6 ギルド集会所
「遠い…………」
もう馬車に乗ってから二時間は経過しただろう。
森を抜け、馬車を止めていたところまで移動するだけでも三十分ほど歩いたというのに……
「あと一時間くらいで着きますよ」
「……あと一時間もかかるの!? もう帰りたい。アニメが見たい。ゲームがしたい」
春斗は、その場に項垂れるように倒れ込む。
その姿をシャルルは不思議そうに眺め、口元に手を当てながら問い返す。
「……あにめ、げーむ。とは、何のことなのですか?」
「え!? ……あぁそうか、そりゃあ知らないよな……」
移動手段が馬車である時点で、ホウティスの科学技術は、おそらく地球の三分の一にも満たないものだろう。
ここまでに馬車から見た風景の中でも、一番大きな建築物は、真っ白な石で造られた神殿だった。道も整備されていない。
そんな世界に、アニメやゲームが存在するはずがなかった。
電気という概念があるかどうかも疑わしい。
でもまぁ、この世界では実際に魔法が使えるのだから、アニメなどが存在したところで需要は限りなく少ないはずだ。
「俺たちの地元では、夢や希望、そして愛のことをアニメ。現実や絶望、そして妬みのことをゲームというんだ」
「そ、そうなんですか……」
「シャルルちゃん。真に受けないで、春斗の言うことは基本的に全部嘘だから」
「おい、失礼だぞ夏乃」
「は、はい。気を付けます……」
「おい、無意識に失礼だぞシャルル」
「シャルルさん。どうせなら春斗のことは、ゴキブリとでも思うといいわ」
「おい、意識的かつ究極に失礼だぞ秋」
「が、頑張ってみます……」
「…………もういいよ」
そんなくだらない話を続けているうちに、馬車は王都リベルへと差し掛かっていた。
街並みは異世界の定番と言える、中世ヨーロッパ。
道を行く人々の中には、獣耳の人や腕に鱗がある人、耳が鋭く尖った人など、地球では見られない様々な人種の人がいる。
そして、春斗たちが何より目を引かれたのは、街の賑わいだ。
王都までの道では、すれ違った馬車や人はせいぜい数組程度。
しかし、リベルに入った途端、人の数が格段に増えた。
今、春斗たちの馬車は、石畳の大きな通りを進んでいる。
その通りはびっしりと馬車が行きかい、道沿いには、これでもか。と、いうくらいに武器屋や八百屋など、数多くの店が見られた。
その光景だけでも、王都リベルの繁栄が目に見えるように伺える。
「すっげぇー!! これが異世界か……」
「日本とは全然違うな」
馬車から身を乗り出すように、はしゃいでいる春斗に対し、冬彦は落ち着いた様子でそう言った。
「もうすぐギルド集会所に到着します」
シャルルは春斗のことを子供を見るような目で見ながら、全員に知らせる。
馬車が集会所に近づくにつれて、街の賑わいが増していくのが分かる。
鎧をまとった騎士や、矢を背中に携えた弓兵、腰に剣をぶら下げた戦士など、冒険者と思われる人も多くなってきた。
「あっ、見えてきたっ!!」
前方に見えてきた巨大な建築物を目にし、夏乃は興奮気味に叫んだ。
この世界で見た建築物の中でも、断突の大きさを誇っているそれは、まさに春斗が想像していたギルド集会所そのものだった。
集会所の中は、はやりとても広かった。
天井が高いため、その広さがさらに強調されているようだ。
入って直ぐの左手側に、いくつものカウンターが設置されており、そこで受け付けの職員さんと冒険者が会話をしている姿が見られる。
反対に右手側では、テーブルに豪華なご馳走や酒を並べて、ワイワイと飲み食いしている人々の姿がある。
その圧倒的な人の数に、春斗たちは目を奪われてしまう。
地方から初めて東京に出てきた時、体感するあの感覚に近い。
しかし、人混みの中でも、一際に存在感を持った銅像が、集会所の中央に大きく聳えていた。
ホウティス・シェルフィード。彼の銅像だ。
その銅像を一目見ただけで、このホウティスという世界で、彼の存在がどれくらい偉大なのかということがわかる。
「……こ、これは……本当に凄いわね」
集会所の雰囲気を前に、完全に圧倒された様子の秋が呟く。
「初めて来たときは、私も驚きました」
秋の言葉に、シャルルは笑顔で応える。
その時、春斗は周りから、こちらに対して視線が送られているように感じた。
「あれ……? 俺たち何か目立ってない……?」
「そうみたいだな」
冬彦も周りを見渡し、そう口にする。
「たぶんその格好のせいだと思います」
シャルルは俺たちの制服をまじまじと見つめながら、苦笑する。
確かに、見たことのない服装の集団がいれば、目立って当然だ。
冬彦も納得したように頷いた。
「…………私と一緒にいるということも、原因の一つですが……」
「ん、どういう意味?」
シャルルの言葉が理解できなかったので、春斗は聞き返す。
しかし、シャルルは誤魔化すようにニコッと微笑み答えようとはしなかった。
それから、しばらくすると、受付が一つ空いたので、そこへ移動する。
長くなってしまったので、途中で切りました。