知らない、知らない。
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神様はあまりに理不尽だということ、皆様は知っているでしょうか。
妹は残念ながら、手紙を見ていなかったようです。
ほら、目の前のテレビ一緒にみてみましょう。
昨夜――邸の一室にて誘拐が――。
この報道、我が家です。
お父様まだ、帰ってないようでして。
私がいないのを早合点したのか警察に連絡したみたいです。
なにしてるの?!私の妹!!
ゲームの中では内気で行動力がないことに
定評と需要のあるキャラクターだったではないですか!!
攻略対象に迫られても脅されてもおどおどして何もできない、
そのうえ全部胸の内に秘める――。そんなキャラクターだってはないですか。
遠くでサイレンの音がする。
流石に、と思って家に電話をかけた。
トゥル、とワンコールの後すぐに受話器がとられた音がした。
早い。なんだかこわいです。
「お姉ちゃん!待ってて助けてあげるから!!」
と第一声、これは妹の声でした。
「うん、待つのは優美のほうだよ、机の上みた?」
諭すように私は電話越しに話す。
けれど妹は話を聞いてる様子はない。
ふと背後から視線を感じて、私は振り返った。
「探したよ、お姉ちゃん」
妹の視線がこんなに怖いものだなんて、知らなかったです。
髪で目が隠れてますが風が吹いてその瞳を見てしまいました。
焦点のあってない歪んだ橙色の瞳でした。
片手に手紙を握りつぶすようにもって、彼女は立っていました。
お姉ちゃん、これどうゆうこと?
そういって彼女は、私の目の前でそれを破ります。
ん?こんな裏話あったでしょうか、ゲーム内で語られなかっただけで
実は妹は姉大好きっこだったのでしょうか。
いやいや、そんなわけありません。
前世で設定資料5600円(高すぎる)を買っていましたが、
あれにも書いていませんでした。
風に舞って私の手紙が散っていきます。
眺めていたもの束の間、目の前の妹は懐から何かを取り出します。
鈍く光るそれは鋭利な得物。
あ、これは。
笑顔です、とても笑顔です、妹が。
やめてください、知らないのです。
どうして、彼女はこうなっているのでしょうか。
視界は暗転、私は冷たい空間に突然放りだされます。
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