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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3989/4012

3989話

「え? 本気か?」


 戸惑って尋ねるレイに、ニラシスは頷く。


「勿論本気だ。……レイのドワイトナイフだったか? それを使えば、解体は一瞬で出来る。それは非常に楽なことだが、それが出来るのはあくまでもドワイトナイフを持っているレイだからだろう?」


 確認するように尋ねるニラシスに対し、レイが出来るのは頷くことだけだ。


「ああ、そうだ。これは魔法じゃなくて、あくまでもマジックアイテムの効果だしな」


 そう言いながらも、レイはふと気が付く。

 ドワイトナイフが壊れた時の為に、ドワイトナイフと同じ効果を持つ魔法を作るのもいいかもしれない、と。

 もっとも、レイの魔法属性は炎に特化している。

 炎以外の魔法も使えない訳ではないが、ちょっとした効果の魔法を使うのに驚く程の魔力を消費しなければならない。

 そういう意味では、もし解体用の魔法を作るにしても炎属性でどうにかするか、あるいは炎属性以外の魔法にして大量に魔力を消費するかといったことになる。


(無理っぽいな)


 改めてそう思いながらも、レイはニラシスとの会話を続ける。


「だからこそだ。ガンダルシアの冒険者ならダンジョンを攻略するのが基本だから、モンスター以外を解体する機会は殆どない。あるとすれば……護衛なりなんなりの依頼をギルドから受けて、ガンダルシアの外に出た時くらいか」


 ガンダルシアは辺境ではないので、街の外には強力なモンスターはいない。

 代わりに盗賊がいたりするが。

 他にも動物の中には獰猛な個体もおり、そのような動物を倒した時に解体出来るようにしておきたいというのが、ニラシスの意見だった。


「どうだ? 幸い……って言っていいのかどうかは分からないが、まだ夕方前だ。今から解体して料理をすれば、夕食には丁度いいんじゃないか?」

「そうだな。じゃあ、そうするか」


 わぁっ、と。

 レイの言葉を聞いて生徒達が歓声を上げる。

 え? と、レイはそんな歓声に驚く。

 今の自分とニラシスの会話のどこに歓声を上げる要素があったのかと。

 鹿肉を食べられるのが嬉しいと思ったのかもしれないが、それなら生徒達が解体をせず、ドワイトナイフを使って解体した方が手っ取り早い。

 寧ろ生徒達が解体した場合、その技量はそこまで高くないので、食べられる部位を減らしたり、あるいは食べられなくしたりといったことになってもおかしくはないのだ。

 だからこそ、レイとしては鹿肉を食べたいだけなら自分が……と思っていたのだが。


(鹿を解体するのが楽しみだったのか? ……一体何で?)


 そう疑問に思うレイだったが、既に生徒達はアーヴァインが先頭に立って指示を出し、解体の準備に入っている。

 その様子を見れば、レイが予想したように鹿を解体するのを楽しみにしているのは間違いない。


「なぁ、ニラシス。一応聞きたいが……生徒達はダンジョンで倒したモンスターは普通に解体してるんだよな?」


 レイ達が野営をしていた場所には何本かの木が生えており、アーヴァイン達は紐を使って鹿の死体を枝にぶら下げる。

 そんな光景を見ながらレイがニラシスに声を掛けると、こちらもレイと同じ光景を見ながら頷く。


「そうだ。でないと、素材や魔石をギルドに売れないだろう? もっともギルドにはたまに素材の一部ではなく、死体を丸ごと売ってくれという依頼もあったりするが」

「何に使うんだ? ……まぁ、いいけど。とにかくモンスターの解体についてはそれなりに慣れているのに、何で鹿の解体をあそこまで喜んでやるのか、俺にはちょっと理解出来ないんだが」

