4209話
自分の背の高さ……いや、背の小ささについて非常に残念に思ったレイだったが、すぐに気分を切り替える。
今は自分の背の低さについて考えるよりも、セトが見つけた隠し部屋の中をしっかりと探索するのが先だと、そう判断してのことだ。
まず隠し部屋の中で見つけた三つの宝箱。
これについてはレイも怪しむでもなくミスティリングに収納する。
……それでもこの階層の宝箱の中には触った瞬間に刃が飛び出すといったような攻撃性の高い、凶悪といった表現が正しいのではないかと思えるような宝箱もあったので、念の為にその辺を確認してからの収納になったが。
(もしかしたら、触ってすぐじゃなくて触ってからある程度時間が経って、それで発動する仕掛けとかそういうのもあるかもしれないが……それについては、宝箱の依頼をギルドにした時に、依頼を受けた者達に対処して貰うとしよう)
それもまた、一種の罠と呼ぶべき仕掛けなのだから。
「グルゥ?」
宝箱を収納したレイに、隠し部屋に入ってサイズ変更のスキルを解除したのか四mの大きさとなったセトが、他に何かある? と喉を鳴らす。
レイはそんなセトの鳴き声を聞きながら、隠し部屋の中を見回す。
レイの作ったファイアボールの明かりによって、部屋の中は隅々までしっかりと照らし出されている。
そんな明かりを頼りに部屋の中をレイが見たところ、それなりに広い……レイの感覚では二十畳……もしくは二十二畳くらいの広さはある。
それだけの広さを持つ上に、それなりの大きさの岩があったりするので、隠し部屋の中をしっかりと調べるにはそれなりに時間が掛かるのは間違いなかった。
(この宝箱以外に何かあるか……ぶっちゃけ、宝箱を三つ入手出来ただけで、俺としてはラッキーなんだが)
そうレイが思うのは、ここが二十一階という、まだ殆どレイ達以外の者は探索していない場所だからだろう。
今日、レイ達よりも先行して探索していた者達は分岐路を右に進んでいた。
つまり、分岐路を左に進んだこちら側は、このダンジョンが出来てからまだレイしか探索していない場所となるのだ。
そうなると、この隠し部屋を見つけたのもダンジョンが出来てからレイが最初――正確には見つけたのはセトだが――であり、隠し部屋の中に置かれていた宝箱を見つけたのもダンジョンが出来てからレイが最初となる。
その分だけ、この宝箱には何か良い物が入っているという期待値はかなり高い。
だからこそ、レイとしては宝箱三つを見つけただけで十分だと、そう思えたのだ。
実際、昨日入手した宝箱の中からも対のオーブという貴重なマジックアイテムが出て来たのだから。
他にも酒やポーション、あるいは芸術品のような鍵と、どれもレイにとっては好ましい物だった。
いらないと思えるような何かは、レイにはなかった。
……いやまぁ、レイは酒を飲むのは好まないので、酒はいらないと言えばいらないのだが。
ただ、酒の場合は料理に使ったりすることも出来るし、贈り物にすれば相手は喜ぶ。
レイのように酒を飲むのを好まないような相手であれば、また話は違っただろうが。
ともあれ、酒はレイにとってそこまで嬉しい物ではなかったが、それを欲する者にしてみれば喉から手が出る程……それこそ、幾ら金を払ってでも入手したいと思う物なのは間違いない。
「この宝箱は隠し部屋にあったんだし……そういう意味では、中身に期待だな」
そう言い、この隠し部屋には他に何もないだろうと予想しつつ、それでもレイは一応隠し部屋の中をしっかりと調べる。
宝箱で目を引いておいて、本命を隠している……そのような可能性も十分にあるのだと、レイは理解している為だ。
「セト、そっちには何かあったか?」
「グルゥ」
レイの言葉に、何もないよとセトが喉を鳴らす。
「うーん、やっぱりないか。……もう少し探して何も出て来なかったら、この隠し部屋の探索は終わろうか」
「グルルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かった! と喉を鳴らす。
