捕まえないで、捕まえないで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
強い力で抱きしめられた。
「い、痛いっ」
そういっても彼の力が弱まることはなかった。
動けないことに気付いて彼は男なんだ、そう実感する。
翠の瞳はやさしさを帯びているはずなのに。
少しづつ恐怖がこみ上げる。
「は、はなして!痛ッ、痛い!!」
何度訴えても彼は頭を振って抱きしめ続ける。
一体、どうしたというのだろう。
諦めて抵抗するのをやめると、ほんの少しだけ抱きしめる力が緩くなった。
落ち着いて彼を見ていればわかった。
肩が震えている。
なんとなく、泣いているきがして、こみ上げている恐怖が薄れた。
男なんだ、なくんじゃない!!
まるで私が泣かしているようじゃないか・・・。
ぽんぽんと頭をなでる。
「姉さん、ぼく・・・」
弟、一輝は私の様子を伺うように見つめてくる。
私も恐る恐るのぞき見れば熱の孕んだ瞳がそこにあった。
すっと視界の端で私の手首を掴んだのが見えた。
先ほど花瓶の破片を拾おうとした手だ。
拾うときに切ったのだろうか、ほんの少しだけれど血が滴っていた。
「ぼくもう、治ったのかと思ってた、そんなことなかったのに・・・」
なにを言っているのか、考えようとして意識は掴まれている腕に流れてしまう。
意識、してしまう。
彼はそのまま傷口を舐めた。
「―――っん?!」
熱い、舐められたところがとても熱い。
恥ずかしくて、恥ずかしいことをされている、
そう見せつけらられている気がして。
私は目を伏せた。
―――ん、まてよ、これって異常性癖発動してるの・・・?
「ままっまま、待ってお願い!!」
恥ずかしさを隠せなくて言葉がうわずっている。
ああ、穴があったら入りたい。なんて言葉はここで使うのだろう。
「姉さん恥ずかしがってかわいい」
そういいつつ手をどこに入れようとしているのかな?
だんだん彼のもう片手が怪しいところに滑りこもうとしていた。
腰のあたりから服を捲り上げながら、肌を撫でるように、上へとずれていく。
つま先から膝、背筋にかけて何かが走った。
力が抜けて立っていられなくなる。
「ね、食べても、いいよね」
アウト!!
これはダメだ!!
その一言を聞いたとき、自分の中の羞恥心もろもろは吹き飛んだ。
代わりに恐怖心で埋め尽くされる。
こ、ころされる。
扉からなんて逃げられない。
引き止められてしまう。
頭は嫌に冷静だった。
だから、結論にいたった。
微笑む。
一瞬、力の抜けたその瞬間。
私は精一杯肩をおして、そのまま体を後ろに倒した。
カーテンはたなびく。
開いている窓に、私の体は躍り出た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――