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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4008/4053

4008話

「あ」


 石化した茂みを握り、表面だけが石化してるというのを確認したレイは、ちょうどそのタイミングで茂みから少し離れた場所に青い宝石が転がっているのに気が付く。

 それは、巨大ムカデの額に嵌まっていた……もしくは埋め込まれていた宝石だ。

 鉱石か? とも思ったが、こうして間近で見た感じではレイの目には宝石のようにしか思えない。

 ……もっともレイは決して宝石について詳しい訳ではないので、もしこれが宝石であっても具体的にどういう名称の宝石なのかということまでは分からなかったのだが。


「セト、宝石があったぞ」

「グルゥ……グルゥ……」


 レイの言葉に消沈した様子のセト。

 元々、レイが巨大ムカデの解体をしている間に、セトは頭部を破壊した時にどこかに飛んでいった宝石を探していたのだ。

 だが、その宝石は結局こうしてレイが見つけてしまう。

それだけではなく、その宝石を見つける原因になった新スキルの石化ブレスも、レベル一の今は表面しか石化させることが出来ないと、セトにとっては散々な状況だった。


「あー……ほら、大丈夫だって。今回は偶然俺がこの宝石を見つけただけなんだし。それに石化ブレスも、レベルが上がればもっと使いやすく、そして強くなるだろう?」


 そう言いつつも、既にレベル四のクリスタルブレスの方が今も、そして後でも使い勝手がよさそうだなと思う。


「グルゥ? ……グルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは何となくやる気になったらしく喉を鳴らす。

 それを見たレイが安堵し、残りの素材を全てミスティリングに収納する。


(甲殻がかなりの高値で売れそうだな。……巨大ムカデと呼んでいたように、大きいから甲殻も結構な数があるし、高く売れそうだ。この甲殻で作られた防具はかなり高性能になりそうだな)


 そう思うレイだったが、だからといって自分で使いたいかと言われれば、それは否だ。

 巨大ムカデの甲殻は間違いなく良い防具になるだろう。

 それは事実だが、その良い防具とドラゴンローブを比べると、どう考えてもドラゴンローブの方が強力なのは間違いない。

 その上、強力なだけではなくローブという形状から鎧のように身体の動きに影響を与えないのも大きい。

 ドラゴンローブと比べると、明らかにこの甲殻で作った鎧は性能が劣るというのは予想出来た。

 これはあくまでもレイの予想でしかなく、もしかしたら甲殻に上手く手を加えることによってドラゴンローブ並とまではいかないが、それでもレイが予想しているよりも高性能な防具になる可能性は十分にある。

 あるのだが、それでもレイは自分が使いたいとは思わなかった。


(あ、でもそうだな。何かあった時の為に、予備として持っておくのはいいかもしれないな。俺が使うんじゃなくて、誰かに使わせるとかはあるかもしれないし)


 そのように思いながら、レイは全ての甲殻を収納する。


「さて、セト。じゃあ他のモンスターを探すぞ。……また鳴き声を上げてみるか? そうしたら、またあの巨大ムカデか、もしくは他のモンスターが襲ってくる可能性はあるけど」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトはやらないと首を横に振りながら喉を鳴らす。

 レイにしてみれば、敵が自分からやって来てくれたのだから、セトの鳴き声はそこまで悪くはないと思う。

 思うのだが、セトにやる気がない以上、ここで無理をさせるのもどうかと思う。

 その為、セトに先程のような大きな鳴き声を上げるのを諦め、普通に十六階の探索を開始する。


(そう言えば、この階層がジャングルの階層なのは、上の十五階が溶岩の階層だから、その熱が影響して……とかだったりするのか?)


 そんな風に思いつつ、レイは目の前に生えている蔦をミスティリングから取り出したミスリルナイフで切断していく。

 セトもレイの後ろで、もし何かあってもすぐに対処出来るように警戒しつつ、一人と一匹はジャングルの中を進む。


「ん? ……鳥か。モンスターじゃなくて、普通の鳥?」


 熱帯雨林の中を飛ぶ、派手な色合いの鳥を見てレイがそう呟く。

 実際にその鳥がモンスターなのか、モンスターではない普通の鳥なのかはレイにも分からない。

 ダンジョンである以上、モンスターではない普通の鳥がいるのか? と疑問に思う点があるのも事実だったが、虫であったり、植物であったりといったモンスターではない存在がダンジョンの中にいるのは事実。

