20話「ピースメーカー」
「デコピンボム…ダメだな、滅茶苦茶カッコ悪い」
宿の自室で、ベットに寝転びながら思案に耽っていた。
「何をしてるんですか?」
「いや、必殺技の名前を考えていたんだよ」
スゥが聞いてきたので正直に答えたのだが、微妙な表情をしている。
「どした?」
「いえ。主様の技は全てが必殺技なので、全てに名前を付ける事になると思っただけです」
確かに。
「全部は、面倒だな。パンチとかキックにまでいちいち付けてたらただのヤバい奴だし」
スーパーパンチとかデスキックとか叫んでたら、イタすぎる。
「主様の場合、魔力を全力で放出するだけでも必殺技になりますからね。代表的な技に名前を付けるだけでいいのではありませんか?そうすれば技の精度も上がると聞いた事があります」
そんな効果もあるのか。
確かに、『広域探知』と『精密探知』は名前つけてるお陰で使う時区別しやすくて助かってるな。
「よし、そうするわ。まずは、撫でるだけで脳を破壊する技だな」
「リアビ村で狂猪を倒していた技ですか。改めて聞くと、凄まじい技ですね」
言うのは簡単だが、やるのは相当難しい技である。
撫でる際に発生する僅かな衝撃を『拳闘士』のスキルによる力の操作で一点へ集め、魔力と共に脳へ送り込み、弾けさせる。
苦しみを与えず、見た目も綺麗なまま絶命させられる必殺技だ。
「撫で撫で、ボム」
「…失礼ながら、あんまりですね」
ですよね、俺もそう思う。
「ユージ様。只今戻りました」
「ただいまです」
「ただいま。何を話していたの?」
ミーナとサチとコゥが帰ってきた。
2人は俺の代わりにギルドにお使いを任せていたのだ。コゥはその護衛である。
「いや、必殺技の名前を決めようと思ってたんだ」
「ユージさんの技って全部必殺技じゃないですか」
「全ての技に名前をつけるの?」
2人にもスゥと同じ事を言われた。
その後、色々な名前を発案したが、皆の表情は終始微妙なままだった。
「あ、そう言えば忘れてました」
「どした?」
サチが何かを思い出したらしい。
「冒険者ギルドからチーム名の登録を求められていたんです。5級以上の冒険者がリーダーのチームは、チーム名が必要らしいんです」
そんな取り決めがあったのか、知らなかった。
チームメンバーは、俺とミーナとサチの3人に、眷属のスゥとコゥが登録されている。
リーダーは俺以外の満場一致で強制的に俺に決められていた。
その手続きの為に呼びたされたのか。
「チーム名…」
アクト達には『ゴッドブレス』という中々な名前を付けてあげられたが、自分の事となるとさっぱりだ。
「そしたら、みんなの一文字目とって『ゆみさすこ…」
「却下ね」
「却下です」
「主様、却下ですね」
「ユージ様。大変申し訳有りませんが、却下で」
これは、大きな問題を抱えてしまったかもしれない。
◇
「リーダー聞いたっすか?冒険者ギルド死臭事件」
『冒険者ギルド死臭事件』とは、連日大量の魔獣が運び込まれ、ギルド会館が魔獣の死体だらけになり、死臭を放ちすぎて近所に迷惑をかけている事件の事である。
耳の早い冒険者達には既に知られており、自分達が手に負えなかったような大物が翌朝にはダース単位で積み上げられている様子に、冒険者達は戦々恐々としていた。
蘇った伝説の勇者がこの街に来ているのではないか、という噂まで流れ始めている始末である。
「その事件なんですがね、どうやら犯人は無名の冒険者チームらしいんですわ」
「なんだと?」
フレイア王国でトップクラスと謳われる冒険者チームがある。その名も『グラファウス』。
そのリーダーである『ガイファス』は、仲間の報告に耳を疑った。
「無名ということは、5級以下だったって事か?あの数の下級魔獣を仕留められる奴らがか?」
