表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/68

11話   1【恋敵】






 

 春田希望は今回の旅行の一つの目的でもある、どうしても会いたかった一人の少女を見つめていた。

 

 少女の名前は久藤花音。

 私が現在、恋をしている彼の妹で、人気女優ミヒロの愛娘である。

 都会の中に放り込まれたら、母親と同じくスカウトマンたちが放っておかないだろう。

 

 可憐な少女は、私を含めた未来の先輩たちに取り囲まれ、次々に質問を投げかけられていた。

 私はその様を皆よりほんの少し離れた所から見ている。

 一番楽しそうに花音ちゃんへ絡んでいるのは七海ちゃん。

 

 

「花音ちゃんは好きな人とかいないの? こーんなに可愛いんだからそれはモテるでしょ」

 

 

「いえ、モテませんし、その……こんな性格なので友達もあまりいなくて」

 

 

 恥ずかしそうに首をすくめながら言葉を少しずつ小さくする花音ちゃん。

 

 友達が少ない、という点は、私も共感する。中途半端な美しさではなく、本物の美人を目の前にすると、並の人間はどういう訳か恐怖を抱く。

 

 次に待っているのはその恐怖を取り除こうと始まる弱者へのいじめだ。

 

 弱者、という定義はこの場合、いじめの標的になる直前の行動を示す。

 

 美しさに恐れを抱いた人を丸め込みたいのなら、自分の最大の武器である美貌を使い、高圧的に高飛車に相手を自分のペースに引きずり込まなければいけない。

 

 そうすれば、自然と周りに人は集まってくる。

 

 要は利益と損益を相手に教えてやればいい。

 「畏怖」を与えてやればいい。それだけ。

 

 私は一体いつからこんなにズルい生き方をするようになったのだろう。

 本心は嫌だと思っていても、そうしなければ学校という閉鎖空間で生きられなかったのだから、これは仕方のないことだったのかもしれないけれど、納得はしていない。

 

 花音ちゃんは昔の私に似ている。抵抗する術も上手な生き方も知らなくて、相手のペースに巻き込まれるだけの弱者だった頃の私。

 

 だからなのかもしれない。彼女を見ていると、どうしようもなく苛立つ。

 

 

「そっか……でも、来年からは私たちがいるから少し安心してくれると嬉しいな。先輩とか後輩なんて難しいこと言わないでさ、友達になろうよ」

 

 

「あ、ありがとうございます。私、そんな風に言ってもらえたの初めてで……嬉しいです」

 

 

 七海ちゃんの言葉がよほど嬉しかったのか、花音ちゃんはぎこちない笑顔でそう言った。

 

 

「で、好きな人はどうなの?」

 

 

 聞いたのは琥珀ちゃん。

 この話はまだ終わっていなかったらしい。

 

 私は何も言わずに事の流れを見守っていた。

 

 どうして会話に交じらないのか。

 それは、今の私がうかつに口を開けば何を言ってしまうか分からないから。

 

 悠希との別れ話の時もそうだったように、どうやら私は感情が高ぶると思ってもみないことを口走ってしまう時がある。

 

 年下の、ましてや想い人の大切な妹である花音ちゃんを傷つけることがあっては大変だ。

 今のところ、花音ちゃんが本当にただの大人しい傷つきやすい子だという確証もないのだし。

 

 

「まあ、そう簡単に好きな人も作れそうにないよね、花音ちゃんの場合は。なにせ後ろには妹溺愛のお兄ちゃんがいるし」

 

 

「実は、その……」

 

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんなんです……私の好きな人」

 

 

 

 

 

 

 時が止まる、とは、こういう時に使う表現なのだろう。

 

 

 

 文字通り止まった時は、心音一つほどの本当に短い時間だったが、それ以上にその場にいた全員の心を揺らした。

 

 

 

 

 

次の更新予定日は2月10日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