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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市エグジル
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0479話

 一瞬で自分達を追ってきた30匹以上のスケルトンが炭と化し、あるいは風の刃で切断されたのを見て、呆然とした表情を浮かべる4人の冒険者。

 そんな4人へと向かい、レイとエレーナは近づき、声を掛ける。


「大丈夫だったか?」

「あっ、ああ。……じゃなくて! ここでじっとしているよりも逃げないと! あんたらも俺達を助けてくれたのは感謝するが、さっさとここから離れた方がいい! 奴が……奴が来る!」


 レイの言葉にようやく我に返った男が、血相を変えて自分達が逃げ出してきた通路の方を見て叫ぶ。

 その表情に浮かんでいるのは恐怖と絶望。

 地下16階まで到着した、ある程度以上の実力ある冒険者とは思えない程に切羽詰まった表情だ。

 恐怖と絶望を浮かべたまま、自らの仲間へと視線を向ける。

 肩から先の右腕を失った女戦士と、それをフォローすべく腰のポーチからポーションを取り出している男。

 レイへと向かって逃げた方がいいと言った、槍を持った男がポーションを取り出している男の様子を見て、慌てて口を開く。


「ゴート、ティービアの様子は!?」

「ぐっ、ぐぅ……大丈夫よ。今はとにかく奴から少しでも距離を……」

「駄目です。手持ちのポーションでは血止めするので精一杯です。なるべく早くダンジョンを出てしっかりとした場所で治療しないと。せめて上級のポーションが入っているリュックがあれば……」


 ゴートと呼ばれた男が青ざめた顔で首を横に振る。

 それを見ていた、最後の1人。長剣を持っている盗賊風の男が、自分達が逃げて来た通路の方を警戒しながら口を開く。


「確かにな。だが、あそこでポーターのお前が荷物を捨てて奴等を少しでも足止めしていなければ、俺達は今頃あの化け物の……ちぃっ、来たぞ!」


 盗賊の男の叫びと共に、カシャ、カシャ、カシャ、という音が周囲に響き、そのモンスターは姿を現す。

 身体が骨で構成されているのを見れば、間違いなくアンデッドの中でもスケルトン系統のモンスターなのだろう。

 だが、見た瞬間にそのスケルトンが他のスケルトンと違うというのは、レイやエレーナ、セトにも理解出来た。

 何しろ、普通のスケルトンは腕が左右2本ずつの2対、合計4本もない。身体の大きさも3m近くはない。更に言えば、頭蓋骨の目の部分に緑色の炎が揺れており、憎悪を滲ませていたりもしない。

 更に言えば、その異形のスケルトンは4本の腕全てに湾曲した剣、いわゆるシミターと呼ばれる剣を持っていた。


「……また、随分と珍しいスケルトンだな。ここにはこんな奴も出るのか?」


 呟くレイの言葉を聞き咎めたのか、槍を持っていた男が冗談では無いとばかりに叫ぶ。


「いる筈ないだろ! ちょっと戦ってみたけど、間違いなく奴はランクBモンスターくらいの力を持っている。それに……」

「それに?」


 途中で言葉を切り、言い淀む槍の男の視線が向けられているのは、異形のスケルトンが立っている場所。より正確には、その足下に転がっている元スケルトンの残骸だ。

 レイの魔法で炭と化した骨の残骸、あるいはエレーナの魔法で切断された骨といった代物が。

 それがどうした? そんな風に思っていたレイだったが……


「ゴオオオオオォォオオ!」


 地の底から聞こえてくるような雄叫びを異形のスケルトンが上げた瞬間、その身体から白い霧のようなものが吐き出され、やがてその霧は数十程の人型に集まった次の瞬間、まるでそこにいるのが当然のように数十のスケルトンが姿を現していた。


「……おい、さすがにこれは……」

「あれがさっきあんた達が倒したスケルトンの正体だよ。しかも最悪なことにああやって作られたスケルトンは倒しても魔石とかも一切落とさない相手だ。唯一の救いとしては、普通のスケルトンよりも大分弱いってことだが、それにしたってあれだけの数がいれば多少の強さの差は問題にならない」

