タイムカメラ
プロローグ
カメラは、一瞬を切り取り思い出を残してくれる。
滑り台の影が伸び、どこからともなくドヴォルザークの『新世界より』が流れ出す。
座っているベンチが徐々に冷たくなる。
ポケットに入れていた使い捨てカメラのフィルムを巻く。ファインダーを除くと、メロディーと共に公園の出口へ駆け出す子ども達がいた。
ふと、昔のことを思い出す。明日の約束をして、明日に期待して、今日を振り返っていた毎日の放課後を。
「もう帰るよ。」
ファインダーを除きながら、声の方向を見ると見慣れた彼が隣にいた。思わず、シャッターを切る。
「何撮ってんだよ。」
「いるなーと思って。」
彼は頬を上げると、鼻でふっと笑った。その表情を収めようとシャッターボタンに指をかけると同時に、手が伸びてきて視界が明るくなる。
「なにかあったの?カメラなんて珍しい。」
「実家から送られてきたの。高校時代のものが。その中に使い捨てカメラが入っていて、またしようかなと思って。」
彼はフィルムを巻くと、カメラのレンズを私の方に向け、公園の方を指差す。その指の先を見ると、風が通り抜けた。髪の毛を耳にかけ、風が来る方へ向くと、シャッター音が微かに鳴った。
「綺麗だよ。すごく。」
まるで耳元で囁くかのように、彼の声は落ち着いている。
昔からだ。そんな彼を私はずっと好きだった。
「高校時代って懐かしいな。もう10年も前か…。」
彼は独り言のように、夕日を眩しそうに見ながら言う。
「高校時代は楽しかった?」
「君がいたから、楽しかったよ。」
「それ、卒業しても言ってたね。」
彼と出会ってもう10年も経った。でも、昨日のように彼との思い出はいつだって蘇る。
鞄の中から、レンズの曇った傷だらけのカメラを取り出す。