3963話
年始なので、今日は2話同時更新です。
こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。
セト籠の中に目隠しをしたニラシス達を入れ、セトに乗ってセト籠を掴ませ、ギルムに向かう。
その途中、レイはセトと共に地形操作で盛り上がった地面を探しながら進んでいたのだが……
「あったな」
「グルゥ」
トレントの森から少し離れた場所に、盛り上がっている地面があった。
もしトレントの森の中にあった場合、青々と茂った木々の枝によって隠れている可能性も十分にあったので、こうして無事に見つけることが出来て助かったと思う。
「大体……半径三kmってところか。つまり、直径六kmの範囲内なら、俺の自由に出来る訳だな。……上下に操れるのもそうだが、随分と強化されたな」
レイは強化された地形操作の能力にしみじみと呟く。
だが、驚くと同時にこれも当然だろうという思いもそこにはあった。
何故なら、地形操作は基本的にダンジョンの核によってレベルアップしているのだから。
そんな希少な存在によって強化されていくスキルである以上、その分だけ強力であるべきだろうというのは、レイにとっては自然な思いだったが。
「グルゥ?」
飛ぶ速度を緩めつつ、セトはあの地上に出来た隆起はどうするの? と聞いてくる。
「街道から離れた場所だし、あのままでもいいだろ。……ここは辺境なんだから、それこそいつ何が起きてもおかしくはないんだし。地面が一mくらい隆起するくらいは、普通だ普通」
「グルルゥ……」
レイがそう言うのならと、セトはそれ以上何かを聞くようなことはない。
実際、このギルムが辺境である以上、いつ何かが起きてもおかしくはないのだから。
ギルムについて詳しい者であれば、地面が一m程盛り上がっている程度のことは、特に気にしたりはしないだろう。
もっとも、ギルムに詳しくない者は、一体何だ? と疑問に思ってもおかしくはなかったが。
「よし、確認も終わったし行くか。もう速度はいつも通りで構わないぞ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは分かったと喉を鳴らし、今まで以上に力強く翼を羽ばたかせるのだった。
どん、と。
そんな音と共にセト籠が領主の館の中庭に落とされ、セトは再び空を舞い上がり、方向転換して地面に下りてくる。
セトが地面に下りると、既にセト籠の扉は開いていた。
……ただし、セト籠の扉は開いているものの、そこからニラシス達が出てくる様子はない。
あれ? と思ったレイだったが、そう言えば目隠しをしていたと思い直す。
「もう目隠しを取ってもいいぞ。領主の館に到着したから、セト籠から下りてきてくれ」
そうレイが声を掛けると、すぐにニラシス達がセト籠から下りてくる。
セト籠の存在そのものには、ニラシス達も既に慣れている。
ガンダルシアからギルムに来るまで、ずっとセト籠に乗ってきたのだから。
だが、それでも下りてきたニラシス達の体調が微妙に悪いように思えたのは、目隠しをしたままセト籠に乗っていたからか。
「目隠しをしてセト籠に乗るのは厳しかったか?」
「……そうだな。慣れないことだったのは事実だ」
「悪いな。けど、行く時と比べると移動時間は大分縮まっただろう?」
「それは否定出来ないから、不満を言うつもりはないんだよ。……ほら、お前達も少し休憩しろ」
ニラシスの言葉に、生徒達もセト籠から下りてきて安堵した様子を見せる。
レイにしてみれば、目隠しをしたからといって体調が悪くなる……俗に言う、酔うといった状態になるとは思えなかったが、見た感じでは全員に軽くではあるがその症状が出ていた。
元々、レイは日本にいる時から車酔いというのはしたことがなかった。
それこそ、車で移動する時に漫画や小説を読んでいたりしても、全く問題はなかったのだ。
……そんな中で唯一酔ったのは、学校の修学旅行と家族旅行で北海道に行く時、フェリーに乗って酔ったくらいか。
それでも辛そうにしている面々を見ると、ニラシスが言うように少し休ませた方がいいだろうと判断する。
「ニラシスも休んでいろ。ダスカー様には俺から報告をしてくるから。その後、ギルドに報告に行く時は、一緒に行って貰うから」