「さすがに無限にスケルトンの生成が出来るとは思えないが、それでも厄介なことこの上ないな。……なるほど」


 そこまで呟き、異形のスケルトンの右上腕が持っていたシミターの剣先をレイ達の方へと向け、同時にそちらへとスケルトンの軍勢が1歩を踏み出す。


「とにかく、あんな化け物と戦っていられるか。今はとにかく逃げないと! お前達はどうする!?」


 槍を持った男は、既に魔法陣のある小部屋へと向かう通路へと1歩を踏み出しながら叫ぶ。

 当然レイ達も自分達と一緒に逃げるだろう。そんな思いから口にした言葉だったが、帰ってきた言葉は完全に予想外のものだった。


「逃げる? ここでか? まぁ、確かに普通ならそうするんだろうが……生憎あのモンスターに心当たりがありすぎてな」


 デスサイズを構えつつそう告げるレイに、エレーナもまた小さく笑みを浮かべつつ連接剣を構える。

 そう、レイには目の前に存在している異形のスケルトンの正体に心当たりがあった。前日に地下15階でシルワ家の冒険者からこの近くで異常種と思われるモンスターを見たという話や、異常種を作り出していると思われる者達の目撃証言があると言っていたのだから。

 つまり……


「スケルトンの異常種、か」


 レイの口から出た言葉に、少しでも早くこの場を離れようとしていたパーティの動きが止まる。

 どうやらその可能性には気が付いていなかったらしい。

 あるいは、遭遇していきなりパーティメンバーのティービアがシミターによって右肩から先を切断されたというのも、異常種という存在に気が付かなかった理由の1つだろう。


「あれが、異常種だってのか……?」

「なるほど、確かにこの階層にいる筈の無いモンスターである以上、そう考えるのが自然か」


 槍を持っている男が呆然と呟き、盗賊の男が納得したように頷く。

 そんな2人と、片腕を失ったティービアへとポーションを与えているゴートへと視線を向けながら、エレーナが口を開く。


「その者の傷は早く手当てをした方がいいだろう。ここは私達に任せて行け」

「……いや、残ってお前達に協力しよう」

「おいっ、ナクト!? お前一体何を考えてるんだよ! 今更俺達がここに残ったって、足を引っ張るだけだろ!?」

「そっちこそ冷静に考えろ、エセテュス。ここから俺達だけが逃げ出したとしても、無事に魔法陣のある小部屋まで辿り着けると思っているのか? ティービアが怪我をして戦力にならない以上、ゴートはポーターだし、俺はある程度戦力になるとはいっても結局は盗賊だ。それを思えば、純粋な戦力はお前1人。そんな状態で、複数のアンデッドが現れたら……分かるだろ?」


 間違いなく全滅する。そう言外に匂わせるナクトの言葉に、エセテュスは反射的に何かを言い返そうとして唇を噛む。

 分かっているのだ。自分達のパーティの中で最強の戦力とも言えるティービアが片腕を失って戦力にならない以上、自分が主戦力にならざるを得ず、更にティービアを庇いながら戦闘をしなければいけない。そうなれば途中で複数のアンデッドと戦えば全滅する可能性が高いというのは。

 だが、それでもエセテュスは自分達の方へと向かってきているスケルトンの集団を生み出す異常種と戦うよりは、生き残れる可能性が高いと思っていた。


「落ち着け、混乱するな。……見ろ、あいつらを」


 エセテュスを落ち着かせるように静かに告げたナクトは、視線をスケルトンの集団へと向ける。

 そこで行われていたのは、一方的な蹂躙。

 炎が一瞬にして燃え広がって複数のスケルトンを炭へと変えたかと思えば、次の瞬間には鞭状になった連接剣が空を駆け抜けて複数のスケルトンを切り刻む。そしてグリフォンの前足の一撃は、軽く殴っているようにも見えるのに数匹のスケルトンを纏めて吹き飛ばし、壁や床、あるいは仲間のスケルトンへとぶつかって骨が砕け散る。

 自分達が苦戦した数で攻めてくるスケルトンを相手に、まるで野原でも歩くかのように……否、山道を歩いて邪魔な枝を切り取るかのようにスケルトンを処分していく。

 最初は遠距離から炎を放っていたレイも、今はエセテュスが初めて見るような巨大な鎌で薙ぎ払うようにして切断し、砕き、破壊している。


「う、嘘だろ……」

「現実だ。そして、あいつ等と一緒なら俺達も無事にダンジョンから脱出できる可能性が高い」

「けど、足を引っ張るのは……」


 ナクトの言葉に、エセテュスは尚も言い募ろうとする。

 だが、そんなエセテュスへと向かい、ナクトは強引に肩を掴む。


「いい加減にしろよ。お前があの異常種とかいうのを怖がっているのは分かる。だが、お前の我が儘で皆を危険に晒す気か? それも、右腕を失ったティービアも含めてだ」

「ぐっ……」


 ナクトの視線に心を貫かれたかのように動きを止めるエセテュス。だが数秒の沈黙の後、やがて不承不承ながら頷く。


「分かったよ。……確かに俺達だけでダンジョンを脱出するのは難しいだろうしな。けど、奴等が俺達と一緒に行動してくれるか? 魔法陣まで戻るんじゃなくて、先に進むって言ったらどうするんだよ」