「モンスターと動物は違うだろう」


 何を言っている? と至極当然といった様子で言うニラシス。

 そんなニラシスを見て、あれ? 変なのは俺なのか? と疑問を抱くレイだったが、取りあえずその辺りに触れるのは止めておく。

 動物の解体が生徒達の為になるのなら、わざわざその辺りを突っ込んで問題にする必要もないだろうと。


「分かった。なら、解体については生徒達に任せておくよ。俺は解体が終わるまで適当にしている」

「そうしてくれ。レイには料理をして貰うんだから、今は休んでいて構わない」

「分かった。ニラシスがそう言うのなら、俺は暫くゆっくりさせて貰うよ」


 ニラシスの言葉に、レイはそう言ってその場から離れる。

 解体については生徒達とニラシスに任せておけば問題はないだろうと判断したのだ。


「グルルゥ」


 そんなレイに向かい、こちらも解体する様子を見ていたセトが近付いてくる。

 喉を鳴らすセトに、レイは笑みを浮かべてその身体を撫でる。


「……ん? 濡れているな。セト、どこかで川か何かに入ってきたのか?」


 セトの体毛や羽毛がしっとりと濡れているのに気が付き、レイがそう尋ねる。


「グルルゥ!」


 レイの言葉にセトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 川に入ったのが何故嬉しかったのかレイには分からなかったが、セトの機嫌がいいのなら、レイはそれで構わないだろうと詳しい話を聞かないでおく。


(川か。……水遊びでもしたかったのかもしれないな)


 セトは昼の砂漠も、真冬に吹雪いている夜であっても、特に気にせず外で眠ったり出来る。

 そんなセトだけに、真夏の今であっても本来なら暑くは思わない。

 思わないのだが、それでも夏に水遊びをするのはセトにとっても楽しいのだろう。

 今日は時間に余裕があったので、いっそセトが水遊びをした場所に行って水遊びをしてもよかったのではないかと、レイには思える。

 結局今日の午後は模擬戦を行ったので、水遊びをする余裕はなかったのだが、次に同じような機会があったらそうしてもいいだろうと思いつつ、レイはセトと暫く遊ぶのだった。






 夕方近くまでセトと一緒に遊んでいたレイだったが、そろそろ夕食の準備をしようと、解体をやっている場所に向かう。


「ニラシス、解体は……どうやらもう大体終わっているようだな」


 木の枝に吊した鹿は、既に骨となっている。

 レイがセトと遊んでいる間に、アーヴァイン達は解体を進めたのだろう。


「ああ、もう大体終わったところだ」

「ニラシスから見た感じ、どう思った?」

「悪くなかったんじゃないか? 俺から見れば色々と拙いところはあったけど、それでも慣れない割にはそれなりに上手くやってると思う」


 それは、ニラシスは自分ならもっと上手く出来たと、そう言いたいのは明らかだった。

 ニラシスから見れば、やはり自分の解体技術にはまだまだ及ばないと思っているのだろう。


(ニラシスはベテランの冒険者だし、解体についてはそれなりに技術があるのは当然だと思うんだけどな)


 そもそもベテランで、相応の強さがあるからこそ、冒険者育成校の教官として雇われているのだ。

 もし技術が未熟なら、フランシスもわざわざニラシスを雇うようなことはしなかっただろう。

 その場合は、もっと別の冒険者を雇っていたのは間違いない。


「本当なら、肉は何日か置いた方が美味いんだけどな」


 これがモンスターの肉なら、種類にもよるが基本的に熟成をしなくても十分に美味い。

 勿論、熟成させた方がより美味くなる肉もある。……それとは逆に、熟成させることによって味が落ちる肉も多い。

 そんなモンスターの肉とは違い、動物の肉というのは解体したばかりだとそこまで美味くはない。

 とはいえ、それでもやはりこうして自分達で解体した肉をその場で焼いて食べるとなると、そのようなシチュエーションによって、十分に美味いと思えるのだろうが。


「仕方がないだろう。それに……置いておくとかすれば、それこそ腐ってしまうかもしれないし」

「……夏じゃなければな」


 夏だけに、熟成をするのは難しい。

 レイのミスティリングに入れておけば肉は腐らないが、それは同時に熟成しないということも意味していた。

 そうである以上、やはりここは今日この場で解体した肉を全て食べてしまった方がいい。


(骨とかも出汁には使えるんだろうけど……どうだろうな。豚骨スープならぬ、鹿骨スープとか? ……どうやって豚骨スープを作るのか分からないと、どうしようもないけど)


