目の前の問題に集中するとしよう。
「王都到着だ。ミーナを王様にするぞ」
「はい!」
「了解です」
「お任せください」
「みんな、ありがとう!」
◇
「なんだと!」
国王であるゴルドは騎士の報告に驚愕しつつも、喜びをあらわにしていた。
娘のミーナが生きており、王都フィーレまで無事に帰ってきたと言うのだ。
「それで、今はどこにおる!?」
「は、はい。今はミーナ様の騎士団が迎えに行き、共に王城まで向かっているそうです」
ゴルドの勢いに押されながらも、騎士はしっかりと報告を行なった。
「そうか、直ぐに歓迎の準備をせよ!ミーナの無事を祝うぞ!」
ゴルドの命令を受け、騎士や執事達が慌てて城内を駆け回る。
「ザミドとレイン、イルガにも知らせろ」
「宜しいのですか?」
「構わん、直ぐに知れ渡る事だ」
「はっ」
3人を呼びに行った騎士が居なくなるのを見やりつつ、ゴルドは深いため息を吐いた。
「…生きていたのは喜ばしい事だが、あの娘の事を想うと、辛いな」
今戻ってこれても、ミーナの王位継承はまずあり得ないからだ。
そもそも、アーミットへの友好破故による罪を背負わされる可能性まである。
「…」
ゴルドの勇者であるシゲルは、ただ静かにその呟きを聞いていた。
◇
「ここが王都か、凄いな…」
仰々しい装飾の施された門を抜けると、巨城を中心として構築された街並みが眼に映った。
大通りは商業都市リザリアをも上回る賑わいを見せており、人や物が引っ切り無しに行き交っている。
なにより、その中でも目にとまる物があった。それはーーーー
「車か!?」
剥き出しの御者台にハンドルを取り付けた馬車のような見た目だが、馬や獣が引いている訳ではない。明らかに自走している。
「あれも、過去の勇者達が考案して造られた魔道具ですね。名前は『車』です」
車だった。
動力は魔力が主流なので機構は全く異なるが、飛行船や鉄道まであるらしい。
この世界の文明レベルを侮っていた。
「魔道具の造り方を本格的に習いたいな」
魔術を使えば素材の加工はお手の物だ。動力の魔力も余るほどある。
造り方さえ分かれば、豪華客船や空飛ぶ家なんてのも造れるかもしれない。
機会があればと思っていたが、ミーナが王になった後にでも頼んでみるとしよう。
王様なら一流の魔道具職人を呼ぶ事くらい出来るはずだ。
「俄然やる気が出てきた」
ミーナを王にする決意を改めて固めつつ、王城へと到着した。
「こちらです」
謁見の間までミーナの騎士達が案内してくれる。
横を見ると、ミーナとサチは表情が硬い。緊張しているのだろう。
眷属の2匹はいつも通りだ。スゥは俺の肩に留まり、コゥは子猫モードで斜め後ろをトコトコと付いてきている。
ちなみに、変装の必要も無くなったので誰も幻術はかけていない。
「お入りください」
騎士の言葉の後、一拍おいて謁見の間の扉が開いた。
ミーナを先頭に扉を潜り、王との謁見が始まった。
◇
「ミーナよ、よくぞ無事であった」
「はい、お父様」
ミーナの無事を喜ぶ国王の言葉によって謁見は始まった。かに思えたーーーー
「さてと、隣にいるのが…がぁ!?」
突然のゴルドの奇声に、場は騒然となる。
だが、そんな場の空気を気にできるほどの余裕をゴルドは無くしていた。
(な、なぜ神獣様が!?しかも、2柱も来ていらっしゃる!一体何が起きている!これは、夢なのか!?)
ゴルドが動揺した理由は、彼の持つスキルにある。
『刮目相待』対象の詳細情報を閲覧できる調査系スキルだ。
4文字スキルであるが故、ゴルド自身も完全な制御はできていない。だが、種族を看破する程度であれば容易に行える。
(種族『神獣』。何度確認しても間違いない、神獣様ではないか!)
