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レジェンド  作者: 神無月 紅
冬の生活

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883/3973

0883話

 ヨハンナやレント達が獣の牙と共にガメリオンの内臓の処理をしている頃、レイは当然のようにセトの背に乗り、空を飛んでいた。

 馬車の見張りとして残してきたセトがこうして空を飛んでいる以上、当然馬車の周囲には誰の姿もない状況ではあった。

 だが少し前までセトがいたこともあり、グリフォンであるセトの臭いが残っている馬車に襲撃を仕掛けるモンスターがどれ程いるのかと聞かれれば、答えは滅多にいないということになるだろう。

 勿論絶対確実に安全という訳ではないのだが、それでも安全性が高いのは事実だった。


「それに、上にいるんだから下で怪しい動きをしていれば、確認するのも難しくないし」

「グルゥ?」


 レイの呟きに、セトがどうしたの? と後ろを向く。

 そんなセトの頭を撫でながら、レイは何でもないと首を横に振る。

 上空百m近い高度というのは、レイやセトにとっては地上を見通すことが出来るこれ以上ない場所だ。

 今もレイの視線の先では、ガメリオンと戦っている冒険者パーティの姿が数組見える。

 中には苦戦しているパーティもいるが、それでも危機という程ではない。


「……あ、逃げられた」


 視線の先にいるパーティが、戦っていたガメリオンに逃げられ、振り切られたのを見て呟く。

 ある程度の傷を負わせることには成功していたが、それが原因で勝ち目がないと本能的に判断したガメリオンが逃げ出したのだ。

 基本的には獰猛で攻撃性の強いガメリオンだが、中にはこのまま戦えば自分がどうなるか理解する、頭のいい個体もいるということだろう。


「ああいうガメリオンが生き延びて……向こうのガメリオンみたいなのは死ぬんだろうな」


 次に視線を向けたのは、冒険者パーティに対して一方的に攻撃を仕掛けているガメリオンの姿。

 牙や刃のような耳、鞭であり、槍でもある尾や、その巨体により蹂躙しているとでも思える光景ではある。

 だがその戦いを良く見れば、攻撃を加えられている冒険者パーティの方には軽傷はともかく、致命的なダメージを負った者の姿がないことに気が付くだろう。

 一方的に攻撃されてはいるが、冒険者パーティの方はその攻撃を逸らし、回避し、盾で防ぐといった風に防御に徹しているからこそ、ガメリオンが圧倒的優勢に見えるのだ。

 そして、目の前の敵に対して一方的に攻撃を仕掛けているガメリオンを回り込むように移動している二組の集団。

 本来であればガメリオンは非常に耳がいいので、何か異変があればすぐに気が付いてもおかしくはない。

 しかしこのガメリオンは目の前にいる敵へと必死に攻撃し、その度に盾であったり、鎧であったり、武器であったりが甲高い音を周囲に響き渡らせ、ガメリオンの聴覚を殺している。

 また、ガメリオンも頭に血が上っているのも大きいだろう。


「寧ろ、あの派手な防戦はガメリオンの注意を引き付ける以外にもそういう狙いがあるんだろうな」


 レイの感想が正しかったのは、その後数分もしない内に証明された。

 後ろから回り込んだ二つのパーティが、一方的に攻撃を仕掛けていたガメリオンの背後から攻撃を仕掛けたのだ。

 完全に自分の目の前にいるパーティを相手に集中していた為か、そのガメリオンは背後から迫る脅威に一切気が付くことはなく……背中へと鎚を叩きつけられ、ようやくその存在に気が付く。

 致命的な一撃を食らってから背後の存在に気が付いたとしても、そこからの逆転は無理だった。

 逃げようとしても、最初に喰らった一撃のダメージが大きすぎて動きが鈍い。

 そうなってしまえば、既にそのガメリオンにどうにかすることは出来なかった。

 周囲を三つの冒険者パーティに囲まれ、一方的に攻撃を加えられ、命を落とす。

 その光景を見ながら、レイは三つのパーティの連携の上手さに感心する。

 三つのパーティと、言葉だけで言えばそれだけだが、視線の先のパーティは、一番少ないものでも四人。多いのだと七人。

 それだけのパーティが連携し、お互いの邪魔にならないようにしながら的確に相手へとダメージを与えていく光景は、その三組のパーティが連携して戦闘をするのに慣れていることを意味していた。


