4005話
4000話達成記念の為、今日は2話更新となります。
こちらに直接来た人は、前話からどうぞ。
「え……マジか……」
溶岩の鳥が落ちて行った方を見て、レイはそう呟く。
何しろ溶岩の鳥が落ちたのは、離れた場所を流れる溶岩の川だったのだから。
ダンジョンではない普通の場所で、鳥、あるいは鳥型のモンスターにダメージを与えたら、その鳥が川や湖、海といった場所に落ちてしまったのと同じような感じか。
「グルゥ……」
レイの言葉を聞いたセトが、アイスブレスを解除した後で、ごめんなさいと喉を鳴らす。
相手が溶岩の鳥だったので、氷系の攻撃が有効と判断したセトだったが、まさか一度ブレスに命中しただけで墜落するとは思わなかったのだろう。
「あー……ほら。その、あまり気にするなって。俺もあんなにあっさりやられるとは思っていなかったし」
「グルルゥ?」
本当に? とレイの言葉に喉を鳴らすセト。
セトにしてみれば、本当に大きな失敗をしたという思いが強かったのだろう。
「十五階のモンスターとはいえ、ここまであっさり倒せるとは思わなかったしな。……それに、階層の中でもモンスターの強さに違いがあるのは、今までのことで分かっていただろう? あの溶岩の鳥がそうだとは思わなかったけど」
レイとしては、出来れば復活してくれないかという思いがそこにはあった。
溶岩の鳥が溶岩の川に落ちたのだ。
ましてや、溶岩の川の中を泳いでるような、そんなモンスターの姿もある。
であれば、溶岩の鳥にとって溶岩の川というのは、普通の鳥にとっての川や海のようなものである可能性もあるのでは? と、そう思えた。
実際レイが日本で見たTV番組の中では、どのような鳥かは覚えていないが、上空から海中に飛び込んで、泳いでいる魚を獲るというのを見た覚えがある。
(あ、鳥ってことなら、ペンギンもそうなるのか)
愛らしい鳥という認識の強いペンギンだが、海の中では魚を獲るハンターだ。
もっとも、溶岩の川の中を泳ぐペンギンというのがいたら、一体どういう存在なのだろうと思わないでもなかったが。
「ともあれ、あの溶岩の鳥については今は一旦忘れよう。またこの階層を通る時に遭遇するかもしれないし」
二十階に到達するまでは、レイとセトがダンジョンに潜る時はこの十五階から開始することになる。
二十階まで一気に移動するというのは、冒険者育成校の教官の仕事をしている以上はそう簡単に出来ることではないだろうから、行けると確信出来るまでは十五階にある転移水晶を使う必要があった。
「グルゥ」
残念そうにしながらも、セトはレイの言葉に仕方がないと喉を鳴らし……そしてレイとセトは十六階に続く階段の前まで移動する。
ギルムに帰る前に、この階段については既に見つけていた。
なので、ここまで来るのは特に苦労しなかった。
……これが普通のパーティなら、溶岩の階層ということで高温に対処する必要があり、それが出来なければ長時間この階層で行動は出来ないし、出来ても暑さ……いや、熱さによって体力を急激に消耗することになるのだろう。
「よし、行くか」
「グルルルゥ」
レイの言葉にやる気満々といった様子で、セトは階段を下りていく。
そして十六階に到達すると……
「うわ、これはまた……ジャングルか」
十六階に到達したレイとセトの目の前に広がっていたのは、まさにジャングルという表現の相応しい場所。
いかにも南国のジャングルといった様子で、様々な花が咲き乱れている。
(五階の森とは比べものにならないな)
このダンジョンにおいて、最初の転移水晶のある五階。
その五階はオークの生息地となっており、大量のオークが存在する森だった。
数え切れない程の木々が生えているという点では、この十六階も同様だったが、五階の森とは明らかに生えている植物が違っていた。
どこからか聞こえてくる、獣……いや、モンスターの鳴き声。
ただの鳴き声だけではなく、雄叫びのような声も別の場所から聞こえてきていた。
「うーん、これは……俺達にとっては悪くない場所か?」
