4225話
「グ……グルゥ……」
ネズグラの頭部を爆散させ、レイが地形操作で作った壁……ネズグラが逃げ込む為の穴を塞ぎ、その上で逃げられないように背後を覆った壁にネズグラの眼球や骨、脳みそ、体液……セトの一撃によってあっさりと砕かれたそれらを見たセトは、しまったといった様子で喉を鳴らす。
セトにしてみれば、本来ならここまではやるつもりはなかったのだ。
だが、それでも……そう、気が付けば、そうなってしまっていたというのが正しい。
じゃり、と。
レイが歩いて近付いてきたのを感じたセトは、恐る恐るといった様子で振り向き……
「グルゥ」
ごめんなさいと、喉を鳴らす。
だが、レイはそんなセトを気にした様子もなく、身体を撫でる。
「気にするなって、頭部が惜しかったのは間違いないけど……ただ、それを込みで考えても、頭部以外を確保出来たのは大きいだろ」
そう言うレイを見たセトは、本当にレイが怒っていないのを理解し、安堵する。
勿論、全く残念ではないという訳ではないのだが。
ただ、それでも昨日の件を思えば、この状況は決して悪くないのは明らかだった。
「さて、時間もないことだし解体するか。……昨日は解体出来なかったから、魔石以外にどういう素材が出てくるのか楽しみだな」
「グルゥ!」
レイの言葉を聞いたセトは、そこでようやく落ち込んだ状態から復活したのだろう。
ドワイトナイフを取り出すレイを見て、嬉しそうに喉を鳴らす。
「っと、その前に……多分大丈夫だとは思うけど、黄昏の槍が解体に巻き込まれたりしたら、洒落にならないしな」
呟き、ドワイトナイフを使うよりも前にネズグラの身体を壁に張り付けていた黄昏の槍を手元に戻す。
一瞬にして手元に戻った黄昏の槍をミスティリングに収納すると、ついでにデスサイズの地形操作で生みだした壁を元に戻しておく。
地面に寝転がった、頭部のないネズグラの死体。
その死体に、レイは改めて魔力を込めたドワイトナイフを突き刺す。
周囲が眩い光に覆われ……それが消えた時、そこに残っていたのは魔石と素材、そして……
「肉? え? いや……あー、でも考えてみればそこまで不思議でもないのか?」
魔石と素材以外、食材として肉も残っていたことにレイは驚く。
ただ、驚きながらも日本にいた時に読んでいた料理漫画を思い出す。
巨大なネズミ……それこそ犬や狸と同じくらい、あるいはそれよりも大きなヌートリアというネズミがいるのだが、このネズミは食用として普通に食べられているというものだった。
勿論、実際にレイがそのヌートリアを食べたことはないが、そうして料理漫画に取り上げられるくらいには一般的――あくまでもその界隈での話だが――な食材なのは間違いないのだろう。
ただ、そういう知識はあるが、ネズミやモグラの肉と思えばあまり食欲が……
「いや、モンスターの肉なんだし、その辺は今更か。蛇のモンスターの肉とかも普通に食べているんだしな」
レイは肉を見てそう思い直す。
これが例えば、虫系の肉……それも毛虫や芋虫といった、レイの性格上どうしても嫌悪感を覚えるようなものであれば、食べようとは思わないだろう。
日本にいた時のTV番組で、芋虫の類は未開の部族とかにしてみればご馳走だというのを知ってはいる。
実際にその番組に出ていた芸能人とかが食べて、美味いと言ってるのも見てはいるが……その辺りを込みで考えても、どうしてもレイは食べたいとは思えない。
それらに比べれば、ネズグラの肉は普通に食べられるだろうと思う。
「とはいえ、絶対に自分で食べたいって程の肉じゃないし……レッドキャップと戦う時に囮として使うか」
昨日、レッドキャップの土砦を見つけた時、レッドキャップを誘き寄せる為にレイが行ったのが、毛玉の肉を使って単独で行動しているレッドキャップを誘き寄せることだった。
……もっとも、最初は成功したものの、二度目に試した時は二匹のレッドキャップを誘き寄せることになってしまったが。
ともあれ、今日は正面から堂々と土砦を攻撃するつもりなので、この肉を使う機会があるかどうかは微妙なところだったが。
「とにかく、肉はこれでいいとして……素材は、爪は当然として、内臓の一部……何に使うのかは分からないが。この二つだけか」
ネズグラ最大の特徴とも呼ぶべき、鉤爪状の爪。それとレイにとっては見慣れた保管ケースに入った内臓の一部。
前者は恐らく武器や防具の素材として、あるいは弱い敵であればそのまま武器としても使えるのだろうが、内臓については何に使うのかレイには分からない。
取りあえずこれもギルドに丸投げしようと判断し、肉と共にミスティリングに収納する。
「さて、セト。じゃあこの魔石はお前が使うんだ」
「グルゥ」