「多分、毎年ガメリオン狩りをしているパーティなんだろうな。もしくは、普段から組んで大物を狙っているとか」

「グルルゥ!」


 レイの呟きにセトが鳴き声を上げるが、それはいつものようにレイの言葉に同意するものではない。

 そんなセトの様子を不思議に思ったレイだったが、セトの視線を見た瞬間に何を言いたいのかを悟る。

 セトの視線の先にあるのは、レイ達がここにやってくる時に使った馬車。

 それはいい。だが問題は、何人かの冒険者と思しき者達がその馬車の周囲にいることだ。

 最初は冒険者が馬車を目にして見に来ただけなのかと思ったレイだったが、馬車の扉を開けて中を調べたり、馬の状態を確認するように触っているのを見れば、何をしようとしているのかはすぐに分かった。


「馬車泥棒、か。まぁ、馬車は結構高く売れるしな。何も知らなければ狙ってもしょうがないだろうけど……運のない奴だ。セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは鋭く鳴き、そのまま翼を羽ばたかせながら地上へと向かって降下していく。

 高度百m程度の高さだが、セトが翼を羽ばたかせればその程度の高度は殆ど意味はない。

 見る間に馬車へと近づいて行き、馬車を漁っていた者達が異変に気が付くよりも前に、セトは地上へと着地する。

 それでいながら殆ど音を出さずに着地する辺り、セトの凄さを物語っていた。

 セトの背から降りたレイは、感謝を込めてセトの背中を撫でる。

 その後、ミスティリングからデスサイズを取り出すと、箱馬車の中にいる冒険者達へと向かって口を開く。


「そこのこそ泥、出てこい」


 明確に自分達がいるというのを理解しての言葉。

 箱馬車の中で何かいい物がないかと漁っていた冒険者達は、その言葉で誤魔化すことは不可能だと理解したのだろう。諦めて馬車の中から出てくる。

 もっとも、諦めると言うのは馬車の持ち主に謝罪をするのではなく、脅して馬車を奪い取ろうという意味の諦めだったが。

 つまり穏便に済ませるのではなく、自分達が腕ずくで馬車を奪おうと決めたとも言える。

 相手を威圧するような視線を向けながら、馬車から姿を現したのは四人の男達。

 ……だがその四人の男達は、馬車の外にいる人物を目にして絶望を味わう。

 ローブを身に纏っている小柄な人物の手に握られているのは、身長よりも巨大な鎌。

 更にその人物のすぐ後ろにはグリフォンが立っており、自分達を鋭い視線で見ている。

 その時点で、男達は自分の目の前にいるのが誰なのかを悟ってしまう。

 ギルムでも気軽に触れてはいけない人物として有名な、その人物に。


「……え?」

「おい、ちょっと……」

「なんであいつがこんな所に」

「いや、いてもおかしくないけど、馬車は……」


 それぞれ口の中で呟きつつ、一瞬で敵意を霧散させる。

 目の前にいる人物が、敵と見なした相手に容赦がないというのを何度となく噂で聞いていた為だ。

 もし今この状況で敵対したりすれば、間違いなく洒落にならない目に遭う。

 それを理解していたからこその行動だったが……それは少しばかり遅かった。


「さて、何だって俺が乗ってきた馬車を漁っていたのか。その辺を詳しく聞かせて貰おうか?」

「そ、それは……こんな場所に馬車が置いてあったから、誰かが忘れていったんじゃないかと思ったんだよ」

「……馬車を忘れていく、か」


 男達のリーダー格と思われる人物の説明……否、言い訳にレイは苦笑を浮かべる。


「それを信じるような者がここにいると思うのか?」


 手に持っているデスサイズの刃を向けながらレイが問うと、男達は反射的に後ろへと数歩下がる。

 それでも武器へと手を伸ばさないのは、レイとの決定的な敵対を避けたいという思いがあるからこそだろう。

 ここでレイと敵対すれば、レイとの戦いになる。

 レイを相手にしただけでも勝ち目は皆無に近いというのに、レイ以外にセトもいるとあってはどうしようもない。

 だからこそ男達は何とかこの場を逃れようと必死に頭を捻り……それでも、結局はどうしようもないと理解してしまう。

 何よりも致命的だったのは、やはり馬車の中を漁っているのを見つけられたことだろう。

 致命的なミスとしか言えないその様子に、男達が出来ることといえば……


『すいませんでした!』


 素直に自分達の罪を認め、謝ることだけだった。

 戦っても勝ち目がない以上、ここでレイと敵対行為を取るのは絶対に避けるべきだ。

