4149話
トレントの魔石で魔獣術を使い、それによってレベルアップしたスキルの確認が終わったところ、次にレイの視線が向けられたのはまだ解体していないトレント……恐らくレイが上位種か希少種だろうと予想しているトレントの死体だった。
少し前まで、ここにはトレントによって生み出された林があった。
より正確には林以上森未満といったような規模だったが……ともあれ、大量のトレントが存在していたのは間違いない。
だが、そのトレントの大半はレイの魔法によって燃やされ、地面は黒く焼け焦げているものの、トレントの炭すらも焼きつくされ、ここには何も残っていない。
魔法の範囲外に棲息していたトレントも、レイとセトによって全て殺されている。
……もっとも、魔法ではなく戦闘によって殺されたトレントはその多くが幹をへし折られたり、砕かれたり、斬られたり……といったようにして倒されているので、切り株は残っているが。
(そう言えば、トレントが死んで切り株だけになったらどうなるんだろうな?)
ふと気になったレイだったが、恐らくモンスターである以上、切り株もそのうち消滅……枯れるか何かするのだろうと思っておく。
もしかしたら、切り株となったことによってモンスターではなく普通の植物と同じような扱いになり、切り株から若芽が出て最終的には普通の木になる可能性もあったが、明日にでもまたこの階層に来た時、確認してみればいいだろうと思っておく。
もしかしたら、その時に何かレイにとっても予想外の光景が起きているかもしれない。
本当にそうなるのかどうかは、レイにも分からなかったが。
「グルゥ?」
レイが周囲の景色を眺めていると、それに気が付いたセトがどうしたの? と喉を鳴らす。
「いや、ちょっとこの景色を見ていただけだよ。何だがこう……うん。まぁ、そこまでするようなものでもないか」
説明しようとしたレイだったが、すぐに諦める。
今の自分が見ていた景色については、絶対に説明しないといけない訳ではないだろうと、そう判断した為だ。
「とにかく、今の件は何でもないから最後に残ったトレントの解体を始めるか」
「グルゥ……グルルルルゥ?」
レイの言葉に分かったと喉を鳴らしたセトだったが、すぐに本当にあのトレントは上位種か希少種なの? と心配そうに喉を鳴らす。
セトにしてみれば、トレントの攻撃はレイに集中していたので、特に抵抗をされるでもなく容易にトレントを倒してしまった。
それだけに、どうしてもこのトレントがレイの言うように上位種か希少種とは思えないのだろう。
これで、例えば見て分かる違い……木の幹が普通よりも明らかに大きいとか、あるいは他のトレントとは明確に違う何かでもあれば、セトもこのトレントが上位種や希少種であるというレイの言葉にも素直に納得は出来ただろうが。
そんな心配そうなセトの頭を、レイが撫でる。
「心配するなって、俺はこれが上位種か希少種だとは思ってるけど、別に違うなら違ってもトレントの魔石を一個無駄にしただけだろう?」
その言葉は、ある意味でレイだからこそ出る言葉だろう。
これが普通の冒険者なら、魔石というのはモンスターの素材の中でも高額で買い取って貰える部位なので、それを壊したり飲み込んだりするなんてとんでもないと思うし、パーティを組んでいれば確実に反対されるだろう。
しかし、レイの場合はダンジョンに潜る時はソロで、多少魔石を失っても不満を言うような者はいない。
また、高く買い取って貰える魔石を使えなくしても、ミスティリングとレイとセトの実力があれば、どうとでもなるのは間違いなかった。
それこそ金が欲しいのなら、盗賊狩りをすれば運にもよるが基本的に結構な稼ぎになるのだから。
(そういう意味で考えると、裏の組織を全滅させるのを止められたのは残念だったな)
裏の組織である以上、当然ながら襲撃されても警備兵に助けを求めたりは出来ない。
そのようなことをすれば他の者達に侮られるのは間違いないのだから。
襲撃してきた相手を撃退すれば面目も立つが……その相手がレイやセトとなると、簡単なことではない。
それこそランクS冒険者でも用意するか、もしくは異名持ちの高ランク冒険者を多数用意するかしなければ、とてもではないがレイに対処出来ないだろう。
