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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3972/3987

3972話

 昼食についての話が決まると、レイは昼までエレーナやアーラと話をしていた。

 幸いなことに、今日の午前中はレイが帰ってきた時に会った男との面会が最後なので、エレーナもレイと話をするのを邪魔されることなく、楽しい時間をすごす。

 そして昼に近くなってきたところで、レイは中庭に出る。

 エレーナとアーラも、興味深そうな様子でレイの後に続く。

 なお、サラダとパンについてはレイとエレーナが話をしている時に、アーラが既に作っていた。

 手の込んだ料理という訳でもないので、そのくらいはアーラにとっても難しい話ではない。

 もっとも、サラダも手の込んだサラダとなるとかなり手間暇が掛かるのだが……今回作ったサラダは、材料こそエレーナに相応しい食材ということで最高品質の野菜だが、言ってみればそれだけだ。

 ただし、最高位品質の食材だけに、下手に手を掛けるよりもシンプルなサラダにした方が美味いので、アーラの選択は決して間違ってはいない。


「さて、じゃあ……やってみるか」


 呟くレイの側には、先程までは中庭で遊んでいたセトとイエロの姿もある。

 中庭で何かをするというレイが気になったのだろう。

 エレーナ、アーラ、セト、イエロの視線を集めながら、レイはミスティリングから鉄板を取り出す。


「これは、また……」

「青みがかっていますね」


 エレーナとアーラが、それぞれレイが取り出した鉄板に驚く。

 無理もないことだろう。

 レイが取り出したのは、個人で使うような鉄板ではなく、屋台で使うような鉄板なのだから。


「見ただけで、普通の鉄板と違うのは分かるだろう?」


 アーラが口にしたように、夏の太陽の下で見る青みがかった鉄板は、見る者が見れば……いや、この手の道具に詳しくない者が見ても、明らかに普通の鉄板とは違っている。


「私もこのような鉄板を見るのは初めてだな。それで、この鉄板はどう使うのだ?」

「さっきも言ったように、今日の昼食はこの鉄板が使えるかどうかを確認する為の、そして使えるのなら使いこなせるようにしたいから、この鉄板を使ってステーキを焼く」


 そう言いながら、レイは続けてデスサイズを取り出す。

 何故デスサイズを? といった視線がエレーナとアーラから向けられるものの、レイはデスサイズを左手に持ち替え、右手で指を鳴らす。

 無詠唱魔法。

 ……魔法使いとしては奥義と言われても間違いない……それも幻の奥義や、伝説の奥義、あるいは秘奥義と呼ばれてもおかしくはない技法。

 もし他の魔法科使いが今のレイを見ていれば、鉄板の熱源として使う為に無詠唱魔法を使ったと、怒り狂っても、あるいは発狂してもおかしくはないだろう。

 実際にそれを行っている本人は、自分がそのようなことをしているつもりはなかったが。

 そんなことよりもレイが熱心に行っているのは、無詠唱魔法で出したファイアボールの火加減だ。

 レイの魔力によって生み出されたファイアボールは、当然ながらかなりの熱を持つ。

 魔法金属を使われている……それも鉄板用に用意された魔法金属である以上、当然ながらちょっとやそっとの熱ではどうにもならない。

 だが……それでも、レイの魔法となれば話が違ってくる。

 もしかしたら問題はないかもしれないが、下手をしたらこの場で鉄板が溶ける可能性もある。

 その為、レイは本来なら薪を燃やす場所にファイボールを入れると、慎重に温度を上げていく。

 薪を燃やす場所があるのだから、薪を使えばいいのではないかとも思ったレイだったが、結局重要なのは薪であるかどうかではなく、熱が鉄板に伝わるかどうかなのだ。

 それに薪として使える木はミスティリングの中に大量に入っているものの、それを出して火を点けてといったようなことをするよりも、最初からファイアボールを使った方が熱源としては手っ取り早い。

 難点としては、無詠唱とはいえ魔法を使う必要がある以上、魔法発動体……レイの場合は杖ではなくデスサイズだが、それをミスティリングから出さないといけないということだろう。

