4018話
「あ、セト。戻ってきたか。……何でそっちから戻ってきたんだ?」
レイは姿を現したセトに笑みを浮かべたが、セトのやってきた方向が先程牙猿……ジュレスダーを率いていたモンスターを追っていったのとは違う……それも全く逆の場所から姿を現したことに驚く。
「グルゥ……グルルルゥ……」
「ふぅん、なるほどな」
セトの鳴き声を聞き、レイはセトと一緒に姿を現した女……ミラエンに視線を向ける。
「う……」
レイの視線にあるのは、責める色……とまではいかないが、一体何をやってるのやらといったような色があった。
「えっと……ほ、ほら。セトちゃんは十六階にはまだ慣れてないでしょ? だから、私が知ってる知識を少し教えてあげただけよ? それだけよ? ええ、うん。間違いないわ」
慌てた様子でそう言うミラエン。
だが言葉とは裏腹に、その表情は見るからに焦っていた。
それを見れば、何がどうなって今のようなことになったのか、レイにも何となく想像出来てしまう。
「……まぁ、セトの様子を見る限りだと、色々と教えて貰ったというのは事実らしいし、いいか」
ふぅ、と。
レイの言葉を聞いたミラエンは、心の底から安堵する。
出来るだけセトと一緒にいたいが為に、この場所に戻ってくるまでかなり遠回りしたのは事実。
セトと一緒にジャングルの中を歩いている時は特に気にしなかったものの、こうして戻ってきてみると、レイを見て色々と思うところがあったのだろう。
もしこれでレイに不満を抱かれ、今後セトと関わることを禁止されるなどということがあれば、ミラエンは絶望する。
それこそ、場合によっては冒険者を止めるといったような、そんな絶望を。
だが、レイはミラエンを見ても特に責めるような言葉は口にしなかった。
「えっと、その……これ。セトちゃんが追っていったモンスターを倒した時に残った魔石」
取りあえず何も問題なく何とかなりそうだ。
そう思いながら、ミラエンはレイにセトが倒したモンスターの魔石を渡す。
セトが咥えたのを見て自分が持っていたのだが、レイと合流した以上はレイに渡すべきだと判断したのだろう。
レイはミラエンから魔石を受け取ると、笑みを浮かべて口を開く。
「悪いな、助かった。……じゃあ、取りあえず俺とセトはもう少しこの階層を探索してみるからそろそろ行くよ」
レイの言葉にミラエンは残念そうにしていたが、セトと一緒にいられたのは満足出来たので、それ以上は何も言わない。
そんなミラエンの代わりに、パーティリーダーが前に出る。
「あ、はい。わかりました。それと十七階に続く階段の場所ですが……」
そう言い、パーティリーダーの男はレイに階段のある場所について説明する。
とはいえ、ジャングルの階層である十六階は生えている多数の植物の影響で、自分のいる場所を把握するのもそれなりに難しい。
そんな中で階段のある場所を説明するのは、かなりの手間だったが。
「すいません。もっと分かりやすく説明出来ればよかったのですが」
「別に構わない。大雑把にでも場所が分かればな。俺とセトはこの階層をそれなりに探索してみたいと思っている。なら、十七階に続く階段もそのうち見つかるだろうし」
大体の場所を聞いたのだから、後は探索をしていればいずれは階段を見つけられるだろう。
そうレイは思い、軽く挨拶をして残り二匹のジュレスダーの死体は解体せずにミスティリングに収納すると、セトと共にその場を離れる。
それを見送った面々は、最初は黙っていたものの……レイとセトが十分に離れたところで、やがてパーティリーダーが口を開く。
「ったく、おいミラエン。お前いい加減にしろよ?」
それは、レイを相手にしていた時とは全く違う言葉遣い。
レイと話していた時のような丁寧な言葉遣いではなく、いかにも冒険者らしい乱暴な言葉遣い。
「でも、リーダー。セトちゃんがいたのよ? なら、可愛がるのは当然でしょ」
「だからって、敵を追ったとは逆の方向から来るってのはやりすぎだ。お前が戻ってきてから、レイにいつ何を言われるのかとヒヤヒヤものだったんだぞ? 結局は特に何か責められるようなことはなかったし、何よりジュレスダーの死体をこんなに譲ってくれたけど」
レイという存在……それこそ怒らせればこの場で殺されてもおかしくはない相手とダンジョンで遭遇した時はどうしようかと思った。
最初は、探索をしている中で他の冒険者の気配を察知したので、挨拶をしようと思って近付いたのだ。
それが……まさか、レイだとは思いもせずに。
とはいえ、結果としてジュレスダーの多くをレイとセトが倒したにも関わらず、その死体を多くを何故か譲ってくれたので、それについては感謝しかなかったが。
ともあれそんな訳で、レイやセトと遭遇したことには色々と思うところがない訳でもなかったが、それでも今回の一件は総合的に見れば大きく得をしたのは間違いない。
「取りあえず、素材の剥ぎ取りを急ぐぞ。ここで下手に時間を掛ければ、血の臭いに惹かれてモンスターが襲ってくるかもしれないからな。……特にミラエンは遊んでいた分、しっかりと働けよ」
パーティリーダーの言葉に、パーティメンバーは……そしてセトと遊んでいたことで特に名指しされたミラエンは、モンスターの解体を急ぐのだった。