わざわざ後で付け加えたのは、レイがダスカーに報告をするのを気に病まないようにという思いからだ。
ニラシスもそんなレイの考えは悟ったらしく、少し困った様子で口を開く。
「悪いな」
そんなニラシスに、レイは気にするなと言ってから、こっちに近付いて来た騎士に挨拶をし、ダスカーのいる執務室に向かうのだった。
「戻ったか」
書類を読んでいたダスカーは、執務室に入ってきたレイを一瞥すると、そう言う。
「はい。……てっきり待つ必要があるかと思ったんですが、こうしてすぐに面会出来て助かりました」
ダスカーと面会を希望する者は多い。
それこそ、先程上空から見た感じだと、結構な人数が並んでいるように思えたくらいだ。
なのに、こうしてレイが会いたいと言ったところ、すぐにメイドが執務室に案内したのだ。
「あの連中の大半はどうでもいい内容だ。それよりは、レイの話の方が重要だからな。……それで? ダンジョンはどうだった?」
「ニールセンから聞いた通り、出来たばかりといった感じでしたね。出て来たモンスターはゴブリンだけで、ダンジョンも一本道がずっと続いて、Y字路が一つあるだけで、その片方に隠し部屋があって、ボスとダンジョンの核はそこに。ちなみに、ボスはホブゴブリンでしたね」
「……話を聞く限りだと、確かに出来たばかりのダンジョンだったようだな。妖精郷の長から何か接触は?」
元々今回の依頼は、長からのものだ。
だからこそ、ダスカーも長が何かしてきたのではないかと、そう思ったのだろう。
だが、レイはそんなダスカーの言葉に首を横に振る。
「いえ、特に接触はありませんでした。……多分、長の持つ力か何かでこっちの様子は確認していたんだと思いますが」
わざわざレイだけではなく、ニラシス達までも一緒に探索するという条件を付けた以上、長が自分達の様子を何も把握していないというのは有り得ないとレイには思えた。
具体的にどうやって把握していたのかと言われれば、それはレイには分からなかったが。
「そうか。……一体長が何故あのような条件をつけたのか、少し気になったのだが。あるいは、ニラシス達でなければならない何かがあったのかとも思ったのだが、どうやら違ったようだな」
ダスカーは長と会ったことがあるが、その回数は限られる。
それだけに、長がレイに対してどのような想いを抱いているのかは、分からなかったのだろう。
あるいは、ダスカーが恋愛に詳しければまた話は違っていたのかもしれないが。
残念ながら、その辺にあまり詳しくはない。
結果として、今のような勘違いを……あのダンジョンにニラシス達を連れていけば、何かがあるかもしれないと、そのように思ったのだろう。
「あるいは、単純に俺がガンダルシアに行って教えている生徒達や同僚ということで気になったのかもしれませんね。暫くの間、妖精郷で暮らしていましたし」
「そういう理由ならいいんだが」
「……そう言えば、今更ですけど昨日ニールセンはどうしたんですか?」
昨夜、この執務室でダスカーと一緒にレイを待っていたニールセンだったが、マリーナの家には来なかった。
だとすれば、領主の館に泊まったのか、あるいは夜に妖精郷まで帰ったのか。
そのどちらかなのだろうと思いながら尋ねるレイに、ダスカーは何でもないように言う。
「昨夜、そのまま帰ったぞ。本人はマリーナの家に行きたがっていたようだが、長から用事が終わったらすぐ戻るように言われていたらしい」
「そうですか。……ニールセンなら、夜に空を飛んでいても特に問題はないと思いますけど」
夜はモンスターの動きが活発になる。
そうである以上、ニールセンが空を飛んでいる時にモンスターに襲われるといった可能性も否定は出来ないのだ。
ただ、ニールセンは長の後継者という立場で、それに相応しい力を持っている。
辺境に出没する強力なモンスターと遭遇しても、倒す……ことは無理でも逃げることは可能だろうとレイには思えた。
それはレイだけではなく、ダスカーも同じ考えなのか、レイの言葉に頷く。
「ニールセンは今まで何度もギルムに来ている。そう考えれば、心配はいらないだろう」
レイがガンダルシアに行ってる間も、ニールセンはそれなりに頻繁にギルムに……そして領主の館に来ていたのだろう。
