4165話
「グルゥ!」
レイを背に乗せて歩いていたセトは、不意に喉を鳴らす。
ただし、そこには警戒の色はなく、モンスターが出たといったものではないのは明らかだ。
そして通路を進むと、やがてレイはセトが喉を鳴らした意味を理解する。
それは、通路が大きく膨らんでいる場所だったのだ。
そう、つまり先程レイが言った、もう少し広くなったところで倒したモンスターの解体をするという場所に相応しい場所。
「よし、ナイスだセト。ここでなら解体しても問題はない」
それなりの広さがあるので、レイが少し心配していた解体をした時に素材が地底湖に落ちるといったことは心配しなくてもいい。
……勿論、それも絶対という訳ではないのだが。
もしかしたら、レイが素材を落とし、それが地面にぶつかって勢いよく跳ねて、その結果地底湖に落ちる……といった可能性も十分にあるのかもしれないのだから。
「グルゥ!」
レイの言葉に、解体だと喜ぶセト。
……別にセトは解体そのものが好きという訳ではない。
だが、解体をすれば魔獣術に使える魔石が回収出来るし、それ以外でも食材として肉が入手出来る。
牙や爪、骨、鱗といった素材として一般的な部位についてはそこまで気にした様子がないのは、セトにとってそれはあっても特に意味がないからだろう。
実際にはセトなら爪や牙、骨、鱗といった部位は食べようと思えば食べられるのだろうが……それが美味いかどうかは、また別の話だ。
その為、セトにしてみれば美味い料理をいつでも食べられる以上、その辺りの素材については興味がなかったのだろう。
「よし、まずは一匹目からだな。……さて、どんな素材が剥ぎ取れるのか、楽しみだ。セトは周囲の警戒を頼むな」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
とはいえ、この場所は横に膨らんだ通路だ。
つまり袋のような形になっているので、その袋の口の部分にセトがいれば中にいるレイはモンスターの警戒をする必要はなかった。
勿論、岩壁や地面を掘り進むようなモンスターがいたら、また話は別だったが。
(とはいえ、まだこの階層の探索は始めたばかりだ。中にはそういうモンスターがいないとも限らないし、注意はしておく必要があるだろうけど)
セトに任せつつ、レイも完全に警戒を解いたりはしないまま、ミスティリングからモンスターの死体を取り出す。
「うん、やっぱり大きいよな。この階層のモンスターとして考えたら、もしかしたら普通なのかもしれないけど」
死体を見ながら、レイは素直な感想を口にする。
ワニともトカゲとも判断しにくい……やはり爬虫類といった表現が相応しいそのモンスター。
「取りあえず爬虫類なら肉は食えると思ってもいいな。……これだけの大きさなら、肉の量にも期待出来るし。……そんな訳で、まずは一匹目と」
そう言いつつ、レイはミスティリングから取りだしたドワイトナイフに魔力を流し、切っ先を死体に突き刺す。
周辺に眩い光が生み出され……その光が消えた時、そこには魔石、素材、食材がそれぞれ残っていた。
まず最初にレイが注目するのは魔石。
解体をして出て来た諸々の中で最も重要な存在なのだから当然だろう。魔獣術的な意味でも。
そして次にレイが気にしたのは、食材。
……普通なら素材の方に集中するのだろうが、レイの場合は素材よりも食材の方が大きな意味を持つ。
モンスターによって違うので、この爬虫類の場合は素材よりも食材の方が大きかった。
そんなレイの視線の先には、爬虫類の肉と思しき青いブロック肉。
「えっと……これ、食べられるんだよな?」
薄らと青みがかった……といったような肉なら、レイもまだ納得出来た。
だが青……完全なブルー、真っ青、青、青、青。
そんな色の肉が出て来たのだから、その肉が本当に食べられるのかと疑問に思うのは当然のことだろう。
「ドワイトナイフがこうして出した以上、食べられるのは間違いないんだろうけど……真っ青な肉って、食欲が……」
青い肉の塊を見て、レイはそんな風に口にするも、ふと思い出す。
「そう言えば、ステーキの焼き加減にブルーって……いや、それでも青い肉って奴じゃないか」
うろ覚えの知識だったが、それでもブルーというステーキの焼き具合が、肉を青くするといったようなものではないのはレイにも理解出来た。
そもそも焼き加減で肉を青くするといったことをする意味がないだろうと。
……なお、実際にはブルーというのは一般的な焼き加減であるレア、ミディアムレア、ヴェルダンのうち、レアよりも更に生に近い焼き加減だ。
具体的には、肉の表面を数秒焼いた程度。