「そうらしいんです。傘下のやつが見たこともない3人組の冒険者チームを見たらしくて、そいつらの内の1人が『空間収納』から『怒豪猿』を出しているのを見たらしいんですわ」
「『空間収納』に『怒豪猿』だと!?」
『空間収納』は無属性の上級魔術だ。使える者はそう多くない。
その上で『怒豪猿』まるまる1頭を収納できる人間など、ガイファスは長い冒険者人生の中で見たことも無かった。
そのチームの魔術師は馬鹿げた魔力量がある存在なのだと、ガイファスは結論づける。
「しかも、取り出した数が43頭だったらしいんです」
「!!??」
ガイファスの思考は停止した。
『空間収納』の許容量以前に、『怒豪猿』を43頭も狩れる事がおかしいのだ。
『怒豪猿』は単体では多少強い下級魔獣でしかない。しかし、仲間と連携を行う程度の知能はあるため、数が多くなると格段に厄介となる魔獣なのだ。
それが43頭など、国の騎士団を出動させても対処できるかわからない数である。
「夢かと思った傘下のやつが受付嬢に問い詰めたら、全部本当だったみたいなんです。俺もさっきギルドで確認したら、毎回空間収納で大量の魔獣を運んでくると言ってたっす」
空間収納に大量の魔獣。43頭の怒豪猿。
ガイファスの常識が音を立てて崩れ去っていく。
「討伐数も常識外れなので、ギルド社員が同行して確認したらしいんですが、戦闘も凄まじかったらしいんす。特に、空間収納を使っていた魔術師は拳闘術の心得もあるみたいで、撫でるだけで下級魔獣を絶命させていたと言っていました」
ガイファスは絶句した。
なぜなら、彼は拳闘士なのである。
彼は冒険者人生の中で、下級魔獣の強さを充分に理解していた。
野生動物や初級魔獣とは一線を画した凶暴性と強靭さを持つ厄介な化け物だ。
それでも、下級魔獣ならガイファス1人で充分に対応できる。油断しなければ一撃で屠ることも可能だ。
だが、撫でるだけで絶命などという技は聞いたことすらない。
世界屈指の拳闘士であるガイファスですら、撫でるだけでは小さな虫しか殺せない。
「す、すぐにそいつらを探し出せ!俺のところへ連れてくるんだ!」
今の報告を彼はまだ信じていない。あまりにも常識外れだ。
だが、もしも本当だとしたら、とんでもない冒険者チームが誕生したという事でもある。
真実を確認するためにも、ガイファスは震える声で指示を飛ばした。
◇
「私たちの目標を名前にすれば良いんじゃないですか?」
「目標?」
「むぅ、ユージはもう忘れたの?」
やばい、ミーナが少しむくれてしまった。
目標、目標…あ、あれか。
「そういえば、サチもそれを信じてミーナに仕えてるんだっけか」
「はい。ですから、ユージさんが仲間になってくれたとミーナから聞いた時は本当に嬉しかったです!」
あの後、眷属であるスゥとコゥにも話したら喜んで付いていくと言ってくれていた。
「あの目標には大賛成ですし、私は主様にどこまでも付いていきます」
「我も、あの目標には心打たれました。微力ながら是非とも協力させていただきたく思います」
ミーナを見ると、とても嬉しそうだ。
反対は居ないみたいだし、それをチーム名としよう。
「それじゃあチーム名は、『ピースメーカー』でどうだ?」
「平和を作る者、賛成です!」
「主様、最高です!」
「我も賛成です」
1人だけ俺を褒めている奴が居たが、気にしないでおこう。
それと、返事が1人足りない。
「ミーナは、どうだ?」
「もちろん、大賛成よ!」
泣きながらも、満面の笑みでそう答えてくれた。
この日、世界を変える冒険者チームが誕生したのだ。
ストックが不安なので、次回から更新は不定期になります。申し訳ないです。
遅くても週1は更新していきたいので、これからもよろしくお願いします。申し訳ないです。




