10話「少女達を襲ったりはせんよ」
「これは、知られるとまずいかもしれませんね」
「…だな」
放心し、絶句していたスゥがようやく話し出した。
不死鳥が驚くレベルなど、知られたらどうなるか分からない。余計な問題が起きそうだ。
「でも、ギルドカード作るときにバレるんだもんなぁ」
「主様の『詐欺師』というスキルでどうにかできないのですか?」
確かに可能性はある。
「でも使い方が分からない」
「やってみようと思えばなんとなく出来る事がわかりますよ」
スキルとはそういうものなのか。
スゥに言われた通り、頭の中でステータスを騙せないかと意識する。
たぶん出来る。
例えるのが難しい感覚だ。
飛んできたボールをキャッチできると思えるように、ステータスを偽証できると思える。
できて当然のように思えるのだ。
「する前に設定を決める必要があるな」
まずはスキルだ。平均を知らないが、明らかに多すぎるだろう。
「スキルは三文字だけを残せば良いのではありませんか?人間にも三文字スキルを持つ者がいると聞いた事があります」
なるほど、そしたら三文字スキル以外は全部隠すとしよう。
次はレベルだ。
「だいぶ前に話をした人間はレベル80と言っていました。その者は中々強かったので、同じくらいで良いのではありませんか?」
確かに、レベル80ならほぼ10分の1なのでちょうどいい気がする。
「そしたら、レベル80のスキル三文字のみ、だな」
予備にと買っておいたステータスシートを取り出し、魔力を流す。
今回はレベルとスキルを変更するよう念じながら魔力を流した。するとーーー
レベル:80
名 前:『神谷優二』
種 族:『人間』
スキル
『解読者』『契約者』『魔術師』
『無詠唱』『模倣者』『暗殺者』
『探索者』『詐欺師』『演算師』
大成功だ。見事ステータスを偽証できた。
「凄いです。本当に可能なのですね」
「俺も驚いたよ。色々実験したいから、あとでステータスシート買っておくかな」
どこまで偽証可能なのか、技能を求めるだけで本当にスキルが増えているのか、ステータスシートで調べたいことは幾つかある。
その前に、このステータスを二人に見てもらうとする。たぶん大丈夫だが、最終確認が必要だ。
逆に、思ったより弱いと言われたらどうしよう。ま、その時は『詐欺師』スキルを発揮するか。
「レベル80!?これは、伝説の勇者と同じレベルなのじゃ!」
「思った以上に、強いですね…」
予想とは逆だった。と言うかーーーー
「おい、スゥ」
「すみません、あの時話した人間は伝説の勇者だったのですね。知りませんでした」
小声でスゥを叱るが、本当に知らなかったらしい。
話をした人間が伝説の勇者ってどんな偶然だよ。
と思ったが、スゥは万全ならレベル200を超えると言っていた。ならば、そもそもスゥの前に立てる時点で相当なレベルなのかもしれない。
「スキルも、三文字がこんなに沢山あるなんて、勇者の私ですら1つしか持ってないのに…」
「ユージ殿!貴方は本当に何者なのじゃ!?」
サチは驚きを通り越して卑屈に、ミーナは驚きを通り越してハイテンションになっている。
性格の違いが如実に表れているな。
ちなみに、ミーナの質問はスルーした。俺にも分からないからだ。
「さてと、いよいよ冒険者ギルドだな」
「うむ…」
「はい…」
二人とも驚き疲れて項垂れている。
これからがメインイベントだというのに、情けない。
「ここか」
この街は冒険者によって支えられているためか、冒険者ギルドのギルド会館は二階建ての立派な建物だった。
中に入ると酒場と一体化した作りになっている。簡素なテーブルが並べられており、ガラの悪い冒険者達が座っている。
その奥には酒場のカウンターとギルドの受付が分かれて設置してあり、丸坊主のマスターと綺麗な受付嬢が控えている。
壁には巨大なボードがあり、張り紙が乱雑に貼られている。きっとクエストの張り紙だろう。
素晴らしい、これぞファンタジー世界!