そのあと、五分程探索を続けたレイだったが、結局何も見つかることはなく、先程の言葉通りに隠し部屋の探索を終えたのだった。
「さて、じゃあこっちの通路を進むか。……セトもそれでいいよな?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは勿論と喉を鳴らす。
尚、セトは隠し部屋から出る時に再びサイズ変更で二mになり、出てから三度サイズ変更を使い、元の……四mの大きさに戻っている。
そんなセトと共に、レイは通路を進み始めた。
レイとしては、もう少し早くこの通路を調べたい……もっと先に行きたいという思いがあったのだが、先程の穴を掘っていたモンスターがいた以上、迂闊なことは出来なかった。
だからこそ、レイとしてはセトと共に歩いて通路を進む必要がある。
「セト、何か異変を感じたらすぐに教えてくれ。多分大丈夫だとは思うが、万が一ということもあるからな」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
そうして進むこと、十分程。
「グルルゥ」
レイの横を歩いていたセトが、不意に喉を鳴らす。
警戒が込められたその鳴き声は、レイにとっても馴染みのあるものだ。
敵が来たと、そうセトが判断したのだ。
レイもそんなセトの鳴き声を聞き、即座にミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出す。
耳を澄まし、気配を探るとセトが鳴き声を上げてから少しして、レイとセトのいる方に向かって何かが近付いてくるのを察知する。
だが、ジャラン、ジャラララランといった金属が地面に擦れる音を聞き……
「毛玉か」
レイが不満そうに敵の正体を口にする。
勿論違う可能性もある。
違う可能性もあるが、レイは自分の予想はそう間違っていないだろうと思えた。
そして……レイが呟いてから数分も経たないうちに、金属音を鳴らすモンスター、レイが言うところの毛玉が十匹程姿を現す。
金属の音は、毛玉と球体の金属が繋がっている鎖の音。
言ってみれば、モーニングスターの反対側……本来なら柄のある部分に、毛玉が存在してるのだ。
「……手っ取り早くすませるぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトが分かったと喉を鳴らし、敵の姿が見えたと同時にレイとセトは動く。
近付いて来た毛玉達にしてみれば、まさかレイとセトがいきなり動くというのは予想外だったのだろう。
もしくは、レイやセトの存在に気が付いていなかった可能性もある。
「ニャアアアアアア!」
ともあれ、先頭にいた毛玉が猫に似た鳴き声を上げながら、モーニングスターを自分達に向かって突っ込んできたレイに向かって振るう。
(こんな鳴き声だったか?)
以前遭遇した毛玉は猫のような鳴き声ではなかっただろうと思いつつ、レイは一瞬どう対応するかを考え、地面を蹴る。
デスサイズや黄昏の槍なら、棘付きの金属球を弾くことも、切断することも、あるいは打ち返すといったことも出来る。
だが、そうなると当然ながら金属球に傷が付き、武器屋に売る時に安くなってしまう。
別に金に困ってる訳ではないレイだったが、それでも自分の売る武器が傷がついているからという理由で安くなるのは面白くなかった。
その為、迎撃ではなく回避という選択をしたのだ。
金属球が地面に叩き付けられ、周辺に石の破片が撒き散らかされる。
その破片までをも回避し、レイは一気に前に出た。
だが、毛玉も一撃の威力は大きいが、外れればどうしても隙が出来るモーニングスターを使っているモンスターだ。
その隙を突かれても、対処する方法は十分にあった。
それは、跳躍。
それもただの跳躍ではなく、最初に投擲したモーニングスターの金属球を錨代わりにし、円を描くかのように跳躍したのだ。
物理法則どこいった?