「グルゥ! グルルルルゥ!」
レイの言葉にセトが同意するように鳴き、やる気満々といった様子を見せる。
セトにしてみれば、色々なモンスターがいるのだろうこの十六階は、かなり好ましい場所なのだろう。
レイにとっても、それは同じだったが。
「取りあえず今日は十七階に進むといったことはしないで、十六階を見て回るか。……五階の森の階層とか、十三階の背丈の高い草がどこまでも広がっている階層もそうだったが、かなり面倒というか、邪魔というか……空を飛べないのは痛いな」
ジャングルだけに、色々な木々が生えており、空を飛んでもその木々によって地上の様子を確認することが出来ないのは、レイやセトにとっては厄介だった。
つまりそれは、空を飛んで敵を見つけ、一方的に攻撃するといったことが出来ないのだから。
「グルルゥ?」
じゃあ、歩いて移動するの? と喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトを撫でつつ、頷く。
「そうだな。ここなら地上を移動した方がモンスターを見逃したりとかしにくいと思う。……それに、あの溶岩の鳥のように、空を飛んでいるモンスターを倒しても、溶岩の川に落ちるとかはないしな。……もっとも、ジャングルだけに、それはそれで空を飛んでいるモンスターを倒したら見つけるのが難しそうだけど」
地上には多種多様な木々の他に、色々な草も生えている。
中には十三階に生えていたのと同じくらい大きな草もあり、そのような草の中に倒したモンスターの死体があっても見つけるのは難しいだろう。
それだけではなく、草の中に隠れていても目で見て見つけるのは難しい。
「セトの五感……特に嗅覚だったり、気配を察知する能力が頼りだな」
「グルゥ!」
任せてと喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトと共に、探索を始める。
「この蔦とか、邪魔だな。……もしかして、この蔦とかも切断したら、ダンジョンの効果によって元に戻ったりするのか?」
ダンジョンの中では、破壊されると元に戻る物は多い。
それこそ十二階の岩の階層であっても、そこにある岩をレイがミスティリングに回収すると、少し時間は掛かるが、また同じような岩が復活するのだ。
であれば、ジャングルの中にある蔦……木々の間を繋いでいるような蔦を切断したところで、また明日になったら蔦が元に戻っている可能性は十分にあった。
「とはいえ、今日帰る時にここを通る時に蔦があると邪魔だし……」
レイはミスリルナイフをミスティリングから出すと、蔦を切断する。
デスサイズや黄昏の槍を出さなかったのは、ジャングルの中ではどうしても使いにくい為だ。
勿論、レイならデスサイズや黄昏の槍をジャングルの中でも使える。
だが、別に無理をしてまで使う必要はない。
敵が出てくれば話は別だったが。
「ん? セト、それ……」
蔦を切ってジャングルの中を進んでいたレイだったが、ふとセトが何かを見ているのに気が付く。
そんなセトの視線を追うと、その先にはかなり大きな果実があった。
赤い皮を持つその果実は、レイの顔程……あるいは顔よりも若干大きいくらいか。
「グルゥ!」
巨大な果実を見て、嬉しそうに喉を鳴らすセト。
いかにも南国の果物といった感じだけに、セトも興味を持ったのだろう。
(一階や二階、十三階の件を思えば、ダンジョンの中で果実が実るというのはそうおかしなことでもないのか? ……もっとも、十六階の果実ともなれば、そう簡単に出回ったりはしないだろうけど)
そもそも十五階まで来ることが出来る冒険者の数が、かなり少ないのだ。
そこから更に下の十六階ともなれば、当然ながら十五階よりも更に到達出来る冒険者の数は減るだろう。
(あ、でもどうだろうな。溶岩の階層と比べると、このジャングルの方がまだ行動はしやすいし。溶岩の階層を探索しないで、この階層に来る冒険者の数の方が多くてもおかしくはない……のか?)
