3982話
「これはまた……」
盗賊達が貯め込んだお宝のある部屋。
宝物庫と呼ぶのは少し……いや、大分大袈裟だが、それでもレイが見た限りではかなりのお宝がそこにはあった。
特に多いのは宝石で、かなりの数が置かれている。
「全部、盗賊として集めたのか?」
「はい」
盗賊はレイの言葉に素直に答える。
他の仲間はレイによって――盗賊はまだレイの正体について気が付いてはいないが――殺され、自分だけが生き残った。
そうである以上、何とかして殺されずに生き残る。
その為には、レイの質問には可能な限り答える必要があった。
「その割には結構な量だが……これ、全部お前達が集めたのか? 別にこの辺は有名な街がある訳でもないだろう?」
これが例えば、迷宮都市であるガンダルシアの周辺にいる盗賊達なら、あるいはダンジョンから見つかったマジックアイテムや素材、あるいはそれを購入する為の資金であったり、売った結果手に入れた金であったりということもあるかもしれない。
だが、レイが知る限り、この辺りに何か特別に有名な街があったりはしない。
それなのに、何故こうして結構な量のお宝があるのかレイには分からなかった。
「その、これは盗賊として手に入れたお宝なのは間違いありませんが、お頭が気に入ったのは売ったりしないので、そういうのは残ってます」
「……ああ、なるほど。そういうことか」
金貨や白金貨がそれなりにあるが、それ以上に多いのは宝石の類だ。
それも以前レイが他の盗賊を襲った時に見つけたように、革袋に宝石を纏めて入れておくといったような保存方法ではなく、一つずつきちんとケースに入れられて保存されている。
それはつまり、この宝石を集めた者……セトが殺してしまったお頭は、宝石の取り扱いについて十分に理解していたということなのだろう。
(あるいは、盗賊になる前は宝石関係の仕事をしていたのかもしれないな。……今更考えても意味がないけど)
既に死んでいるし、何より盗賊だったことを思えば、そのような相手のことなど考えるまでもない。
「つまり、今日みたいに闇商人が来ても、全部が全部を売っていた訳ではないんだな?」
「そうなります」
盗賊の言葉に、それならこうして結構なお宝が残っていた理由にも納得出来た。
「ともあれ、これは全部俺が貰う。……問題はないな?」
「はい」
本音を言えば、盗賊としては今日生き残っても食べていく手段がない以上、宝石の一つや二つ、あるいは白金貨とまでは言わないが、金貨や銀貨の数枚くらいは欲しい。
欲しいのだが、もしここでそれを言おうものなら即座に殺されてしまうのは間違いないというのも理解出来たので、盗賊に出来るのはレイの言葉に反論はせず、素直に頷くだけだった。
盗賊が頷いたのを見て、レイは金や宝石、それ以外にも美術品なのだろう絵画や彫刻の類をミスティリングに入れていく。
「え?」
そんなレイの様子に、盗賊は思わずといった様子でそんな声を出した。
レイをレイだと……盗賊喰いと呼ばれる人物だと知らない盗賊にしてみれば、レイが一瞬にして宝石の入ったケースや絵画、彫刻、金貨や白金貨の入った革袋をどこに消したのか全く理解出来なかったのだ。
当然ながら、レイもそんな盗賊の様子には気が付いていたものの、それで自分が誰なのかというのをわざわざ説明するつもりはない。
レイは盗賊の様子を気にせず、次から次にミスティリングに収納していく。
驚きつつもそんな様子を見ていた盗賊だったが、ふと気が付く。
もしかして、目の前にいる人物は盗賊喰いと呼ばれているレイなのでは? と。
レイがアイテムボックスを持っているというのは、広く知られている事実だ。
そんなアイテムボックス持ちが盗賊を討伐しにきたのだから、同一人物であると思ってもおかしくはない。
あるいは……本当にあるいはの話だが、アイテムボックスは持っていても、それは本当の意味でのアイテムボックスではなく、廉価版なのではないかと思う。
……いや、そうであって欲しいと願うというのが正しい。
収納出来る量が決まっている廉価版のアイテムボックスは、非常に高価ではあるが、それでも使用者はそれなりにいる。