 そう考えると、やはりここにはモンスターではない鳥がいてもおかしくはない。


「グルルゥ?」


 レイの視線を追うように、セトも空を見る。

 だが、既に派手な色合いの鳥はどこかに行ってしまっており、セトには見ることが出来なかった。


「グルゥ……」


 レイの言う鳥を見ることが出来なかったのを残念に思いつつ、喉を鳴らすセト。

 レイはそんなセトを撫でて慰めると、再びジャングルの探索を開始する。

 だが、どこまで進んでも、そこにあるのは植物だけだ。

 三十分ほど進むと、レイは足を止める。


「……十六階だからか? どこまでも延々とジャングルが広がってるだけで、十七階に続く階段は勿論、それ以外の何かを見つけることも出来ないんだが」

「グルルゥ、グルゥ、グルルルルゥ?」


 セトが励ますように喉を鳴らすものの、レイはそんなセトを撫でつつ周囲を見回す。

 何となくやる気を失った形だ。


「もう帰るか?」

「グルゥ?」


 レイの言葉に、本当にそんなことを言ってるの? と喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、まだそんなに長い時間十六階の探索はしていないのだ。

 そうである以上、もう少しこの階層の探索を続けたいと思うのはセトとしては当然だった。

 レイはそんなセトを見ると、次に改めて周囲を見る。


「どこまで見てもジャングルだろう? そうなると、いざ帰ろうと思った時に無事に十五階に続く階段のある場所に戻れるかどうか、微妙なところだぞ?」

「グルルゥ……グルゥ」


 レイの言葉に、セトは自分達の通ってきた方に視線を向ける。

 そこにはレイが言うように、どこまでもジャングルが広がっていた。

 ただし、レイはともかく体長四m程もあるセトが歩いて来たのだ。

 当然ながら、地面はセトが歩いた痕跡がしっかりと残っている。

 もし何かあって帰ろうと思ったら、その痕跡を辿ればすぐにでも戻れるだろう。


「グルゥ、グルルルゥ、グルゥ」


 もう少し頑張って探索を続けようと言うセト。

 レイはそんなセトの様子に少し考え……


「分かった、もう少しだけ探索を続けてみる」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、もっとレイと一緒に探索を続けたかったので、レイが考えを変えてくれたのがそれだけ嬉しかったのだろう。


「いっそ、地形操作を使って地面を歩きやすくしてみるか? ……いや、地形操作で出来るのはあくまでも地面を上下だけだし、難しいか。木を引き抜くとかそういう時には便利なんだけどな」


 地形操作を使って地面を隆起させたり沈下させたりしても、当然ながら地面から生えている植物を排除したりといったことは出来ない。

 隆起や沈下によって、植物の根が千切れたりはするので、木々を根元から引き抜くといったことをする場合には、根を切るという意味でそれなりに使えたりするのだが。


「なら、空を……」

「グルゥ!」


 空を飛ぶか。

 そう言おうとしたレイだったが、不意にセトが鳴き声を上げる。

 その鳴き声は敵を警戒するような鳴き声ではなく、嬉しさの込められた鳴き声。

 セトの鳴き声から、レイの口にも笑みが浮かび……そして、歩いていた方向から少し逸れた場所にセトが移動し、レイもそれを追う。

 そうしてレイが見つけたのは、茂みに隠されていた宝箱。

 普通に探索していただけでは、到底見つけるのは難しいだろう場所にある宝箱だけに、中身には良い物が入ってそうだった。


「セト、よくやった! ……そうだよな。ここは十六階で、十五階よりも来る奴が少ないんだ。そうである以上、宝箱がそれなりにあってもおかしくはないか。……十六階よりも下を探索している冒険者達でも見つけることが出来ないってことは、中身にも期待出来るし」


