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7 パーティー結成しました

「こんにちは、本日もご苦労様です……って、シャルル・シェルフィード様ではありませんか」


 受付嬢が、いつも通りのお決まりの挨拶をしている途中で、シャルルに気が付いた。

 シャルルも様付で呼ばれているようだ。やっぱり王家の人間だけあって有名らしい。


「今日もゴブリン討伐の依頼をお探しですか?」


 受付嬢は、少しだけ鼻で笑い、馬鹿にしたように声をかけてくる。

 感じの悪い対応だ。

 春斗の隣では、夏乃が怖い顔で受付嬢を睨む。


「いいえ、今日はもう依頼は受けません。この方たちに、ギルドの説明をしてくださいませんか?」


 しかし、当の本人は全く気にした様子もなく、丁寧に言葉を返した。


「……はい。かしこまりました」


 受付嬢はシャルルに対し面倒くさそうな顔をしながらも、説明を始める。


 ギルド―――――

 ホウティス・シェルフィードの意志を受け継ぎ、この世界の平和を維持するための大規模な組織。

 ギルドに所属している者は、冒険者と呼ばれ、各地から届くモンスターによる被害の対処や、ダンジョン内にしかない素材の入手などの依頼をこなして得た報酬で生活している。


 ギルドでは依頼の難易度別にランク付けされており、最低ランクの1から、最高ランクの5までが存在する。

 例外として、ランク5以上の依頼もあるが、これはランキング上位者しか受けられない。

 冒険者は自分の実力に見合った依頼を受注し、依頼を達成すると、そのランクにあった報酬を手にすることができる。


 パーティー―――――

 ギルドに所属しているほとんどの冒険者が、チームを組んでパーティーとして活動する。

 考えるまでもなく、戦闘効率が圧倒的に良いからだ。


 パーティーは、戦士。騎士。弓兵。魔法使い。僧侶。の五つの役割を持った者で構成されている。

 1:前線に出て戦闘を行い、そのパーティーの主力となる戦士。

 2:鎧や盾を装備し、戦いやすい戦況にしながら仲間たちを守る騎士。

 3:後方から敵を狙撃する。魔法使いと役割が似ているが、魔法陣を展開させないため、非常に小回りが利く弓兵。

 4:後方から敵を攻撃したり、時には前線に出たりと、臨機応変に戦う魔法使い。

 5:仲間の状況を把握しながら、精霊の加護を受け回復魔法や耐性魔法など、後方支援を行うパーティーの心臓ともいえる僧侶。


 普通のパーティーは、各役割一人ずつの計五人の場合が多い。

 あのホウティス・シェルフィードも禁獣と対峙したとき、騎士である彼を中心とした、各役割一人ずつの五人パーティーだった。

 希に、騎士だけで統一された騎士団パーティーなどもあるが、名の知れ渡るような有名なパーティーは、普通構成の場合が多い。


 パーティー人数は、最低でも五人。最大だと七人。

 パーティー人数が多いと、一人当たりの報酬も少なくなってしまうので、駆け出しの時は五人パーティーが堅実と言えるだろう。


 ランキング制度―――――

 ギルドには、ギルド内冒険者ランキングというものが存在する。

 これは、ギルドに所属している全ての者の実力を、ランキング形式で表したものだ。

 順位の基準は、日頃の依頼による貢献度が三割。

 そして、他の七割はというと、一年に一度だけ開催される参加型の大規模イベント。”ギルド内武闘大会”の結果である。


 このようなルールによって、ギルドの秩序は保たれている―――――


「―――――因みに、ホウティス・シェルフィード様の血を受け継ぐシェルフィード王家の者は、ほとんどがランキング上位者です」


 受付嬢による長い説明がようやく終わった。

 最後に嫌味っぽくちらちらとシャルルを見ながら、そんな言葉を口にする受付嬢。

 春斗はそこで、シャルルが馬鹿にされている理由に気が付く。


 シャルルがドラゴンと闘っている姿見た時にも、なんとなく思ったのだが、おそらくシェルフィード王家の中で、シャルルだけがランキング下位。所謂、落ちこぼれというやつなのだろう。

 さっきの「…………私と一緒にいるということも、原因の一つですが……」という発言も、シェルフィード王家の人間であるのに実力が伴わないことで、周りから馬鹿にされている。という意味だろう。


「はい。お父様をはじめ、お兄様やお姉様。みんな強くて私の憧れです。早く追いつけるように日々精進しています」


 シャルルは気まずそうに笑う。

 その謙虚な態度に、春斗の心は切ない気持ちでいっぱいになる。

 受付嬢は、そのシャルルの表情を見て、満足したように春斗へ話しかけた。


「それで、ギルドへの登録はなさいますか?」


「はい。します」


 春斗は迷うことなく断言する。

 異世界に来て、こんなに素晴らしいギルドが存在するのに、入らない理由が見つからない。


「ついでにパーティー登録もお願いできますか?」


「はい。かしこまりました。ですがお客様、パーティーは五人からしか登録できません」


 受付嬢はビジネススマイルで応えてくれた。

 シャルルへの対応と、春斗への対応では、天地の差がある。

 春斗はギルドの説明を聞いているときから、ずっと心に決めていたことがあったので、シャルルに話しかける。


「なぁシャルル、お前ってまだパーティー組んでないんだろ?」


 パーティーを組んでいるのに、モンスターの中でも上位クラスのドラゴンと一人で戦うなんて、まずありえない。

 それに、冒険者や受付嬢の反応を見るに、おそらくシャルルとパーティーを組もうとする人なんていないだろう。と、考えたのだ。


「……は、はい」


 春斗の予想は的中した。


「ならさ、もし良かったら……俺たちと組まないか?」


「えっ!?」


 春斗の言葉が信じられなかったのか、シャルルは大袈裟に驚いた。


「いや、無理にとは言わないよ。嫌なら全然断ってくれて構わないしっ!……ほ、ほら、だって最低でも五人からしか組めないって話じゃん」


 不快な気持ちにさせてしまったかもしれないと思った春斗は、両手をバタバタ動かして、弁解の言葉を口にする。


「…………そ、それも、嘘なんですよね?」


「え!? いや、本気で言ってるけど……」


「だって、夏乃さんが、春斗さんの言うことは全部嘘だって。言っていたじゃないですか……」


 その言葉を聞いた春斗は、ギロリと夏乃を睨んだ。

 春斗の視線を受け取った夏乃は、舌をチョコンと出して謝る。


「シャルルちゃん。私からもお願い! それに、秋と冬彦もそう言ってるよ」


「あぁ、俺からも頼む」


「是非、お願いしたいわね」


 いつもはまとまりがなく、騒がしい四人だが。

 こういう時だけ無駄に団結力のある、良い仲間達だ。


「…………皆さん」


シャルルは今にでも泣き出してしまいそう顔で、春斗たちを見つめる。


「シャルル・シェルフィードさん。俺たちの仲間になってください」


 春斗は真剣な眼差しで、強く言い放つ。

 シャルルは瞳に溜めていた涙を、頬を伝らせるように流しながらも笑顔を作り、口を開いた。


「はい。よろしくお願いしますっ!」


 こうして、春斗と冬彦の二人が戦士。夏乃と秋の二人が魔法使い。シャルルが騎士という。

 弓兵も僧侶もいない、かなりイレギュラーな形で、パーティーが始動したのだった。

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