そのような者が、何らかの理由で野営をしていて、そこで襲われ、撃退して捕虜にした者からこのアジトの場所を聞き出してやって来たのだと。
そう思いつつ、同時に近くの街に潜り込ませている仲間からの連絡がなかったのを思い出し、同時に盗賊喰いのレイは深紅の異名を持ち、グリフォンを従魔としていることを思い出す。
グリフォンは空を飛べるので、わざわざ街に寄ったりはしないで移動出来る。
それらの諸々を考えると……盗賊の顔にはびっしりと汗が浮かんでいた。
「……どうした? そんなに暑くはないだろ」
お宝を全て収納したレイが振り向くと、盗賊の顔には汗が浮かんでいる。
ここは洞窟の中ということもあって、外よりは暑くない筈なのにだ。
……もっとも、レイの場合はドラゴンローブがあるので暑さや寒さは気にならないので、実はそれなりに洞窟の中が暑いという可能性も否定出来なかったのだが。
「い、いえ。その……ですね。まだ貴方の名前を聞いてなかったと、そう思いまして」
声が震えるのを何とか抑えながら……自分の予想が外れていてくれと、心の底からそう思いつつ、盗賊はレイに尋ねる。
そんな盗賊の言葉に、そう言えばと思い……だが同時に、わざわざ盗賊に自分の名前を教える意味があるのか? とも思う。
ましてや、レイはこの盗賊を殺すと決めているのに。
(いや、けど……そうだな。冥土の土産って言葉もあるしな)
そう考え、レイは素直に口にする。
「レイだ」
「……そうですか」
レイという名前は、そこまで珍しい名前ではない。
それこそ街中で探せば、数人……場合によっては十人以上いてもおかしくはないくらいにはメジャーな名前だ。
だが、レイという名前の冒険者で、盗賊のアジトを一人で襲撃するような者となれば、それは盗賊喰いと呼ばれるレイしかいない。
いや、もしかしたら他にもレイという名前の冒険者で盗賊を好んで襲う者もいるかもしれないが。
ただ、それでもやはり目の前にいるレイと名乗る人物が、実は本物の……深紅の異名を持つレイの可能性の方が高いのは明らかだった。
「よし、じゃあ次に行くぞ。まずは檻に捕らえられていた者達を出す。……とはいえ、闇商人のことを考えると、どこかに隠れておくように言うべきか」
闇商人が来た時、違法奴隷として売られる予定の者達が檻から出て自由にしているのを見れば、どう考えても怪しまれる。
なら、どうするか。
幸い、周囲は森である以上、隠れる場所は幾らでもある。
難点なのは、動物……熊や猪が襲ってこないかということだろう。
あるいはゴブリンやオークといったモンスターと遭遇する可能性もある。
だが……そんな諸々については、考えても意味はないだろう。
それこそ何があるか分からないのだから。
(あ。でもそうだな。お宝があった部屋に纏めておくというのならありか? ……闇商人はすぐに殺してしまえば、あの場所に行くようなことはないだろうし。そうだな、捕らえられていた者達に選ばせればいいか)
そう考えていると、先程の場所……レイに従っている盗賊以外が全員死んだ場所まで戻ってくる。
「お前はその死体を入れる穴を外で掘ってこい。言っておくが、逃げられるとは思うなよ。外にはセトがいるからな」
「はいっ!」
レイの言葉に、盗賊は慌てたように返事をして走り去る。
そんな盗賊を見送ると、レイは鍵を持って檻のある場所に向かう。
「待たせたな。これから檻を開ける。……で、それからどうするのかはお前達に任せる。実はこれから闇商人が来るんだが、俺の狙いはそいつだ」
これが例えば盗賊ではなく普通に山の中で暮らしている者に、行商人が商売をしにやって来たのなら、襲われれば警備兵に知らせたりも出来るだろう。
だが、闇商人は仕事が仕事である以上、そのようなことは出来ない。
違法奴隷を扱っていたり、盗賊が襲撃によって手に入れたお宝を買い取ったりといったことをしてるのだから、公に出来る筈もない。
だからこそ闇商人は護衛を雇ったり、あるいは元冒険者のような者が闇商人をやったりしている。
……とはいえ、例え元冒険者であろうとも、もしくは護衛がいようとも、レイにしてみれば相手にもならない。