頭の片隅でそう思わないでもないレイだったが、そもそもの話、魔法のある世界で物理法則を気にする方が間違っている。
勿論、この世界でも物理法則そのものはあるし、ある程度はレイの知っている物理法則通りに動いたりしている。
だが、そこに魔力や魔法、スキル、マジックアイテム……それ以外にも様々なものが影響すると、その物理法則も意味がなくなるとまではいかないが、歪められることも多々あった。
実際、レイも魔力や魔法によって物理法則を無視することが珍しくはない以上、敵が同じように物理法則を無視するような動きをしたからといって責めることは出来ない。
(というか、無視してるのはあくまでも俺がふんわりと知ってる物理法則であって、もし物理法則に詳しい奴が毛玉の動きを見たら、問題ないと、これも物理法則のうちだと、そう言ってもおかしくはないんだよな)
そんな風に思いつつ、レイはその場を跳躍する。
数秒後、レイのいた場所に他の毛玉の放った鉄球が降り注ぐ。
ガン、ドガ、ボガァ……そんな音を聞きつつ、レイはそれでも最初に自分に攻撃してきた毛玉に向かって突進する。
地面にある鉄球を錨代わり……もしくは基点として、円を描くように移動している毛玉。
だが、そんな毛玉は今はまだ空中におり……
「死ね」
短い一言と共に、黄昏の槍を投擲する。
投擲した瞬間も毛玉はまだ空中を移動していたのだが、鉄球を基点として空中を移動している毛玉と、レイの投擲した黄昏の槍。
そのどちらが速いのかは、結果を見れば一目瞭然だった。
空気を貫きながら放たれた黄昏の槍は、一瞬にして毛玉を砕く。
毛玉そのものがそこまで大きくはないからこそ、黄昏の槍の威力に身体が耐えきれなかったのだろう。
毛玉はその名の通り、身体中に毛が生えている。
その毛によって大きく見えるが、身体そのものはそこまで大きくはない。
……レイが日本にいた時、友人の家で飼っている犬を洗ったことがあった。
その時、犬の毛が水に濡れた時、その犬の大きさ……体積が半分になったのではないかと思えて、驚いたのだが、この毛玉も毛によって身体を大きく見せているのだろう。
実際には、身体を大きく見せるといったようなことは考えていないのかもしれないが。
そういう意味では、本来なら毛が邪魔になって毛玉の身体に攻撃を命中させるのは難しくなっているが、レイにとってその程度の狙いを外さないのはそう難しいことではなかった。
「グルルルルゥ!」
聞こえてきたセトの雄叫び。
そちらを見ると、セトの尻尾が蛇に姿を変え、毛玉の身体に噛みついていた。
(珍しいスキルを使ってるな)
そう思うレイだったが、セトにとっても多数あるスキルを使いこなす為に頑張ってるのだろう。
「っと!」
セトに視線を向けていたのは数秒に満たない時間。
だが、そんなレイに対して他の毛玉が鉄球を投擲してきた。
レイはその攻撃を跳躍することによって回避し、空中で右手に持っていたデスサイズを左手に持ち替え、指を鳴らす。
パチン、と。
指が鳴らされたのと同時に、レイを攻撃してきた毛玉と同じ位置にファイアボールが生み出され、毛玉は瞬時に燃え、一瞬にして炭と化す。
当然ながら炭となれば、ドワイトナイフを使っても素材を剥ぎ取ることは出来ない。
鉄球と鎖で構成されたモーニングスターはまだ残っているので、そちらなら確保出来るだろうが。
「次は……うん?」
三匹目と思ったところで、気が付けば残りの毛玉はセトが殺していた。
「随分とまぁ……」
先程見た時は、尻尾を蛇に変化させて毛玉に牙を突き立て、毒によって麻痺させていたのだが、レイが目を離したほんのわずかな時間で、セトは残りの毛玉を倒してしまったらしい。
「グルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは自慢げに喉を鳴らす。
セトにしてみれば、レイの手を煩わせるよりも前にこうして自分で残りの毛玉を倒したことがそれだけ嬉しかったのだろう。
「ありがとな、セト。助かったよ」
「グルゥ!」
レイが感謝の言葉を口にすると、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
それだけレイに褒められたのが嬉しかったのだろう。
「さて、じゃあとっとと解体してしまうか。魔石については気にしなくてもいいから、楽だよな。……残念だけど」
「……グルゥ」
セトもまたレイの言葉に同意するが、そこには残念そうな色があった。
魔石について気にしなくてもいいというのは、つまり毛玉の魔石は既に魔獣術で使っているので、あっても意味がないということなのだから。
そう思いつつ、レイは手早くドワイトナイフを使って解体を行っていき、モーニングスターも含めた素材を素早くミスティリングに収納する。
「さて、これで終わりだな。……じゃあ、進むぞ。時間的にまだ少し余裕があるけど、そろそろ戻る時のことも考えないといけないしな」
今日は昨日と違って午後からダンジョンに潜っているので、探索出来る時間も少ない。
気を引き締めていくぞというレイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすのだった。




