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プロローグ_始

『 君はふいに現れて



僕の脳裏に君の姿を刻みつけていった





一生懸命追いかけて 手を伸ばすけど



届く前に 消えて


僕の手は空を切る






諦めの悪い僕は


君がまた姿を現すのを待ち続けて


何度でも手を伸ばすんだ




焦がれる君に


少しでも 近づこう と 』






手に持っていた文庫本の表紙を閉じる。


それを目の前のテーブルの上に置きじっと表紙を見つめる。


友達の里穂(りほ)から借りたこの本。主に主人公の女の子視点で進む恋愛小説だが、その女の子を好きになった男の子視点のページも含まれてたりする。


「面白いから!いや、というかキュンってくるの! 泉も読んでみなよ」

強引ではあるがこの本を勧めてきた友達の目はすごい輝いていた。自分の好きなものを友達にも知ってもらいたい!ってところだろうか。



男兄弟に挟まれているからか、私の身の回りには少年漫画が溢れている。

子どもの頃に兄が持っていた少年漫画をよませてもらい、それをきっかけに私はハマっていった。少女漫画なんて、一冊もない。



「……ちゃんと読んでから里穂に返さないとだよね」


冒険や戦いに挑みにいく少年漫画の主人公の気持ちに感情移入はできても、〈恋する女の子〉が恋を叶える為に行動する気持ちは私には難しく思えた。




高校生になり、中学の時につるんでいたうちの何人かが変貌を遂げた。眼鏡を掛け、文学少女だったAさんはコンタクトデビュー。男子みたいなショートヘアーだった運動部のBさんは髪を伸ばしてヘアピンをしたり。

Bさんは高校入学後、同級生の彼氏が出来たらしい。


その中で、何も変化ないまま高校生になった私は、見た目だけじゃなくて話の内容も周りに置いていかれそうになる。



……でも、今のままの方が楽なんだよな。


肩に届かないくらいに短い自分の髪に触れ、ゆっくり息を吐き出す。




気づけば夕方七時。

今日は土曜日。

特に何の用事も遊ぶ約束もなく、家にこもっていたらあっという間に時間は経つ。


平日は友達のほとんどは部活に入っているが、私は中学の頃と同じく帰宅部。家に帰ってきて洗濯、掃除、夕飯作りがあるので入らないことにしたのだ。





七月。夏真っ盛りで、扇風機を付けてもジメジメとした空気は消えない。


ソファーに座ったまま、なんとなく付けたテレビの画面をぼーっと見ていた。



『今日夕方から明日にかけて雨マークとなっており……』



そんな声がテレビから聞こえ、ベランダに目を向けてみた時には遅かった。




「干し直し、もしくは洗い直し、かな」


取り込んだ洗濯物はリビングの隣にある和室の壁にかけた。洗濯が私や兄弟達の上着くらいで、あまり多くなかったことは助かった。


それでも無駄な仕事が出来てしまい、うっかり漏れたため息を吸い込んだ。お母さんに言われいた「ため息ばかり吐いてると幸せ逃げるよ?」の言葉を思い出したから。






__ピーンポーン



チャイムが鳴ったのに気づき私は慌てて玄関に向かった。






「あ~良かった。

泉いなかったらずぶ濡れのまま家に入れないところだったー」


玄関扉を開け目の前に立っていたのは、さっきの雨に降られて濡れたんだろう。頭からつま先までびしょ濡れの青年。


青年というか、私の弟。

弟の月宮 (はる)



Tシャツに短パンの家着の私とは違い、遊びに行ってた陽はチェック柄のシャツにジーパンに少し洒落(しゃれ)た格好をしている。

それも雨のせいでびしょ濡れな訳だが。



弟の陽 (いわ)く、私が朝起きる前に出かけていたらしい。

私が「鍵、持ってないの?」と声のトーンを落として聞くと「忘れましたごめんなさい」と早めの謝罪があった。よろしい。



「俺が家を出た時は蒼兄(そうにい)が起きてたから。」


蒼兄とは、ただいまバイト中で外出している私と陽の兄の蒼汰(そうた)のこと。


「……まあいいや。早く風呂入って着替えなよ? 陽 」


びしょ濡れのままの陽は小さく身震いをしていた。その姿に濡れた犬が重なり思わず吹き出してしまった。

とりあえず、そのままだと風邪引かせてしまうかもしれない。


玄関の端に寄り、通れるようにスペースを開けた。陽はコクコクと頷いて見せると、靴を玄関に脱ぎ捨て家に上がる。


「あーー、ただいまんぼ」


陽が玄関に上がったのを確認し、玄関を閉めようとドアノブを掴んだ。そのまま扉を引こうとすると、玄関をあがってリビングへの廊下を歩いていたはずの足音がピタリと止まった。そして陽が勢いよく振り返る。


「忘れてた! 泉、しょー先輩も家にいれて」


「しょー先輩?」


聞いたことのない名前に首を傾げては、閉めようとした扉をもう一回開ける。

さっき扉を開けた時は死角で見えなかったのだろうか。



そこにはもう一人。


長い前髪が水を含んで垂れていて、その隙間から覗く真っ直ぐな瞳と目が合う。



私と同じくらいの背丈で、陽と同じくびしょ濡れの少年が立っていた。

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