 後は、今やってるように熱量の調整もあるが、これについては慣れれば問題はないだろうとレイには思えた。


「もう少し大丈夫か」


 かなり低い温度で生みだしたファイアボールだったが、鉄板に何の影響もないと判断すると、その温度を上げていく。


「これは……大丈夫なのか?」


 見ていたエレーナが心配そうに言うが、レイはそれを気にした様子もなくファイアボールの温度を上げていく。

 少しずつ、少しずつ……そして数分が経過したところで、試しに鉄板の上にミスティリングから出した肉を置いてみる。

 ジュウッ、と。鉄板が肉を焼く音が周囲に響き、レイは成功を確信する。

 ただし……


「もう少し温度を上げる必要があるか」


 肉の焼く速度が遅い。

 焼く音も肉を置いた時はそれなりの音がしたものの、すぐにその音も小さくなった。

 それはつまり、鉄板の温度がまだ低い……レイが期待した温度ではないということを意味していた。

 再び温度を上げ、何度か肉を置いて確認していく。

 ……なお、試しに鉄板で焼かれた肉は、塩を振ってセトやイエロに食べさせていた。

 そのまま暫くの間、肉を焼いては確認していき……


「まぁ、このくらいが丁度いいか」


 鉄板の熱がかなりのものになったところで、レイはそう呟く。

 この時、レイは正確には把握していなかったものの、レイのファイアボールによって鉄板の温度は、それこそ中華料理専門店で炒飯を作る時のような強火と同等、あるいはそれよりも少し上といったくらいの温度になっていた。

 もっとも鉄板の利点として、場所によって温度が大きく違う。

 具体的には、ファイアボールの真上はかなりの高温であるのに対し、端の方はそこまで高温ではないといったように。

 だからこそ、料理をする場所を変えることによって焦げすぎないといったようにも出来る。


「調整は出来たのか?」

「ああ。次からはこの温度のファイアボールを出せばいいだけだ。……さて、待たせて悪かったな。昼食の時間だ」


 そう言い、レイはミスティリングからオークの肉を取り出すと、素早く包丁で切って鉄板の上に置く。

 ジュワアアアアア、と肉の焼ける音が周囲に響くのを聞きながら、鉄板と一緒に貰った金属の蓋を肉に被せる。

 それによって、蒸し焼きにしようと思ったのだが……レイのミスは、ただ蓋をしただけだということだろう。

 蒸し焼きとなると、当然ながら水分が必要になる。

 具体的には水や酒、もしくは出汁か。

 だが、レイはただ肉に蓋をしたのだ。

 勿論、それでも肉の水分によって蒸し焼きに近い状態には出来るものの、レイが望んでいたような結果にはならない。


「さて、どうだ? ……あれ?」


 そして案の定、少ししてから蓋を開けると、そこは肉はあるものの、レイが思っていたようにふんわりとした仕上がりではなく、肉の水分が減って小さくなっているように思えた。


「……まぁ、食えない事はないか」


 蓋と同じく鉄板のおまけとして貰った金属のヘラで肉を引っ繰り返す。

 その手つきは決して慣れたものではなかったが、肉がそこまで大きくないことや、鉄板が大きかったことから、地面に肉を落としたりはしなくてすんだ。


「……さて、第一号の肉だけど、誰が食べる?」

「では、私が」


 最初にそう言ったのは、アーラ。

 アーラとしては、出来ればレイの料理はエレーナに食べて欲しかった。

 だが……ある程度は料理が出来るアーラから見て、レイの焼いた肉は決して美味いとは思えなかったのだ。

 だからこそ、次に焼くもっと美味い肉をエレーナに食べさせる為に、この肉は自分がと思ったのだろう。


「むぅ」


 しかし、そんなアーラの行動に不満そうな様子で声を上げるのは、肝心のエレーナ。

 エレーナにしてみれば、レイの手料理だけに自分が最初に食べたいと思ったのだろう。

 もっとも、別にこれが初めてレイが作った料理という訳でもない。

 今までにも何度かレイは手料理を用意している。

 ……それでも、恋する乙女としては、やはりここは自分が最初にという思いがあったのだろう。

 レイはアーラの前に肉を運ぶ。

 アーラがいるのも鉄板の前なので、肉もまた鉄板の上に乗ったままだ。

 アーラはそんな肉をナイフで切り分け、フォークで口に運ぶ。


「まぁ……その……不味くはないです」


 美味いのではなく、不味くはない。

 それはつまり、不味いよりも普通ということなのだろうとレイには思えた。


(肉の品質は問題ない筈だし、そうなるとやっぱり俺の腕だよな)