 その上で何とかこの場を逃れる方法は……と考えれば、下手な言い訳を言ってもレイの機嫌を損ねるだけである以上、素直に謝るという手段しか残っていない。


「はぁ……」


 一斉に頭を下げた男達を眺め、溜息を吐くレイ。

 このままこうしていても殆ど意味がない以上、どうにか落とし所を作る必要があった。

 実を言えば、レイは見た目程に怒っている訳ではない。

 確かに自分達が乗ってきた馬車が盗まれそうになっていたのだから、不愉快な思いがあるのは事実だ。

 だが、そもそも本来であればこの場にレイがいるというのがイレギュラーな事態。

 今回レイが来ていなければ、馬車は盗まれていた可能性が非常に高い。


(ヨハンナ達の警戒が薄かったって言えばそれまでだけど……まぁ、セトに馬車の護衛を頼んだ以上、その辺を心配する必要がないと思い込むのも当然か。そういう意味だと、セトでガメリオンを探しに上空に行った俺が軽率だったってこともある。セトを連れていくんなら、最初から誰か代わりに護衛になる奴を連れてくれば良かっただけだし)


 結局自分のミスも大きかったと思うも、だからといって馬車泥棒をそのまま見逃してやる程にレイも甘い訳ではない。

 数秒程迷ったが、向こうが逆上して襲ってくることもなく、自分という存在と敵対したくないから謝っているというのを知っても、それだけにこの時点で手を出しにくくなっているのは事実だった。

 どうするか迷った末に出した結論が……


「そうだな、なら謝罪として一人白金貨一枚出して貰うか。それでこの件はなかったことにしてやる」


 各自から白金貨一枚ずつの罰金だった。

 それを聞いた男達が、反射的に声を出す。


「無理だ、そんな金はない!」

「そ、そうだよ! そんな金があったらこんな真似をしてない!」

「横暴だ! 横暴!」

「幾ら異名持ちだからって、やり過ぎは良くないぞ!」


 そんな風に騒ぎ出したのだが、男達の前でレイが口を開く。


「ならこのままお前達を捕まえて警備兵に突き出すか? それとも、盗賊扱いとして俺と戦うのか? どっちでもいいから、好きな方を選んでもいいぞ?」

「グルルルルゥ」


 デスサイズを手に尋ねるレイと、そのレイの横で草原を足の爪で引っ掻きながら、好戦的に喉を鳴らすセト。

 そのどちらを選んでも、ろくな目に遭わないのは確実だった。

 かといって、なけなしの金の中から白金貨をレイに差し出したりすれば、この冬を越えるのが厳しくなる。

 間違いなく寒い中で何らかの依頼をこなさなければならなくなってしまう。

 かといって警備兵に突き出されれば、罰金か鞭叩きか……余罪が判明すれば最悪奴隷落ちという未来も有り得る。

 そして、レイと戦うというのは絶対にごめんだった。

 それこそ、死ねと言われているようなものに近い。

 最終的に男達が選んだのは……


「白金貨四枚、確かに受け取った」


 男達が渋々差し出してきた白金貨を手に、レイはニヤリと表現出来そうな笑みを浮かべる。

 男達にとって致命的とまではいかないが、それでも大きな出費だったのは間違いない。

 間違いなくこの冬を越すのに必要な資金が足りなくなるだろう。

 苦々しげな表情を浮かべている男達へと向かい、レイはセトを撫でながら口を開く。


「言っておくが、この金の損失分を同じような犯罪行為をして稼ごうなんて思うなよ? 次に見つけたら……さて、どうするかな。白金貨数枚を奪うか、問答無用で警備兵に突き出すか、それとも……デスサイズの斬れ味をその身で味わって貰うか」


 そう呟くレイの言葉を聞き、男達の背筋に冷たいものが走った。

 レイが口にしているのは、紛れもない本音だと気が付いた為だ。

 もし同じように馬車、あるいは荷車といった物を盗んで売り飛ばそうとするのを見つかった場合、間違いなくレイは口にしたことを実行するだろう。

 白金貨や警備兵に突き出されるのはともかく、本気でレイと敵対してしまえば絶対に生き残ることは出来ない。

 それが分かっているからこそ、男達は何度も素早く頷きを返す。


「……そうか、分かったんならそれでいい。もう馬鹿な真似はしないことだな。行け」


 レイの言葉に、もうこれ以上少しでもここにいたくはないと、男達は素早くこの場を去って行く。

 そんな男達の背を見送ったレイは、溜息を吐いてから再びガメリオンを探すべくセトと共に空へと向かうのだった。

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