レイの言葉に、分かったと喉を鳴らすセト。
昨日、このネズグラ――その時はまだどんな形をしているのか分からなかったので、名前はなかったが――との戦いの時、セトは自分のミスで肉片どころか残骸と呼ぶべき状況にしてしまったと思い、レイに魔石を使わせた。
普段であれば、一個しかない魔石はレイ――正確にはデスサイズなのだが――よりもセトに優先して使わせているのだが、今回の一件に限ってはセトがどうしても譲らなかったのだ。
レイとしては、別にセトだけが悪い訳ではなく、自分も同じように失敗をしたのだから……と思わないでもなかったのだが、レイのそんな言葉を聞いてもセトは納得した様子を見せなかった。
それでも今日は昨日と違って、セトはレイの言葉に素直に従っていた。
……これで、あるいは魔獣術は同じモンスターの魔石は一度しか使えないという制約がなければ、セトもこの魔石を素直に自分が使うといったことに納得しなかっただろう。
例えば、以前冬に行った何らかの研究所の跡地のような、何故か何度も魔石を使えるモンスターが大量にいた場合であれば。
ただ、当然ながらそのようなモンスターがそう簡単にいる筈もなく。
「じゃあ、行くぞ」
「グルゥ!」
魔石を手にして尋ねるレイに、セトはいつでもいいよと喉を鳴らす。
そんなセトに対して、レイは魔石を放り投げ……セトはクチバシで魔石を咥えると、あっさりと飲み込む。
【セトは『超音波 Lv.二』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
「……え? 超音波?」
何かの聞き間違いか? とも思ったレイだったが、脳裏に響くアナウンスメッセージを聞き間違える筈もない。
だが、それはつまり、ネズグラの魔石で超音波のレベルが上がったということを意味していた。
「えっと……何で超音波? ネズグラはああ見えて、超音波を使えたのか? ……いや、そうなると分からないでもないのか?」
昨日遭遇したネズグラは、それこそ相手に何をさせることもなく、あっさりと倒した。
だが、今日倒したネズグラは、正面から戦った……訳ではないが、それでもある程度は戦闘方法を見ることが出来た。
その中で一番大きかったのは、やはりと言うべきか、鉤爪状になった爪の一撃だろう。
もっとも身体が張り付けにされた状態で放たれた一撃だったということもあってか、セトにはあっさりと回避されてしまったのだが。
そんな爪の一撃に関係するスキルが習得出来たのなら、レイとしても納得出来ただろう。
だが……習得したスキルは、超音波。
正確には習得した訳ではなく、レベルが上がったのだが。
ともあれ、それはレイにとってもの凄く予想外だったのは間違いない。
「グルゥ」
そんな疑問を感じているのは、レイだけではなくセトも同様だったのだろう。
戸惑ったような鳴き声を上げつつ、レイに近づいてくる。
レイは自分の中にあった疑問をひとまず放って置いて、セトを撫でながら声を掛ける。
「何で超音波? とセトが疑問に思ってもおかしくはない。ただ、地中を移動している時に超音波で敵の位置を探るとか、もしかしたらそういう能力があったかもしれないだろ?」
セトを励ます為にそう言うレイだった、自分の口から出た言葉が正しいのかどうかは分からない。
そもそも地中にいる状態で超音波を放ってそれで地上の様子を探るといったことが本当に出来るかどうか、レイにも分からないのだから。
とはいえ、そう考えるのが一番納得しやすいのも事実。
そんなレイの説明に、セトもそういうものかと納得した様子を見せる。
勿論完璧に納得をしたといった訳ではないのだが、それでも納得しておいた方がいいだろうと、そのように思ったらしい。
「さて、それじゃあ……まずは試してみてくれるか? レベル一からレベル二になった程度だと、多分そこまで劇的に強化はされてないだろうけど……それでも、確認しておくのは必要だろうし」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、天井を見る。
天井には複数の鍾乳石があり、超音波の効果を確認するには十分だと思ったのだろう。
レイもそんなセトの様子に特に何も言わず、黙って見守る。
「グルルゥ!」
目を瞑り、天井に向かって超音波を使用するセト。
放たれた超音波は、天井から生えている鍾乳石の大きさを、完全ではないにしろ大体の大きさで把握出来た。
レベル一の時と比べて、間違いなく超音波で知ることが出来る情報は多く、そして精細になっている。
……それでもまだレベル二だというのもあって、鍾乳石の形を超音波だけで完全に知ることは無理だったが。
