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レジェンド  作者: 神無月 紅
迷宮都市エグジル
429/3865

0429話

 強烈に自己主張をしつつ降り注ぐ太陽光、足を取る砂、更に空気は乾燥しており普通に息をするだけで喉が干上がっていく。


「ええいっ、くそ! また出やがったか。しかもサンドワームだと! 散れ! 1ヶ所に固まるな! 奴の突進で纏めてやられるぞ!」


 その声に従い、4人組のパーティのうち3人はそれぞれが素早く散って砂の中から姿を現したサンドワームを囲むようにして位置取る。

 残った1人は大きなリュックを背負ったまま距離を取り、弓に矢を番えながら隙を狙う。

 このパーティはシルワ家からの依頼であるスピア・フロッグの異常種討伐依頼を受けたパーティであり、当然相応の戦闘力を有している。

 普段であれば地下20階前後で活動している、エグジルでも一流……とまではいかないが、それでも一流半程度の実力は持っているパーティだった。

 そんなパーティであるが故に、ポーターの男も当然荷物運び以外に遠距離から弓で攻撃を行うといった行為を行っている。

 勿論本職の弓術士程の威力や精度は無い。あくまでも牽制出来る程度の実力ではあるが、それでも遠距離からの牽制があるとの無いのとでは大違いだった。特に他の3人が盗賊も含めて前衛として働くこのパーティでは。


「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああっ!」


 サンドワームの注意を引きつけるべく、雄叫びを上げながら背後からサンドワームへとポール・アックスを振り下ろす男。

 その男の声にサンドワームは背後に振り向こうとするが、そのタイミングを狙っていたかのようにポーターの放った矢がサンドワームの身体へと突き刺さる。

 体長5mを超えるサンドワームの、さらに急所でも何でも無い場所に突き刺さっただけだが、それでも当然痛みはあるらしく背後から襲ってくるポール・アックスの男からポーターの男へと視線を向け……


「シギャアアアアアアッ!」


 次の瞬間には気配を殺して間合いを詰めていた盗賊の持っていたロングソードがサンドワームの胴体を横一文字に斬り裂いていく。

 普通盗賊と言えば短剣の類を武器にしているのだが、このパーティでは立派な攻撃役の一員だった。


「うおおおおおおっ!」


 次に繰り出されたのは、このパーティのリーダーでもある戦士の持つ槍だった。盗賊によって斬り裂かれた胴体の反対側へと素早く、鋭く、数秒の内に10回近い突きを連続して繰り出す。

 放たれた槍は、その穂先をサンドワームの胴体へと埋め込み痛覚を刺激する。

 再びの激痛に、リーダーの男へと振り向こうとしたサンドワームだったが……


「シギャアアァァァァアアアァァァッ!」


 背後から迫っていたポール・アックスの男が力を込めてポール・アックスを一閃。次の瞬間にはサンドワームの胴体は斬られる……と言うよりも、砕かれると表現した方がいいような有様で2つに分断されていた。

 断末魔の声を上げつつ、やがて息絶えるサンドワーム。だが、それでも男達は油断せずに動かなくなったサンドワームを……そして他に襲ってくるモンスターがいないかを警戒する。

 やがてそのまま数分が経ち、サンドワームの息の根が完全に止まったと判断したのだろう。パーティの中の張り詰めていた雰囲気がようやく多少ではあるが和らいだ。

 それでも完全に周囲の警戒を解かないのは、この地下11階に降りてきてから既に幾度となくモンスターに襲われているからだろう。

 リーダーの男が、弓を持ちながら近づいてきたポーターの男へと向かって口を開く。


「持てる量はまだ大丈夫か?」

「ああ、問題無い。けどこの調子で襲われ続ければ、すぐに許容量に達するぞ。サンドワームから剥ぎ取るのは高く売れる部分だけにしておいた方がいいだろうな」

「分かっている。帰りにまだ余裕があったら場所を取る素材とかを持っていけばいいしな。お前等、討伐証明部位と魔石の剥ぎ取りから始めるぞ!」

「うーい」


 リーダーの命令に従い、ポール・アックスを持った男がサンドワームの胴体へと武器を叩きつけて腹を割いていく。

 ポーターの男とリーダーもポール・アックスを持っている男と協力して素材の剥ぎ取りを開始する。

 だが、5分もしないうちに剥ぎ取りには参加せずに周囲の警戒をしていた盗賊の男の声が周囲に響く。


「この音は……ちぃっ、剥ぎ取りは中止だ! 上空からスカル・イーグルが2……いや、3匹、やってくるぞ!」

「あああああっ、くそっ、面倒くさい! 全員戦闘準備だ!」


 リーダーの男の命令に従い、上空から襲撃してきた鳥の――ただし頭部以外は全て骨で出来ている――モンスターに向かって即座にサンドワームの剥ぎ取りを中止して戦闘態勢を取る。