 オークの肉はギルムでは普通に食べられている食材だ。

 それだけに、この肉が不味いということはない。

 だとすれば、やはり自分の焼く技術だろう。

 そう結論づけたレイは、また肉を焼こうとするが……


「その、レイ殿。塩か何かで味付けをした方がいいかと」

「……あ」


 鉄板が使えるようになったということで、レイは急いで肉を焼いた。

 だが、オーク肉の塊を切り分け、それを鉄板の上において、すぐに蓋をした。

 ……そう、アーラが言うように塩を振ったり香辛料を使ったりということをしていなかったのだ。


「悪い。取りあえず、これを使ってくれ」


 そう言い、レイは塩の入っている容器をアーラに渡す。

 それを受け取ったアーラは、肉に塩を振ってから口に入れ……多少は満足そうな様子を見せる。


「次だな」


 レイは新たに切り分けた肉に塩を振り、今度は蓋を使わずに鉄板の上で焼き始め……


「うむ、悪くない」


 その肉は、エレーナからそのような言葉を貰うことに成功する。

 エレーナの言葉に機嫌を良くしたレイは、自分やセト、イエロの分も肉を焼くのだった。






「あら、これは凄い鉄板ね。……もしかして、レイが作る料理のために用意したのかしら?」


 夕方、家に帰ってきたマリーナは、中庭にある鉄板を見て驚いたように言う。

 家の敷地内でのことなので、マリーナがその気になれば精霊によって前もって知ることが出来たのでは? と思わないでもなかったが。

 あるいはこうして驚きたくて、意図的に精霊から家のことについては聞かなかったのか。

 その辺レイにも分からなかったものの、とにかくマリーナが鉄板を見て驚いているのは間違いなかった。


「ああ、そうだ。……もっとも、今日だけの為って訳じゃなくて、普段使いが出来ると思ったのもあるけどな」


 焚き火をするには、薪を集める必要がある。

 だが、この鉄板があればファイアボールを使えばいいだけなので、容易に料理が出来る。

 普通ならこんな大きな鉄板を持ち歩くのは手間でしかないが、レイの場合はミスティリングがあるのでその辺の心配もいらない。

 ……もっとも、野営の時に焚き火をするのは、別に料理をする為だけではない。

 明かりの為であったり、モンスターや野生動物、あるいは盗賊に対する警戒であったりもする。

 そういう意味では、やはり鉄板よりも焚き火の方がいいのだ。


「後はヴィヘラとビューネが帰ってきたら料理開始だな。……その前に料理の下準備だけはそろそろ始めてもいいか」


 ヴィヘラとビューネが戻ってきてから下準備……肉や野菜を切ったりすると、出来上がるまでにかなりの時間が必要となる。

 うどんだけは、ゆで終わった後でそのままにしておくと伸びるので、焼きうどんを作る前に茹でる必要があったが。


「手伝いはいる?」


 心配そうに尋ねるマリーナ。

 レイの手料理を食べるのは嬉しいが、レイが料理に慣れていないのはマリーナも知っている。

 だからこそ、レイが料理の下準備……野菜や肉を切れるのかと、心配になったのだ。

 本人が料理を得意としているからこそ、料理がそこまで得意ではないレイを心配してしまうのだろう。


「心配してくれるのは嬉しいが、このくらいなら俺も出来る。野営をしてる時に、スープとかを作ったりとかはしたことがあるしな」


 ミスティリングに収納しているスープ……正確にはそのスープが入っている鍋を出すのではなく、限られた食材でスープを作るということもそれなりにあった。

 勿論、そのような料理の全てが成功した訳ではなかったが。


「そう? ならいいけど。……まぁ、レイなんだし、多分大丈夫だとは思うんだけど」


 マリーナもレイの様子から恐らく大丈夫だろうと考え、それ以上は言わない。


「さて、じゃあ俺は料理の下準備をしてくるな。ヴィヘラとビューネが帰ってきたら、教えてくれ」


 ヴィヘラは手料理を食べるのを楽しみにしていたので、何らかのアクシデント……仕事が終わる直前に喧嘩騒ぎが起きるといったようなことでもなければ、そろそろ帰ってきてもおかしくはない時間だ。

 二人が帰ってきた時点で料理を始めようと考え、レイはそうマリーナに頼むのだった。

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