2話 2【幼なじみの高校入学】
* * *
「見て!やっぱりこの制服、可愛いと思わない?」
「ん?ああ、いいと思うよ」
「適当だなー」
四月。咲き乱れる満開の桜並木の下を歩く私たち。届いたばかりの新しい制服に身を包み、気分がいい。
今日は入学式。
私は赤いチェックのスカートをひるがえしながら悠ちゃんの隣を歩く。
数か月前はこんな日が来るとは夢にも思っていなかった。未だに現実が信じきれていない。
「そういえば、希望ちゃんは?あの子も受かったんでしょ?」
ふと気になり、恐る恐る尋ねる。悠ちゃんは「ああ」と思い出したように口を開いた。
「友達と先に行ってるって。あいつの家は逆方向だから」
「そっか」
悠ちゃんの彼女も同じ学校に合格した。こればかりは仕方ない。希望ちゃんも悠ちゃんと同じで、努力家で秀才なのだ。
ふてくされる私の横で悠ちゃんは面白いものを見つけた子供のように悪い顔をした。
「なんだ?気になるのか?」
「べつに」
心底どうでもいいという態度で答えると、悠ちゃんはつまらなそうに視線を逸らした。
「ああ、そう」
正直、すごく気になった。
希望ちゃんは悠ちゃんに出来た初めての彼女だ。告白されて、なんとなく付き合い始めて今に至る。
理由は単純だが、関係が続いているということは、それなりに大切にしているのだろう。
「私も高校生になるんだし、彼氏できるかなー」
「できるさ」
悠ちゃんは即答した。不覚にもときめいた。同時に笑い声が聞こえてきたから、今のは撤回したい。
「その性格さえ直ればな」
笑う悠ちゃんに蹴りを入れると、反撃された。
「痛い!あとその暴力!女はか弱い方がモテるんだぞ」
「どうせ私は乱暴な女ですよ」
私は悠ちゃんに悪態をつきながら口を尖らせる。
新品のローファーを鳴らしながら歩いていると、次第に同じ制服を身に付けた生徒が増えてくる。数分後、立派な門の先に校舎が見えてきた。
深呼吸をして、一歩踏み出す。
「いよいよだね」
「そうだな」
今日から高校生になるんだ。
そんな意気込みを抱えて挑んだ入学式は、あっけなく終わった。「こんなものか」と拍子抜けしていると、体育館から教室に戻る途中の廊下で同じクラスの女子に声をかけられた。
「ねえ、琥珀ちゃん、だっけ?」
「はい?」
振り返った先には、背の高い女の子が立っていた。明るい髪色が光に反射して眩しい。おまけにスカートがやたら短いことも気になる。
私が眉間に皺を寄せていると、彼女は笑顔を見せた。
「警戒しないでよ。あ、敬語とかなくていいよ、同じクラスなんだし!あたしは七海」
首を傾げる私に、七海は耳元で囁いた。
「一緒に登校してきたのって、同じクラスの二宮くんだよね。付き合ってんの?」
そうだったらいいのにね。
七海の質問に、私は慣れたように答える。
「あー違うよ。ただの幼なじみ」
私の返答は、七海の興奮をさらに高めてしまったらしい。
「えー!幼なじみとか憧れる!いいなあ」
何もよくない。どうしてこの関係を羨ましがるのか、理解ができない。いっそ本当の家族になりたかった。そうすれば、こんな複雑な気持ちになることもなかっただろうに。
「言っておくけど、悠ちゃん彼女いるよ」
「悠ちゃん?」
「あっ」
しまった、と思った瞬間には七海がこちらを見て嬉しそうに笑っているのが見えた。
「なんかいいなー、そういうの。七海も幼なじみ欲しかったな」
頬を染め、夢見心地の七海に私はため息をついた。
「結構めんどくさいよ」
「そうなの?」
「うん」
他愛のない会話は教室に到着してからも続いた。
「琥珀ちゃん。これからよろしくね」
「こちらこそ」
次の投稿は26日のお昼過ぎになるかと思います。
挿し絵機能ってあるんですね気になります……