「くそっ、スカル・イーグルって名前で実際に身体の殆どが骨で出来ているってのに、アンデッドじゃないってのは相変わらずデタラメな生き物だな!」

「そりゃモンスターだからな!」


 ポール・アックスの男に言葉を返しつつ、やらないよりはマシとばかりにポーターの男が弓を構えて矢を放ち、やがて再び戦闘へと突入していく。






「へぇ、やっぱり砂漠だけあってオアシスの類もあるんだな」

「グルルゥ!」


 他のパーティが多かれ少なかれ戦闘を繰り返している時、レイとエレーナ、そしてセトの2人と1匹は砂漠の中にあるオアシスへと到着していた。

 ここまで到達する間に行われた戦闘回数は1度も無く、他のパーティと比べると敵との遭遇率は驚く程少なかった。

 ……そう、今まではという注釈がつくのだが。

 砂漠の中に忽然と存在しているオアシス。この階層のモンスターにとってはまさに絶好の水場であるここに、モンスターがいない筈がなかった。


「……いるな」

「ああ」


 デスサイズを構えながら呟くレイに、エレーナもまた同様に連接剣の柄へと手を伸ばしつつ答える。

 セトはと言えば、いつでも飛び出せるようにして身体を小さく沈めていた。

 そして……


「ギャギャッ! ギャギョギョギョ!」

「ギャガガガ、ギョギャギョギョ!」

「ギョギョ!」

「ギャッギャッギャ!」


 そんな、どこか聞き覚えのある声を上げながら数匹のモンスターが姿を現す。

 身長はレイの胸程までしかないそのモンスターをレイは勿論エレーナやセトも当然知っていた。知名度で言えばモンスターの中でも最上位に位置する存在。即ち……


「ゴブリン、か」


 現れたのがゴブリンだということに、意表を突かれたように呟くレイ。


「いや、ゴブリンはゴブリンでも普通のゴブリンじゃないな」


 周囲を見回しているエレーナの横で目の前に現れた10匹近いゴブリンへと視線を向けたレイは、すぐに普通のゴブリンとの違いに気がつく。

 普通のゴブリンは緑色の肌をしているのだが、目の前に現れたゴブリンは茶色……より正確に言えば砂色とも表現出来る色をしていたのだ。更に通常のゴブリンが持っているのは棍棒や、良くて錆びた短剣や長剣といったものが精々だ。だが、今レイ達の前に現れたゴブリンが持っているのは鋭い長剣や短剣であり、防具にしても何も着ておらず腰蓑程度のゴブリンに対して、何らかの動物やモンスターの革で作ったと思われるレザーアーマーを装備している。

 そんなレイの指摘に、エレーナもまた感心したように目の前に現れたゴブリンへと視線を向けて口を開く。


「恐らくはゴブリンの上位種だろうな」

「ああ」


 ゴブリンというのは個体としての戦力は非常に弱く、それこそある程度戦闘の心得がある者なら一般人でも1匹程度なら倒すこともある。だがその分繁殖力が高く、世代の移り変わりも早い。つまり厳しい環境にもある程度適応出来る下地が揃っているのだ。

 勿論下地が揃っているだけで全てのゴブリンが環境に適応出来る訳では無い。いや、寧ろ環境に適応出来る個体の方がごく少数なのだが。


「ギャギギギギ、ギャギャギャ!」


 恐らくはゴブリン独自の言葉なのだろう。何を言っているのかレイやエレーナには分からなかったが、それでも剣を突きつけてくる行動の意味は理解出来た。つまりは……


「俺達から身ぐるみを剥ごうって訳か。素材を剥ぎ取る人間から身ぐるみを剥ぎ取るってのは……上手い具合に引っかけている、とでも言えばいいのか?」

「ふっ、言うなればバンデットゴブリンという訳か。……どうする?」

「聞くまでも無いだろう。未知のモンスターなんだから、当然倒させて貰うさ」


 ゼパイルの知識やモンスター図鑑等には乗っていなかったモンスターだけに、レイの口元には笑みが浮かんでいる。

 そんなレイを見ながら、エレーナはしょうがないなといった表情を浮かべつつ、それでもバンデットゴブリンを逃すつもりは無いらしく連接剣を鞘から引き抜く。


「グルゥ!」


 セトはと言えば、バンデットゴブリンを逃がさないように数歩の助走で跳躍し、翼を羽ばたかせながら反対側へと回り込む。


「ギィ、ギャギャギャギャ!?」

「ギギギギギィ!」

「ギャガガ、ギョギョジィ!」


 自分達の姿を見ても一向に怯まず、それどころか逆に襲いかかってこようとしている相手に多少の混乱をしたが、それでもとにかく大丈夫だとでも言うように1匹の、リーダー格と思われるバンデットゴブリンが叫ぶと混乱が静まる。

