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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3962話

「さて、じゃあダンジョンの核を取るぞ」


 ホブゴブリンの解体が終わり、その血や体液で汚れた手も洗って一段落したところで、レイはダンジョンの核のある場所に全員を集め、そう言う。

 レイの言葉に、生徒達は……ニラシスも含めてだが、じっとダンジョンの核を見る。

 ダンジョンを攻略するのはこれが初めてである以上、こうして実際にダンジョンの核の実物をみるのも初めてなのだろう。


(あ、いや。でも冒険者育成校の授業とかでなら、どこか他のダンジョンの核を見たりもするかもしれないな)


 ガンダルシアのダンジョンはまだ攻略されていないので、当然ながらダンジョンの核はダンジョンにある。

 だが、ダンジョンというのは一つではなく、当然ながら他に幾つもあるのだ。

 それこそ、今日こうして攻略したこのダンジョンのように。

 そのようなダンジョンから入手した核を、授業で見せるというのは普通に考えて十分に有り得ることだろう。

 もし……本当にもし万が一の話だが、冒険者育成校の生徒達がガンダルシアのダンジョンを攻略した結果、ダンジョンの核があるのに、それをそうと気が付かずに回収してこない……そんな可能性も、十分にあるのだから。

 普通に考えればまずないとは思うが、世の中に絶対ということはない。

 それに冒険者の中には頭の悪い者や常識を知らない者も多い。

 その辺りの事情を考えれば、しっかりとダンジョンの核がどのような存在か見せておくというのは、決して悪いことではないだろう。

 そうしてダンジョンの核を見始めてから五分程。


「さて、そろそろいいな? このダンジョンの核は約束通り俺が貰う。これでダンジョンの攻略は完了だから、ギルムに戻るぞ」

「ええ……」


 微妙に嫌そうな声を上げたのは、ハルエス。


「何だ? ギルムに戻りたくないのか?」

「いや、ギルムに戻るのはいいんだけど……また、ずっと目隠しをしないといけないってのが……」


 目隠しをして何も見えなくなるというのは、それなりにストレスを感じさせる。

 冒険者としては、そのくらいのストレスに耐えるくらいはする必要があるだろう。

 それはハルエスも分かってはいるのだが、それでもストレスがないのなら、そちらの方がいいのも事実だった。


「ハルエスが面白くないのは分かるが、これについては依頼を受ける時に説明されていたことだろう? であるのなら、我慢して貰うしかない。……もし本当にどうしても嫌だったら、それこそ依頼を受けないという選択肢もあったんだしな」


 そうレイに言われると、ハルエスも反論が出来ない。

 その言葉が正論であるだけ、余計に。


「さて、じゃあ戻るぞ。……それにしても、ダンジョンを一日で攻略出来るとは思ってもいなかったな」

「出来たばかりのダンジョンだからだろう。……出て来たモンスターは、ゴブリンとホブゴブリンだけだし。特にゴブリンなんて、一度しか遭遇しなかったし」


 ニラシスの言葉に、レイもだろうなと頷く。

 このダンジョンを見つけたのは、レイの話に感化された妖精だった。

 レイとしては、本当にダンジョンが見つかるとは思っていなかった。


(あれが……まさにフラグって奴なんだろうな)


 そんな風に思いつつ、レイは口を開く。


「ほら、行くぞ。時間的には……午後になったくらいか? タンジョンの攻略をしたんだから、ギルムに戻ってぱあっと宴会でもしないか? 今回の依頼の重要性を考えると、ダンジョンを攻略したとか、そういう話は出来ないが。それでもダンジョンを攻略したのは事実なんだから、宴会くらいはしてもいい筈だ」


 レイとしては、宴会をやっても酒は飲めない。……いや、飲めなくはないのだが、味覚がお子様な影響もあってか、とてもではないが酒を美味いとは思えないのだ。

 だが、酒は飲めなくても料理は食べられる。

 そして宴会で出てくる料理となると、当然ながら美味い料理となるのは自然なことだろう。

 だからこそ、食べるのが嫌いな訳ではないレイにしてみれば、宴会は歓迎すべきことだった。

 それ以外にも、出来たばかりのダンジョンとはいえ、生徒達が初めて攻略したのだ。

 教官として、それを労うくらいのことはしてもいいだろうと思う。


「え? 宴会? いいんですか?」


 レイの言葉にビステロが驚いたように言う。

 そんなビステロに、レイは当然といったように頷く。


「依頼を無事にこなしたんだから、宴会をやるくらいは構わないだろ。それに……この時間なら、まだそこまで混んではいないだろうしな。いても、せいぜいが遅めの昼食を食べてる奴くらいだろうし」


