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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市エグジル
435/3865

0435話

「ん!」


 地下11階の砂漠を、魔法陣のある小部屋へと向かって歩いていたレイ達一行。その先頭で周囲の警戒をしていたビューネが唐突に声を上げる。

 自分達と同じ方に向かって進んでいる数人の人影に気がついた為だ。

 ビューネの声で気がついたレイ達もそちらへと視線を向けると、確かにそこには4人組の冒険者が魔法陣のある小部屋へと向かっていた。

 向こうもそれに気がついたのだろう。一瞬だけ警戒するような雰囲気を発したものの、レイの隣を歩いているグリフォンのセトを見て安堵の息を吐く。


(セトを見て安心するってことは、恐らく俺達と同じ異常種を倒す依頼を受けたパーティか)


 他の面々も同じように感じたのだろう、そのままお互いに合流するように近づいていく。


「よう、お疲れ。そっちの首尾はどうだった? 俺達は駄目だ……サンドワームを始めとしたモンスターと何度も遭遇して、その度に戦闘になってな。まぁ、おかげで素材の類はかなり入手出来たし、総合的に見れば間違いなく黒字なんだが」


 大量の荷物を背負っているポーターへと目を向け、槍を持っているリーダー格の男がそう告げて肩を竦める。


「そう言うなよ。結局素材を大量に入手出来たのは事実なんだからな。……まぁ、この階層の素材は俺達がいつも行動している地下20階に比べるとかなり安いが。それに今回の目標はあくまでも異常種だ。基になった種族よりもかなり強いって話だからな。この階層ならともかく、もっと深い階層で異常種に遭遇したら堪ったもんじゃねえ。それなら異常種が出現する仕組みとかを解明した方が後々便利だよ」


 盗賊の男が疲れた笑みを浮かべながらそう呟く。

 槍を持った男を慰める……というのではなく、どちらかと言えば自分自身に言い聞かせている口調だ。


「確かにな。……で、そっちの首尾は?」


 槍を持った男が盗賊の言葉に頷き、視線をレイへと向けて尋ねてくる。

 エグジルで冒険者をやっている以上、ビューネがどんな存在かは知っているし、狂獣と言われる程に好戦的なヴィヘラに比べればレイやエレーナの方がまだ話しやすいと思ったのだろう。

 ……もっとも、レイにしろグリフォンのセトを連れていたり、エレーナもヴィヘラに勝るとも劣らぬ美貌を持つという非常に目立った存在だ。あるいはこの中で最も話しかけやすかったのは、ポーターの男だっただろう。だがポーターの男は、自分が臨時雇いであると理解していたので出しゃばることなく1歩下がった位置にいた。

 それ故に槍を持った男からすれば、まだしもレイが話しやすい相手に感じたのだろう。

 幸いと言うべきか、レイはエグジルに来てからは街中でそれ程絡まれておらず、その容赦の無さもあまり知られてはいない。

 もっとも、代わりに深紅という異名が大げさに伝わってはいるのだが。

 ともあれ、冒険者の男の質問にレイは小さく笑みを浮かべて口を開く。


「ああ、無事に異常種のスピア・フロッグを倒させて貰ったよ」

『マジか!?』


 その瞬間、冒険者の男達の声が同時に響く。

 自分達では倒せなかった……と言うよりも、見つけ出すことすら出来なかった相手を倒したと言われたのだから、驚くのも無理はなかった。


「いや、けど……異常種の死体はどうした? 確かシルワ家が纏めて買い取るんだろう? 素材の一部分だけとかには出来ないだろ。俺達だって倒したらパーティを分けてシルワ家の担当者を呼びに行こうと思ってたけど、お前達はそれで全員だろう?」


 さすがにこのシルワ家が選んでこの依頼を任せたパーティーだけあって、同じく依頼を受けた面々については把握していたらしい。

 もっとも、レイやヴィヘラ達が悪目立ちしているというのも大きな理由の一つだろうが。

 何となく自分達がどんな風に思われているのかを理解しつつも、レイは問題無いと頷く。


「こう見えてもアイテムボックス持ちだからな。体長3m程度のモンスターなら収容するのも難しくは無いさ」

「そう言えば、深紅はアイテムボックス持ちだって噂もあったが……あれは真実だったのか」


 感心したように頷く男を尻目に、そのまま3パーティ合同で砂漠を進んでいく。

 お互いにそれぞれ自分達が倒したモンスターや、今日はモンスター達が襲いかかってくる回数が多かったといった話をしながらだ。

 その中でもレイが驚いたのは、今回の依頼に参加した数組のパーティが地下12階から探索を始めたということだった。

 話を聞いてみれば納得出来たのだが、今回の依頼に参加したパーティが全員地下11階の魔法陣がある小部屋から探索を開始しては、お互いに探索区域が被る場所が出てくる。それを嫌い、地下12階へと降りてからすぐに階段を上って地下11階の探索を始めたパーティもいたらしい。


