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17話「フレイア王国の姫」






 宴の翌日。村人やアクト達に見送られ、リアビ村を出発した。



「村の皆さん、寂しがってたね」

「そうじゃな。まぁ、余ではなくサチやユージ殿に対してだろうが…」

「そんな事…」

「励まさんでもよい、事実じゃ」


 今ユージ殿は馬車で寝ている。

 コゥ殿が丁寧に馬車を引いてくれるため、通常よりも遥かに揺れが少ないのだ。


 そんな中。いつも通りサチと語っていたのだが、思わず当たってしまった。


「すまん、今のは余が悪い。最近自分の未熟さを痛感していてな」


 余、ミーナ・フィーレ・フレイアは、フレイア王国の姫として産まれた。

 2人の兄と1人の姉を持ち、王位継承権第4位の地位を持つ。


 第4位、通常ならば王の地位を継げる可能性はほぼ無い。だが、フレイアでは優秀な継承者を王とする取り決めがある。

 民や貴族の指示を仰ぎ、最も優秀だと認められた者こそが王となるのだ。


 自慢では無いが、兄弟の中で最も民の指示を仰いでいる自信はある。

 リアビ村でも村長は気づいていたらしい。訳があると察したのか、滞在中は村の皆に黙っていてくれたのだ。


「でも、ミーナの領分は戦いじゃないから。それは私の領分で、今はユージさんに頼ってる。だから、私も未熟だよ」

「いや、サチは頑張っておる。村が襲われている時も、一緒についていこうと決めていたではないか」


 サチは自ら率先して村へ向かうとしていた。

 

「それに比べて余は、何もできなかった。そもそも、こんな状況に陥っているのも余のせいじゃ」


 フレイアの南にある大国、アーミットへ友好を結びに行く途中でアンデットに襲われた。


 一緒に連れて行ける騎士の数を制限されたり、急な雑務の所為で出発が遅れ、ロード大森林を通る危険なルートを選ばされたりと出発の前から違和感はあった。

 だが、力を重視する獣人国ガルドの活動が活発になりつつある今、アーミットとの友好は国民の安全のために為さねばならぬ使命だったのだ。


 だからこそ、不安を払いつつ進んだが。

 結局は自分を信じて付いてきてくれた騎士達を犠牲にし、友好を結ぶこともできなかった。


「余は…何もできていない。何一つ成せていない」


 おそらく、馬車に魔獣寄せの仕掛けがあったのだろう。暗殺用の部隊が陰であのアンデットを追い立てたのかもしれない。


 だが、今となってはもう遅い。


「民のために平和な世を作るべく、本気で王を目指していた。王になり、他の国々と和平を結び、平和な世界を作りたかった」


 この世界は、7人の魔王と数多の勇者がいる争いの絶えない世界だ。

 力のない立場の者達は、無事に朝を迎えられる事を願いながら寝るのだと言う。


「争いは大嫌いじゃ。殺し合いも、権力争いも、大嫌いじゃ!…だが、王にならねば平和な世など作れん。だからこそ兄上や姉上と戦う覚悟を決めたのに、この有様じゃ」


 暗殺を企てたのは、兄弟の誰かで間違いないだろう。

 兄弟の中で一番民の指示を得ている余を狙うのは当然の道理だ。

 なおかつ、アーミットへ友好を結ぶ道中と言うタイミング。暗殺に失敗してもこちらの人気を落とす事ができる絶好のタイミングであった。

 王位を狙う誰かの犯行であることは間違いない。


「この世界を平和にするなどと息巻いておきながら、一国の王にすらなれない。無事に王宮へ帰れたとしても、友好を反故にした罪を問われて王位継承権を剥奪されるかもしれん。本当にすまんな、サチは、余を信じて付いてきてくれたのに…」




