1 プロローグ
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ここまで来たなら読んでよね?
夏というものは、なぜこうも暑いのだろうか。
車窓から差し込んでくるうざったい光が、より暑さを感じさせる。
クーラーが効いていなかったら、今頃ミイラになっていたに違いない。
今年、高校に入学し、今のところは何の問題もなく高校生活を送っている北村 春斗は、至って取り柄もない平凡な男子高校生である。
春斗たちは今、夏休みだというのに電車に揺られ、学校に向かっていた。
なぜか……?
それはもちろん補修を受けるためだ。
そして、幸せそうな顔をして、春斗の肩に寄りかかって寝ている可愛い女の子。
彼女は大坪 夏乃。
春斗と夏乃は幼い頃からの付き合いで、所謂幼馴染みというやつだ。
ポニーテールに結ばれた髪は、彼女の可愛さをより強調させていた。
夏休みに入ってからというもの、毎日こうして、補修を受けるため学校に登校している。
あと五回くらいで、その補修も終わるだろう。とても長い戦いだ。
「あなたたちって、本当に恥じらいとか無いわよね……」
前のシートに座っている女の子が、その綺麗な黒髪をいじりながら、怪訝な顔でそんなことを言ってくる。
「なんだ秋、羨ましいのか?」
春斗は悪戯な笑みを浮かべて、そう問いかける。
彼女は水瀬 秋。
春斗とは中学で知り合い、なんだかんだで仲良くなり今に至る。
かなり整った顔立ちで、美人だ。
おまけに、成績優秀、運動神経抜群と来たもんだから、高校に入ってすぐに男子からチヤホヤされていた。
「というか大体、なんで私までついて行かなきゃいけないの?」
「どうせ暇なんだからいいだろ……」
「春斗ほど暇じゃないわよ」
不機嫌そうな顔をしている秋。
もちろん成績優秀である彼女は、補修など必要ないのだが、どうせ暇なんだしってことで無理やり連れてきた。
「夏休み入ってから、毎日登校してる俺の身になれよ」
春斗はため息をついて、そう呟いた。
「自業自得だろ、ゲームとかアニメとかに時間使いすぎなんだよお前は」
先ほどまで、無気力のまま吊革にぶら下がっていたはずの男が、ツッコミを入れてくる。
彼は緑川 冬彦。
春斗と冬彦は小中学校は別であったが、親同士が仲が良かったため、幼い頃からよく遊んでいた。
高校で顔を見たときは、お互いにとても驚いたものだ。
体つきがよく、喧嘩っ早いが、とても親切で義理深い。
四人は、クラスが一緒ということもあり、高校に入ってからは同じ時間を過ごすことが多い。
冬彦も秋同様、補修があるわけではないらしい。委員会があると言っていたような気がする。
「……うるせーな」
春斗はそれだけを言って、力なく俯いた。
駅から灼熱の日差しの中を、学校に向けて歩いて行く。
駅から学校までは歩いて十五分程度。
住宅街の坂を下って、トンネルを抜けたその先に春斗たちの通う学校がある。
「あー、夏ってなんでこうも暑いんだ……」
「そりゃあ夏は暑いに決まってるでしょ」
隣を歩く夏乃から、冷ややかな視線が送られてきた。
「そういえばさ、お前ら宿題ちゃんとやってる?」
春斗の唐突な質問に、真っ先に答えたのは秋だった。
「もう終わったわ」
「俺もあとは作文くらいのもんだな」
それに続いて答える冬彦。
予想はしていたけど、どうやら本当に終わっているようだ。
夏乃の方に目をやると、首を横に振って「聞かなくてもわかるでしょ」とでも言いたげな顔をした。
他愛もない話をしているうちに、トンネルへと差し掛かる。
やはり日差しが入ってこないトンネルの中は、涼しい風が吹き抜けていて、とても心地好かった。
灼熱地獄から、天国にでも変わったかのように感じる。ずっとここに居たいとさえ思ってしまう。
「やっぱりトンネルの中は涼しいわね」
「だねー、もう外出たくない……」
秋と夏乃も同じことを考えていたようだ。
しかし、春斗はここで妙な違和感を覚えた。何かが確実にいつもと違っている。
暑さにやられて可笑しくなったのか。そう思ったが、冬彦がその違和感の正体を口にした。
「なぁ……このトンネルってこんなに長かったか……?」
そう、このトンネルはこんなに長くないはずだ。
いつもなら入ってから少し歩くと、出口が見え、光が差し込んでくる。
だが、今日に限っては、もうずいぶんと歩いたが未だに出口が伺えなかった。
「確かに……そうよね……」
秋もその違和感に気づき、辺りを見回す。
一度その違和感に気づいてしまった以上、それが気になってしまい、理由のわからない緊張感が漂う。
なんだか不気味な感覚に陥り、鳥肌が立ってきた。
冷や汗も止まらなくなり、背筋に悪寒が走る。さっき外にいた時が嘘のように体が冷たい。
それからは無言の時間が続いた。
こんな時に何を話したらいいのかわからない、ただ四人は歩くことしかできない。
だが、春斗は心のどこかで自分がワクワクしていることに気づく。
この後、何が起こるのだろうか。
予想もつかない、非現実的な何かが起こるかもしれない。と―――――
視線の先に眩しい光が見えてきた。希望の光だ。
「あっ! 見えてきたよ!!」
夏乃が嬉しそうに走っていく後を、春斗たちは追いかける。
やっと出られる。
おそらくみんながそう思っただろう。
「やっと出られたぜ!」
冬彦も珍しく大袈裟に喜んでいる。
さっきまでの緊張感がようやく解放されたのだ、無理もないだろう。
「ねぇ……―――――」
秋がいつもより格段と低い声で、こちらに声をかけてくる。
真剣な顔で前を見つめ、落ち着きを保ったままこう告げた。
「ここはどこ……―――――」