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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市エグジル
468/3865

0468話

 オアシスから吹き飛ばされ、地上に打ち上げられたブラッディー・ダイルの死体を回収し、あるいはまだ生きている相手にはデスサイズを振り下ろしながらその死体を回収し続け、約30分程。

 回収した死体の数が20匹を超えた頃、ようやくオアシスの水面に静けさが戻る。


「終わったらしいな。……さて、どっちが勝ったと思う?」


 デスサイズを構えながら尋ねるレイに、エレーナもまた連接剣を手に口を開く。


「当然アースクラブだろう。あの甲殻の固さは相当なものがあった。それは飛斬を使ったレイが一番よく分かっているのではないか?」

「グルルゥ」


 エレーナの言葉にセトも同感、と喉を鳴らす。


「やっぱりそう思うか。あいつが相手でも戦って倒せないわけじゃないだろうが、それでも防御力が高い相手とは……ちぃっ!」


 エレーナと話している途中、オアシスの中から自分に向けられた殺気に気がついたレイが反射的に魔力を通したデスサイズを振るう。

 瞬間、オアシスから放たれた一筋のレーザーのようなものがデスサイズの刃によって正面から切り裂かれた。

 放たれた攻撃の速度を思えば、自分に飛んできた矢を斬り捨てるよりも数段難易度の高い一連の動作だったが、レイ本人は特に気にした様子も無く視線をオアシスへと向けてスキルを発動する。


「マジックシールド!」


 その言葉と共に光の盾が生み出された。

 攻撃を1度だけ防ぐ、レイの防御の切り札。

 それを発動しながらオアシスの方を警戒しつつ、先程の一撃で頬についた何かを拭う。


「……水?」


 そう、それは水だった。何の変哲も無い、ただの水。

 恐らくはオアシスのものだろうその水を眺めていたレイだったが、瞬間的に先程の攻撃の正体を理解する。

 いわゆる、ウォータージェットと同じように圧縮された水を使った攻撃だと。

 そして、同時に先程からオアシスで上がっていた水柱の原因もこれなのだろうと。


「ちっ、名前がアースクラブとかいう割には、随分と水中戦が得意なようだな」


 舌打ちをして呟くが、水という鎧を手にしたアースクラブがそう簡単にオアシスの中から出てくる筈が無い。

 そう思った次の瞬間、レイは予想外の光景を目にした驚愕に見開かれる。

 本来であれば絶対的に有利であった筈の水中に陣取っていたアースクラブがオアシスから出てきたのだ。

 オアシスの水を割るようにして姿を現したその巨大なカニ型のモンスターを見て、レイだけではなくエレーナやセトにも何故出てきたのかが理解出来なかった。

 勿論アースクラブにしても、自分が絶対的に有利な場所で戦えるのならそうしたかっただろう。だが、先程の水のレーザーの如きウォータージェットを放つには相応の魔力を消費する。

 そして、水中での戦いの中でブラッディー・ダイル相手に使いすぎた為、アースクラブには魔力が殆ど残っていなかった。

 基本的には間合いの近い戦いを得意とするアースクラブには、遠距離攻撃する手段はウォータージェットしか存在していない。その為、魔力が尽きた以上は直接攻撃するという手段を取らざるを得ない。

 もっとも、最善の選択肢は水中に身を潜めて魔力の回復を待ちながらレイ達をやり過ごすことなのだが、それは幾つかの理由から出来なかった。

 まず最大の理由として、オアシスの中にはまだ他にも色々なモンスターが生息していることが上げられるだろう。

 ブラッディー・ダイルにしても全てを倒した訳では無く、このまま水中へと身を潜めていれば魔力を回復するのを待つどころか、襲撃を受け続けることによって自分がダメージを受けることになる可能性が高い。

 そして何よりも、アースクラブとしては自分のハサミの甲殻を破壊した小癪な人間2人をそのままにしておくというのが我慢が出来なかった。

 自分に比べて絶対的な強者でもあるグリフォンのセトがいるというのを理解はしていたが、それでも自分ならどうとでも出来る。そう判断しているのが戦闘力とは裏腹にランクCの下位に分類されている理由なのだろう。


「シャアアアァァァァアァアァァアァァッ!」


 自慢のハサミで叩き潰し、あるいは切断してやるとばかりにオアシスから出てきたアースクラブは、牙の生えている口から威嚇するような声を放つ。

 カニのモンスターであるにも関わらず、横では無く真っ直ぐに前へ、レイ達のいる方へと襲いかかってくるその様子は、多関節の尾があることもあってカニよりはサソリに近い印象をレイ達へと与える。


