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レジェンド  作者: 神無月 紅
闘技大会
628/3865

0628話

 秋晴れの日差しが降り注ぐ中、レイの姿は帝都の街中にあった。

 以前、モーストから聞かされたマジックアイテムを売っている店では結局何も買うことが出来なかった為に、今回こそはという意味も込めての街の散策。

 闘技場で行われている試合の方にも興味はあったのだが、何か一つだけに意識を集中しすぎると寧ろ正解に目が行かないぞというエルクからの忠告に従った結果だ。 

 それさえなければ恐らく闘技場で他の試合を見ているか、あるいは自分がより強くなる為の訓練に当てていただろう。

 もっとも、以前から何度か訓練する場所として使ってきた場所は今は使うことが出来ない。

 二度も刺客に襲われているというのも理由だが、やはり最大の理由は二度目の襲撃の方だろう。


(警備兵に見つかったのが痛かったな。結局月光の弓とかいう奴等についての情報も殆ど教えて貰えなかったし、あの場所も色々と調べることがあるからって理由で、訓練する場所として使うことも出来なくなったし)


 そこまで考え、再び自らの思考が戦いに寄っているのを理解して小さく首を横に振る。

 レイも理解しているのだ。一つのことに集中する……いや、しすぎると視野が狭くなり、結果的に下らないミスをするだろうということは。

 それを理解しているからこそ、エルクの忠告に従って今日は休息日ということにして、街中を散策しているのだから。

 ……休息日の割に、戦闘を含めて実用的に使えるマジックアイテムを探している辺り、色々とずれているところがあるのだが……本人は全く気が付いた様子もない。


「人が少ないって割には、何だかんだと結構多いよな」


 街中を歩いている者達を見て呟くレイ。

 確かに人の数はレイが帝都にやってきた時に比べると大分少なくなっている。人混みで道を進めないということがないのだから、それは明らかだろう。 

 だが、それでも普段のギルムに比べるとまだ人の数は多かった。

 もっとも、ベスティア帝国中から人が集まっているのだから、当然だが。


(やっぱりセトを連れて来なくて正解だったな。……可哀相だったけど)


 もしセトを連れて街中を歩いていれば、間違いなく余計な騒動を引き起こしただろう。

 それが、グリフォンであるセトを怖がってのものなのか、あるいはレイを狙ってくるものなのか……はたまた全く別の何かなのかは分からないが。


「ただ、取りあえず……そうだな」


 呟き、近くにあった屋台に視線を向けて立ち止まる。

 焼きたての香ばしいパンの香りに空腹を刺激され、腹の虫が自己主張した為だ。


「お、いらっしゃい。坊主……いや、嬢ちゃんか? まぁ、いいや。どれにする?」


 ドラゴンローブのフードを被っているレイが男か女か一瞬迷った店主に対し、特に訂正する様子もなくチーズとファングボアの焼き肉や葉野菜がたっぷりと入っているサンドイッチを注文する。

 軽食として食べるのではなく、きちんとした食事として食べても十分に満足出来る程のボリュームを持つそのサンドイッチへと齧りつく。

 黒パン独特の微かな酸味がまず感じられ、続いて香ばしく焼き上げられたファングボアの肉汁と濃厚なチーズの味が口一杯に広がる。続いて葉野菜のシャキシャキとした食感でファングボアやチーズの濃い味をぬぐいさる。


「……美味い」

「そりゃそうだろ。うちはこの帝都で長年店を出してるんだから。それより、お前さんは闘技大会を見に行かなくてもいいのか?」


 店主の口から出てきた言葉に、一瞬自分の正体が見抜かれたのかと思ったレイだったが、店主は特に変わった様子は見せない。

 それ故に、恐らく自分を闘技大会を見学に来たお上りさんと判断したのだろうと、ほっと安堵の息を吐く。


「今日は目当ての試合がないからな。……それよりちょっと聞きたいんだけど、マジックアイテムを売ってるような店を知らないか?」

「マジックアイテム? ああ、何だ。お前さん冒険者か。……にしても、マジックアイテムねぇ。この時期になると、帝都には人が集まるからな。それを目当てにして商人達も集まるから、そういうのはマジックアイテムとかの仕入れをしていく奴も多いんだよ。ほら、帝都はここ数年くらいで急にマジックアイテムの流通量が増えただろ?」

