出会い、出逢い。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とある男性視点。
煌びやかな照明に照らされ、艶やかに世界は息をする。
礼服を身にまとった紳士は、色とりどりの宝石を着飾る淑女の手を引いて
その夜の世界へと加わっていく。
誰もがそのホールへと足を踏み入れていく中、道から外れる影があった。
今回の夜会にて主役であるエンディミオン子爵、その人であった。
「なんて下卑た世界だろう」
そう憎々しげに毒を吐き出せば、歩きながら片手で空を仰いだ。
「媚びてくるやつの顔色なんていちいち見ていられるか」
それはこの夜会に対しての彼の本音だった。
今日のこの夜会はエンディミオン子爵の誕生記念を含めて執り行われていた。
といいつつもそれも名目上、建前である。
実態は将来の花嫁候補探しであった。
そんなこともあって話しかけてくるやつらは、片手に賛辞を。
片手に娘を紹介しにくるやつらばかり。
皆同じように、歯に布を着せたような飾り言葉ばかり口にする。
気味が悪い。
だからか一人になりたくて、人目を避けてこの母さんが愛した庭園に逃げて来た。
「けど母さんは薔薇が好きだったのに、ここには植えなかった」
甘い香りがかすめていく。
いつも感じるこの庭の花の香りとは違う甘い香りがまぎれている。
ここでは嗅ぐことなどない薔薇の香り。
この庭には一輪一房とて薔薇は植えられていない。
「・・・誰かいるのか?」
誰だろうか、こんな時間に。
今は夜会が始まったばかりだ、こんなところに来るやつなんて。
道に沿う赤レンガを真っ直ぐ進めば、月の灯でよく見えないが誰か座っていた。
黒いドレスはまるで闇のようで、どこか寂しげ。
ドレスとは相反した銀色の髪はまるで空の星々のような輝きを持っている。
薔薇の香りは彼女のものだった。
香水じゃない、彼女の胸元の薔薇が香しいほどに香りだっているせいだ。
その光景をみて、まるで薔薇の精霊のようだ。
そう、思ってしまった。
「・・・すぅ」
静かに寝息が聞こえてきた。
どうやら、彼女は眠っているようだ。
ふと起こそうとして異質に気づく。
彼女は濡れていた。
ひとすくい髪に触れる、冷たく、すこし滴っている。
いつからここにいたのだろうか。
そっと手に触れて気づく、冷え切っていた。
このままでは風邪をひくんじゃないか、そもそも一介の女性がこんな
ところで寝ていること自体大丈夫なのか。
そんな不安をよそに眠りへと落ちている彼女の表情は安らかだ。
まるで、死人のよう。
そう考えて誰かが、彼女とかぶさって見えた。
懐かしい、そうとても懐かしい。
それは母さんの死に顔。
「ああ、なんて――――綺麗なんだ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
トリス・エンディミオン子爵
シナリオ中死亡率の高さを誇った攻略対象の一人。
主に彼の持つ異常性癖と過去のトリガーのせい。
彼を一度で攻略した猛者は現れず、リメイク版にて難易度下方修正が入るほどだった。
性別:男性
年齢:28歳
容姿:黒髪、赤目、童顔ぎみ
経歴:未開封
異常性癖:ネクロフィリア(死体性愛)