「おう兄ちゃん、可愛い子連れてるじゃねぇか。俺らにも分けてくれや」
「俺はこっちの金髪ロングちゃんなー」
「オ、オデは、ショートにするんだナ」
ガラの悪い3人組の冒険者が絡んできた。スキンヘッドのマッチョと茶髪のチャラ男とデブだ。
本当に素晴らしい、この世界はここまでファンタジーテンプレを再現してくれるのか。
ちなみに、金髪ロングはミーナの事だ。ショートはサチの事だろう。
この世界の勇者には黒髪が多いので、黒髪だと警戒される。だが、今はスゥの魔術で髪の色を金髪に変えているため、気づかれていないらしい。
「今は気分がいいんだ、やられ方はお前らが選んでいいぞ」
「ああ!?調子乗りやがって!」
「女の前だからってかっこつけてんじゃねーぞー」
「お、大人しく、謝ったほうが、いいんだナ」
周りからは「あんな可愛い娘、無用心に連れてくるから」「あの3人に絡まれちまうたぁ、運のねぇガキだな」などなど、勝手なご意見が聞こえてくる。
背後ではサチがミーナを庇うような位置に移動し、臨戦態勢になっている。
テンションが上がって少し目立ちすぎた、情けない。
せめて、できるだけ素早く終わらせるとしよう。
「そしたら、瞬殺でいいな」
3人を覆うように少しだけ魔力を浴びせる。
チャラ男とデブはすぐに気絶したが、リーダーと思われるスキンヘッドは膝をついたままガチガチと歯を震わせている。
まだ意識があるらしい。
「お、耐えたか。そこで寝てる2人よりは強いらしいな、瞬殺できなかった」
「あ、ぁ…」
スキンヘッドは何か言おうとしているが、うまく声が出せないらしい。
「ま、次からは絡む相手を選ぶんだな」
そう言い聞かせ、先ほどよりも強めの魔力を浴びせ、気絶させた。
まだ練習が必要みたいだ。
周りは何が起こったのか理解できなかったようで、皆一様に唖然としている。
「…殺したんですか?」
「いや、ちょっと魔力を浴びせて気絶させただけだ」
説明すると、ミーナとサチは納得したようだ。肩に留まっている鳩はドヤ顔で胸を張っている。
「よし、受付へ向かうか」
絡んでくる冒険者はもう居なかった。
「それでは確認させていただきますね。レベルは…は、はちじゅ!?し、失礼しました!」
やはり受付嬢も驚愕していた。
もう少し控えめなレベルにしとくべきだった、次からは気をつけるとしよう。
ギルド加入の手続きは契約書に色々書き込み、ステータスシートを提出して手続き料の1000ピンズを払うだけで終わった。
書く文字は勿論この世界の文字だが、問題なく書けた。おそらく『解読者』のスキルによる効果だろう。
書類の記載中に見えてしまったのだが、ミーナとサチは16才らしい。俺は22なので、元の世界なら捕まっていたかもしれない。異世界に感謝だ。
そして、ミーナはまだ成長期が来ていないだけだ。きっとそうだ、がんばれ。
「何か失礼なことを考えておらぬか?」
「いえ、なにも」
思わず敬語になってしまった。
ミーナのジト目をスルーしつつ冒険者ギルドの説明を聞き、無事にギルドカードの発行が終わった。
「おお、これが…ギルドカード!」
感動しているのは俺ではなくミーナだ。
目をキラキラさせながら自分のギルドカードを眺めている。
「ミーナは立場上こういう経験が少ないんです」
サチが小声で教えてくれた。やはり、どこかのお嬢様やお姫様なのだろう。
俺は自分の事を話さない、というより話せない。その代わり、この2人の事情もあまり聞かない。
気にはなるが、悪い奴らじゃなさそうなので今知らなくてもいいだろうという楽観的な考えからだ。
いつか知る機会もあるだろう。
「そしたらミーナを見ててくれ、俺は素材を売ってくるわ」