「……なるほど」


 正確には錬金術が発展した結果マジックアイテムが増えたというのが正しいのだが、店主はそれを知っているのかいないのか、どこか曖昧な様子で言葉を続ける。


「ただ、そうだな。まだ在庫があるかどうかは分からないけど、そこの通路を奥に向かって三番目の角を曲がって、少し進んだ場所に一軒マジックアイテムを取り扱っている店があるぞ。ただ色々と気難しい爺さんがやってる店だから、気に入られないと売ってくれないと思うが。……まぁ、だからこそこの時期にも関わらず、まだ売り切れていないんだけどな」

「へぇ。……情報感謝するよ。ついでにこれと同じサンドイッチをもう5個程くれ」


 情報料というだけではなく、純粋に美味いからという理由でサンドイッチを買い求め、ミスティリングの中に収納してからレイは教えられた店へと向かうのだった。






「ここか。……見た目は普通の店だけど」


 屋台の店主に教えて貰った通りに進むと、やがてそこには一軒の店が存在していた。

 店の作りに関してはよくあるものであり、気難しいと言われた人物がやっているようには見えない佇まいだ。


(店の作りと商人の性格が関係していないというのは普通に有り得るけどな)


 寧ろ前回モーストに紹介された店のように、扉を開けようとした瞬間に中から突き破って人が飛んでくるといった事態になる方が珍しいのだろう。

 そんな風に思いつつ扉を開け、店の中へと入っていく。


「へぇ」


 思わず呟くレイ。

 店の中が涼しかったからだ。

 マジックアイテムを売っているだけあって、これまでレイが幾度となく宿でその恩恵に与ってきた冷房のマジックアイテムが店の中で動いていた。

 マジックアイテムを売っている店であると考えれば当然かもしれないが、それでもこれまでは殆ど使われているところを見たことがなかった為に、レイは驚きの声を上げる。

 同時に周囲を見回すと、そこにあるのは大量のガラクタにも思える無数の道具類。

 一瞬これが全てマジックアイテムかとも思ったレイだったが、すぐにそれが何の価値もないただの道具、あるいはよく出来た模造品の類であると気が付く。


「……誰じゃ?」


 店の奥、模造品の積み重なっている方から聞こえてきた声に、そちらへと視線を向ける。

 すると頭は禿げているものの、腰は全く曲がっていない老人がキビキビとした動きで姿を現す。

 手に杖を持ってはいるが、その歩む速度や姿勢は決して杖がなければ歩けない覚束ないものではない。


(恐らく何らかのマジックアイテム)


 魔法発動体という意味ではなく、何らかの特殊な効果があるマジックアイテムなのだろうと判断したレイは、老人に向かって口を開く。


「ここでマジックアイテムを取り扱っていると、サンドイッチを売っていた屋台の店主から聞いてきたんだが……少し見せて貰いたい」


 その言葉に、老人はジロリとレイに視線を向け……だが、次の瞬間には大きく目を見開く。


「お主、そのローブは……」


 老人の口から出た言葉に、小さく驚くレイ。

 以前にもマジックアイテムを売っている店に行った時に、ドラゴンローブを見破られた。だが、まさかここでも同じように見破られるとは思わなかったのだ。


(隠蔽の効果が薄れてきていたりしないだろうな?)


 さすがにそんなことはないと思いつつ、疑ってしまうのはしょうがないだろう。

 じっくりとドラゴンローブを観察し終えると、老人は溜息を吐いてから口を開く。


「お主、それ程のマジックアイテムを持っていながら儂の店に何の用じゃ? ここにはお主が着ているそのローブに比べると、足下にも及ばないようなマジックアイテムしかありゃせんぞ」

「分かっている。確かにこのドラゴンローブは色々な意味で特別だからな。ただ、俺は実用的に使えるマジックアイテムの収集って趣味があるんだ。それでここに来た訳だが……」


 レイの口から出た言葉に……特に実用的という部分に対して、老人は小さく目を見開く。

 この老人はこの帝都で老人の祖父、あるいは曾祖父といった代からマジックアイテム屋を営んできた一族の者だ。

 だがここ十年程の間に帝都では一気に錬金術が発達し、その結果ここ数年でマジックアイテムも大量に出回ることになっていた。

 勿論それはいいのだ。別に自分だけがマジックアイテムを売らなければならないと思っている訳ではないのだから。

 しかし、錬金術が発達した結果マジックアイテムを芸術品の如く扱う者が増えており、それが老人にとっては非常に面白くなかった。主義に反すると言ってもいいだろう。

 それ故に、貴族に対しても殆どマジックアイテムを売ることがなく、偏屈な性格であると言われるようになっていた。

 そんな老人の前に現れたのが、実用的に使えるマジックアイテムを欲しているレイだった。

 この場合、見事に老人とレイの趣味が一致したと言ってもいいだろう。


「……なるほど。ちょっと待っておれ。少し前に手に入った面白いマジックアイテムを見せてやろう」


 そう告げ、店の奥へと去って行く老人。

 レイは期待をもってその背を見送り、改めて店の中を見回す。


(模造品とはいっても、それなりにレベルの高い品が揃っていると思うんだけどな)

