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レジェンド  作者: 神無月 紅
闘技大会
629/3865

0629話

 予想外にいいマジックアイテム屋を見つけたことに、レイは上機嫌で店を出て……数歩もあるかないうちに、その動きを止める。

 別に忘れ物をしたとか、そういう理由ではない。自分を中心にして殺気混じりの気配が幾つか存在することに気が付いたのだ。


「ちっ」


 思わず舌打ち一つ。

 折角品揃えのいいマジックアイテム屋を見つけ、自分向きのマジックアイテムはなかったので購入しなかったが、それでも店主の老人と意気投合した。

 ……偏屈だと評判の老人を相手に意気投合するということは、レイ自身もまた偏屈と言われてもおかしくないのだが、本人は全くそれを気にした様子がないのは、レイがレイだからこそだろう。

 ともあれ、いい気分でいたところを突然邪魔されたのだ。舌打ちをしたくなってもしょうがなかった。


(技量的には……それ程高くはないな。月光の弓とかいう奴等にくらべるとかなり下……か? 少なくても、気配を殺すという一点においては未熟もいいところだ)


 質より量で攻めて来たのか? そんな風に考えたレイは、数秒前の舌打ちから一変してつまらなさそうな溜息を吐く。

 せめてこちらを狙っているのがある程度腕の立つ存在であれば、自らの技量を高めるという意味で糧にでもなったかもしれない。だが今自分を狙っているのは、どう考えても技量的に未熟な存在でしかない。

 色々な意味で、いい気分のところに水を差された感じだった。


(そうは言っても、このままこいつらを放置して宿に戻る訳にはいかないか)


 技量的に未熟ということは、下手をすればその技量の拙さ故に大きな騒ぎになるかもしれないことを意味している。

 そんな状況で貴賓ともいえる存在が多く泊まっている悠久の空亭に戻ったりしようものなら……そして、宿の中で大きな騒ぎになろうものなら、レイの立場としては色々と不味いのも事実。


(となると、やっぱり宿に戻る前に片付けておいた方がいいか。……この辺についてはあまり詳しくないんだけどな)


 帝都についてレイが知っている場所というのはそれ程多くはない。

 一番この手の騒ぎを起こしても問題がない場所は、月光の弓の刺客と戦った場所だろう。だが、そこは間違いなく警備兵達によって注意深く観察されているだろうというのも予想がついた。


「ま、しょうがない。適当に路地裏辺りを歩いて回るか」


 人目につかない場所なら特に問題はないだろう。そう判断して、レイはマジックアイテム屋を後にして路地裏の方へと向かう。

 幸い10分程も歩くと、次第に人の数が減ってくるのが分かる。

 同時に、自分を狙っている人物達の殺気もまた高まってきた。


「……さて、そろそろ出てきてもいいんじゃないか? いつまでも俺をつけ回していてもどうにもならないと思うが?」


 そんなレイの言葉が、路地裏の行き止まりになっている場所に響き渡る。

 行き止まりの場所である以上、レイの逃げ場はそちらには存在しない。だが逆に言えば、それは背後からの奇襲を心配しなくてもいいということでもあった。


(さて、どんな奴が出てくるのか……)


 内心で若干……本当に若干ではあるが期待して発した声。

 気配の絶ち方は未熟であるが、もしかしたらそれは自らの戦闘能力に自信があったからではないのか。そんな思いで口にした言葉だったのだが、やがて姿を現したのはどう見ても10歳になるかならないかといった程度の年齢の少年や少女……いや、子供だった。


「何の冗談だ?」


 多少ではあるが期待していただけに、裏切られた感じが強かったのだろう。若干据わった目つきで姿を現した3人の子供に視線を向ける。

 同時に背後で発する気配を感じ取り、ミスティリングから取り出したデスサイズを大きく振るう。

 キンッという金属音と共に、刀身の半ばで切断されたショートソードが地面へと落ちる。

 そのショートソードを持って背後にあった壁から飛び降りながら襲い掛かって来た、こちらもまだ10歳程度の子供にどこか呆れたように溜息を吐く。


「こんな奴等で俺の相手が出来ると思われたのか? また、随分と甘く見られたものだな。俺の意識をそっちに向けて背後を狙うというのは、それ程悪くない選択だ。だがそれを行うのなら、せめて気配を絶てる人員をそっちに配置すべきだったな」

「……」


 そんなレイの言葉を聞かされつつも、子供達は特に表情を変える様子もないまま、それぞれの武器を持つ。

 レイの背後にある行き止まりの通路の壁から飛び降りてきたのが4人。レイによって短剣を破壊されたのが1人。そしてレイの退路を断つかのように先程の3人の他に5人が姿を現す。

 それぞれが短剣、あるいは弓、中にはレイピアを持っている者すらも存在している。

 合計13人。その全てが10歳になるかならないかといった程度の年齢の子供達だった。


(さて、ここで仕掛けてくるとなると月光の弓の仕業か? あるいは鎮魂の鐘? それ以外の組織という可能性もあるが……どちらにしろ、子供を使うというのは不愉快な手だ。俺が子供相手になら本気を出せないとでも思ったのか?)