だが、当然ながら冒険者の本場であるギルムやミレアーナ王国の首都である王都、ベスティア帝国の首都である帝都といったような場所ならともかく、ミレアーナ王国の保護国の一つでしかないグワッシュ国の首都でも何でもない場所に、そのような強力な冒険者がいる筈がない。
それでもガンダルシアは迷宮都市なので、グワッシュ国の中でも腕の立つ冒険者が揃っているが……とてもではないが、レイやセトを相手に戦えるような存在を見つけるのは難しい。
いや、不可能であると言ってもいいだろう。
だからこそ、裏の組織はレイに狙われれば降伏するか、あるいは戦って全滅するか、もしくはこの地を捨てて逃亡するしかなかった。
「って、裏の組織の件はフランシスに任せたんだったな。今はこっちか。……さて、じゃあセト。早速解体をするぞ」
「グルゥ!」
ドワイトナイフを手に言うレイに対し、セトは嬉しそうに、そして楽しそうにレイの行動を待つ。
大きな期待が込められたセトの視線を感じつつ、レイはドワイトナイフに魔力を流しながらトレントの上位種か希少種か分からないが、とにかくそうであって欲しいとレイが思っている死体に向けてドワイトナイフの切っ先を突き刺す。
すると眩い光が周囲を照らし……やがて、その光が消えた時、そこには魔石と素材が残っていた。
「よし、当たりだ!」
光が消えた後に残っていた素材を見て、レイが叫ぶ。
素材の大半は、トレントの枝や若芽といったような他のトレントと同じものではあったのだが、その中で一つだけ他のトレントと違う素材があった。
それは、保管ケースに入れられた眼球。
レイがこのトレントと戦っている時は特に目立ったりといったことはなかったが、それでもこうして眼球が残っていたということは、このトレントが普通の……他のトレントとは違うことを意味していた。
「グルゥ!?」
レイが驚くのに合わせるように、セトもまた驚く。
レイが上位種か希少種だと言ってるのであからさまに否定はしなかったが、セトはこのトレントは普通のトレントだろうと思っていたのだ。
だが……こうして解体をしてみれば、保管ケースに入った眼球が出た。
それはつまり、レイの言っていることが正しかったということの証明だろう。
「ふふん。どうだ、セト?」
「……グルゥ」
自慢げなレイに、セトは降参といった様子で喉を鳴らす。
レイはそんなセトを一撫ですると、魔石以外の素材を次々に収納していく。
そうして残ったのは魔石。
「さて、問題なのはこの魔石でどういうスキルが習得出来るのか、あるいはレベルアップ出来るかだな。トレントだと、やっぱり植物生成か?」
通常種のトレントの魔石を使った時、セトは植物生成のスキルがレベルアップした。
であれば、上位種か希少種のこの魔石でも同じく植物生成のレベルが上がってもおかしくはない。
レイとしては、植物生成で生み出される蔦の太さがレベル三の時点でかなり太いことを考えると、その植物生成が更にレベルアップしたのなら、一体どういう風に強化されるのかと楽しみに思う。
……実際には、まだ植物生成のレベルが上がると決まった訳ではないのだが。
「よし、セト。準備はいいか?」
「グルゥ!」
魔石を手に聞くレイに、セトは勿論と喉を鳴らす。
最初は先程のトレントが上位種か希少種だとは思っていなかったセトだったが、解体したことによって保管ケースに入った眼球でそれが証明された。
そうである以上、この魔石を使えば魔獣術が発動するのは間違いないと、そうセトにも思えたのだろう。
だからこそやる気満々でセトは喉を鳴らす。
レイはそんなセトに笑みを浮かべ、魔石を放り投げた。
セトはクチバシで魔石を咥え、そのまま飲み込み……
【セトは『衝撃の魔眼 Lv.七』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それはレイにとってはかなり意外な内容であり……だが、トレントを解体した時に眼球が出たのを思えば、納得出来る内容だった。
(あの眼球……もしかして魔眼だったのか? いや、けどそれなら何で戦闘の時に魔眼を使わなかったんだ? 魔眼の種類的な問題か?)
