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レジェンド  作者: 神無月 紅
再びガンダルシアへ。

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4002/4043

4002話

「うう、俺達が……何でこんな……」

「ほら、しっかりしなさい。勝つのは無理でも、ダンジョンの中ではレイ教官やセトのような強い相手と……強い相手と……」

「おい、せめて言い切れよ。そうすれば多少は覚悟が決まるってのに」


 レイとセトと模擬戦をすることになった五人の生徒達は、最初から既に自分達が勝利するという未来がないのは予想出来ていた。

 それでも逃げないのは、やはりこれが模擬戦だからだろう。

 後は……五人の中の紅一点の女が口にしたように、もしかしたらダンジョンの中で何らかの理由によってレイやセトのような強者と戦うことになるかもしれないと思っているからだろう。


「よし、双方共に準備はいいな。……始め!」


 生徒達の方は本当に準備が良かったのかどうか、レイは分からない。

 レイから見ると、やる気に満ちているというよりは戸惑っているようにすら思えていた。

 しかし、そんな中でも教官の言葉を聞くと即座にやる気になって戦うつもりになっているのは、レイから見てもそれなりに感心すべきことだった。

 模擬戦用の槍を手にし、レイは五人の生徒達の様子を見る。


(可哀想だが……それなりに本気を出させて貰うぞ。そう言われてるしな)


 今日の模擬戦を考えた教官から、生徒達に圧倒的な実力差を見せて欲しいと言われている。

 レイが暫くの間ガンダルシアにいなかったので、そのことでレイの強さを侮る……とまではいかないが、その強さに疑問を抱くような者も出て来たらしい。

 生徒達の中では本当に少数だが、それでもそのような者がいるのも事実。

 また、レイがギルムに帰っている間に新しく冒険者育成校に入学した生徒もいる。

 特に後者は、レイの実力を話では聞いているものの、実際に自分の目ではみていない。

 そういう意味でも、今回は……レイが教官に復帰してから初めての模擬戦である以上、その実力をしっかりと見せつける必要があった。


「グルルルゥ!」


 模擬戦が始まって最初に動いたのは、セト。

 喉を鳴らしながら、生徒達の後ろに回り込んでいく。

 その鳴き声は、生徒達の注意を自分達に向けるかのようなもので、実際にその鳴き声を聞いた生徒達は思わずといった様子でそちらに視線を向けてしまう。

 ……それがセトの、そしてレイの狙いであるとも気が付かず。

 生徒達の意識が同時にセトに向けられたのを見た瞬間に、レイは模擬戦用の槍を手に前に出た。

 地面を蹴って一気に間合いを詰めるレイ。

 生徒達はそんなレイの行動に気が付かず……


「注意力散漫だ」


 その言葉と共に、模擬戦用の槍を振るう。

 横薙ぎに振るわれた槍は、生徒達の一人の胴体を激しく叩き、吹き飛ばす。


「え?」


 いきなり自分の仲間の一人が吹き飛ばされたことに、残りの生徒の一人がそんな声を上げつつ、一体何があったのかと思いながら前を見て……


「が……」


 レイが石突きで下から掬い上げるような一撃を放ち、声を上げた生徒の顎を掠める。

 顎の先端を揺らされ、脳震盪を起こして気絶し、そのまま地面に崩れ落ちた。

 ここまでされて、残り三人はようやく自分達がレイに攻撃されているということに気が付くものの、武器をレイに向けようとした瞬間、回り込んだセトが背後から生徒達を襲い、一人が前足の一撃で吹き飛ばされる。

