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18話   3【橘真広の改造計画 その1】


 

 

 

 

 結論から述べると、私が改造計画を提案し、実行に移した男の子は、とんでもない大穴でしたとさ。


 終わり。


 何を言っているのだと言われると思うのだけれど、これ以上に短絡な文章は思いつかなかった。

 分かりやすさは別として。


 語彙を落として最初から分かりやすく説明した方が、この場合はいいのかもしれない。


 それではまず経緯から。


 先日、立ち入り禁止にされているはずの仮設校舎で運命的に(ただの偶然)出会った私と橘は、久しぶりに会話を交わし、その中で私は彼がしている不毛な恋の話を聞いたのだけれど、なんというか、その話があまりに馬鹿馬鹿しくて、報われなさすぎて、一言で言えば「助けてあげたい」と思ったのだった。


 誰が橘の立場になっても同じ結末を辿ったのかと聞かれたら決してそうではないし、結局全ての行動に責任があるのは橘なのだけれど、だからといって、皆がさじを投げていい問題とは限らないと思ったのだ。



 努力しなかったから、不幸になったんだよ。



 なんて言われて切り捨てられてしまったら、世の中すべてが努力主義になりかねないし、実際問題、努力をしたからと言って、見合った結果が報酬として必ずついてくるという世界線ではない以上、そんな言葉は抗力を持たないし、ただの拷問だとさえ思う。


 だからこうして、今回の私のように、横から手を貸してくれる者の存在があっても悪くはないだろうと踏んで、私は彼のプロデュースをすることにしたのだった。


 少しでも、彼が報われるように。


 それは自分を偽り続けている私が、これからも偽りを続けるためにとった行動ともいえるのだけれど。


 要するに、これからも嘘をつき続けるために、疑われないためには人の為になることをした方が周囲の目をごまかせるのではないかと思ったのだ。


 私がしようとしている「人の為になること」自体、もはや自分に嘘をついてする行動であり、私自身が心の底から望んだことではないので、結局どう転んでも私は根本的に嘘つきで、偽善者なのだろう、と思う。


 私はそれを否定もしないし肯定もしない。



 だってそれが私だもん。


 柳七海だもん。


 しょうがないじゃん。


 どうしようもないじゃん。


 肯定……とは少し違う――――開き直り。


 大の字になって寝転ぶように、考えることを放棄する。

 私は私自身のことにさじを投げる。


 私はそんなに弱くはないし、脆くもないので、単に優先順位が低いと言った方がいいか。


 周囲は、人間関係は、私と違って酷く脆くて壊れやすいものだから――――大切にしなくてはいけない。


 生まれたての赤ん坊を扱うように、そっと、そっと。


 さて、少々自分語りが過ぎてしまった気がするので話を戻そう。


 そんな経緯があり、私は橘を琥珀が「かっこいい」と思う男の子にするにあたり、彼を休日に大型デパートへ連れ出した。


 私たちが住む町とは少し離れた都会の駅周辺に新設されたばかりの大型デパートには様々な店舗が入り込んでいて、デパート一つで大抵の用事が済んでしまうという、謳い文句があったのだが、いざ訪れてみるとその言葉もあながち嘘ではさなそうだった。


 無理やり連れ出す形になった橘は浮かない顔をしていたけれど、私はそんな彼の様子などお構いなしに人をかき分けお目当ての店舗を次々とまわる。


 本日の主役は橘なので、当然、足を踏み入れる店舗は彼が「変わる」ために必要なものが揃っている場所でなくてはならない。


 橘は内股ぎみになりながら私の後を恐る恐るついてきた。


 嫌そうだったけれど、文句は言わなかった。

 変わることを拒否もしなかった。


 だから彼はきっと慣れない場所に、行動に、緊張していただけなのだと思う。


 だって、少しでも変化に対する期待を持っていなければ、鏡の中に現れた変身した自分にこんなに目を輝かせはしなかっただろうから。



 私はまず、橘を連れて美容院へやってきた。



「まずは髪の毛を切る! こんな目が見えないくらい前髪伸ばしてたら表情なんて分からないでしょ」



「……うう」



 彼は長く伸びた前髪を名残惜しそうに一指し指でつまみ、諦めたように頷いた。


 それから最低限の配慮として、男の美容師さんを指名してあげた私は、それから三十分ほどその場で待ち、(最高級マッサージ機を堪能しながら)散髪を終えた彼を出迎えたのだった。



「はー、マッサージ機最高……」



「……終わったよ、師匠」



 危うく極楽浄土に昇天されそうになっていた私を橘は助けてくれた。


 彼の言葉に私は名残惜しくも本革高級マッサージ機から身を起こし、コリの解れた軽い体で立ち上がる。


 うん、体が軽い。

 今まで鉛をつけて生活していたみたいだ。

 猫背、本格的に気にしてみた方がいいかも。



「おお! おっかえり――――やば」



 勢いをつけて立ち上がったと同時に目を開けて散髪を終えたばかりの橘を視界にとらえた私は文字通り口を開けたまま固まってしまった。



 これは――――予想外。






橘と二人で出掛けることになった七海。

この外出で何かが変わるのか?


次回の更新は6月20日になります。

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