もしレイがそれを知れば日本にいる時に何度か食べたことがある『牛肉のタタキ』を思い浮かべただろう。
もっとも、実際には牛肉のタタキよりも更に焼く時間は短いのだが。
「……セト、ちょっといいか?」
「グルゥ?」
レイの呼び掛けに、敵が来ないかどうかを警戒していたセトは、どうしたの? と喉を鳴らす。
レイはそんなセトに対し、肉を……真っ青な肉の塊を見せる。
「これ、食べられると思うか? いや、ドワイトナイフを使った結果出て来たんだから、食えるとは思うんだけど」
ドワイトナイフの効果を知ってるだけに、青い肉も食べられないとは思わない。
思わないが、だからといってなら食べてみろと言われると、レイとしては遠慮したい気持ちがあるのも事実。
その為、セトに聞いてみたのだが……
「グルゥ? グルルルルゥ!」
食べてもいいの? じゃあ食べたい! と喉を鳴らすセト。
ある意味常識という先入観を持っているレイとは違い、セトにとって肉は肉だ。
青い肉であっても、セトにとっては普通に食べたいと思える肉だったらしい。
「え……えーっと……」
そんなセトの反応は、レイにとって予想外だったのだろう。
少しだけどのように反応したらいいのか迷い……
「じゃあ、食べてみるか?」
結局そう尋ねる。
これでセトが青い肉は不気味なので食べたくないのに、無理に食べさせるのならある意味で虐待だろう。
だが、こうしてセトが自分から食べたいと言ってきたのであれば話は別だった。
「グルゥ!」
レイの言葉に、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
そんなセトの為に、レイはミスティリングからミスリルナイフを取り出す。
以前は解体に多用していたミスリルナイフだったが、ドワイトナイフを入手してから、解体はドワイトナイフで行われており、ミスリルナイフの出番は全くなかった。
その為、レイは取りだしたミスリルナイフを久しぶりに見るなといったように眺め……青い肉を一口大に切る。
ただし、この場合の一口大というのはあくまでもセトにとっての一口大で、レイから見ればかなりの大きさがある。
具体的には、レイの握り拳より若干大きいくらいだ。
「えっと、生のままでいいのか? 焼いた方がいいのなら焼くけど」
「グルゥ……グルルゥ」
レイの言葉に少し悩んだセトだったが、時間もないので生でいい……いや、生がいいと、そう鳴き声で示す。
なので、レイはせめて味付けくらいはと、ミスティリングから取り出した塩を軽く振り、セトに差し出す。
「ほら、セト」
「グルゥ!」
レイが差し出した肉を見たセトは嬉しそうに喉を鳴らすと、クチバシで咥えるとすぐ口の中に入れる。
そしてしっかりと噛んで……
「美味いか?」
恐る恐る、レイが尋ねる。
ドワイトナイフで出た肉である以上、食べられるのは間違いない。
だが、食べられるからといって、それが美味い肉なのかどうかは、また別の話だった。
もしかしたら食べても問題はないが、味は不味いのではないか。
青い肉だけに、レイはそう心配をしたのだが……
「グルゥ!」
セトは嬉しそうに、美味しいよと喉を鳴らす。
そんなセトの様子を見れば、やはりこの青い肉は美味いのだろうとレイにも理解出来た。
だからといって、セトと同じようにここで生肉を……もしくは焼いて食べてみたいかと言われれば、正直なところ微妙ではあったが。
(うん、この肉についてはジャニスに任せよう。今日の夕食は食材を持ってくるから楽しみにしてろとか、言っておいたしな)
青い肉についてはそれで終わらせ、セトには再び警戒に戻って貰うように言い、最後に爬虫類の素材を見る。
二十一階のモンスターだから……あるいはその中でも強力なモンスターだったからなのか、ドワイトナイフで出た素材は結構な量があった。
牙、爪、骨、鱗といったように予想していた素材はその全てが残っている。
他にあったのは、保管ケースに入った眼球と内臓の一部。
そんな中で特にレイの目を引いたのは……
「えっと、これ……寄生虫か何かか?」
こちらもまた保管ケースに入っていた、白く細長い虫のような何か。
レイが見た限りでは爬虫類の身体にこのような白く細長い何かは生えていなかった。
だとすれば、やはりこれは寄生虫か何かなのではないかと、レイにも予想出来た。
ただ、問題なのはこうしてドワイトナイフを使った上でこうして残ったということで……
「これも素材、なのか? 取りあえず食材じゃないのは間違いないだろうけど。ないよな? 絶対に違うよな?」
誰に聞くでもなく……あるいはドワイトナイフにでも聞くように言うレイ。
