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6話   3【夕焼けと恋心】

 



 *   *   *




 悠希は右手を振り上げたまま、急に勢いを増した雷雨を見つめていた。



「雷……さっきまであんなに晴れてたのに」



 呟きながら、俺はいつの間にか暗くなった室内に気が付いた。

 激しい口論に、()がなくなっていたことにも気が付かなかったようだ。

 うっすら見える視界を頼りに俺は部屋の電気を点けようとした。

 しかし、電気は点かず、部屋の中は暗いままだ。何度かスイッチを押してみるが、状況は変わらない。

 どうやら先ほどの雷がどこかに落ち、停電してしまったらしい。



「マジか―、停電……俺今日一人なのに」



 そうしてシンと静まり返った部屋に俺はハッとした。

 薄暗い部屋の隅っこで、何かが震えている。

 雷の光で室内が一瞬明るくなるにつれ、ソレはビクンと大きく震えた。



「おい琥珀、大丈夫か?」



「ムリムリムリ……なんで雷、真っ暗……」



 部屋の隅でしゃがみ込み、頭を抱えながら震える琥珀。

 先ほどまでの戦意は、すっかり消失していた。

 俺は溜息をつきながらスマホの画面をつける。時刻は現在十七時。



「どこかに雷落ちたんだな……琥珀、そんなところにいないで俺の方に来いって」



 恐怖のせいか、俺の声は聞こえないようだ。


 前にも一度、似たようなことがあったこと思い出した。

 当時、小学生になったばかりだった琥珀は、留守番中、一人で雷雨に遭遇した。

『大丈夫だよ。怖くないよ』

 同い年の泣き虫な女の子を電話で励ましながら、俺は琥珀のことを心底心配していた。

 あの時は、母さんに「危ないから」と止められ、泣いている彼女の元へ助けに行くことが出来なかったけど。今は、あの時助けられなかった女の子を助けられる。

 変わったと思っていたけれど、琥珀は琥珀のまま、何も変わらない。

 それがなんだかとても嬉しかった。



「なあ琥珀」



 俺は琥珀の前にしゃがみ込み、優しい声で語りかけた。



「大丈夫、怖くない」



 頭を撫でると、ようやく琥珀の返答を聞くことが出来た。



「悠ちゃん……手、握ってて」



 涙声でそっと差し出された手を俺は握った。

 手の平にすっぽり収まってしまう琥珀の手に、俺は時の流れを感じていた。

 こんなに差が付いてしまうほど、お互い成長していたのだと気が付く暇もなかった。



 琥珀は、こんなに小さな女の子だったのか。



 気付いた瞬間、どうしようもなく愛しさが込み上げ、俺は琥珀の手を強く握った。



「琥珀、大丈夫だから、もう泣くな」



「うん……」



 鼻を啜りながら頷く琥珀。

 姿は変わっても、心は昔のまま、お互い何も変わらないままだった。





 *   *   *




 しばらくして、雨があがり、燃えるような夕焼けを窓の外に感じながら、琥珀はぼんやり考えていた。


 誰が何と言おうと、自分の気持ちをないがしろにするのは良くない。

 思い出まで否定してしまっては、心が可哀相だ。

 強くならなくちゃ、大切な想いを守れない。

 悠希を好きだという気持ちを守れるのは自分しかいないのだから。



「悠ちゃん、手、もう離していいよ」



「え?あ、ああ!ごめん」



 私と同じく窓の外の夕陽を見つめていた悠希は、未だ繋いだままだった手を指摘され、慌てて手を離した。

 名残惜しさを感じながらも私はクスリと笑いながら赤くなる悠希を見つめて言った。



「ありがとね、悠ちゃん」



 それが夕陽のせいなのか、本当に赤くなっていたのかは不明だが、それでも確かに、私は自分の想いを再確認していた。



 私は、彼が好きなのだ。



 人に押し付けられたものじゃない。流された結果でもなく、彼を好きになった。

 この気持ちは、私だけのもの。



 私は恋心を再確認するように、そっと悠希の肩にもたれかかった。







次の更新は11月1日の昼頃の予定です


少し更新ペース落ちます。

続きを執筆中です

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