 フレイアには4人の勇者がいる。


 その勇者達には自らが仕える主人を決める権利があり、サチは世界を平和にするという余の夢を聞いて仕えてくれたのだ。


「そんなことないよ!私は今でもミーナに付いて良かったと思ってる」

「…」


 そのサチの言葉に、余は応えることができなかった。













「ここが『リザリア』か」


 商業都市『リザリア』へと無事に到着した。

 門に着く寸前に馬車は『空間収納(ストレージ)』へ仕舞い、コゥには小さくなってもらっている。猫モードだ。

 馬以外の生き物で馬車を引いている人は見かけるのだが、白い虎はさすがにいなかった。

 気配は消してもらっているが、それでもコゥの迫力は凄まじいので街の中では猫モードになってもらう事にしたのだ。


 ここはロード大森林を抜けるカンナビへも近く、ガルドとアーミットと言う2つの大国とも離れてないない為、交易や商業が盛んな都市らしい。

 あらゆる物や人種が集まり、目的地である王都『フィーレ』の次に栄えている都市なのだそうだ。


「…物がたくさんあるので、旅の消耗品の補充にはうってつけですね」

「…そうじゃな」


 サチは無理やり取り繕っているが、2人とも元気がない。


 ま、理由は知っている。


 聞くつもりはなかったのだが、馬車でミーナの話を聞いてしまったのだ。

 この国のお姫様だったらしく、色々と悩んでいたらしい。


(まさか、世界平和なんて大それた夢を抱いていたとはな)


 本当に驚いた。

 この世界は魔獣や魔物が蔓延っている上に、魔王も何人かいるらしい。

 さらに、種族も多様な為、差別による国家対立も多いと言う。

 元いた世界よりも明らかに生き辛く、争いの絶えない世界だ。

 

 そんな世界を平和にするなど、簡単に抱ける夢ではない。


(だが、今は何もしてやれないな)


 暗殺だの王位継承権だの、お姫様のお悩みは次元が違う。

 共感もできないし、慰めの言葉も全く思い浮かばない。


 今は時間が解決してくれるのを待つしかなさそうだ。











「おい、何すんだよ!返せよ!」

「リード、今日は大漁じゃねぇか」

「だから、返せよ!」

「うるせぇなぁ。お前ら、やっちまえ」

「「へいっ」」


 リザリアの東部にあるスラム区画。

 その路地裏で、リードと呼ばれる少年が3人の男たちに囲まれていた。


「くそっ、それは俺が稼いだ金なんだぞ!」

「どうせ誰かの財布をスった金だろが。弱い自分を恨むんだな」


 スリ、強盗、恐喝、スラムでは日常茶飯事の光景である。

 助けなど来ない、来るはずがない。

 スラムにはいくつかのチームがあり、そのチーム内では協力し合うが、チーム外の人間には厳しいのだ。

 リードのような少年は、どこのチームも欲しがらない。故に、チームには無所属であり、格好の獲物でもある。

 そして、誰も助けてはくれないのだ。


 リードも今日は運が悪かったと思い、諦めてリンチに遭う覚悟を決めていた。

 しかし、そんなリードを助けようと迫る1人の少女の姿があった。


「何をやっておるのじゃ、その子を放さんか!」


 そこに居たのは、肩に灰色の鳥が留まった赤髪の少女だ。


「なんだこいつは?」

「おっ、中々の上玉じゃねぇか」

「捕らえて剥きやしょうぜ」


 男たちは下卑た笑みを浮かべながら少女を襲おうとする。


「スゥ殿、彼らを無力化できるか?」

「任せてください。ふうっ」


 次の瞬間、肩に留まる鳥が火の玉を放ち、男達は吹き飛ばされて気を失った。


「少年、大丈夫か?」

「あ、ああ」


 この日、リードは初めて助けてもらう意味を知った。













「ミーナ、1人で街を散策に行かせて大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろ。スゥも付いてるし」


 ミーナがしばらく1人になりたいと言い出したので、護衛のためにスゥを連れて行く事を条件に許可した。


 スゥがいれば大抵の敵は問題ない。

 さらに、これは俺も知らなかったのだが、眷属であるスゥとは五感の一部を共有できるらしい。

 俺が念じるだけで視覚や聴覚を共有できるのだ。

 コゥがモフモフされている時に知りたかった。


 それだけでなく、思念で会話もできる。まだ下手くそなので距離は限られるが、この都市の中であれば問題なく届く。

 これによって、スゥが対処できない敵が来た場合は俺が駆け付ければいい。

 この街は相当広いが、全力で駆ければ1分以内でどこへでも行ける。

 なので問題ない。


 王都まで2人を無事に送り届けると約束したのだ。抜かりはない。


「俺らは俺らで、旅の消耗品を買い出しに行こう」

「…はい」


 ミーナが1人で居たい理由をサチは心配しているのだろう。

 この問題が解決できる事を願うばかりだ。


 

 

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