ゴルドが驚くのも無理はない。
神獣とは世界を支える4匹の神であり、伝説上の存在なのである。
伝承では、怒りをかった幾つもの国が滅び、根絶やしにされた種族まであると伝えられている。
辺境の村人すら伝え聞かされる、有名な伝承の一節だ。
しかし、極一部の者達。各国の長やそれに連なる地位の者だけが知る真実があった。
それは神獣の存在が伝承などではなく、実在するという事実だ。
民に過剰な信仰心や不敬を抱かせないために隠されているが、神獣は確かに実在する。
神獣の怒りで滅びた国の生き残り、根絶やしにされた種族を見た者達。そんな歴史の目撃者によって、静かに口承されてきたのだ。二度と同じ過ちを犯さないようにと…。
もちろんゴルドも神獣の実在を知る者の一人だ。そして、4文字スキルである『刮目相待』は幻術の影響を受けない。
それ故に、目の前に神獣が存在しているという事実をゴルドは疑う事なく受け入れたのだ。
(これは、大変な事態となったわい)
伝承の真実を知り、優秀なスキルを保有していたがために、ゴルドの動揺は止まる事なく続いていく。
「ゴホンっ、隣にいるのがミーナを救ってくれた神谷優二くんじゃな。礼を言う」
「あ、はい」
気の抜けたユージの返事に、周囲の騎士達が鋭い視線を送る。
その騎士達をゴルドが睨み、黙らせる。
4文字スキルを有している通り、ゴルドは戦士として相当な高みにいる。そんな彼の睨みは百戦錬磨の王国騎士達すら抗えぬ程の死を予感させ、彼等を石像のように固めた。
(危なかった。下手に刺激すれば神獣様が機嫌を損ねられるかもしれん)
ゴルドは息を呑み、ユージへと視線を戻す。
神獣の1柱が彼の肩に留まっているのだ。どういう関係かは分からないが、彼を気に入っているのは確かである。
つまり、彼に何か不敬を行えば国が滅びる可能性があるのだ。
(娘の無事を喜ぶ謁見となるはずが、国の滅亡をかけた謁見になるとはな…)
頰に一筋の汗を流しながらゴルドは言葉を続ける。
「それで、肩に留まられているお方は、誰なのかな?」
「留まられているお方?あぁ、こいつですか、眷属です」
「眷属!?」
ゴルドの叫びに、またも場が騒然となる。
周囲には見えないが、ゴルドの背中にはあり得ないほどの冷や汗が滲んでいた。
(眷…属?眷属?)
神獣を眷属と言い放った事実に、ゴルドの常識が壊れていく。
本当ならばとんでも無い事実だが、冗談や嘘であれば、神獣が黙っていないかもしれない。
震える手を抑え、恐る恐る肩の神獣を見やる。するとーーーー
鳥型の神獣はコクコクと頷き、胸を張っていた。
どうやら眷属というのは本当であり、その立場を気に入っているらしい。
機嫌を損ねていない事を確認でき、ゴルドは静かに胸を撫で下ろす。
「このネコも眷属です」
「!!?」
撫で下ろした胸に激しい動悸が襲いかかる。
ゴルドは歯を食いしばり荒ぶる鼓動を気合いで封じ込め、すぐに表情を戻す。
大国を治める王としての胆力が、ゴルドの心を支えたのだ。
ゴルドはユージの足元を見やる。
獣型の神獣は顎をクイっと上げ、どこか誇らしそうだ。
ネコや眷属と呼ばれた事は気にしていないらしい、むしろ気に入っているように見える。
「…な、なるほど」
噴き出る冷や汗を鬱陶しく思いながらも、平心を装い言葉を続けた。
「勇者サチよ。お主も、よくぞミーナを護ってくれたな。礼を言う」
「も、勿体なきお言葉。と、当然の勤めにございます」
動揺しながらも慌てて頭を下げるサチを見て、ゴルドは心を落ち着ける。
彼女の気持ちに僅かばかりの共感を覚えながら、ユージへと向き直った。
「さて、其の方には何か褒美をやらねばならんな」
「褒美ですか」
「うむ、なんでも申してみよ」
自らそう言いつつも、軽い後悔の念がゴルドを襲う。
叶えられない願いを要求をされれば、断らざる終えない。そうなれば神獣の怒りをかうかもしれない。
しかし、そんなゴルドの不安は一瞬にして吹き飛ぶ事となる。
さらなる問題が舞い込んできたためにーーーー
「父上!!」
◇
「ミーナが生きていたとは、本当なのですか!?」
『父上!!』と言う叫びと共に、金髪の青年が勢いよく入ってきた。
「兄上…」
ミーナがそう呟き、すこし俯く。
長男の『ザミド・フィーレ・フレイア』だと、サチが小声で教えてくれた。
先ほどの謁見中にも、父親の国王は奇声を放っていた。ミーナはそうでもないが、この国の王族は叫ぶのが好きらしいな。
「なんと、本物なのだな…無事でよかったぞ」
「ご心配をおかけしました…」
安心した表情で、ミーナの無事を喜んでいる。ように見える。
「サチ」
「はい。私にも見えました」
サチに小声で確認すると同じ意見だった。間違いない。
「おい」
「…なんだ君は?」
俺の無礼な言葉遣いに、周囲がざわめき始める。
「犯人は、お前だ!」
そんな周囲の反応に構わず、俺は真実を突きつけた。