保管ケースの中では曲がっているので、白く細長い何かが具体的にどのくらいの長さなのかは、レイにも分からない。
ただ、それでも何となく一mくらいはあるのではないかと思えた。
……これがもし寄生虫だとすれば、これだけの大きさの寄生虫が爬虫類の身体の中にいたということを意味している。
ぞっとしない気持ちを抱きつつも、取りあえずこれが素材となっているのであれば……と、他の素材と共にミスティリングに収納していく。
他の爬虫類も最初と同じく解体していくが……
「やっぱり寄生虫なのか?」
解体したところ、寄生虫と思しき白く細長い虫のような細長いものが入った保管ケースが出てくる個体と出て来ない個体があった。
それはつまり、体内に寄生虫と思しき虫がいるかどうかは個体によって違うということを意味していた。
(もしかしたら、貴重な素材だったり……するのか?)
そんな疑問を抱きつつ、全ての素材を収納する。
そして……残ったのは、二個の魔石のみ。
「よし、セト。解体は終わったぞ。後は、魔石だ」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは喉を鳴らして近付いてくる。
少しだけ嬉しそうなのは、先程食べた青い肉が美味かったからだろう。
勿論、未知のモンスターの魔石で、魔獣術が使えるからというのもあるのかもしれないが。
「じゃあ、まずはセトからだな。……準備はいいか、セト?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトはいつでもいいよと喉を鳴らす。
そんなセトに向け、レイは魔石を放り投げる。
セトはクチバシで魔石を咥え、飲み込み……
【セトは『石化ブレス Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それは、レイにとって驚くと同時に納得も出来た。
爬虫類と戦った時、相手に特に何もさせずに倒したのだ。
そうである以上、もし爬虫類が石化ブレスを使えたとしても、実際にそれを使う前に倒したと考えれば、石化ブレスのレベルアップにも納得は出来た。
「グルゥ!」
嬉しそうに喉を鳴らしながら近付いてくるセトを、レイは笑みを浮かべて撫でてやる。
「よくやったな、セト。まさか石化ブレスのレベルが上がるとは思ってなかったけど」
「グルルルルゥ」
自分も予想外だったと、そう喉を鳴らすセト。
セトにとっても、やはり石化ブレスのレベルが上がったのは予想外だったらしい。
「それにしても、戦いの中で石化ブレスを使われなくてよかったな」
「グルゥ」
こちらについてはセトも同意見だったらしい。
少しだけレイとセトはしみじみとし……
「よし、じゃあ早速石化ブレスを試してみるか。とはいえ……試すのは……まぁ、これでいいか」
いつもなら周囲にある何かを使ってスキルを試すのだが、生憎とここは地底湖があるとはいえ、洞窟の中だ。
他のスキルならともかく、石化ブレスを試す標的はない。
その為、レイが取り出したのは、野営や料理の時に使う為の薪だった。
それも結構な太さ……レイの腕の太さくらいはある薪だ。
火力が欲しい時、あるいは長時間の熱が欲しい時に使う為の薪の一種。
「じゃあ、この薪に石化ブレスを使ってみてくれ」
地面の石で薪を固定すると、離れるレイ。
セトはレイが十分に離れたのを確認してから、薪に向かってクチバシを開き……
「グルルルルルルゥ!」
石化ブレスのスキルを使う。
放たれたブレスに包まれた薪は、見る間に石化していくのだった。
【セト】
『水球 Lv.八』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.七』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.五』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.八』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.六』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.三』『石化ブレスLv.三』new『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.二』『超音波Lv.一』
石化ブレス:石化する灰色の煙を放つブレス。レベル一では表面だけを、レベル二では表面をより頑丈に、レベル三では表面以外に肉の部分も含めて僅かに石化させることが出来る。