「……グルゥ、グルルルゥ、グルルゥ」
レイに向けセトは前よりは詳細に分かるようになったよ、と喉を鳴らす。
レイはそんなセトに笑みを浮かべ、身体を撫でてやる。
「さて、取りあえずこれでこの場所でやるべきことは全部終わったな。……いや、レッドキャップの土砦の件以外だけど。後はレッドキャップの土砦を破壊して、それが終わったら……まだ時間があれば、久遠の牙の行った方に向かってもいいか。セト、それでいいか?」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、レイが乗りやすいように身を屈めるのだった。
「まぁ、分かっていたことだけど……そこまで警戒は厳重じゃないな。もしかしたら、ここにはレッドキャップが集まっているかもと思ったんだが」
そうレイが言うのは、昨日も隠れていた岩の後ろだ。
土砦の見張りをしていたレッドキャップを、毛玉の肉を使って誘き寄せて殺した場所。
血の跡も何もないのは、それこそダンジョンの修復機能によるものだろう。
だが、それでも昨日ここで三匹のレッドキャップが死んだのは間違いない。
土で出来たとはいえ、砦を築くだけの知能があるのなら、自分達の仲間が三匹減っていることに気が付いて疑問を抱いてもおかしくはないとレイには思えるのだが。
(いや、レッドキャップがゴブリン系統のモンスターだと考えれば、一匹や二匹いなくなったところで気にしないのか? ……実際、昨日は分岐路を通り越して一本道の方まで出張ってきていて、久遠の牙に殺された死体があった訳だし)
土砦を作るだけの知能はあるのかもしれないが、仲間の命についてはそこまで気にしないのかもしれない。
そうレイは思いつつ、土砦の様子を探る。
この場所が特に何も変化がなかったのと同様、土砦の周囲を見張っているレッドキャップ達も、特に昨日と何か変わりがあるようには思えない。
それこそ、昨日起きたことが夢だったのではないかと、そう思えるくらいに。
とはいえ、当然ながらそれが夢ではないとレイは知っている。
「よし、じゃあ……セト、これからのことを相談するぞ」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
本来なら、ここでどのように動くのかといったことは前もって話しておくべきことだろう。
だが、ダンジョンの中にある砦ということで……ましてや、昨日の一件もあって今日どのような状況になっているのか分からなかった以上、やはり前もって相談をしても無駄になるかもと判断し、その件については話していなかった。
とはいえ、元々大雑把な方法については話してあったので、大雑把な方法については既に話していたというのが正しいのだが。
そして実際、こうして今日来てみれば、土砦は昨日と特に何も違いはない。
であれば、特に話をする必要もなく、それこそ大雑把に決めておいた方法通りで間違いない。
「俺は正面から土砦に乗り込む。セトは土砦の周囲を移動しながら、出て来たレッドキャップを攻撃して数を減らしてくれ。……残念ではあるけど、土砦の中には何があるか分からないし、お宝の類があるかもしれないから、土砦には攻撃しないように。あくまでも外にいるレッドキャップだけを狙ってくれ。いいな?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすのだった。
【セト】
『水球 Lv.九』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.八』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.七』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.五』『クリスタルブレス Lv.五』『アースアロー Lv.八』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.六』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.二』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.三』『石化ブレスLv.三』『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.二』『超音波Lv.二』new
超音波:クチバシから超音波を放つ。レベル一では大雑把な大きさ等が分かる、レベル二ではそれなりに詳細な大きさ等が分かるエコーロケーションが出来る。




