3973話
年始なので、今日は2話同時更新です。
こちらは2話目なので、こちらに直接来た方は前話からどうぞ。
鍋にたっぷりの水を入れ、火に掛ける。
うどんを出して、鍋の水がお湯となって沸騰したらいつでも入れられるようにする。
うどんを茹でるのは、ヴィヘラとビューネが帰ってきてからだ。
それでも鍋にたっぷりと入れた水が沸騰するまではそれなりに時間が必要なので、今のうちからある程度は温めておく必要があった。
そして鍋が沸騰している側で、レイは肉や野菜を切る。
「あんまり量はいらない……いやまぁ、残ってもセトが食べてくれるだろうから、満腹亭で買ってきた野菜は全部切った方がいいか。後は肉……オーク肉だな」
ミスティリングの中に肉は大量に入っている。
しかし、焼きうどんに合う肉は何かと考えると、やはりオーク肉だった。
オークの肉は豚肉の上位互換的な肉だ。
……あるいは日本で売られているようなブランド物の豚肉であればオーク肉に匹敵する味という可能性もあるが、残念ながらレイは日本にいる時にそのようなブランド肉を食べたことはない。
猪の肉なら、猟師をしている知り合いからのお裾分けでそれなりに貰うのだが。
ともあれ、焼きうどんである以上、肉の選び方は重要だ。
カレーには牛肉、豚肉、鶏肉、シーフード……それ以外にも様々な派閥がいたが、どの肉が一番カレーに合うのかという言い争いを何度か見ている。
似ているのには、唐揚げにレモンを掛けるか、焼き鳥は串から抜くか……といった論争があるだろう。
せめてもの救いは、焼きうどんはまだ新しい料理なので、どの肉がスタンダードなのかというのが決まっていないことだろう。
そんなことを考えながら、レイは肉を切っていく。
……なお、肉の切り方についても薄切りであったり、ある程度の大きさに切ったりと色々とあるのだが、レイの場合は問答無用である程度の大きさに切っていく。
薄切りにした方がいいのかもしれないが、料理が初心者のレイに肉の塊を薄切りにするのは難しい。
あるいは肉が凍っていればある程度は薄切りに出来たかもしれないが、肉は凍っていない。
もしくは日本の肉屋で使われているような、肉を切る機械があればどうにか出来るかもしれないが、当然ながらマリーナの家にそのような物はない。
そんな訳で、レイは次々と肉を切っていく、切っていく、切っていく。
もしここにマリーナがいれば、少し肉が多すぎではないかというかもしれないが、どうせなら肉を大目にしたいというのがレイの考えだった。
……レイは気が付いていないが、これは大きな鉄板があるからこそ可能なことだった。
もしフライパンの類で肉を多めの焼きうどんを作った場合、肉が多いだけに肉にしっかりと焼き目を付けるといったことは出来ない……訳ではないが、難しい。
だが大きな鉄板なら、しっかりと焼き目を付けることが可能だった。
そうして肉を切っていると……
「レイ? ちょっと肉が多すぎない?」
厨房に姿を現したマリーナが、ひたすらに肉を切っているレイを見て、そう聞いてくる。
「肉が多ければ、それこそ鉄板で肉だけを焼いて、それをセトやイエロに食べさせてもいいだろうし。……それで、一体どうしたんだ? 俺の様子を見に来ただけか?」
「ううん。ヴィヘラとビューネが帰ってきたわよ」
「分かった。じゃあ、すぐにうどんを茹でる」
レイが肉や野菜を切っている間に、鍋の中にたっぷりと入っていた水は既にお湯となり、沸騰していた。
「この食材を持っていってくれないか?」
「分かったわ」
マリーナが切った具材を持って厨房から立ち去るのを感じつつ、レイは鍋の中にうどんを入れる。
(鉄板で炒めるんだし、茹でるのは固めがいいんだよな?)
