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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3968/3983

3968話

「あら、おかえり。ダンジョンの方はどうだったの?」


 レイがセトと共にマリーナの家に帰ると、既にそこにはマリーナとヴィヘラ、ビューネという、日中には外に出ている者達が全員帰ってきていた。

 そして、ちょうど中庭のテーブルで夕食の準備をしていたマリーナが、レイとセトに気が付いて、そう挨拶してきたのだ。


「ダンジョンの方は無事に攻略出来たよ。本当に出来たばかりのダンジョンだった」

「ふーん。……それでもダンジョンを攻略したのは間違いないんだし、生徒達にはそれなりの功績になったんじゃない?」

「だろうな。俺もそう思う。……俺としても、ダンジョンの核を入手出来たのは嬉しかったし」


 最後は、マリーナだけに聞こえるように小声で言う。

 マリーナはそんなレイの言葉に笑みを浮かべ、だがすぐに不思議そうに口を開く。


「それにしても……ダンジョンはいつどこに出来るのかは分からないとはいえ、それでもまさかトレントの森に出来るとは思わなかったわね」

「そうだな。それは俺も意外だった。それにトレントの森に出来たダンジョンだから、何か特殊なダンジョンかと思ったけど、そういう訳でもない……本当に普通の小さなダンジョンだったし」


 それこそトレントの森のダンジョンだけに、トレントが出て来たり、あるいは亀のモンスターが出て来たりしても、レイは驚かなかっただろう。

 いや、寧ろ納得したか。

 そして未知のモンスターが出てくるかもしれないと、楽しみにすらしたかもしれない。


(あ、そう言えばセトが倒した狸のモンスターの解体もしないとな。……夕食が終わってからでいいか)