「さて、カニが怒って真っ赤になっているぞ」

「それは元からだろう。熱を加えられている訳でも無いのに、器用な奴だ」

「グルルゥ」


 熱を加えたら美味しくなる? とでも言いたげに喉を鳴らすセト。

 そんな風にふざけたように話しつつも、アースクラブが何をしてきても瞬時に対応出来るように準備を整える。


「シャアアッ!」


 まず最初に動いたのは、アースクラブ。牙の生えている口から勢いよく泡を吐き出す。

 セトの放つファイアーブレスのように放たれるその攻撃は、バブルブレスとでも言うべき攻撃方法だろうか。

 放たれたその泡は直接的な攻撃力は無いとレイは判断するが、それでも出してきた攻撃をわざわざ食らう必要も無いとばかりに放たれた泡から逃れるようにマジックシールドを引き連れたまま右へと跳ぶ。

 同時にエレーナは左に跳び、セトは数歩の助走の後に翼を羽ばたきながら上空へと逃れた。

 視線の先でエレーナが連接剣を鞭状にして振るおうとしているのを見て、そしてセトが上空からの一撃を叩き込むべく落下してきているのを感じ取ったレイは、前衛をセトに、中衛をエレーナに任せつつ、自らは前に出ず後方からの援護を行うべく大きく後方へと跳び退る。

 その際に数秒前に放たれたバブルブレスの命中した場所へと視線を向けると、そこではオアシスの近くに生えていた木へと命中したバブルブレスが粘着力の強い液体へと変化して木の幹や枝から地面に垂れ下がっていた。

 それを見たレイは、アースクラブと戦っているエレーナとセトへと向かい咄嗟に叫ぶ。


「気をつけろ! さっきのバブルブレスに触れると動きを絡め取られるぞ!」


 叫びつつ、確かに上手い手だと判断する。敵の動きを封じ込めて身動きを出来なくすれば、アースクラブが得意としている強力無比なハサミの一撃を叩き込むのは難しく無いだろう。その一撃が打撃か、あるいは切断かはともかくとして。


(なら……目には目をってな)


 内心で呟き、ミスティリングから目的のものを取り出す。

 そんなレイの視線の先では、エレーナの振るう連接剣が先の戦闘で甲殻が傷ついていたハサミを切断することに成功する。


「グルルルゥッ!」


 叫ぶと同時にセトの姿が空中に溶けるように消え去る。

 勿論その場から転移した訳では無い。セトの持つスキルの1つ、光学迷彩を使用したのだ。

 一番近くにいるという理由で振るわれたアースクラブの多関節になっている尾が、素早い動きで一瞬前までセトの存在していた空間を貫くが、セトの身体に触れることも出来ずただ空振りするだけに終わる。

 透明になったセトが同じ場所にじっとしている筈も無く、次の瞬間にはアースクラブの背後に回ったセトの前足の一撃によって背中の甲羅を強打し、アースクラブの自信の源とも言える背中の甲羅へと鋭い傷を付ける。


「シャアアァア!?」


 甲羅に傷を付けられたというのが分かったのだろう。どこか慌てたように叫びつつ、背後にいるだろうセトへと向かって尾を遮二無二振るうが、当然姿を消しているセトの姿は既に背後から消えていた。

 次に攻撃されたのは、左側の中足。さすがにそこは甲羅程の頑強さはないらしく、セトの一撃によりあっさりと吹き飛ばされる。

 地面へと吹き飛ばされて転がる足を見つつも、エレーナの振るう連接剣も動きを止めない。

 透明になっているセトがアースクラブの周囲を翻弄するように動き回りながら攻撃しているにも関わらず、全く躊躇せずに鞭状となった連接剣を振るう。

 右手に生えているハサミの1本を既に連接剣によって切断されている以上、残るもう1本のハサミも出来れば切断するべく連接剣を振るうエレーナだったが、アースクラブにしても自分の最大の武器をそう簡単に切断させる訳にもいかずにそちらへと意識を集中し……次の瞬間には再び背後から透明になったセトの一撃により、甲羅へと深い傷が付けられる。