 

 例えば、入り口の近くへと無造作に置かれているハルバード。

 確かにマジックアイテムではないのかもしれないが、普通の武器として見る分には十分以上の品に見える。その辺のランクの低い冒険者には勿体ない程のだ。


(ああいうのを無造作に置いていると、盗まれる心配とかした方がいいんじゃないか?)


 そんな風に考えていると、やがて老人が店の奥から戻ってきた。 

 その手にあるのは、矢筒。

 老人の言動から考えて間違いなくマジックアイテムではあるのだろうが、それでも弓を使う訳でもないレイにとってはあまり意味のない代物だ。

 だが、老人はそんなレイの様子に気が付きもせず……あるいは気が付いても意図的に無視したのか、手に持った矢筒を近くの台の上に乗せる。


「この矢筒は使用者の魔力を使って矢を生み出すという能力を持っている」

「……何?」


 老人に対して断ろうとしたレイだったが、その口から出てきた説明は非常に興味深いものがあった。

 それ故に思わずといった様子で尋ね返す。

 そのレイの表情が余程面白かったのだろう。老人はしてやったりといったような、ニヤリとした笑みを浮かべて説明を続ける。


「つまり、この矢筒を持っておれば弓を使う上での最大の欠点でもある矢が不足するということはなくなる訳じゃ」

「それが本当だとしたら、確かに物凄いマジックアイテムだな。弓術士にとっては垂涎ものだろ」

「うむ。じゃが、当然それ程の性能を何の制約もなく使える訳ではない。幾つかの欠点もある」

「……だろうな。でなきゃ、幾ら何でも有り得なさすぎる」


 永遠に矢を生み出せるという矢筒。それは、考えようによってはレイの着ているドラゴンローブと肩を並べる程のマジックアイテムだと言えるだろう。

 だが、そうはさせないようにしているのが、老人の口にする欠点だった。


「まず、魔力によって矢は作り出せるが、その矢自体は数分程度で自動的に消滅する。また、魔力で矢を形成している以上は矢を生み出した者しかその矢を使うことは出来ない。もしお主が矢を生み出して他の誰かに渡したりすれば、それこそ数秒で消えてしまうじゃろうな」

「……また、使いにくいのか使いやすいのか、色んな意味で微妙なところだな」


 矢を無尽蔵に生み出せるという機能は物凄く魅力的ではあるが、それを自分しか使えないというのは致命的なまでに使い勝手が悪い。

 これが、もし他の人物に矢を使わせることが出来るというのなら、レイとしてもまだ使いようがあったのだが……


「見て分からないかもしれないが、俺は弓を使う訳じゃない。確かにこのマジックアイテムは弓を使う者にとっては理想的な代物だろうが……」


 そこまで告げ、ふとこんなマジックアイテムがあるのならもしかしてと思いつき、口を開く。


「矢以外のものを魔力で作り出す……というのはないのか?」

「ふむ、具体的には何をじゃ?」

「槍だ」

「……お主、儂の話を聞いておったのか? 魔力で作り出したものは数分で消滅する。じゃというのに、槍を作っても戦闘で使っている途中でなくなってしまっては、自らを危機に陥れるだけじゃぞ?」


 老人の言っていることは至極当然の内容だろう。だがそれは、あくまでも槍を普通の武器として使おうとしている者の場合のみの出来事だ。


「安心してくれ……って言うのもちょっとおかしいが、俺が槍を使うのは投擲用の武器としてだ」

「……槍を投げる、のか? その小さな身体で? いや、お主の腕力を考えれば不思議ではないか」


 その言葉で、レイは目の前の老人が自分を深紅というのを理解していると知る。

 それでも特に変わった様子を見せないのは、人生経験の豊富さ故か。


「そうじゃな……うむ、分かった。そのようなマジックアイテムがあるかどうかは分からんが、こちらでも少し探してみよう。また数日くらい経ったら来るといい」


 恐らく当てがある訳ではないのだろう。だが、それでも探してくれるという老人に、レイは感謝の意を込めて頭を下げる。


「ある程度までなら金に糸目はつけないから、出来れば見つけてくれ」


 それだけを告げると、老人に急かされるようにして店を出るのだった。

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