レイやセトならドラゴンローブや元々の身体能力があるので溶岩の階層でも問題なく行動出来るが、普通の冒険者には難しい。
何らかの対策があっても、それを使って十五階を探索するよりも、十六階に来た方がやりやすいだろうことは明白だ。
(とはいえ、こうして周囲の様子を探っても……特に誰かいるような気配はないけど)
周囲の様子を確認しながらそう思うレイだったが、木々や草によって視界はかなり遮られている。
それを思えば、気配を誤魔化している相手がいた場合、見つけるのは難しいだろう。
もっとも……と、レイはセトを見る。
何らかの手段、それこそスキルやマジックアイテムでレイの感覚を誤魔化すことは出来ても、セトを誤魔化せるかというのは難しいだろうと思えたが。
「グルゥ? グルルルルゥ!」
レイの様子に、セトはどうしたの? と喉を鳴らし……そしてすぐに赤い果実を食べたいとレイに訴える。
「うーん、これ……本当に食べても問題はないのか? いや、セトのことだから、ちょっとくらいは問題があっても構わないんだろうけど」
セトだけに、多少の毒があっても普通に食べそうな気がしたレイだったが、そんなレイに向かってセトは食べたいと顔を擦りつけてくる。
そんなセトのやる気……もしくは食い気に、レイも抵抗出来ずに頷く。
「分かった。じゃあ、ちょっと切ってみるか。けど、セト。もしこの果実の中身が食べられそうにないような奴だったら、諦めるんだぞ?」
レイの勘でも何となく大丈夫だろうと思えるものの、ここはダンジョンだ。
そうである以上、何があってもおかしくはない。
「グルゥ」
レイの言葉にセトは大丈夫だと喉を鳴らす。
そんなセトを信頼し、レイはミスリルナイフで赤い果実を切ろうとし……
「ん? あれ?」
戸惑った声がレイの口から出る。
皮を切ったところで、コツリという感触がミスリルナイフの刃越しにあったのだ。
まさか皮の下に固い何かあるとは思わず、疑問を抱きながらもレイは皮を剥く。
ミスリルナイフを使っている為だろう、皮は容易に剥けていく。
皮を剥いて出てきたのは……
「え? これ、種?」
「……グルゥ」
戸惑ったように呟くレイに、セトも同様に戸惑った様子で喉を鳴らす。
そう、そこにあったのは、巨大な黒い種。
形としては、ひまわりの種に近い。
(あ、そう言えばひまわりの種って食べられるんだっけ? じゃあ、この種も……どうだろうな)
種を見ながら考えるレイだったが、考えるのはそれだけではない。
この果実――と表現していいのかどうかは既に微妙だが――からは、間違いなく甘酸っぱい香りが漂っていたのだ。
だというのに、皮を剥くとそこにあったのは種。
果実の香りは一体どこから来たのか。
そう思い、ふと剥いた皮を持ち上げると……その皮から、甘酸っぱい香りが漂っていた。
「って、皮からかよ。……えっと、セト、どうする? この皮を食べてみるか?」
「グルゥ……」
レイの言葉に、微妙な表情を浮かべるセト。
周囲に漂う甘酸っぱい香りは食欲を刺激するものの、だからといってこの皮を食べたいかと言われると……それがただの皮である以上、セトとしては好ましいとは思わない。
「となると……この種か。まぁ、果実じゃなくて木の実と考えれば、それはそれでありなのか?」
木の実の中には固い殻とでも呼ぶべき物を持っている種類もある。
あるいはこの果実もその一種なのではないかとレイは思ったのだが。
ただ、レイの前にあるのはあくまでも種であって、殻の類ではない。
「切ってみるか」
最終的にレイはそう決断し、ミスリルナイフの刃を種に当てる。
普通なら種を割るというのは、そう簡単ではない。
だが、レイが持っているのはただのナイフではなく、ミスリルナイフだ。
魔力を込めて切れば、種は容易に切断されていき……
「これは……多分、当たりか?」
「グルゥ」
レイの言葉に、セトも種の中身を見て喉を鳴らす。
種の中にあったのは、白い果肉……いや、果肉と表現してもいいのかどうかレイには分からなかったが、とにかく皮程ではないにしろ、芳醇な香りが漂ってくる存在だ。
「食べてみるか」
「グルゥ!」
ここまで変な果実……もしくは木の実だと、レイもその味がどうなのか気になる。
セトもそれは同様らしく、レイの言葉に同意するように喉を鳴らす。
ミスリルナイフを使って白い果肉を少しだけ切って、口に運ぶ。
「これは……美味いな」
口の中一杯に広がる芳醇な甘み。
それでいて、シットリとした食感をしており、これだけではなくもっと食べたいと思ってしまう。
「グルゥ……グルルルゥ!」
レイの様子を見て、自分も食べたいと喉を鳴らすセト。
レイはそんなセトに、白い果肉を切って渡すのだった。