 内心で考えつつ、デスサイズを大きく一振りして念の為に口を開く。


「言っておくが、俺は子供が相手だからといっても容赦したりはしないぞ? それでもいいのなら掛かってこい。幸い、ここは行き止まりではあっても、俺が暴れるには十分な広さがあるしな」


 デスサイズを振るう空間的余裕がある以上、自分がここで負けるというのは考えられない。

 そうなると、後は目の前と後ろにいる13人の子供達をどうするかだった。

 確かにいざとなれば全員殺すのもしょうがないと考えてはいたが、それでも子供を殺すのは忍びないという感覚はある。


(となると、全員気絶させて警備兵辺りに引き渡すか? 尋問とかがあるだろうが、俺に殺されるよりはマシだろうし)


 その尋問がどれだけ厳しいものであるのかは半ば承知の上で、それでも自分の手で殺すよりはいいだろうと判断し……デスサイズを振るう。

 キンッという音と共に投擲された短剣が上空に弾かれ、それを合図にしたかのように一斉に子供達はレイへと襲い掛かる。

 子供故の小柄さと、その素早さを巧みに使っての行動はそれなりに連携が取れており、もしもレイが一般人であるのなら反撃する術もないままに殺されただろう。

 だが、この場合は相手が悪すぎるとしか言いようがなかった。


「やぁっ!」


 そんな子供らしい声とは裏腹に、突き出される短剣はレイの太股へと狙いを定める。

 自分達の力で一撃必殺というのは無理だと判断しており、まずは短剣で太股を刺して動きを止めるのと同時に、短剣に塗られた麻痺毒の効果でレイの行動を阻害するつもりの一撃。

 だが短剣を振りかぶった瞬間、子供は吹き飛ばされて意識を失う。

 デスサイズの石突きによる一撃を胴体に食らい、吹き飛んだのだ。

 更にはその一連の動きをそのままに、地面のすぐ上をデスサイズの柄の部分で一回転。

 レイに襲い掛かって来ていた子供達の中でも5人程が足を痛打されてその場に崩れ落ちる。

 勿論死んだ訳でも、あるいは意識を失った訳でもないのだから立ち上がろうとするのだが、脛……いわゆる弁慶の泣き所を強打されたのだ。感情を表に出さないようにしている子供達であっても、その痛みを堪えることは出来ずに立ち上がることが出来ない。


「これで6人。残りは半分か」


 呟き、再びデスサイズを振るうレイ。

 周囲の建物に上っていた子供が、頭部を貫通させんと短剣を握りながら落下してきところに、腹部への一撃。

 胃液を吐き出しながら悶絶するのを眺め、再びデスサイズを一閃。

 真っ直ぐにレイの額へと向かって飛んできた矢が切断され、地面へと落ちる。


「弓は厄介だな。なるべく早めに……倒させて貰おうか!」


 地を蹴り、離れた場所で弓を構えている子供へと向かうレイ。

 それをさせじとレイピアを持った子供が立ち塞がるが、躊躇なく振るわれるデスサイズの一閃によりあっさりとレイピアの刀身を切断、その動きを利用して放たれた石突きに鳩尾を突かれ、その場で意識を失い地に崩れ落ちる。

 弓を構えた子供はそんなレイの動きに一瞬だけ動きを止めたが、すぐに気を取り直して持っていた弓をレイへと向かって投げつける。

 近くまで接近された以上は弓を持っていても意味がないのだから、邪魔になるならいっそ……という考えだったのだろう。

 実際、その機転の良さにはレイも多少驚く。

 だが弓に刃が仕込まれたりしている訳でもなければ、子供故に膂力も小さい。軽くデスサイズを一閃すると、それだけで弓は真っ二つに切断される。

 このままでは自分もレイピアを持っていた子供みたいに意識を奪われる。そう判断したのか、両手で鳩尾を守ろうとする子供の足をデスサイズの石突きの部分で掬い上げて地面に転ばせ、手が鳩尾から離れたところで石突きで突いて気を失わせる。