「分かりました。私たちはここで待ってますね」
冒険者ギルドの横には素材買取所がある。馬車で持ってきた素材をそのまま運び入れられるよう、倉庫のような作りになっているらしい。
大きな入り口には検問所と同じような小さな小屋が設置されており、そこで買取交渉を行うそうだ。
「これの買取お願いしたいんだけど」
「おうよ。えっと…こりゃ『腐毒蛇』じゃねぇか!あんたが倒したんか!?」
「あ、うん」
『腐毒蛇』の皮を渡したのだが、やはりまずかったようだ。
後ろに並んでいる冒険者達もざわついている。
「身分証はあるかい?」
「ああ、冒険者ギルドカードがある」
「まだ10級なのに、『腐毒蛇』を仕留めたんかよ…」
「冒険者ギルドにはさっき登録したばかりなんだ」
冒険者には等級があり、10級から特級までの11段階で区分されている。
最初は皆10級から始まり、ギルドのクエスト攻略やギルドへの情報提供を行うことで等級が上がっていくのだ。
「こんなに珍しい素材中々お目にかかれねぇ。色をつけてやりてぇが、10級なら特に何もしてやれねぇな」
「別に良いよ、普通の金額で買い取ってくれ」
上位の等級になると冒険者ギルド提携の店での会計割引や素材買取金額の上昇などなど、嬉しい特典が付いてくるらしい。
10級特典は何も無い。
「すまんな。そしたら『腐毒蛇』の皮一匹分で50万ピンズだ。それで良いか?」
「ごじゅっ。ああ、それでいい」
驚いた、この蛇そんなに高いのか。
「今回は皮だけだったが、肉も結構高い。骨や牙なんかはもっと高えから、皮よりもそっち持ってきたほうがいいぞ」
「あ、ああ。わかった」
まぁ、持ってるんですけどね。
『空間収納』は発動者の魔力量によって容量と保存物の劣化速度が異なる。
俺の魔力量は凄まじいらしく、火のついた薪を1日保存してみたのだが全く変化が無かった。『空間収納』内の時間はほぼ止まっているらしい。
容量も凄まじく、森に広大な魔術陣を発動して収納しようと思ったら本当にできそうだった。
実際には行わなかったが、やろうと思えば森や街は簡単に収納できると思う。
他にも売りたい素材はあったが、等級が上がってから少しずつ売るとしよう。
「銀貨払いで良いかい?」
「ああ、銀貨でくれ」
「ほいよ。銀貨50本で50万ピンズちょうどだ」
「ありがとう」
棒銀貨50本の入った布袋を受け取り、ミーナとサチのところへ向かった。
「この宿にするか」
「うむ、余も異論はない」
「窓があるなら私は問題ありません」
「い、1泊10万ピンズ…金銭感覚がおかしくなりそうです」
話し合った結果、カンナビで一番高い宿に決まった。この世界では珍しい6階建ての建物だ。
馬車に積んであった荷物の一部をミーナとサチには返したのだが、その中に白金貨が沢山入った袋が見えた。2人は相当な金持ちらしい。
「そしたら部屋を2つ…」
「3人部屋を1つ頼む」
え?ミーナさん、何を言ってらっしゃるの?
サチを見ると驚いている。ミーナの独断行動らしい。
「む?ユージ殿は余の護衛なのだろう?」
「ああ」
「ならば同じ部屋に居ないとダメではないか」
サチは、「何か言ってやってください」という目でこちらを見てくる。
俺なら壁越しでも城壁越しでも感知で状況を把握できるので、同じ部屋である必要はない。
だが、万が一という事もあり得る。万が一という事もあり得るのだ!
「確かにそうだな、同じ部屋で休むとしよう」
サチは顔を赤らめている。
安心しなさい、16才の少女達を襲ったりはせんよ。
それ以外は約束できんがな!
文章とストーリーの評価をしてくださった方、ありがとうございます。
評価されたのは初めてでした、今後とも頑張ります!