 うろ覚えの漫画の知識だと、骨を洗ってから強火で炊き続けるというものだった筈だが、鹿の骨でそれをやってみようとは思えなかった。


「止めておくか」

「ん? 何がだ?」


 レイの呟きを拾ったニラシスが、不思議そうに聞いてくる。

 そんなニラシスに、レイは何でもないと首を横に振る。


「折角アーヴァイン達が解体した鹿なんだし、鹿の骨を何かに使えないかと思ったんだが、何も思いつかなかったんだよ」

「骨……か。世の中には軽く茹でた動物の骨をサクッと噛み切って食べる奴もいるらしいけどな」

「マジか」


 ニラシスの言葉は、レイを驚かせるには十分だった。

 普通に考えて、骨を噛み切るといったことをして食べるとは思えない。

 これが例えば、魚の骨……それも小さな魚の骨であれば、一匹そのまま食べるといったことも可能だろう。

 それなりに大きな魚であっても、背骨は無理でも腹骨くらいなら噛み千切れる。

 だが……それが鹿の骨ともなると、話は違う。

 それこそゼパイル一門が作った身体を持つレイであっても、鹿の骨を……あるいはそれ以外の動物の骨を噛み切るようなことが出来るとは到底思えなかった。


「ああ、獣人に多いな」

「……ああ、なるほど」


 そう言われれば、レイにも納得出来た。

 獣人の歯なら、普通の人間と比べてより硬い物を噛み切れたとしても、おかしくはないのだから。


「言っておくが、あくまでも獣人に多いと言っただけで、普通の人間でも同じように骨を噛み切るような奴はいるぞ」

「マジか」


 先程と全く同じ言葉を口にするレイ。

 そんなレイの様子に、ニラシスは珍しい光景を見たと笑みを浮かべるのだった。






 解体が終わり、汚れた部位もレイが流水の短剣を使って出した水で洗うと、少し早いが夕食の時間となる。


「これが、鉄板……やっぱり凄い。屋台とかで使うような鉄板じゃないですよね、これ?」

「正解だ。前にも言ったと思うが、この鉄板は元々屋台用に作られたマジックアイテムなんだよ」


 ビステロの言葉にレイはそう返す。

 実際、この鉄板は屋台用の調理器具を売っている店で購入した鉄板なのだ。

 ……正確には、店の倉庫で埃を被っていたというのが正しい。

 勿論それは比喩なのだが。

 錬金術師に高い金を出して作って貰ったマジックアイテムだ。

 それだけに高額になり、屋台で使う調理器具としてはとてもではないが買おうとする者はいなかったが、そのような高級品だけに下手に傷を付けないように、布で覆って傷が付いたり、埃が積もったりしないようにしていた。


「屋台用って……一体何を考えて……」


 レイの言葉に、そして何より実物を目の前にして、イステルは頭を押さえる。

 イステルにとって……いや、大半の者にとって、屋台用のマジックアイテムというのは、そんな物を普通作るか? といったように思えてしまうのだ。

 実際には、あまり表に出ないだけでそれなりにあるのだが。

 例えば冷たい果実水を出す屋台で使っている冷蔵用のマジックアイテムが分かりやすいだろう。


「じゃあ、肉を焼くぞ、……いや、その前に切り分ける必要があるが、どのくらい食べる? とはいえ、足りなかったらまた焼けばいいから、そこまで神経質になる必要はないだろうけど」


 そう言うレイに、アーヴァイン達はそれぞれ自分の食べたい分の肉を切っていく。

 ……鹿を解体するのは今日が初めて、あるいは一度か二度経験があるといった程度だったが、幸いなことにモンスターの解体については生徒達もダンジョンで慣れている。

 その為、鹿の解体は慣れないながらも、それなりに綺麗に解体されていた。

 下手な者が解体すれば、肉の塊が小さくなったり……場合によっては、全て細切れ肉になってもおかしくはない。

 細切れ肉も炒め物の具として使えば問題はないが、今日のようにステーキとして食べるのには向いていない。

 それこそこの鉄板を購入した時に作った焼きうどんを作るのには、細切れ肉は向いているのかもしれないが。


「味付けは、塩と胡椒だな。他にも幾つか香辛料があるから、気になる奴は使ってもいい。それと香草もあるぞ」


 そう言いながら次々に香辛料や香草を出していくレイ。


「……香辛料……」


 鉄板の縁、熱くない場所に置かれた香辛料を見て、誰かが呟く。

 香辛料は種類によって同量の砂金と同じ価値を持ったりする物もある。

 それを知っていれば、レイの出した香辛料を使ってもいいのかと、そのように思うのはおかしな話ではない。

 レイにしてみれば……いや、ギルムでは緑人のお陰でどの香辛料もそれなりに買えるようにはなっているのだが、どうやらニラシス達はそれを知らなかったらしい。

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