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3 これは定番の流れですね

 ドラゴン―――――

 それは神話や伝承における伝説の生物。

 想像上の生物であり、この世には存在しない。

 現に春斗は生涯、ドラゴンを見たことがなかった。


 ―――――ガァァアギャァァアアアアァァァアアアーー


 しかし、今春斗の視界の中には間違いなく、漆黒のドラゴンが映っている。

 漆黒のドラゴンは、鱗に覆われた爬虫類を思わせる体と鋭い爪と牙を具え、左右の翼を羽ばたかせながら大空を舞っている。

 口元には炎を迸らせており、その炎が周囲の大樹を焼いていた。


「……リアルドラゴン」


「……こいつはヤバそうだな」


 春斗と冬彦は上を見上げ、ただただドラゴンを見つめる。

 爆音が鳴り、砂埃が舞っていた現場に来てみると、そこにはこの漆黒のドラゴンがいたのだ。

 ドラゴンはかなりご機嫌斜めのようで、暴れまわっている。


「……くっ。やはり私の手では……しかし諦める訳にはっ……」


 おそらくドラゴンの機嫌が悪いのは、その声の主が原因だろう。

 声の主は、古びた鋼の鎧を身にまとい、大きな剣を構えている。

 兜をかぶっているため顔はうかがえないが、どうせ歳の云ったプライドだけが一人前の騎士様だろうと春斗は考えた。


「……なぁ冬彦、どうするよ?」


 春斗は隣で未だにドラゴンを見つめている冬彦に話しかけた。


「どうするも何も、困ってるやつがいんのに無視するなんてできないだろ」


「だと思ったよ」


 二人は地面を蹴りドラゴンへと向かっていく。

 ドラゴンがいるのは、地上から100メートル近く離れた大空。

 しかし、今の二人には地上100メートルなど生温い。

 たった一蹴りでドラゴンとの間合いを詰め、二人同時に豪快な拳を振り下ろした。

 その拳は見事ドラゴンの体へと命中し、凄まじいほどの爆風が生まれる。


「これでやったか……」


「おい、フラグ立てんなよ冬彦」


 案の定、ドラゴンは少し体を仰け反らせたものの、致命的なダメージには到底及んでいないようだ。

 左右の翼を羽ばたかせ、そこに風を生み出す。

 空を飛べない春斗と冬彦は、あっけなくその風に吹き飛ばされてしまう。


「やっぱりドラゴンともなると、そう簡単にはいかねぇな……」


「あぁそうだな、燃えてきたぜっ」


 体勢を立て直し地面へと着地する、冬彦は再びドラゴンに向かって跳躍をした。


 ―――――あーあ、面倒くさいことになった……。


 冬彦の闘争心に火が付けば、それはもう面倒くさい。自分が納得するまでとことんやり抜く。

 春斗はその間に呆然と立ち尽くしている騎士の元へ行く、助けてあげたのだ、せめて感謝の言葉くらいは頂戴したい。


「おーい、あんた怪我はないか?」


 騎士は俺の顔をしばらく眺めるが、口を開こうとはしない。


「……聞いてる?」


 そこで我に返った騎士がやっと口を開いた。


「……あぁ……ご、ごめんなさい……け、怪我はあるけれどまだ動けます」


「そうか、なら良かった」


 春斗は不愛想にそう告げて、ドラゴンの方に視線を移した。

 大空ではドラゴンと冬彦が激しい攻防を繰り広げている、はやり空を飛んでいるドラゴンの方が若干有利に思える。


「……そ、それより……貴方たちは何者なのですか……?」


 隣で騎士がおどおどしながら訪ねてくる、春斗は困ったように顎に手を当て考える仕草を取った。


「んー……そう聞かれると困るなぁ……」


 何と答えたらいいのか分からない。

 正直に異世界人です! と言っても信用されないだろう。

 どうしたものか。


「おいっ!!! 春斗っっ!!!!!!」


 冬彦の声で視線を上げる、真っ先に目に飛び込んできたのは紅蓮の炎。

 炎は球状に形成されており、こちらに向かって飛んできていた。これはドラゴンが発したものだろう。


「おっと、分析してる場合じゃないな……」


 春斗は慌てることなく回避行動をとろうとしたが、騎士の存在に気づく。

 あいつ何で突っ立ってんだよ、死にたいのか……?