日本にいた時、スーパーで売っているうどん、いわゆる生うどんはお湯で解してそのまま炒めればいい。
干しうどんの場合は、パッケージに何分茹でればいいのか表記されている。
だが、このうどんは満腹亭で作ったうどんだ。
それだけに、具体的に何分茹でればいいのかは、レイにも分からなかった。
「まぁ、失敗したら、それはそれで構わないか」
そう考え、鍋の中に入れたうどんを掻き混ぜる。
……箸はないので、掻き混ぜるのはお玉でだったが。
「箸か。……まぁ、作ろうと思えばすぐに作れるけどな。それが使いやすいかどうかは別として」
うどんを茹でつつ、レイは箸を作った方がいいのか? と疑問に思う。
「あ、水……まぁ、水はこれで使えばいいか」
茹でたうどんは、熱いまま鉄板で炒めればいいのか、それとも冷水で一度締めてから炒めればいいのか、レイは迷う。
満腹亭でしっかりとレシピを聞いてくればよかったなと思いながら、取りあえずうどんを茹でるんだし、冷水で締めておけばいいだろうと判断するのだった。
茹でて冷水……それも流水の短剣の水で締めたうどんを持って、中庭に向かう。
「レイ、待ってたわよ。どんな料理を食べさせてくれるのか、楽しみにしてるわ。……焼きうどんね」
レイの姿を見たヴィヘラが、レイに向かってそう言う。
先程マリーナが持ってきた肉や野菜、そしてレイが持ってきたうどん。
後は中庭に用意されていた鉄板を見れば、レイが何を作ろうとしているのかは明らかだった。
「正解だ。じゃあ、すぐに作るから待っていてくれ。……前にも何度か言ったと思うけど、俺は決して料理が得意って訳じゃない。出来た焼きうどんは、食べられないってことはないと思うが、本職の料理人が作った焼きうどんと比べると絶対に味が劣るからな」
そうレイが言うものの、中庭にいる者達はそんなレイの言葉を聞いても、楽しみといった様子で待っている。
俺の料理の何がそんなに嬉しいんだか。
そう思いつつも、こうして期待をしてくれるのだから、失敗は出来ないなとミスティリングからデスサイズを取り出し、無詠唱魔法で鉄板の薪を燃やす場所にファイアボールを生み出す。
ファイアボールをどれだけ熱くすればいいのかというのは、昼にステーキを作った時に理解していた。
その為、かなり高温ではあったが、鉄板にしてみれば全く問題がない程度の温度にする。
鉄板の上に肉と野菜を乗せ……すると、ジュッという音と共に香ばしい香りが周囲に広がった。
素早く肉と野菜を金属のヘラで掻き混ぜる。
レイのイメージとしては、日本にいる時に夜店の屋台で焼きそばを作っているといったものだったのだが、実際にはそこまで手際はよくなく、手間取っていた。
それでもエレーナ達は、その光景を興味深そうに見守る。
何しろ、レイが自分達の為に料理を作ってくれているのだから、それに興味を持つなという方が無理だった。
(お? こんな感じか?)
最初こそ金属のヘラを使って肉や野菜を炒めるという行為がぎこちなかったレイだったが、暫く炒めているうちに大分慣れてくる。
そのまま数分炒めると、肉や野菜を温度の低い場所までヘラで寄せてから、一番温度の高い場所……ファイアボールの真上に茹でた後、流水の短剣の水で締めたうどんを投入した。
ジュワアアアアアアア、とうどんに付着していた水分が一瞬にして蒸発し、白い湯気となって鉄板の上を漂う。
軽く炒めてから一ヶ所に纏めて、水分がまだ残っているうちに金属の蓋を被せて蒸し焼きにする。
そして一分程が経ったら金属の蓋を外し、満腹亭から貰ったソースを麺に絡め、そこに先程移動させておいた肉と野菜を持ってくる。
後はソースを掛けたうどんと一緒に混ぜ合わせ……
「よし、出来上がりだ」
鉄板の火力のお陰もあってか、あっという間に出来上がる。
焼きうどんを皿の上に盛り付け……
(鰹節とかあればいいんだけどな。あれってどうやって作るんだったか。確かカビがどうこうとかあったと思うから……下手に作ろうとしたら、それこそ腹を壊す食材が出来そうだな)
鰹節の作り方については、レイも殆ど覚えてはいない。
うどんよりも更にうろ覚えの内容でしかなく、それだけにレイは鰹節を自分で作れるとは全く思えなかった。
うどんのように誰かに大雑把に作り方を教えるというのも、残念ながらレイには出来ない。
うどんの場合は大体の作り方を覚えているのなら、まだ何とか出来るのだが。