 だが、光学迷彩の効果はあくまでも短時間でしかない。

 レベルが2に上がったが、それでも効果時間は20秒程度でしかなく、次の瞬間にはセトの姿が再び現れ……


「グルルルルゥッ!」


 最後の仕上げとばかりに前足を振るい、セトの持っているスキルの中でも最もレベルの高い毒の爪を発動しながら甲羅へと傷を付ける。


「セト、離れろ!」


 毒の爪を使用したセトへと叫ぶレイ。

 その手に持たれているのは、穂先も柄も石突きも、全てが深緑に染められた槍。

 手に持っている槍へと魔力を込めながら、レイの一声だけで全てを承知しているとでも言いたげにアースクラブから距離を取るセト。中距離から連接剣による攻撃に専念していたエレーナもまた、念の為とばかりに距離を取る。


「はああぁぁぁあっ!」


 それを確認した瞬間、レイは手に持っていた茨の槍を投擲する。

 緑の閃光と化したかのように放たれた槍は空気を切り裂き、あるいは穿ちながら標的へと向かう。

 その速度は、アースクラブがオアシスの中から放ったウォータージェットと比べても数段上の速度を発揮し、次の瞬間には甲羅程ではなくても、通常の金属で出来た鎧以上の固さを持つ腹部を貫く。

 そして瞬時に槍の効果が発揮される。

 アースクラブの腹部を貫いた穂先から無数の茨が急激に伸び、体内から溢れ出るようにして身体の外へも伸びた茨は、そのままアースクラブのいたる場所へと絡みついていく。

 ものの数秒で身体中をトゲの付いた茨に絡め取られて身動きの出来なくなったアースクラブ。

 穂先の刺さった部分から茨を発生させ、相手を絡め取って身動きが出来なくする。それが、レイが今放った槍の効果であり、茨の槍という名前が付けられている理由だった。

 身動きを封じ込められたアースクラブだが、レイの攻撃はまだ止まらない。

 茨の槍に続いて取り出したデスサイズへと魔力を集中して呪文を紡ぐ。


『炎よ、汝は炎で作られし存在なり。集え、その炎と共に。大いなる炎の翼を持ちて羽ばたけ!』


 呪文と共に、デスサイズの刃の部分へと炎が生み出され、やがてそれが鳥の形へと姿を変えていく。

 体長1m、翼を広げると3mを超える程まで成長した鳥の姿になった、その時。レイは魔法を発動させる。


『空を征く不死鳥!』


 その言葉と共に、デスサイズを振るうと炎で出来た不死鳥が飛び立ち、そのまま茨の槍に動きを封じ込められているアースクラブへと向かう。

 今回レイがこの魔法を選んだ理由は、単純に不死鳥をレイの思うままにコントロール出来るからだ。

 もしもここで放つ魔法が細かいコントロールが出来ないような撃ちっぱなしの魔法の場合、下手をすればアースクラブへと突き刺さっている茨の槍にも傷を付けてしまう可能性がある。

 使い捨て用に買った槍ならともかく、さすがに茨の槍程に高性能なマジックアイテムをこんな場所で破壊するつもりが無かったが故の選択だった。

 レイのコントロールにより飛び立った炎の不死鳥は、そのまま炎の翼を羽ばたきながらアースクラブへと向かっていく。

 胴体の中心部分に刺さっている茨の槍を回避するように、まず狙うのはアースクラブ最大の武器でもあるハサミ。

 右が1本、左に2本残っているうちの、左へと狙いを定めて不死鳥がまっすぐに飛び……ハサミの根元を炎の翼で焼き切りながらすれ違う。


「シャッ、シャアアアアア!」


 自慢のハサミだけに、炎の魔法で攻撃されようとも耐えきることが出来ると判断していたのか、アースクラブは自らのハサミが2本とも焼き切られたのが信じられないかのように叫ぶ。

 だが、攻撃はそれだけでは終わらない。そのまま空中で方向転換し、次に狙うのは多関節で出来ている尾の部分。そこも同様に翼で焼き切り、そのまま幾度となくアースクラブの周辺を飛び回っては足や残っているハサミを炎の翼で焼き切っていく。

 勿論アースクラブとしても自分に向かってくる不死鳥から逃れようと暴れるのだが、体内に埋め込まれている茨の槍により殆ど身動きが出来ずに為す術も無く残りの足やハサミの全てが焼き切られ……身動きが出来ない状態になったところを近寄ってきたレイにより茨の槍を引き抜かれ、その傷口へと不死鳥が突っ込み、体内からその身を焼かれてアースクラブの命の灯火は焼き消されるのだった。

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