 これで魔石がまだ狸のモンスターの身体に残っていれば、レイも出来るだけ早く解体したいと思うだろう。

 だが、ダンジョンを攻略中に頭の中に響いたアナウンスメッセージを考えれば、既に死体の中に魔石が残っていないのは明らかだ。

 だからこそ、レイはモンスターの解体はそこまで急ぐ必要はないと判断したのだ。

 本来ならモンスターの解体をすれば手や身体は血や体液によって汚れる。

 それはどんなに解体が上手い者であっても変わらない。

 だが……レイの場合はドワイトナイフを突き刺せばそれで解体が終わる。

 血や体液といったもので汚れる心配はない。


「レイ、夕食はどうするの?」

「少しでいい。さっきまで迷宮を攻略した祝いとして、打ち上げをしてたしな」

「あら、そう。……それでもまだ食べられるだけ、凄いわね」

「マリーナの料理なんだから、あったら食べるだろう」

「……あ、その……」


 レイにしてみれば、特に何を考えるでもなく口にした言葉。

 だからこそ、マリーナは今の言葉がお世辞でも何でもなく、レイの本心からの言葉だと理解してしまった。

 自分でも気が付かないうちに、マリーナの褐色の肌は急速に赤く染まっていく。

 マリーナにとって幸運だったのは、レイが自分で何を言ったのか気にしておらず、イエロやビューネと遊んでいるセトを見ていたことだろう。


「マリーナ、家の中の料理、そろそろじゃなかった?」


 ヴィヘラがそうマリーナに助け船を出す。

 もっとも、それが助け船かどうかは、マリーナに声を掛けたヴィヘラも分かってはいなかったが。


「え? ああ、そうね。ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるわね」


 ヴィヘラの言葉に、マリーナはこれ幸いとその場から立ち去る。


「何だか急いでたけど、特別な料理でも作ってるのか?」

「別にそこまで特別な料理じゃないと思うわよ。ただ、レイと話していたから、料理の様子が少し気になったんじゃない?」

「そういうものか? まぁ、料理は色々と難しいしな」

「そうね。でも、たまにはレイの作った料理を食べたいけど」

「……そこで、でもというので俺の料理を食べたいというのは、話が全く繋がっていないように思えるんだが?」

「あら、そう? でも、レイの手料理を食べてみたいと思ってるのは間違いないわよ?」


 ヴィヘラの希望に、レイは不思議そうな表情を浮かべる。

 ヴィヘラも、レイの料理の腕がどの程度のものなのかは知っている筈だった。

 レイは料理が全く出来ないという訳ではない。

 だがそれでも、とてもではないが料理が得意という訳ではない。

 何も出来ないような者に比べれば、それなりに食べられる料理を作れるといった程度でしかないのだ。

 それこそ、不味くはないけど美味くも……ない? といった感想を抱かれる程度の料理の腕しかない。

 勿論、高級な食材……高ランクモンスターの食材を使って、塩や香辛料を振って焼くといったような簡単な料理であれば、食材の力で美味い料理が作れない訳でもないが。


「俺の料理なんかを食べるよりも、マリーナの料理の方が美味いだろうに」

「ふむ、私もレイの手料理は食べてみたいとは思うが?」


 テーブルに近付いて来たエレーナが、レイとヴィヘラの話を聞いて、そう言ってくる。


「そうよね。エレーナもそう思うわよね? ほら、レイ。レイの料理は、誰にでも……って訳じゃないでしょうけど、それでも私達にしてみれば食べてみたいと思えるのよ」

「そう言われてもな」


 戸惑うレイ。

 レイは自分の料理の腕が高くないのは十分に理解している。

 地球にいた時に料理漫画を読んだりTVを見たりしていたので、この世界では知られていない、あるいは一部の者しか知らないような料理の知識は持っている。

 うどんを作ったり、あるいは揚げ物を作ったりといったように。

 だが、それでもレイの料理の腕は出来ない訳でもないといった程度でしかないのも事実。

 なのに、何故そんな料理を食べたいと言うのか。レイには全く理解出来なかった。


「言っておくけど、冗談でも何でもないわよ? それに……私やエレーナだけじゃなくて、多分マリーナも同じだと思うわ」

「……まぁ、考えておく」


 ここまで言われれば、レイとしても安易に断るといったことは出来ない。


(とはいえ……料理、料理か。ミスティリングに入っている、俺が美味いと思った料理を食べさせるとか、そういうのじゃないんだよな?)


 レイにもその辺については理解出来た。

 だが、ならどんな料理を作って食べさせればいいのかと考えると、すぐには思い浮かばない。

 そうして考えていると、たっぷりの炒め物が入った大皿を手に、マリーナが姿を現す。

 それでいながら、皿を全く重たそうにしていないのは、精霊魔法を使っているか何かしているからなのだろう。


「どうしたの?」


 そう聞くマリーナの顔には、既に先程の赤い色はない。

 家の中にいたのはそう長い時間ではないのだが、その時間で落ち着いたらしい。


「レイの手料理を食べたいって話だ。私とヴィヘラはそう思っているのだが、マリーナはどう思う?」

「レイの手料理? そうねぇ……食べたくないかどうかと言われれば、間違いなく食べたいわね」

「……マリーナもか」


 ヴィヘラがマリーナも食べたいに違いないと言っていたのが証明された形だ。

 そしてこの三人に料理を食べたいと言われれば、レイとしても断る訳にもいかず……


「そうだな。近いうちにまたガンダルシアに行くんだし、料理くらいは作ってみてもいいか。けど、繰り返すようだが、俺の料理は決して美味いって訳じゃないぞ? それこそ、マリーナの作った料理の方が絶対に美味いんだからな」

「分かってるけど、私達にとっては特別なのよ」


 そう言うヴィヘラの言葉に、エレーナとマリーナも頷き……結局はそのまま押し切られるのだった。






 夕食が終わり、レイは部屋のベッドで寝転がっていた。

 夕食を食べ、その後のゆっくりとした時間を楽しみ、そして今こうしてベッドで横になっているのだが……


「料理、料理か。まさかスープとかを作ってって訳にはいかないだろうしな」


 レイが頭を悩ませているのは、明日急遽作ることになった料理だ。

 何故か料理を作るのは明日ということに決まった。

 その上、料理を食べるのはエレーナ、マリーナ、ヴィヘラの三人。

 アーラとビューネの二人は遠慮するということに。

 レイは何故かその三人だけに食べさせることになったと思っていたが、実際には何故かではない。

 アーラにしてみれば、そしてその辺りの感情には疎いビューネも、何故なのかというのは十分に理解出来ていた。

 それを理解出来ていないのは、実際に料理を作るレイだけだ。

 ……あるいは頭のどこかでは気が付いているものの、それに気が付かない振りをしているだけなのか。


「俺が作れる料理となると……カレールーとかがあれば、カレーは作れるんだけどな。そういうのがない以上、カレーは無理か」


 もしレイが料理を趣味にしていれば、あるいは香辛料を選ぶところから始めて、カレーを作ることも出来たかもしれない。


(カレー……カレーうどんも好きなんだけど、それはそれでもっと難しいか。うどんはあるし。いや、待て。うどん? うどんか。……うどんならどうだ? 普通のうどんもいいけど、焼きうどんとか)