 グリフォンのセトがいるというのに逃げる気配すらも見せないのは、やはり上位種であったとしても所詮はゴブリンということなのだろう。


(……もしかして、こいつらも異常種なんてことは……いや、ないか)


 レイが知っている限り、異常種というのは1匹だけのものだ。ソード・ビーの女王にしても、ストーンパペットにしても、そして今回の討伐依頼の対象でもあるスピア・フロッグにしても。

 それらを考えれば、目の前にいるのは異常種ではない筈。そうも思うのだが、それでも疑問に思うところはあった。


(プレアデス達から聞いたこの階層のモンスターにゴブリンはいなかったんだよな。その辺がどうにも気になるが……いやまぁ、取りあえず倒して死体を持ち帰ればはっきりするか。異常種なら異常種で成功報酬を多く貰えるだろうし、何より多くいるんだから魔石を2つくらいこっちで確保しても、渡す死体の数を調整すれば辻褄を合わせるのは難しくない)


 まずやるべきは目の前にいる10匹程のバンデットゴブリンを倒すことだと判断し、牽制とばかりにデスサイズを振るう。


「飛斬!」


 振るわれた大鎌から放たれる斬撃。サンドスネークの魔石を吸収したことによりレベルが3に上がり、斬撃の数自体は増えてはいないが、それでも放たれる斬撃の大きさ、威力、速度の全てが上がっている。

 半月状の形をした斬撃が放たれ、空気を斬り裂きながらレイ達の前にいるバンデットゴブリンへと向かう。


「ギョギャギョギョ!」


 先頭の1匹が、自分へと向かってくる斬撃に驚きつつ咄嗟に手で持っている剣を盾代わりにしようとするが……それは1歩遅かった。

 剣を身体の前に持ってくる動きの途中で腕を切断され、同時に胴体をも切断される。

 放たれた斬撃は、先頭のバンデットゴブリンをレザーアーマー諸共上下に分断しつつも威力を弱めることなく、その背後にいた他の個体へと向かい……


「ギャギャギャギャッ!」

「ギョギャギャギョ!」


 そのうちの2匹が左腕と右腕を切断されて悲鳴を上げる。

 先頭のバンデットゴブリンは血と臓物と肉片を砂へと撒き散らかし、その背後の2匹は腕と血を地面へと落とす。

 砂漠だけあり、水分でもある血は瞬く間に砂へと吸い込まれていくが、さすがにそれ以外の肉や臓物の類は砂漠に残る。


「はあぁっ!」


 そんなレイの後に続けとばかりに、エレーナの連接剣が放たれた。

 魔力を通すことにより鞭状になった連接剣は、所々についた刀身によりバンデットゴブリンを斬り裂き、あるいは剣先が額へと突き刺さって一撃で命を奪う。


「グルルルルゥっ!」


 レイとエレーナの攻撃だけで既に半数近くが戦闘不能になっていたというのに、次に放たれたのはセトの水球だった。

 直径30cm程の水の塊が2つ放たれ、ゴブリンへと命中。その瞬間、触れた場所諸共に砕け散る。

 頭部に命中した者は即座に命の火が消え、胴体に命中した者は数秒程は何が起こったのか理解していない表情で腹に触れ、そこに本来あるべき自分の肉体が何も無いことを知ると、地面に散らばっている己の肉片や内臓を目にしたまま信じられないといった表情を浮かべつつ……その目から意思のある光が消え去った。

 バンデットゴブリン達にすれば、獲物としか見ていなかった相手にここまで一方的にやられると思ってもいなかったのだろう。混乱したように鳴き声を上げ、それでも何故か逃げるような真似をせずに仕返しとばかりにレイとエレーナへ向かって突っ込んでいく。

 五体満足な者は2匹、他は全て身体に傷を負っており、まともに戦えない状況での攻撃だ。

 それでも背後にいるセトではなく、レイとエレーナに向かっていった辺りは多少の知恵が残っていたのだろう。グリフォンよりは人間の方がまだ何とか出来る、と。

 だが……その結果、数秒後には全てのバンデットゴブリンが息絶え、死体を砂漠へと晒すことになっていた。

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