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9 徐々に絆を深めよう

 ヴェロニカと挨拶をした後、春斗たちはメイドさんに案内され、今日泊まる部屋へと移動した。


「ここに全員で寝ろってことですか……?」


 春斗は、無駄に広い部屋を見渡してメイドさんに尋ねる。


「はい。ヴェロニカ様がそうしろというので」


 この屋敷の中には、腐るほど部屋があるのに、なぜこの部屋に全員で泊まる必要があるのだろうか。

 まるで修学旅行のようだ。


「シャルル様は、ご自分の部屋で寝ても構いませんが」


「そ、そうですか……では、私は皆さんの邪魔をしないように、自室で―――――」


 あからさまに哀しそうな顔をしながら、俯くシャルルの言葉を遮るように、夏乃が口を開く。


「全然邪魔じゃないから! むしろ、必要だから!」


「えぇ、邪魔なのは春斗だけよ」


 秋もそれに乗っかって、さりげなく悪口を言った。

 いや、さりげなくもないか……まぁいつものことなので、気にしないけど。


「私も一緒に泊まっていいんですかっ!?」


 シャルルが凄い勢いで興奮気味に、問い返す。

 こういうわかりやすいところが、本当に可愛らしい。


「もちろん。だって俺たち仲間だろ」


「春斗さん…………」


 目に涙を滲ませながら、シャルルはまっすぐ春斗は見つめる。

 その表情に思わずドキッとしてしまう。可愛すぎかっ!!


「それでは、夕食までここでお休みください。準備が整いましたら、またお呼びいたしますので」


「りょうかーいっ!」


 メイドさんは、「失礼します」と、頭を下げて廊下へと出て行く。

 夕食までの時間。春斗たちは、近況報告やくだらない会話に花を咲かせた。

 その間も、シャルルは、とても楽しそうに笑っていた。

 ギルド集会所などでの自分を蔑んだ雰囲気からは一転。心の底から幸せを感じているように見える。

 はやり、シャルルには笑顔が一番似合う。

 春斗は、心の中でそんなことを考えていた。






「こりゃあ……凄いご馳走だな………」


 目の前に用意された、美味しそうな料理を目にした冬彦は、驚いた様子でそんなことを言っている。

 確かに、これは美味しそうだ。

 見たことない料理ばかりだが、見ているだけで涎が出てくる。


「これってもしかして、全部メイドさんが作ったんですか?」


 全員にお皿を配っていたメイドさんに、春斗はふとした疑問を投げかける。

 メイドさんは、至って普通に「そうですが……」と、答えた。


「めっちゃ女子力高いですね。メイドさんがお嫁さんだったら、旦那さんは毎日幸せでしょうね」


「……っ!?」


 なぜかメイドさんは、顔を真っ赤に染めて、おろおろし出した。


「……そ、そんなことはないですよ。これくらいは普通です……」


 もしかすると、照れているのかもしれない。

 ずっと、感情があまり変化しない、クールな人かと思っていたが、案外そうでもならしい。

 そんなメイドさんに見惚れていると、隣に座るシャルルから閃光のように鋭い視線が送られていた。

 どうかしたのかな……。

 シャルルの方を向いてみると、シャルルは慌てたように視線を逸らす。


「それでは、頂くとしよう」


「「「「「いただきますっ!」」」」」


ヴェロニカの言葉で、待ちに待った食事が始まった。



 至福の一時は、あっという間に終わってしまった。

 メイドさんの手料理は、どれも見た目以上に美味しかった。

 みんな美味しい料理でお腹を満たされて、満足そうだ。


「とても美味しかったです」


 春斗はからかうように、メイドさんに伝える。

 またしても顔を赤くし、恥ずかしそうにしているメイドさん。褒められるのに弱いのだろうか。

 期待通りの反応が返ってくるので、揶揄い甲斐がある。


「では、女の子組は、お風呂に入ってくるといい。クラリス。案内してあげて」


 ヴェロニカは、シャルル。夏乃。秋にお風呂に入ってくるよう促した。

 メイドさんは、どうやらクラリスという名前らしい。

 三人はクラリスに案内され、お風呂場へと向かっていった。


 ダイニングルームに取り残された春斗と冬彦は、ヴェロニカとの気まずい空間に曝される。

 正直、緊張しすぎて、おしっこが漏れてしまいそうだ。

 そんな空間を打破しようと、一番最初に口を開いたのは、春斗だった。


「今日は本当にありがとうございます。何から何まで……」


「気にしなくていい。これは君たちからの恩を返しているだけだ」


 初対面の人に、あんなに優しく接してくれるシャルルの義理深さは、おそらくヴェロニカからの影響なのだろう。


「それより…………」


 ヴェロニカは、春斗と冬彦をじっと見つめ。

 机に肘をつきながら、真剣な面持ちで話を続けていく。


「君たちには、本当に礼を言いたい。シャルルの命を救ってもらった上に、周りから罵倒され、シェルフィード王家からも追い出されたシャルルを、こんなにも温かく迎え入れてくれて……」


 ヴェロニカは、自分のことのように語っていた。

 気を抜けば、泣いてしまうのではないだろうか。と、思う程に、感情がこもっている。


「私は、あんなに幸せそうに笑うシャルルを、久しぶりに見たよ。やはり、シャルルには笑顔が一番似合っている」


「俺もそう思いますっ!」


 春斗の言葉に、ヴェロニカは微笑んだ。


「春斗くんと冬彦くん。と、いったかな……?」


 ヴェロニカの質問に、春斗と冬彦は無言で頷く。


「シャルルは手のかかる、生真面目で、不器用な奴だが、私の自慢の娘だ―――――」


 そこまで言って、ヴェロニカはいったん言葉を切った。

 春斗と冬彦の瞳の奥。心を見つめるように、しっかりと凝視する。

 そして、ヴェロニカは今日一番の笑顔で、二人に告げる。


「―――――そんな娘だが、これからも仲良くしてやって欲しい」


「「はいっ。もちろんです!!!」」


 二人は、ヴェロニカの熱い視線に答えるように、部屋いっぱいに響き渡る声で返事をした。

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