 残り二人。

 その二人は自分達だけが生き残りになったと理解したものの……


「痛っ!」

「ちょっ!」


 意思疎通が上手くいってなかったのか、それとも混乱のあまりそこまで考える余裕がなかったのか、動こうとしたことで身体がぶつかり、地面に倒れ込んでしまう。


「はぁ」


 醜態……そう評しても決して間違いではない、二人の生徒の動き。

 それに呆れたように息を吐きながら、レイは模擬戦用の槍の穂先を倒れている生徒の一人の顔に突きつける。

 その隣では、残り一人もセトの鋭いクチバシを突きつけられていた。


「そこまで!」


 模擬戦を仕切っていた教官の声が周囲に響き、それによって模擬戦は終わる。


「あ……」


 レイに模擬戦用の槍の穂先を突きつけられていた生徒が、自分でも気が付かないうちにそんな声を出す。

 最後の最後で自分達がやらかしたミスがどれだけ大きいのか、それを理解したのだろう。


「一応言っておくが、動揺したからといって仲間とぶつかって、戦闘も出来ないで転ぶというのは……戦いの中で下から数えた方がわかりやすいくらいの、情けない行為だぞ」

「……はい……」


 レイの言葉にショックを受けた様子で、それでも何とか返事をする生徒。

 生徒も、まさか自分がこんなミスをするとは思ってもいなかったのだろう。


「そっちもだぞ」

「……はい」


 セトにクチバシを突きつけられた生徒も、レイの言葉にそう返す。


(力を見せるという意味では悪くなかったと思うけど……生徒達、本当に大丈夫なんだろうな? 六組の生徒なんだから、冒険者育成校の中ではそれなりに腕の立つ者達が揃ってるんだろうけど)


 腕が立つという自信はあったものの、レイとセトを相手に何も出来ず……本当に何も出来ず、一度の攻撃すら行うことも出来ずに負けてしまったのだ。

 それは生徒達にとって決して好ましくない出来事だろう。

 トラウマになったりしないよな?

 そうも思うレイだったが、この程度でトラウマになっているようでは、冒険者としてやっていけないだろうと思い、それ以上は何も言わずに生徒達から離れる。


「グルルゥ」


 セトもまた、レイが離れたのを見て自分も離れる。


「さて、取りあえずこれで模擬戦は終わったんだが……時間はまだあるけど、どうする?」


 模擬戦用の槍を手に、レイはそう尋ねる。

 尋ねる相手は模擬戦を仕切っていた教官だ。


「あー……そうだな。最後がちょっとアレだったし……」


 アレって何だよ。

 そう突っ込みたくなったレイだったが、自分でやらかしたことについては十分に理解していたので、その件については何も言わないでおくことにする。


「レイ、もう一度模擬戦をやってくれないか?」

「は? 俺か? いやまぁ、構わないけど」


 他の教官達がやった模擬戦と比べると、レイの模擬戦はあっという間に終わった。

 実際。レイの体力的な消耗は殆どない。

 今の状況で再び模擬戦をやれるかと言われても、レイにとっては全く何の問題もない。

 実際、構わないと言ってるのを見れば明らかだろう。


「じゃあ、頼む」

「構わないけど、今度は何人を相手にしてだ? 生徒全員でも俺は構わないけど」


 それは強がりでも何でもない。

 ……そもそも、以前は模擬戦において生徒全員をレイだけで相手にするということは何度も行っているのだから。

 そういう意味では、寧ろ生徒五人でレイを……いや、レイだけではなくセトも同時に相手にしろという先程の模擬戦がどれだけ厳しいのか、非常に分かりやすい。

 寧ろ先程の五人は、レイとセトを相手に逃げ出さなかっただけでも、よく頑張ったと言ってもいいのかもしれない。

 それを聞いた先程の生徒達が、喜ぶかどうかはまた別の話だが。


「そうだな。それもいいか。……お前達、どうだ? レイを相手に生徒全員で模擬戦をやるか?」


 そう声を掛けられたのは、生徒達。

 最初は自分達にそのようなことを言われるとは思っていなかったのか、少しだけ驚いた様子を見せた生徒達だが……やがて、クラスの中でも強者として知られている人物が口を開く。


「やります! やらせて下さい!」


 その言葉が切っ掛けとなったのか、他の生徒達もやる気を見せる。

 ……そんな中で、先程レイとセトを相手に模擬戦をした五人だけは、微妙な表情を浮かべていたが。

 レイの強さは知っていた。セトの強さも知っていた。

 だが……それでも、レイとセトを同時に相手にして、本当に何も出来ず……文字通りの意味で手も足も出ずにやられてしまったのだ。

 それだけに、生徒達の数が多いとはいえ、模擬戦が模擬戦として成立するのかどうか、心配に思ってしまったのだろう。


(仕方がない、か)


 そんな生徒達の様子を見れば、その状況で自分とセトが一緒に戦うというのは、向こうにとっては全く勝ち目のない戦いでしかないだろうと理解し、レイはそんな生徒達にやる気を出させようと口を開く。


