2話「服をくれ」
「なんだこいつ?」
目を覚ますと、赤い炎を纏った鳥が側にいた。さっき戦った黒い炎の鳥に似ているが、手に乗るほど小さい。
「とりあえず、潰すか」
「お、お待ちください!」
潰そうと拳を振り上げると、鳥が喋った。先ほどの黒い鳥より流暢に話せる鳥のようだ。
「お前も話せるのか、さっきの黒い鳥の子供か?敵討ちなら受けて立つぞ」
「ち、違います!私は先ほどの黒い鳥そのものです、先ほどは『霊王アバター』によって操られていたのです」
「は?」
赤い鳥の説明よると、さっき俺が倒した『霊王アバター』は他の生物に取り憑くスキルを持っており、そのスキルで体を乗っ取られていたらしい。
そして、先ほどの戦いで『霊王アバター』は消え去り、こいつは不死身のスキルで蘇ったのだという。
スキルだの不死身だの話がファンタジーだが、俺も不死身らしいので何も言えない。
「つまり、操られていたお前をアバターって奴ごと殺した事で、自由になれたって事か?」
「その通りです。故に、私は貴方への恩を返したい。我が忠誠をどうかお受け取りください」
「いや、恩返しとかいいから。忠誠も別にいらんし」
「!?」
あり得ない!と言う表情で固まっている。鳥なのに表情豊かだな。
「ふ、不意を突かれアバターに体を乗っ取られはしましたが、私は四神獣の一柱です。主の御力になれるかと」
「いや、主じゃねーから。あと、それって俺の旅について来るってこと?」
「はい、主の眷属としてお側に仕えさせていただければ幸いです」
操られていたとは言え、この鳥は相当強かった。仲間にするのもありかもしれない、だがーーーー
「却下で」
「なぜ!?」
愕然としている。ほんとに表情豊かだな。
「俺、鳥飼ったことないし。エサとかわからんし」
「エサは必要ありません。主から溢れ出ている魔力をいただければ充分です!」
魔力?またファンタジー用語を言っているが今は置いておこう。
「フンの片付けとかめんどいし」
「フン!?お、乙女に向かって…ああ、いえ、私はフンはしません。食べ物を摂取すれば魔石にして吐き出せますので、売ればお金になります!」
フンはしないのか、それは飼いやすい。
吐いた石が売れるのもありがたい、俺はこの世界のお金を持っていないのだ。
「確かに便利だな」
「それでは!」
「でも却下」
「なっ!」
白目を剥いている、相当ショックだったようだ。
だが、話せる鳥を仲間に加えると面倒事が起きそうなので必要ない。メリットが感じられない。
「そもそも、なんでそんなに付いて来ようとするんだよ、もう自由なんだから何処へでも飛んでって良いんだぞ?」
「…憧れ、と言うのでしょうか?おそらく私は、主に憧れを抱いたのです」
何やら神妙な面持ちで語り始めた。
「先ほどの戦いで『霊王アバター』が私の体を使い、最強の魔術、『神滅焼炎砲』を放ちました」
やっぱりあれは魔術だったのか、なんか魔法陣浮かんでたし、本当にファンタジーの世界なんだな。
「あの魔術は、私の持つ『肉体を滅する魔術』とアバターの持つ『精神を破壊するスキル』を融合させたものです。文字通り、神をも滅せる一撃でした。しかし、主はその一撃を容易く受け切りました」
全然容易くなかったけどな。実際、自称神様が来てくれなきゃ諦めてたし。
あと、主じゃねぇ。
「そして、主は私を救ってくださったのです。私を遥かに超える不死性を持ち、私の力を取り込んだアバターを殴り倒せるその強さ。その姿を見た瞬間、このお方のお力になりたいと思ったのです。ここまでの憧れを抱いた事など初めてなので、上手く説明できませんが…」
その気持ちは分からんでもない。俺も好き勝手生きてる人に嫉妬とか憧れを抱いていた事に最近気づいたばかりだ。
加えてこいつは不死身らしいし、似たような能力を持ってるからこそ思うところもあるのだろう。
「ぎゃ、逆に、主はなぜ私を連れようとしないのですか!?」
え?なんでこっちが責められてるんだ?