魔眼と一口で言っても、その効果は多種多様だ。
例えばセトの魔眼は衝撃の魔眼という名称通り一瞬にして相手に衝撃を与える効果を持つ。
だが、他にはそれこそ見ただけで炎を生み出す魔眼であったり、体力を吸収する魔眼であったり、魅了の魔眼であったり……といった具合に。
そんな魔眼だけに、トレントの魔眼も即座に効果を発揮しないようなタイプの魔眼である可能性は十分にあった。
その辺りの理由によって、戦闘の中で魔眼を使うような余裕がなかったのだろうと、そうレイは予想する。
「グルルルルゥ!」
セトが嬉しそうに喉を鳴らしながら、レイに近付いてくる。
レイはそんなセトを撫でる。
「まさか、衝撃の魔眼のレベルが上がるとは思わなかった。……セト、よかったな」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。
セトにとっても、衝撃の魔眼のレベルアップというのは予想外だったのだろう。
それでも嬉しいのは間違いなく、レイに顔を擦りつけていた。
レイも衝撃の魔眼のレベルアップは嬉しいので、セトを褒めるように何度も撫でる。
五分程そうしていたところで、レイはセトから手を離す。
「グルゥ……」
撫でられるのが終わったことに残念そうに喉を鳴らすセト。
レイも出来ればいつまでもセトを撫でてやりたいが、ここはダンジョンだ。
ましてや、今日の夕方のギルドはいつも以上に忙しくなるだろうと分かっている以上、レイとしてはいつもより早く今日の分のダンジョンの探索を終えたかった。
「ダンジョンから出たら、また撫でるから。……それよりも、今はまずレベルの上がった衝撃の魔眼を試してみないか?」
「……グルゥ!」
そうレイが言うと、セトは少し考えた後で分かったと喉を鳴らす。
「とはいえ、標的は……そうだな、あの切り株でいいか?」
レイが標的として選んだのは、魔眼を持っていたトレントの切り株だ。
他のトレントの切り株と同様、地面に埋まっている。
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らし……
「グルルルルルルゥ!」
スキルを発動する。
すると地面にしっかりと埋まっている切り株が、次の瞬間には砕け散る。
「うお、これはまた……地面にある木の根はそのままだけど、威力は凄いな」
衝撃の魔眼を習得したばかりの時、レベル一の時は、その威力は非常に弱いものだった。
それこそもしレベル一の衝撃の魔眼を切り株に使っていても、木の皮が少し弾ける程度の威力でしかなかっただろう。
だが、レベル七になった今となっては、一撃で地面にしっかりと根付いた切り株を破壊するだけの威力を持っているのだ。
その威力はレベル一の時とは比べるまでもない程、圧倒的な威力を持っていた。
「グルゥ!」
レイの褒める言葉に、どう? 凄いでしょ! と嬉しそうな様子で喉を鳴らすセト。
実は、セトにとっても今回の一件は少し……いや、かなり驚いたのだが、そんな動揺は決して表には出さない。
「ああ、凄いなセト。……それにしても今回の衝撃の魔眼もそうだが、やっぱり上位種や希少種って美味しい存在だよな。もっとも、そう簡単に見つけられないのが上位種や希少種なんだろうけど」
「グルゥ」
レイの言葉に同意するように喉を鳴らす。
レイと共に多くのモンスターを倒してきただけに、セトも上位種や希少種を見つけるのは難しいというのを十分に知っているのだろう。
「とにかく、ここでやるべきことはやったな。……じゃあ、二十階の探索を続けるか。出来ればそろそろ宝箱を見つけたいな。……まぁ、この場所に宝箱があったりしたら、どうにもならなかっただろうけど」
レイの魔法によって燃やしつくされた場所。
そこにトレント以外のモンスターがいればとレイは悩んだが、それ以外にも宝箱の件もあった。
もし魔法の範囲内に宝箱があった場合、間違いなく魔法によって燃やされてしまっただろう。
……もっとも、宝箱に罠があったりした場合、魔法によって罠が発動し、それによって魔法の範囲内にいたトレントに何らかの被害を与えた可能性も否定は出来なかったが。
「グルゥ」
セトはレイの言葉に、それは仕方がないと慰めるように喉を鳴らすのだった。
【セト】
『水球 Lv.八』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.七』new『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.八』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.八』『パワーアタック Lv.四』『魔法反射 Lv.三』『アシッドブレス Lv.九』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.六』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.四』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.四』『植物生成 Lv.三』『石化ブレスLv.二』『ダッシュLv.一』『蛇の尾Lv.一』『超音波Lv.一』
衝撃の魔眼:発動した瞬間に視線を向けている場所へと衝撃によるダメージを与える。ただし、セトと対象の距離によって威力が変わる。遠くなればなる程、威力が落ちる。レベル一では最高威力でも木の表面を弾く程度。レベル二では木の幹にも傷を与える。レベル三では岩に傷をつけられる程度。レベル四では直径五十cmくらいの木を折れる程度。レベル五では防具を装備していない人の身体を破壊する程度。レベル六では革鎧を着ていてもその部位を破壊出来る。レベル七では金属の鎧を装備していてもその部位を破壊出来る。スキルを発動してから実際に威力が発揮されるまでが一瞬という長所を持つ。