「まぁ、もっとも昨日異常種に襲われたのは地下11階の小部屋からそう遠くない場所だったらしいからな。だからこそ、こっちから探索を開始した奴が多かったんだし。向こうに回ったのは、ある種の賭けだったんだろうよ。もっとも、それ程分が悪い賭けでも無かったと思うが。何しろ、昨日の襲撃があってから一晩経ってるんだ」

「……確かにあの移動速度なら、それでも不思議は無いか」


 脳裏に、一跳びで10m程の距離を跳躍する異常種の姿が脳裏を過ぎり、レイは思わず頷く。

 その様子が気になったのだろう。槍を持った男は実際に異常種とはどのような相手だったのか、あるいはどのようにして戦闘を進めたのかというのを聞かせて欲しいと尋ねてくる。

 レイにしても異常種の情報を独り占めにしたとしても利益は無いので、戦闘で気がついたことを教えていく。

 例えば、他のスピア・フロッグと違って皮膚に体液を滲みだしてある程度以下の攻撃を無効化するといったものや、ボスクから聞いたように舌が2つに分かれており、別々に動かせる程自由自在に操っていたといった話だ。

 もしも異常種の魔石が吸収できるのだとしたら、情報を秘匿していたかもしれない。だが、レイにとっては異常種の魔石は害にしかならない物である以上、寧ろ異常種に関して積極的に情報を流し、その数を減らしてくれるというのが最も利益になる方法だと判断した。

 一応セトが吸収は出来たが、それとて何らかのデメリットが無いとは言い切れないのだ。


「へぇ、さすがに異常種って言われているだけあって異常だな」

「もっとも、これに関してはあくまでもスピア・フロッグの異常種に関してだ。異常種はその種類ごとに能力も姿も大きく違う。それを思えば、異常種と戦う上でもそれ程役に立つ情報じゃないかもしれないけどな」


 溜息と共に吐かれたその言葉に、槍を持った男は首を小さく左右に振る。


「なんであれ情報が多いに越したことはないさ。特に異常種なんて存在が現れたんだから、どれ程基になった種族と違うかってのは知っておいて損は無い。……にしても、他の異常種って言葉が出てくるとなると……」


 窺うような視線を向けてくる槍の男に、レイは小さく頷く。


「ああ。以前に異常種と戦ったし、ヴィヘラが異常種と戦っている光景を見たこともある」


 チラリ、とつまらなさそうにビューネと共に砂漠を進んでいるヴィヘラへと視線を向けながら告げる。


「運がいいのか、悪いのか。どっちだろうな」

「間違いなく運が悪いだろ。異常種なんて存在とやり合ってるんだから」

「それでも、結局この依頼の成功報酬はお前が手に入れたんだろう? それを考えれば、必ずしも運が悪いとは言えないと思うがな」


 男の言葉に小さく肩を竦めるレイ。


(魔獣術に使う魔石目当てに依頼を受けたのに、肝心の魔獣術に使えないときた。とても運がいいとは言えないな)


 そんな風に話しながら砂漠を進み続けていると、やがて目的地でもあった魔法陣と階段のある小部屋へと到着する。


「あー、着いた着いた。いや、久しぶりの砂漠だったけど、やっぱりキツいわ」

「特にお前の場合はそのでかぶつがあるしな」


 ポール・アックスを持った男の声に、盗賊の男がからかうように告げる。


「へっ、俺の相棒だし、多少の重さくらいはしょうがないさ。……それに、あのレイとかいう深紅の小僧が持っている大鎌に比べれば、場所も取らないしな」


 レイの持っているデスサイズは、大きさや長さはともかく、刃が巨大な分だけ当然持ち歩くのにも多くのスペースを取る。

 普段はミスティリングの中に収納しているのだが、魔力の逆流があって体調が本調子では無いという影響もあり、いざという時に対応出来ないかもしれないということで、現在はデスサイズを出しっ放しにしていた。