 次に襲ってきたのは短剣を持った2人とレイピアを持った2人の合計4人。

 子供達がレイピアを持っているのは、やはりその軽量さからだろう。

 子供故に非力であり、その非力さでも扱える武器としてレイピアのような軽い獲物を選択したのだ。

 だが……


「重量ってのは、それだけで大きな武器になるんだよ!」


 自分に向かって突き出されたレイピアの刃と、短剣の刃。合計4本の刃がその振るわれたデスサイズの一閃だけで全て斬り裂かれる。


『なっ!?』


 さすがにこの結果は予想外だったのだろう。4人の子供達は皆が一斉に唖然とし……その時間はほんの一瞬ではあったが、それでもレイという存在を前にして見せるには大きすぎる隙だった。

 デスサイズを振るった状態から手首を返し、刃ではなく石突きの部分を相手に向け、再び振るわれる一撃。

 レイ自身を半包囲していた4人がその一撃を受けて文字通り吹き飛んでいく。

 幾ら手加減された一撃であったとはしても、子供達が受けるにはあまりにも大きすぎるダメージ。

 そのまま数m程も吹き飛ばされて壁へとぶつかり、4人の子供は折り重なるようにしてその場に崩れ落ちる。


「ぐっ、くそぉ……化け物め……」

「へぇ、まだ意識があるのか。思ったよりも頑丈だな」


 吹き飛ばされたうちの1人は意識を失っていなかったらしく、憎々しげな視線をレイへと向ける。

 その視線を真っ直ぐに受け止め、感心したように呟く。

 それでも最終的にはその一言を最後に意識を失い、これにより襲撃者である13人の子供は全て無力化された。


「子供にしてはそれなりの強さだったな。いや、子供だからこそ……か?」


 纏まって気を失っている子供達を見ながら、これからどうしたものかと考える。

 当然このままここに置いていくという考えはない。だが、最初に考えたように警備隊の詰め所に連れて行くにしても、13人という数は重量的にはともかく大きさ的にレイ1人で運べるものではない。


「かといって、ここにこいつらを置いたまま警備兵を呼びに行けば、恐らくその間にこいつ等の上役辺りが回収して行くだろうしな。……となると、何人かは連れていくという感じがいいのか? 襲ってきた証拠にも……」


 そこまで考え、もしかしたら幼児誘拐犯辺りに間違われるのでは? と、ふと思いつく。

 さすがにそれは遠慮したいレイは、ここにセトがいれば……と思わざるを得ない。

 セトがいればこの子供達を連れていくのも出来るし、何よりここで見張っていて貰うという選択肢もある。


「むぅ、やっぱりセトを連れてくるべきだったか?」


 自らの相棒の姿がここにないのを残念に思いつつ、一応まだきちんと気を失っているのかを調べていく。

 もしも既に意識を取り戻しており、隙を狙っていると困るからだ。

 ただし、警備兵を呼んでくる手間を考えると、いっそ意識を取り戻させてから自分の意思で立ち去って貰った方がいいかもしれない。そんな風にも思ってしまう。


(まぁ、さすがにそんな真似な出来ないけどな)


 自分を狙ってきた相手を無罪放免という真似をすれば、恐らくまた襲撃されるだろう。寧ろ、一度襲って返り討ちにあっても生かして帰して貰えるということで、再度襲撃してくる可能性が高い。


(それを考えれば、やっぱりここで息の根を止めるってのが手っ取り早いのは事実なんだろうが……)


 気が進まない。そんな様子で呟きつつ、何かを期待するかのように空を見上げる。

 そこにあるのは、既に秋になっているにも関わらず雲一つない青空。まるで真夏の天気であるかのようなその光景に、何故か笑みが浮かぶ。

 そんな小さいことで迷っている自分を、太陽がからかっているかのように感じられたからだ。


「そうだな。取りあえず警備隊に行って、戻ってきた時にまだこいつらがいたらそのまま引き渡せばいいか」


 結局は最初の選択に戻り、早速警備隊の詰め所へと向かおうと考えたところで、ふと物凄い勢いで近づいてくる気配を感じ取る。

 明らかにその辺の人物が放つ気配とは一味も二味も違うその気配の持ち主は、真っ直ぐレイのいる行き止まりの路地裏へと向かってきていた。


「保護者の登場か?」


 そんな風に考えつつも、デスサイズを構えて気配が近づいてくるのを待ち受けると……やがて視線の先に2人の人影が姿を現す。

 その人影に、どこか見覚えのあったレイは数秒悩み……少し前に食べた串焼きを売っていた屋台の店主と店員であることに気が付く。


「確か、屋台の……?」


 思わずといったように呟く声が、ムーラとシストイ、そしてレイの3人がいる路地裏へと響き渡った。

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