「……その時は、あたしが何とか説得してみせるよ。報酬として渡せるような物は殆どないけど、最悪あたしの身体を与えてでも……まぁ、こんな片腕が無くなった女でもよければ、だけどね」


 ポーションとゴートの持っていた布で傷口を縛って応急処置を終えたティービアが、そう口を挟む。

 確かに今のティービアは汗と血と泥で汚れてはいるが、それでもきちんと身だしなみを整えればそれなりに美形と言っても間違いないというのは、その場にいる全員が知っていた。

 事実、ティービアへ一方的に片思いしたあげく、何を誤解したのかエセテュスへと決闘を挑んできたような者もいたのだから。

 ティービアとしても、それらの経験から自分がそれなりに見られる程度には顔立ちが整っていると知っているからこその言葉だった。

 だが……


「やめておいた方がいい。それは寧ろ逆効果だろうな」


 そう呟くナクトの視線が向けられているのは、数匹のスケルトンを纏めて鞭状になった連接剣で切断しているエレーナの姿。

 ナクトの視線を追ったティービアは、女としての本能でナクトの言葉の意味を理解する。


「そうね。でも、それだとどうするの? 一緒に魔法陣に戻って下さいってお願いしても、報酬が無いなら引き受けてくれるかどうかは分からないわよ?」

「……そうだな。お前の腕にしても、早いところきちんと手当しないといけないだろうし。出来るだけ早い方がいいのは事実か」


 ティービアは表情には出していないが、それでも片腕を切断されたのだ。痛みが無い訳がない。

 その証拠に額からは脂汗が滲んでおり、痛みを痩せ我慢しているのは明らかだ。

 それが分かる為、3人は自らの力の無さを歯がゆく思う気持ちは強い。

 特にゴートはどうしようもなかったとは言っても、逃げ出す時にポーターとしての自らの商売の種でもあるリュックを落としてきたのは痛恨の極みだった。


(あの中には上級のポーションもあったのに……)


 そして、ここに残ってレイやエレーナに協力すると口にしたにも関わらず、実力の違いを目の前で見せつけられて自分達が手を出す隙も見いだせないエセテュスとナクトもそう大差は無い。


「飛斬っ!」


 そんな声が聞こえ、レイの持つ巨大な鎌から放たれた斬撃が数匹のスケルトンの胴体を真っ二つに斬り裂きながらあらぬ方向へと飛んでいく。


「炎以外に風の魔法も使えるのか……」


 エセテュスの呆然とした言葉と視線の先では、レイと異常種のスケルトンとの道を阻む敵の姿が消え、その間合いを詰めるべくレイが石畳を蹴っていた。






 目の前にいたスケルトン――正確には魔石を持っていないのでスケルトンもどきとも呼ぶべき存在――を一蹴したレイは、そのままデスサイズを振りかぶりながら異常種との間合いを詰めていく。

 自分の盾ともなるべきスケルトンもどきがいなくなったのを見た異常種は、頭蓋骨の中で緑の目を憎悪に燃やしながら再びその身体から霧のようなものを出してスケルトンもどきを作り出そうとした。

 それを防ぐべく振るわれたデスサイズの刃を、異常種はスケルトンとは思えぬ程に俊敏な動きで後方へと跳躍して回避し、4本の腕で持った4本のシミターの切っ先をレイへと向ける。


「……へぇ。分かってはいたが、スケルトンにしては随分と芸達者だな」


 ニヤリとした笑みを口元に浮かべ、そのまま一瞬だけ周囲へと視線を向ける。

 既にエレーナとセトの手で異常種の生み出したスケルトンもどきはその大半が消滅しており、大勢がレイ達に傾くのは時間の問題だった。

 だが……


「ゴオオオォォォオオォォ!」


 それは認められぬと吠え、異常種は緑に光る目を生ある者に対する憎悪で燃やしつつ、シミターを振りかぶってレイへと襲い掛かっていく。

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