「私の力を借りようと数多くの王や勇者が訪ねて来ました。今は減退していますが、本来の姿であれば国の1つや2つ消す事も簡単です」
そんな人気者だったのか。あと、仮定が物騒だな。
「なぜ主は私の力を望まないのですか?」
「いや、俺この世界にさっき来たばかりだから、お前がどんなに凄いのか知らないんだよね」
「!?」
また驚愕の表情を浮かべている。笑わせようとしてるのか?
「という事は、主は勇者としてこのダンジョンへ派遣されて来たわけですか?」
「いや、その勇者やらなんやらも分からん。この洞窟の近くの森で目が覚めて、適当にぶらついてたら偶然ここに来ただけだから」
「周りに召喚を行なった魔術師達は居なかったのですか?」
「いや、俺一人だった気がするけど」
まぁ、角の生えた熊はいたな。
鳥は驚愕し、しばらく考え込んだ後、勇者について教えてくれた。
鳥曰く、勇者とは俺と同じように異世界から来た人間の事であり、国を挙げた大魔術によって召喚されるらしい。
「何人もの勇者に会ったことがありますが、森の中でいつの間にか目覚めたと言うのは初めて聞きます。ますます興味が湧きました!是非とも主の眷属に…」
「却下」
「うぐっ!」
こいつが凄い鳥である事も俺に興味がある事も関係ない。こいつを連れて行くメリットが感じられない。だからダメだ。
「き、金銀財宝。ありとあらゆる宝や聖剣を持っています。私を眷属にして下されば、全て主の物です!」
へー
この世界のお金は持ってないから少しはありがたいが、使い方を知らないので武器はいらない。
「こ、この世界の情報にも詳しいです!昔、冒険者に扮して旅をしていた事もあるので、色々とお教えできるかと」
ほう
それは普通にありがたい。自称神様には可愛い女の子が多いという事ぐらいしか聞いてないので、この世界のルールや法則、特に魔術なんかはさっぱり分からない。
「あとは…食事の用意もできます!料理が趣味でして、食べなくても済むのですが、よく作ってはいました」
ほうほう
料理ができるのは意外だが、素晴らしい。
「あの…ダメ、でしょうか?」
「いや、許可する」
「あ、ありがとうございます!」
嘴を地面に刺す勢いでペコペコと感謝している、そんなに嬉しかったのだろうか。
こちらとしても、ここまでメリットを提示されれば断る理由はない。
特に料理ができるのは気に入った。復活すれば健康な状態に戻るとは言え、異世界召喚されてから何も口にしていないので流石に気が滅入ってきたところだ。
「それでは名前をお与えください!」
「名前?」
「はい、私に名前をくだされば眷属としての契約が完了となります」
名前か、急に言われても思い浮かばない。
「いつもはなんて呼ばれてるんだ?」
「朱雀と呼ばれてました」
さっき四神獣と言っていたが、もしかして…
「他に、白い虎とか青い龍とか蛇巻いた亀とかいるか?」
「よくご存知ですね、他の神獣達に会ったことがあるのですか?」
まんま四神じゃねぇか。
「会った事はないが、聞いたことがあるだけだ。それじゃあ、お前の名前は『スゥ』な」
安易だが、『朱雀』という立派な名前があるのでアダ名程度の名前にしておく。
「『スゥ』良い響きです。今この瞬間から、私は『スゥ』です!『契約』!」
スゥがそう叫ぶとまばゆい光に包まれーーー
特に何も起きなかった。
「びっくりしたぞ、急に光ったから爆発するかと思った」
「今の光は『眷属契約』が完了した証です。これで私は主様の眷属となりました」
紛らわしい。
そして主から主様に呼び方が変わった、別にどっちでもいいだろ。
「さてと、飯を用意してもらう前に1つ頼みがある」
「はい!何でしょうか?」
初めての命令で張り切っているのだろうが、そんな大層な頼みじゃない。
「服をくれ」
洞窟に入ってからずっと裸だったのだ。