 仕方なく方向転換し、騎士の体を両腕で包み込むように抱きかかえる。所謂お姫様抱っこの形だ。


「きゃっ……!」


「えっ!?」


 抱きかかえた瞬間、鎧の向こうから可愛らしい声が聞こえた。

 春斗は驚きあまり一瞬思考が停止し、行動がとれなくなる。

 もしかして女の子……?


「春斗っーーー!!!」


 冬彦の声のおかげで今置かれている状況を思い出す。


 ―――――早く逃げなきゃっ……! 


 しかし、もう炎はすぐそこまで迫っていた。


 ―――――俺ここで死ぬのかな……? 早すぎやしないかい……? まだやりたいことを何もやっていないのに。嫌だ、死にたくない。もっと生きたいっ。


 春斗は回避の選択を捨て、己の死を悟ったその時。


「なに諦めてんのよっ!」


「な、夏乃……!?」


 春斗と炎の間に夏乃が身を投げていた。


 ―――――何で……犠牲者は俺だけで良かったのに……何でっ! 


 直後、春斗と夏乃は炎に呑み込まれる。


 ―――――あれ、炎って意外に熱くないんだ。っていうか、まだ意識あるのか、いつこの意識がなくなるんだろう……。


 春斗は炎に呑み込まれている間、そんなことを考えていた。


「いつまでボーっとしてるつもり?」


 夏乃の声がする。

 いつの間にか炎は収まっていた。

 さっきまでと景色が変わっていないが、ここが死後の世界なのだろうか。


「……俺は……死んだのか……?」


 そんな言葉を口から漏らした。


「はぁあ!? さっきのうちの活躍見てなかったの!? 結界張って守ったっていうのにっ……!」


 夏乃が怒って頬を膨らませる。

 結界で守った……だから全然熱くなかったのか?


「……どうやって?」


「理屈は知らないけど、使えるようになってたの」


「お前もチートかよ、ドラゴンの炎防ぐとかなかなかの強度な結界だぞ」


「凄いでしょ?」


 自慢気な顔で問いかけてくる夏乃に、春斗は複雑な表情で応える。


「……まぁ助かったよ、ありがとな」


「べ、別に春斗を助けるためにやったわけじゃないからねっ!!」


 夏乃は何故だか顔を耳まで赤く染めている。

 どうしたのだろうか。


「二人ともいい加減まじめに戦ってくれないかしら』


 秋が不機嫌そうな顔で、こちらを睨んできた。

 そうだ、まだ肝心のドラゴンを倒していないじゃないか。

 冬彦と秋でドラゴンの猛攻を食い止めている。


「……秋もいつの間に魔法使えるようになったんだな」


 秋は自分の周りにいくつもの魔法陣を展開させ、そこから光の玉を放出している。

 その光の玉は、ドラゴンに命中すると炸裂し爆発を生んだ。


「結局全員チートなんですね……」


 春斗はそう呟き、ため息をついた。

 ふぅ、と深呼吸をして気合いを入れなおし、未だ抱きかかえたままの騎士に話しかける。


「その剣ちょっと借りていい?」


「えぇ、どうぞ」


 春斗の要望を騎士はすんなりと受け入れ、剣を預けてくれた。

 春斗はその剣を片手で握り、もう一方の手に騎士を抱きかかえたままの状態で、ドラゴンへと向かい地面を蹴る。


「これで終わりだぜっ!!」


ドラゴンの頭上に飛翔し、全ての力を剣に注ぎ込む。


「うぉぉぉおおおおおぉぉ!!!!!!」


 そして剣を振り下ろす。

 その一撃は驚異的な衝撃を生み出し、ドラゴンを消しとばす。

 それだけでは収まらず、地面に膨大なクレーターをつくりあげた、まさに一撃必殺そのものだ。


「やっぱりこうじゃなくっちゃなーっ!」


 春斗は上機嫌でそんなことを言い、地面へと着地したのだった。

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