ランクA冒険者並の強さを持っていれば、対象はレイに抵抗も出来るかもしれないが。
「その、どうすればいいのでしょうか?」
「そうだな。俺から出せる選択肢は二つだ」
レイが檻の鍵を開けると、そこから出て来た者達のうち、疲れた様子の男がそうレイに聞いてくる。
「まず一つはこの洞窟の中の奥、盗賊達のお宝があった場所に隠れている。もしくは洞窟から出て森の中に隠れる。……まぁ、さっさとどこかに行きたいというのなら止めようとは思わないが。どうする?」
尋ねるレイに、捕まっていた者達は小声で相談する。
そんな中で、盗賊達に汚された女は何も口を開く様子はない。
レイもそちらには触れないようにして、どうするか決めるように捕まっていた者達に尋ねる。
「それで、どうする?」
「どっちが安全ですか?」
「無難なところだと洞窟の中だろうな。森に隠れていると、動物とかモンスターに襲われる可能性もあるし」
「……なら、洞窟で。いいよな?」
どうやらレイと話している男が、捕まっていた者達の中でもリーダー格なのだろう。
そんな男の言葉に、話を聞いていた者達は頷く。
「そんな訳で、洞窟の奥でお願いします」
「分かった、こっちだ。案内する」
勝手に奥に行けとは言えず、レイは先程までいた場所まで捕まっていた者達を案内する。
途中、盗賊達が死んでいる場所を通ると何人もが息を呑んだが、盗賊達に汚された女達は、死んでいる盗賊達を見て嬉しそうに笑っていたが、死体に近付いて殴る蹴るといったことをしなかった。
そこまでする程には恨んでいないのか、死体にそのようなことをしても意味はないと判断したのか。
それはレイにも分からなかったが。
ともあれ、そうして洞窟の奥に到着すると、レイはここで待ってるように言う。
「闇商人が具体的にいつ来るか分からないから、それまではここで待っていてくれ。ついでにこれも」
そう言い、レイはサンドイッチや果実水を取り出す。
突然出て来たサンドイッチや果実水に、捕まっていた面々は驚いた様子を見せるが、レイはそれを気にせず口を開く。
「じゃあ、俺は行くからここで待っていてくれ」
そう言い、レイはその場を後にする。
洞窟から出ると、少し離れた場所にはセトがいて、その側では生き残りの盗賊が必死になって穴を掘っていた。
「まだこんなものか」
「そ、そんなことを言われても……」
盗賊にしてみれば、自分一人で穴を掘っているのだ。
また、掘り始めてからそんなに時間は経っていない。
そこまで深い穴を掘られる訳がないというのが、男の意見だった。
「まぁ、いい。上がってこい。ここで無駄な時間を使えないしな」
「……分かりました」
男は不満そうな様子で穴から出てくる。
そんな男を横目に、レイはミスティリングからデスサイズを出すと口を開く。
「地形操作」
スキルが発動し、男が掘っていた穴は瞬く間に深くなっていく。
十五m程の深い穴。
それを見た盗賊の男は、唖然とした表情を浮かべる。
一瞬にして深い穴を作ったレイの様子に驚きながら、同時に不満も漏らす。
「こういうことが出来るのなら、俺が穴を掘る必要はなかったのでは?」
「不満か?」
「いえ! そんなことはありません!」
レイの言葉に不愉快さを感じたのだろう。
男は慌ててそう叫ぶ。
ここでレイを不愉快にさせても、それは自分の身が危険になるだけなのだと、理解したからだ。
そんな男にレイは続けて指示を出す。
「洞窟の前の死体と、洞窟の中にある死体を持ってきて、この穴に入れろ」
「は!」
即座に返事をし、盗賊の男は走り去る。
「グルゥ!」
「悪いな、セト。見送りを頼む」
見張りに向かうと喉を鳴らしたセトを撫でる。
そんなレイの行動に、嬉しそうな様子を見せつつ、セトは男を追う。
すると、洞窟の前にある死体を男が引っ張ってくる。
死体というのは、運ぶのにかなり力を使う。
それでも盗賊をやってるだけあってそれなりに力がある為、死体を運ぶのにそこまで苦労しているようには見えなかった。
穴の前まで来ると、レイは視線で死体を穴の中に入れろと言い……それを見た盗賊は、すぐに死体を穴の中に捨てるのだった。