 十六階で探索をしている冒険者は、当然ながら腕利きだ。

 そのパーティに所属する盗賊も、当然ながら相応の腕利きとなる。

 宝箱を見つけ、罠や鍵を解除するという意味で。

 そんな者が見つけられなかった宝箱。

 だからこそ、レイとしては良い物が入っている可能性が高いと判断したのだ。


「まぁ、俺が開けることはできないから、ギルドで依頼を出すしかないんだが」


 レイやセトには宝箱の鍵や罠を解除する技能はない。

 そうである以上、自分で開けるつもりはなかった。

 これが普通の冒険者なら、宝箱を持ち歩くのは荷物になるだけだし、下手をすれば何らかの衝撃で罠が発動する可能性すらあった。

 だからこそ、普通のパーティなら無理をしてでも宝箱を開けるか、その技能を持った盗賊に開けて貰う。

 ……もしくは、罠の危険から宝箱には触れないでそのままにしておく。

 だが、レイの場合はミスティリングがある。

 それを使えば、宝箱を収納し、ギルドで専門の技能を持った者に依頼をするという裏技が出来た。

 裏技と呼ぶのが正しいのかどうかは微妙なところだが。

 ともあれ、そんな訳でレイは茂みに隠されていた宝箱を収納する。

 すると、宝箱はあっさりと消えた。


「よし、やる気が出てきた。セト、このまま探索を続けるぞ!」

「グルゥ」


 レイの言葉に、呆れたように喉を鳴らすセト。

 少し前まで、そろそろダンジョンを出ようかと言っていたとは到底思えない様子だったからだろう。

 実際、レイもセトに探索を続けると言っておきながら、調子のいいことを言ってるなと思ったのだから。

 とはいえ、こうして目に見える成果があってこそやる気になるというのも事実。

 そんな訳で、レイはセトと共に再びジャングルの探索を続ける。


「出来れば、そろそろモンスターを……いや、そうだな。俺、ダンジョンから出たらサラダを食べるんだ」

「グルゥ?」


 ジャングルの探索を続けている中で、いきなりレイがそのようなことを言ったことに疑問を抱いたセトが不思議そうに喉を鳴らす。


「……あれ? そろそろモンスターが出て来てもいいと思うんだが。フラグを立てたんだし」


 不満に思いながら周囲の様子を確認するが、モンスターの姿はどこにもない。

 小さな羽虫が飛んでいるのが見えるが、それだけだ。

 レイの目算としては、こうしてフラグを立てたのだからモンスターが現れるのではないかと思ったのだが。


「やったか!?」


 念の為に再度フラグを立てるような言葉を口にするものの、やはりモンスターが出てくる様子はない。


「……まぁ、そうだよな。そう簡単に予想通りになる訳が……」

「グルゥ!」

「って、うおっ! マジか!?」


 フラグを立てるような台詞を口にしたからといって、そう簡単にモンスターが出てくる筈がない。

 そう思ったレイだったが、次の瞬間にはいきなりセトが喉を鳴らし、レイがそれに反応する。

 茂みを突き破るようにして姿を現したのは、巨大な……それこそセトよりも大きなカブトムシ。

 それも日本でよくいるようなカブトムシではなく、ヘラクレスオオカブトに近い角の形をした巨大なカブトムシだ。

 セト程の大きさのカブトムシ……それも、特徴的なのは角だけではなく、甲殻には無数の棘が生えていた。

 角による突進を回避しても、甲殻に触れると下手な防具ではダメージを受けるのは間違いないだろう。

 それを見て取ったレイは、即座に横に跳ぶ。

 セトもレイとは逆の方向に跳び……レイとセトの間を、巨大なカブトムシは突っ切っていく。

 レイはそんなカブトムシの様子を見つつ手を伸ばし、近くに生えていた木の幹に爪を立てる。

 普通なら爪が剥がれてもおかしくはない行動なのだが、レイの場合は身体能力が違う。

 爪が、指が木の幹にめり込み跳躍した勢いを殺す。

 そのまま指先を引き抜くのも面倒臭いと、木の幹を毟り取りつつ、ミスティリングから取り出した黄昏の槍をカブトムシの後方に向かって投擲する。

 真っ直ぐ飛んだ黄昏の槍だったが……ブゥン、という音と共にカブトムシの背中の甲殻が二つに割れ、そこから羽根が出て地面を蹴り、空を飛ぶ。

 黄昏の槍は標的を見失い、数秒前にカブトムシのいた空間を貫き、その先にある木々を破壊しつつ突き進み……不意にその姿を消す。

 跳んだ勢いを完全に殺して地面に着地したレイの手元には、つい先程投擲した黄昏の槍がある。

 レイは黄昏の槍を手に、羽根を広げて空を飛び、自分を……そしてセトに向かってゆっくりと降下してくるカブトムシを睨み付けるのだった。

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