 レイが日本にいた時、焼きうどんなら作ったことがある。

 もっとも、その時は当然ながらうどんは買ってきたもので、小麦粉からうどんを打つといったことはしなかったが。

 普通のうどんについては、それこそ出汁醤油を使ってかけうどんとして食べたり、それに簡単に具材を入れて煮込んで使ったりもした記憶がある。


「うどん……うん、焼きうどんと普通のうどんにしてみるか。具材についても、肉はミスティリングに収納してあるし、野菜もミスティリングに収納して……いや、どうせなら旬の野菜を買った方がいいか?」


 エルジィンでは、ハウス栽培の類は行われていない。

 あるいは行われているのかもしれないが、それなりに色々な場所に行ったことのあるレイであっても、そのようなものは見たことがなかった。

 そもそもビニールの類がないのだから、当然かもしれないが。

 あるとすればガラスを使った温室の類だが、それを行うとなると高価なガラスが大量に必要になるので、とてもではないが普通の農家は出来ない。

 貴族……それもかなり裕福な貴族や、もしくは大商人ならといったところか。

 そんな訳で、このエルジィンにおいて売られている野菜は、基本的に旬の野菜となる。

 日本のように、ハウス栽培をして一年中同じ野菜が売られているということはない。

 そうである以上、どうせなら旬の野菜を使った料理を考えてもそうおかしな話ではないだろう。

 もっとも、この世界の事情を考えると旬の野菜を使った料理というのは、非常に一般的なものなのだが。


(とはいえ、ミスティリングに入っている野菜の類も、旬の時に買ったのをそのまま入れてるから、味としては悪くないんだけど)


 野菜の類も、当然ながらレイが購入した時にそのままミスティリングに収納されているので、旬の野菜なのは間違いない。

 そうである以上、その野菜を使っても特に問題はない。

 ないのだが、何となくやはり夏が旬の野菜で焼きうどんを作りたいと思う。


(そうなると、取りあえず明日は買い物だな。うどんは……さすがに小麦粉から作るのは難しいだろうから、満腹亭で売って貰うか)


 レイがうどんの作り方を教えた満腹亭は、うどんの元祖として知られている。

 元々は満腹亭の店主の息子が冒険者で、ガメリオン狩りの時にレイと会い……それで知り合った形だ。

 その為、うどんの件もあり、そして息子を助けてくれた冒険者ということもあって、レイは満腹亭の店主やその妻からかなり好意的に思われている。

 まだ調理していないうどんを譲ってくれるくらいのことはするだろう。


(とはいえ、焼きうどんと普通のうどんで、実はうどんの作り方が違ったりしないよな? 日本だと普通にスーパーで売ってるうどんで焼きうどんを作っていたし)


 もしかしたら、うどんの種類によって使う料理は違うのかもしれない。

 そう思うレイだったが、それはあくまでも日本での話だ。

 このエルジィンで広まっているうどんは、そのようなことは全く気にしなくてもいいだろうと、そうレイは予想する。

 それでも明日、満腹亭に行った時に料理によって使ううどんは違うのか聞いてみようと思う。


(個人的には、細いうどんの方が好きなんだけど……出汁で食べるうどんならともかく、焼きうどんはやっぱり太めのうどんの方が合ってるんだよな)


 この辺は人の好みかもしれないが。


(肉と野菜、うどん……問題なのは、味付けか。塩だけってのもなんだし。どうせなら美味いソースが欲しいよな。いや、俺は醤油派だけど)


 日本にいた時、レイの住んでいる場所にあるスーパーでは、焼きうどんには醤油味とソース味があった。

 レイは醤油の方が好みだったが、この世界に醤油はない。

 そうなるとソースなのだが……そのソースも、結局のところレイの知っているソースとは違うのは、今まで何度か食べてきた焼きうどんのことを思えば明らかだ。

 そうして、レイは焼きうどんについて考えるのだった。

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