「これから行う模擬戦は、俺とセトじゃなくて、俺だけでやる」

「えー……どうせなら、セトも一緒の方がいいのに」


 先程レイやセトの模擬戦には参加していなかった生徒の一人が、レイに向かってそう告げる。

 それが本当にそう思っての言葉なのか、強がりからの言葉なのか。

 それはレイにも分からなかったが、レイが何かを言うよりも前に、先程レイと模擬戦をした生徒の一人が窘めるように言う。


「レイ教官とセトが一緒だったら、とてもじゃないが勝ち目はないんだ。それくらいはお前にも分かるだろう? さっきの模擬戦は見ていた筈だ」

「それは、お前達が弱かったからだろ」

「ほら、そこまでにしろ。言い争いをするのはいいが、実力については今から行う俺との模擬戦でしっかりと見せればいい」


 レイの言葉に若干険悪になりそうだった二人も、それ以上は何も言わずに模擬戦の準備を行う。

 そうして全員の準備が出来たところで、早速模擬戦が始まる。


「もう戦闘不能だと判断した時は、教官達が止める。止められた者はそれ以上レイとの模擬戦を続けようとはしないように。いいな? ……では、始め!」


 模擬戦を仕切っている教官の言葉と共に、生徒達のうち弓を手にした数人がレイに向かって一斉に矢を射る。

 勿論、この矢は先端が潰されており、命中しても刺さるようなことはない。

 ……その代わり、打撲による痛みがあるが。

 とはいえ、それはレイに命中すればの話だ。

 レイは前に進みつつ身体を少し動かすだけで矢を回避し……そんなレイに向かい、長剣を手にした生徒達が一斉に襲い掛かってくる。

 勿論、一度に戦闘出来る者の数は限られているので、長剣を持った生徒達は左右に分かれ、中にはレイの背後に回り込もうとする者もいたが……


「遅い。包囲するなら、もっと素早くやれ」


 そう言いつつ、レイは右側に回り込もうとした相手を槍で突く。

 槍の穂先は潰されているが、それでも胴体に命中すれば十分な痛みと……何より槍の威力によって、生徒は吹き飛ばされてしまう。

 当然ながら、生徒が吹き飛ばされたというのは、レイを包囲しようとした包囲網が崩れたということになる。

 レイはその場所から素早く抜け出し……他の生徒はそうはさせじと、何とか包囲網の中にレイを残そうと動くが、そもそもの身体能力が違った。

 せめてもの反撃とばかりに長剣が振るわれるものの、その長剣がレイの身体……どころか、ドラゴンローブにすら命中するようなことはなかった。

 包囲網から飛び出したレイは、その場で反転……するのではなく、包囲網の背後にいる槍を持った生徒達に向かう。

 長剣を持った生徒達がレイを包囲したら、槍を持った生徒達は槍という武器の間合いの長さを活かし、レイに攻撃しようとしたのだろう。

 実際にその選択肢は間違っていない。

 誤算だったのは、レイの動きが生徒達が予想していた以上のものだったことだろう。

 生徒達も、別にこれが初めてレイとの模擬戦という訳ではない。

 レイが教官を始めた春から、ギルムに戻るまでの間に、それなりに模擬戦は行われていた。

 だが、ギルムに行ったことで暫く模擬戦をやっておらず、その間にレイとの模擬戦についての感覚を忘れてしまっていたのだろう。

 生徒達は覚えているつもりだったかもしれないが、実際には忘れていた。

 もしくは、自分でも意図しないうちに甘く見ていた。

 結果として、レイが素早く、そして連続して突きを放つと、それを受けた生徒達が吹き飛んでいく。


「ああっ! くそっ、前衛は何をしてるんだよ!」


 槍を持つ生徒の一人が叫ぶ。

 レイの突きによって吹き飛ばされた生徒達と違い、その生徒はまだ戦闘不能になっていない。

 ……単純に、レイの突きの範囲外にいた為に無事だった生徒だ。


「うるせえっ! そんなに言うなら、お前がやってみろよ!」


 長剣を持つ生徒の一人が、苛立ちに叫びながらもレイに向かって襲い掛かる。


「馬鹿か。攻撃をするのに、声を出してどうする」


 呆れたように言い、レイは振り向きざまに槍を振るう。

 横薙ぎに振るわれた槍は、叫んだ生徒の胴体にまともにぶつかる。

 咄嗟に防ぐことも出来なかった生徒達に呆れるレイだったが、このクラスでは仕方がないかと、そのまま吹き飛んだ生徒を見やり……


「甘い」


 先程の言葉を聞いた為か、言葉を発さずにレイに襲い掛かってきた生徒の一撃をあっさりと回避しつつ槍が振るわれ、その生徒もまた吹き飛んでいくのだった。 

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