 だからこそ、ポール・アックスの男がレイのデスサイズを見てあれよりはマシだと口にしたのだ。


「ほらほら、とにかく今はさっさと地上に戻って依頼完了ってことで報酬貰って酒場にでも繰り出すぞ」

「そうだな、じゃ、行こうか。ほら、そっちも来いよ。どうせなら一緒に戻ろうぜ」

「いいのか? 普通は他のパーティと一緒に転移しないって話を聞いてるんだが」


 槍の男にそう言葉を返すレイだったが、戻ってきた答えは豪快な笑い声だった。


「はっはっはっは。まぁ、確かに気にする奴は気にするが、俺は別にそんなのは気にしないからな。ほら、さっさと行くぞ」

「……おう」


 豪快なのか、考えなしなのか。ともあれ槍の男の態度はレイにとって不愉快なものではなかった。セトの存在に対して驚きはしたものの、過剰に怖がったりはしなかったし、自分のことも見た目で判断されるようなことが無かったからだ。


(いや、ある程度の実力のあるパーティだからこそか? それとも逆にこういう性格だからこそ異常種の討伐依頼を出されるようなパーティにまでなったのか)


 内心でそんな風に考えつつ、エレーナやヴィヘラ、ビューネ、ポーターの男に目配せをして魔法陣を起動し……次の瞬間にはダンジョン前の広場へとその姿は転移していた。


「お疲れさまです、シルワ家の者です。首尾の方はどうでしたか? ああ、これをどうぞ。砂漠帰りで喉が渇いてるでしょう」


 そう告げ、冷たい果実水の入った木のコップを渡す男。

 既に他の者もある程度戻ってきているのか、周囲にはレイが朝に見た顔が何人か存在している。

 今にも雨が降りそうな雨雲の下、それぞれが果実水で喉を潤し終わったのを見るとシルワ家の男は早速とばかりに口を開く。


「それで、異常種の件はどうなりましたか? その、こうして皆さんだけで戻ってきたところを見ると……」


 失敗だったようですが。

 そう言おうとした男の口調を遮り、ヴィヘラが口を開く。


「異常種の討伐に関しては無事に成功したわ」

「何故お前が偉そうに言う。異常種の討伐に成功したのは私達だろう」

「ふふっ、早い者勝ちよ」


 そんな風に軽い言い合いをしているヴィヘラとエレーナの2人へと視線を向けるが、当然異常種の死体がある訳でも無く、あるいは男が見た限りではダンジョンで死体を確保している様子も無い。

 周囲にいた依頼の参加者達から視線が向けられているのを感じつつ、ことの次第を聞き出すべく視線を向ける。

 その視線が向けられたのは、ある意味で当然と言うべきかレイだった。シルワ家の者である以上、最近色々とシルワ家と関わっているレイに関してはある程度の情報を持っていたのだろう。

 ただし、アイテムボックスについてはシルワ家も知らなかったのか、あるいは稀少さ故にボスクを含めた上層部のみで情報を止めているのか。少なくてもこの男は知らないようだった。


(今回のような件の場合は教えておいた方がいいような気もするけどな)


 そんな風に思いつつ、シルワ家の男に向かって尋ねる。


「それで、異常種の死体についてはどこに出せばいい? ここでいいのか? かなり大きいから場所を取るんだが」

「あ、え、その……ちょーっと待って下さい。えっと……シルワ家。そう、シルワ家の確保している建物の方でお願いします」


 レイの言葉から本気だと理解したのだろう。あるいはグリフォンであるセトを引き連れているのだから、何らかの特別な運搬手段を持っていると思ったのか。

 ともあれ半ば本能的にではあるが真実を突いた男は、慌てたように周囲にいた部下へと指示を出す。


「おい、向こうに至急連絡して受け入れ態勢をとって貰ってくれ」

「はいっ!」


 その言葉に従い、素早く返事をするとそのまま指示された男は走り去る。

 それを見送り、レイが話しかけた男は近くにいた男に目配せをしてから頭を下げて口を開く。


「じゃあ、すいませんがこいつについて行って下さい。こっちで確保してある建物の方に案内しますので。こっちは他の人にも報酬の支払いとかをしないといけないから、一緒には行けませんが……」

「ああ。気にしなくてもいいさ。じゃ、行くか」


 レイが視線を向けると、エレーナとセトのみが1歩前に出て、他の面々はその場に残る。


「じゃあね。面倒くさそうだし私はいいわ」

「ん」


 そんな風に送り出されながら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見知らぬ冒険者がセトを見て安心していることがいい [一言] 面白い
2020/09/13 16:37 退会済み
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