レイはその言葉に納得して頷く。
「なら、いいんですが。……ともあれ、依頼にあったダンジョンは攻略しました。特に何かがある訳でもない、普通のダンジョンでしたよ」
「分かった。まぁ、依頼をこなせたのならそれでいい。……ニラシス達も、出来たばかりとはいえ、ダンジョンを攻略したのだから、ギルムに来た甲斐はあっただろう」
「そうですね。ニラシス達が知っているのとは違うダンジョンを体験出来たというのは、大きかったと思います」
「なら、悪くないか。……ちなみにだが、トレントの森については知られていないな?」
不意に話題を変えるダスカー。
……いや、話題を変えるのではなく、あるいはこれが本題だったのかもしれない。
そう思いつつ、レイは頷く。
「目隠しはきちんとしてたので、その辺りは問題ないかと。夏なので、森の中には特有の匂いがありますし、いわゆる草いきれとかもあるので、どこかの林や森、山にいるというのは分かったかもしれませんが、それだけだと思います」
「なるほど、問題がないというのは理解した。なら、何も問題はない。それで今日はこれからどうするのだ? 日も高いが」
「ギルドに報告してから、ダンジョン攻略を祝って宴会でもやろうかと」
「そうか。……なら、ギルドに渡した報酬以外に、これを使え」
そう言い、ダスカーは白金貨を三枚執務机の上におく。
「これは……いいんですか?」
白金貨三枚があれば、それこそそれなりに高級な店で好きに飲み食い出来るだろう。
あるいはもっと高い店で足りない分は自分達で出して飲み食いするといったことも可能だ。
「ニラシス達がギルムに来て、ダンジョンを攻略したんだ。このくらいの祝いは構わないだろう」
実際、ダンジョンをクリアしたという実績は冒険者として非常に大きい。
今回はトレントの森に出来たダンジョンなので、詳細については公開は出来ないものの、ギルムの近くに出来たダンジョンを攻略したというのは間違いのない事実。
そのダンジョンが出来たばかりで、中にはゴブリンが数匹と、ボスとしてホブゴブリンがいた程度の、非常に簡単なダンジョンであったのは間違いないが……それでも、ダンジョンを攻略したのは間違いのない事実なのだ。
これは、ニラシス達の経歴として大きなプラスになるのは間違いない。
「そうですね。では、この白金貨はありがたく使わせて貰います」
「そうしろ。……さて、じゃあ話はこの辺で終わりだな」
「そうなりますね」
もしこれが、ギルムの利益に大きく関わるような事なら、ダスカーも色々と話をしようとするだろう。
だが、今回の一件はあくまでも妖精郷の長から回ってきた依頼で、その内容も決して難しいものではない。
だからこそ、ダスカーも簡単にダンジョンの話を聞いただけで満足したのだろう。
「では、この辺で失礼します。……仕事、頑張って下さいね」
レイはそうダスカーに声を掛け、執務室を出るのだった。
「悪いな、レイ」
ニラシスがレイにそう謝る。
乗り物酔いをしていたニラシス達だったが、そこまで長時間目隠しをしてセト籠に乗った訳でもないので、セト籠から下りて十分かそこらで既に治っていた。
ただし乗り物酔いが治った時、既にレイはダスカーに事情を説明しに行っていたので、今更の話だったが。
「気にするな。そもそも目隠しをしてセト籠に乗るというのが悪かったんだろうし。……それよりダスカー様に説明はしてきたから、後はギルドに行って説明をしたら打ち上げだ。曲がりなりにもダンジョンを攻略したんだから、派手に騒ぐぞ。ダスカー様から軍資金も貰ってきたし」
そう言い、レイは三枚の白金貨をテーブルの上に置く。
「……これ、本当にダスカー様が?」
驚きの表情で尋ねるニラシス。
レイとニラシスの話を聞いていた生徒達も、三枚の白金貨を見て驚く。
ニラシスはガンダルシアの冒険者としては間違いなく成功している部類に入るし、生徒達もそれなりに優秀な面子である以上、今まで何度か白金貨を見たことがある。
だが、それでも宴会の費用にと、あっさり白金貨三枚を渡してきたダスカーに驚くなというのは無理だった。
「ああ、これで思う存分飲み食い出来るぞ」
そう言うレイの言葉に、ニラシスは喜べばいいのか、驚けばいいのか、迷うのだった。