生憎とレイには鰹節については分からない以上、誰かに頼むといったことも出来なかった。
(海に近い場所なら、もしかしたら似たような何かがあるかもしれないけど……どうだろうな)
鰹節に想いを馳せながら、レイはテーブルの方を見る。
そこでは焼きうどんを自分の皿に装い、食べているエレーナ達の姿があった。
(どうやら、失敗って感じではないみたいだな)
これで不味いのなら、エレーナ達の性格からして、言葉を濁すことなく不味いと言うだろう。
それがないということは、美味いかどうかは別として、不味いということではないのだろうと思えた。
「どんな感じだ?」
「……そうね、悪くはないと思うわ。絶賛する程に美味しいという訳ではないけど、普通に食べられるもの」
マリーナのその言葉に、だろうなとレイは納得する。
初めて作った……いや、日本にいる時は何度か焼きうどんを作ったことはあるが、エルジィンに来てからは初めて作った、それも日本で作っていた時とは全く違う材料で作った焼きうどんだ。
美味いとは言わなくても、普通に食べられるだけでも納得するべき出来だろうと。
この焼きうどんは材料も、そして味の決め手となるソースも満腹亭の物を使っている。
だが、材料の切り方、うどんの茹で時間、炒め方……それら全ては、当然ながらレイよりも満腹亭の方が上だ。
レイが勝っているところは、オーク肉を大量に使っている点や、フライパンではなく鉄板、それもマジックアイテムの鉄板を使い、高火力で一気に炒めていることだろう。
後は、うどんを締める時に流水の短剣の水を……天上の甘露と称される水を使っていることか。
もっとも、その水も炒めている中で殆ど蒸発してしまっているが。
「追加はいるか?」
「是非に」
レイの言葉にエレーナがそう返す。
即座にそう返されたのは、それだけレイの作った焼きうどんを気に入ったからだろう。
そのことを嬉しく思いながら、レイは追加で焼きうどんを作っていくのだった。
「うん、まぁ……不味いって感じではないけど、絶賛する程でもないな」
レイは自分で作った焼きうどんを食べつつ、そう素直に感想を口にする。
肉が多めなので、その点はレイにとって嬉しい。
それは間違いないが、焼きうどんのバランスとして考えると、肉が多すぎるのは問題だった。
肉が主役……とまではいかないが、それでも肉の主張が強すぎる。
肉が好きな者なら喜ぶかもしれないが、そうでない者にしてみれば肉がしつこく感じる。
幾ら美味い肉であっても、そればかりが全面に押し出されると……最初の方は気にならなくても、食べ進めると気になってしまう。
焼きうどんの主役は、あくまでも麺……うどんなのだ。
だが、この焼きうどんは肉が主役とまで言わずとも、準主役に近いところにいるのも事実。
「セト」
フォークで掬った肉を、セトに向かって放り投げる。
「グルゥ!」
その肉を、セトは見事にクチバシで咥えると、そのまま飲み込む。
「グルルルルゥ」
そして嬉しそうに喉を鳴らす。
「キュウ!」
そんなセトの様子を見ていたイエロだったが、自分もセトと同じことをやりたいと喉を鳴らす。
そんなイエロに、レイは先程と同じく肉を放り投げ……イエロはそれを見事にキャッチ……は出来ず、ベチャリと顔で受け止めてしまう。
「キュウ……」
残念そうにしながら、それでもイエロは顔に付着した肉を手で掴み、食べる。
「……レイ、あまりイエロに行儀の悪いことをさせないで欲しいのだが」
そんなイエロの様子を見て、エレーナが不満そうに言ってくる。
エレーナにしてみれば、自分の使い魔が行儀を悪くするというのは好ましくないのだろう。
「ああ、悪い。次からは気を付ける」
エレーナを怒らせるようなこともないだろうと、そうレイは返す。
レイにしてみれば、そのくらいは別にいいのでは? と思わないでもなかったが。
エレーナはレイが素直に自分の言葉に頷いたので、それ以上は特に何も言わずに焼きうどんを食べるのに戻る。
(それにしても、そこまで必死になって食べるような料理って訳じゃないと思うんだが。……いやまぁ、俺の作った料理を嬉しそうに食べてくれるのはいいけど)
レタスに似た野菜……ただし、少し熱を通しただけで一気に水分を失って小さくなるレタスとは違い、ある程度はシャキシャキ感を残すその野菜とオーク肉、うどんを一緒に食べつつ、レイは料理を作ってよかったと、しみじみと思うのだった。