「さて、十分に離れたな。……じゃあ、セト。周囲の見張りを頼む」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
見張りをセトに任せると、レイはジュレスダーの死体を二つとドワイトナイフをミスティリングから取り出す。
(どうせなら、さっきさっさと解体してしまえばよかったな)
そう思うも、ドワイトナイフについての話をしていたので、そんな暇はなかった。
……解体しながら話をするといったことも出来るのだが、ドワイトナイフは解体する時に周囲を眩く照らす。
そんな状況で話をするというのはどうかとレイには思えたのだ。
もっとも、先程のパーティリーダーの礼儀正しさからすれば、もしかしたら気にしなかったかもしれないな……と思うレイは、猫を被ったパーティリーダーにまんまと騙されていた。
もしパーティリーダーが悪意から……それこそレイを騙して油断したところで攻撃しようとしたり、あるいは言葉巧みにレイから金を巻き上げようとしていたのであれば、レイは悪意にはそれなりに敏感なので、すぐに気が付いただろう。
だが、先程の男は別にレイを騙して危害を加えようとはしておらず、それどころかレイを不機嫌にさせないように気を遣っていた。
その為、レイはパーティリーダーの猫かぶりに全く気が付かなかったのだ。
「よし、じゃあ解体するか」
自分に気合いを入れるように呟き、ドワイトナイフに魔力を込める。
そして死体に突き刺す。
眩い光が二度輝き、ジュレスダーの死体二つはすぐに魔石と素材に姿を変える。
「さて、じゃあまずはセトから魔石を使うか。……セト、こっちにきてくれ」
「グルゥ」
レイの言葉に、周囲の様子を窺っていたセトはレイに近付いてくる。
そんなセトに向かい、レイはジュレスダーの魔石を放り投げる。
セトは魔石をクチバシで咥えて、飲み込み……
【セトは『パワーアタック Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
それは、レイにとっては少し意外だった。
(いや、けどジュレスダーの攻撃手段は牙や爪を使ったものだったし……体当たりもその中に入るのか?)
そう考えるレイだったが、ともあれパワーアタックのレベルが上がったのは悪くない結果だ。
「じゃあ、セト。早速だけど試してみてくれるか?」
「グルゥ!」
レイの言葉に、任せてと喉を鳴らして標的となる木を選ぶ。
パワーアタックは、レベル二の時は大人四人程が手を繋いで囲むことが出来る太さを持つ木であってもへし折ることが出来るだけの威力を持っていた。
だからこそ、セトは周囲に生えている木々の中でも、特に太い木……大人五人程が手を繋いで囲むことが出来る程度の太さの木に狙いを定める。
「グルルルルゥ!」
パワーアタックのスキルを発動し、木にぶつかると……その一撃は木をへし折ることに成功する。
ミキィ、バキィという音と共に、少ししてから折れた木が地面に倒れてくる。
「うわぁ……」
幸いなことに、折れた木が倒れたのはレイがいる場所とは反対だったので、レイは驚きながらその様子を眺めているだけだったが。
勿論、木を切るというのは、レイにとってそう珍しいものではない。
それこそギルムの増築工事が始まった当初は、トレントの森に生えている木々をデスサイズを使って毎日何本も切る……伐採したりしていたのだから。
だが、それはあくまでも切るであって、今のように体当たりでへし折るといったようなことではない。
また、トレントの森ではなく、ダンジョンの中にある木というのもレイに今のような驚きを与えている理由だろう。
「グルゥ?」
どう? と少しだけ自慢げにセトが喉を鳴らす。
レイはそんなセトに笑みを浮かべ、凄い凄いと言いつつ、身体を撫でてやる。
「グルルゥ、グルゥ、グルルルルゥ」
レイに褒められ、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
レイは数分の間、そんなセトを撫でて落ち着かせ……
「さて、じゃあ次は俺の番だな。正確には俺じゃなくてデスサイズだけど」
そう呟き、セトから離れる。
(セトがパワーアタックなら、パワースラッシュか? いや、けどそれならセトもパワークラッシュのレベルが上がっていた筈だし)
そう思いながら、ミスティリングから取り出したデスサイズを片手に、ジュレスダーの魔石を放り投げ……
斬、とデスサイズに一閃によって切断される。
【デスサイズは『隠密 Lv.三』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンスメッセージ。
レイはそのアナウンスメッセージに少しだけ驚く。
「おう? ……隠密?」
ジュレスダーの特徴から考えて、もっと直接的な攻撃力を持つスキルが強化されるか、あるいはもっと新しいスキルを習得するのではないかと、そう思ったのだ。
「グルゥ……」
レイと同じアナウンスメッセージを聞いたセトは、レイに向かって近付いてくる。
セトにとっても、隠密のレベルが上がるというのは予想外だったのだろう。
(ジュレスダーは群れで行動している。つまり、他の個体に紛れるから、それが隠密という扱いになった?)
