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4話   1【琥珀とラブレター】



 *   *   *



 高橋琥珀が小学生だった頃、異性への告白手段と言えば、直接。もしくはラブレターがほとんどだった。

 ラブレターのリスクは大きい。他人に見つかれば、それは格好の冷やかしの的になる。

 中学まではちらほらと見かけていたラブレターでの告白も、高校に上がってからは話題の的にすらならなくなっていた。

  それも当然といえば当然のことなのだろう。今や高校生の多くが所持している携帯電話のメッセージ機能に告白の主流は移り変わった。

 手間を嫌う若者にとって、指だけで想いを伝えられる手軽さは強い。

 しかしそんな時代にも、変わり者は存在するようだった。



「なにこれ。ラブレター?」



 下校しようと私が下駄箱の戸を開くと、革靴の上に一通の封筒が置かれていた。差出人の名前はない。首を傾げながらひとまず封筒を鞄にしまい込むと、私は家路を急いだ。

 ドキドキしていなかったと言えば嘘になる。好きな人が別にいたとしても、封筒の中身がもし本当にラブレターだった場合、私にとっては大事件だ。



「ただいまー」



 焦りと不安で汗ばむ手のひらを拭いながら自宅の中へ入る。お母さんの姿は確認できなかった。



「買い物?鍵かかってなかったけど。危ないなあ」



 お母さんの行動に呆れながら、私は早速鞄から問題の封筒を取り出すと、慎重に封を開けた。数分後、私はリビングのソファにダイブした。



「本当にラブレターだった!」



 綺麗な文字で、真っ白な便箋には愛の告白が綴られていた。



【高橋琥珀さんへ。

 こんにちは、初めまして。突然のお手紙失礼します。僕はあなたの隣のクラスの橘真広(タチバナ・マヒロ)と言います。

 単刀直入に言います。僕は琥珀さんのことが好きです。入学式の日、一目見てからずっとあなたのことが好きでたまりません。お返事が頂けるのであれば、○月×日の放課後、仮設校舎の屋上の前の階段で待ってます】



「真広くん……知らないな」



 入学して二カ月と少し。自分のクラスの人を覚えることに精一杯で、他のクラスのことは全く分からない。手紙の文章を見る限り、真面目な人なのだろうと思う。今のところは、想像でしか言えないのだが。

 人生で初めて告白というものを経験した私は、にやけ顏を抑えながら読んだ手紙を綺麗に封筒に戻した。

 そうして私は、ふと思いを巡らせた。


 返事をしないという選択肢はない。どちらにせよ、文章の内容的に差出人が当日指定の場所に来ることは確定しているようだ。

 返事の是非は問わず、無視をするのは気が引ける。一度会って、それからでも答えを出すのは遅くないだろう。


 私は不安と興奮が入り混じる中、落ち着くために「ふう」と吐息を吐き出した。

 その夜、自室でくつろいでいた私は、惹きつけられるように窓の外を覗いた。

 見えるのは、カーテンが閉じた悠希の部屋。明かりに照らされ、二人分の人影が見える。


 希望ちゃんが来ているのかな。


 恋人同士なのだから、触れ合うことがあっても当然、不思議ではないのだが、こうして直視する状況になったのは初めてのことだった。

 私は悠希の部屋のカーテンの薄さを呪った。



「あっ」



 二人の影が重なった瞬間、私は咄嗟に部屋の中に身を潜め、その場に座り込んでしまった。

 想像したことがなかったわけではない。付き合う男女なのだから当然なのに。幼なじみの、悠希の知らない一面を知ってしまったことで、私の心を例えようのない不快感が襲った。それはまるで、大切な宝物を他人に盗られてしまった時のような気持ちに似ていた。

 私は衝動的に悠希にメッセージを送った。希望ちゃんにも。



【今、何してる?】



 先に返事がきたのは希望ちゃん。



【宿題やってたよ!琥珀ちゃんはもう終わった?】



 続いて悠希。



【ゲーム】


 カーテンの向こう側にいるのが本当に二人だという確証はないが、咄嗟に嘘をつかれたと感じた。あくまで女の勘の域なのだけれど。

 私はそのまま布団に倒れ込む。希望ちゃんとの絶対的な差を見せつけられ、悔しくて、悲しくて、私は一晩中声を殺して泣いていた。








前倒しで早めの更新になりました。


琥珀がラブレターをもらう話です。

小学生の頃、ラブレター1つで大騒ぎしていた頃を思い出しながら書きました。

いいなぁ青春

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