ジュレスダーの魔石でレベルアップしたスキルのことを考えつつ、レイはデスサイズに視線を向ける。
もっともデスサイズはセトと同じく魔獣術によって生み出された存在ではあるが、生き物ではない。
レイが視線を向けても、それに対して何らかの反応を示すことはない。
「まぁ、取りあえず……試してみるか。セト、少し離れていてくれ」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトは分かったと離れていく。
それを見ながら、レイはデスサイズを握って意識を集中する。
「隠密」
スキルを発動した瞬間、レイが握っていたデスサイズの姿が消える。
刃だけではなく柄も石突きも、その全てが完全に姿を消したのだ。
「さて、後は……」
透明になったデスサイズを、一振り、二振り……その時点でもデスサイズは姿を消している。
レベル二の時は二振りで隠密の効果が消えたが、レベル三になった今はまだ透明なままだ。
そして……三振り。
三振りをした瞬間、透明になっていたデスサイズは姿を現す。
「三振りか。まぁ、予想通りだな」
レベル一で一振り、レベルで二振り。であれば、レベル三で三振りというのはレイにも容易に予想出来た。
「使い勝手がよくなったのは間違いないな。……さて、そうなると最後はこれだな」
そう言い、レイはジュレスダーのボスの魔石を取り出す。
ミラエンから渡されたものだ。
「これはやっぱりセトが使うべきだな」
「グルゥ?」
レイの言葉に、セトはいいの? と喉を鳴らす。
そんなセトに対し、レイは当然といったように頷く。
「そもそも、ボスを倒したのはセトだろう? なら、この魔石はデスサイズじゃなくてセトが使うべきだ」
これはレイにとって当然の判断だった。
レイにしてみれば、セトが倒したモンスターの魔石なのだから、セトが使うという以外の選択肢はない。
これが例えば、既にセトが使ったことがあり、デスサイズではまだ使っていない魔石であれば、また話は違っただろう。
だが、生憎と……幸か不幸か、ジュレスダーのボスの魔石は、セトもデスサイズも、双方共にまだ使ってはいない。
そうである以上、セトが使うのは当然だろうとレイは思う。
セトもそんなレイの言葉に納得したのか、分かったと喉を鳴らすのだった。
【セト】
『水球 Lv.六』『ファイアブレス Lv.七』『ウィンドアロー Lv.七』『王の威圧 Lv.五』『毒の爪 Lv.九』『サイズ変更 Lv.四』『トルネード Lv.四』『アイスアロー Lv.八』『光学迷彩 Lv.九』『衝撃の魔眼 Lv.六』『パワークラッシュ Lv.八』『嗅覚上昇 Lv.七』『バブルブレス Lv.四』『クリスタルブレス Lv.四』『アースアロー Lv.六』『パワーアタック Lv.三』new『魔法反射 Lv.一』『アシッドブレス Lv.八』『翼刃 Lv.七』『地中潜行 Lv.四』『サンダーブレス Lv.八』『霧 Lv.三』『霧の爪牙 Lv.二』『アイスブレス Lv.三』『空間操作 Lv.一』『ビームブレス Lv.二』『植物生成 Lv.二』『石化ブレスLv.一』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.七』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.三』new『緑生斬Lv.一』
パワーアタック:強力な体当たりのスキル。レベル一で大人三人程の、レベル二で大人四人程、レベル三で大人五人程が手を繋いだくらいの太さの幹を持つ木をへし折るだけの威力がある。
隠密:デスサイズが透明になる。レベル一ではデスサイズを一振りするまで。レベル二ではデスサイズを二振りするまで、レベル三ではデスサイズを三振りするまで。