 これが冬なら、日中から酒場で酒を飲んでいる者もいるだろう。

 だが、今は夏だ。

 多くの者が仕事をしているので、夕方以降ならともかく、夕方前……昼をすぎて午後になったばかりの時間帯となると、どうしても客の姿は少なくなる。

 そうして、一行はダンジョンを攻略したという興奮と、これからの宴会に思いを馳せながら、来た道を戻る。

 ダンジョンの核はレイが回収し、外にはセトがいる。

 そのような状況では当然ながら他にモンスターが出てくる筈もなく、スムーズに地上に続く坂道の側まで到着した。


「さて、悪いけどここまで来たらまた目隠しだ。武器は来た時と同じように俺が預かる」

「えー……」


 レイの言葉に不服そうな声を上げるのは、ハルエス。

 とはいえ、声こそ上げないものの、他の者達も気が進まない様子を見せている。

 目隠しをして、このダンジョンまで来るのがかなり面倒に思えたのだろう。


(まぁ、仕方がないか。それに……レノラと馬車も戻っている以上、結構面倒に……いや、そうだな。ダンジョンの前は少し広かったし、セト籠を置ける程度の余裕はあった筈だ)


 セト籠をセトが運んでダンジョンの前に置くのは少し難しいかもしれないが、ダンジョンの前にあるセト籠をセトが上空から掴んで運ぶというのであれば、問題はない筈だった。


(一応、セト籠の中では目隠しをして貰って、領主の館に到着したら目隠しを外して貰う……うん、これはありなんじゃないか?)


 手間も掛からないので、悪くない考えだろうとレイには思えた。

 不安要素となると、本当にセト籠の中に入ってからも目隠しをしたままでいるかどうかということだが……その辺は、ニラシス達を信用するしかないだろう。

 そして信用出来るかどうかと言われれば、レイは十分にニラシス達を信用出来る。

 今回の一件はかなり機密度の高いことなのは間違いない。

 そんな中で、わざわざ自分から危険な選択をするとは、レイには思えなかったのだ。


(まぁ、ニラシスはともかく、生徒達の方は……ハルエス辺りならノリでそういうことをしそうな気がしないでもないけど)


 恐らく大丈夫だとは思う。

 思うのだが、それでも何となくそういうことをしそうな気がするのも、間違いのない事実。


「提案がある。このダンジョンに来る時もかなり面倒だったが、いっそのことこのダンジョンの前からギルムまで、セト籠で運びたい。ただし、そうなるとセト籠の中でも目隠しをして貰うことになると思うけど、それでも構わないか?」

「セト籠で? まぁ、馬車で運ばれたし、目隠しをしたままセトに乗って移動するよりは、セト籠の方がかなり楽なのは間違いないだろうが……大丈夫なのか?」

「お前達が妙なことをしないというのは信じているしな。……俺の信頼を裏切ったりとか、そういうことはしないだろう?」


 そう言われると、ニラシスや生徒達も頷くしか出来ない。

 もしレイの信頼を裏切ったりしようものなら、それこそ一体何をされるか分かったものではないのだから。


「あ、ああ。勿論だ。レイが信頼してくれたんだから、それを裏切るなんてことをしようとは思わない」

「なら、いい。じゃあ、俺はちょっと地上の様子を見てくるから、目隠しをしていてくれ。ダンジョンの核は確保したし、ダンジョンの中も全部移動してみたから、モンスターが出るようなことはないだろうし。それでももしモンスターが出た場合は、大声で呼んでくれ。そうすればすぐ俺が助けに来るから」


 そうレイが言うと、ニラシス達は装備品と引き換えに渡された目隠しで自分の目が見えないようにする。

 ニラシス達をその場に残し、坂道を登るレイ。

 すぐに地上に出ると……


「グルゥ!」


 そんなレイの姿を見つけ、セトが嬉しそうに鳴き声を上げながら近付いてくる。


「待たせたか? こっちは特に何も問題がなかった……というか、本当に出来たばかりのダンジョンで、ボスもホブゴブリンだったよ」

「グルゥ……」


 レイの言葉に残念そうに喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、出来たばかりのダンジョンとはいえ、もっと強いモンスターがいると思っていたのだろう。


「それで、セトが倒したモンスターは……」

「グルゥ」


 そこだよ、とセトが少し離れた場所を見ながら喉を鳴らす。

 そんなセトの示す方向に近付くレイ。


「狸……のモンスターか? 魔石はもうないし、解体は後ででいいか。……狸の肉は不味いって話をよく聞くけど、モンスターはどうなんだろうな」


 そんな風に思いつつ、レイは狸のモンスターの死体をミスティリングに収納する。

 そして、狸のモンスターと入れ替えるようにダンジョンの核を取り出す。


「さて、そんな訳で次はこれだな。今までのパターンから、習得出来るスキルは予想出来るけど。……セト、いいよな?」

「グルゥ!」


 ダンジョンの核を自分が使ってもいいよな?

 そう聞いたレイに、セトは勿論と喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、ダンジョンを攻略したのはレイなのだ。

 そして狸のモンスターの魔石は自分が使ってしまったのだから、ダンジョンの核はレイが……より正確にはデスサイズに使うのが当然だろうと、そう思ったのだろう。


「悪いな、助かる」


 セトの頭を一撫でしてから、少し離れる。

 そしてレイはミスティリングから取り出したダンジョンの核を空中に放り投げ……斬、と切断する。


【デスサイズは『地形操作 Lv.七』のスキルを習得した】


 脳裏に響くアナウンスメッセージ。

 予想通りの内容に、レイは笑みを浮かべる。


「予想通りだな。……とはいえ、ダンジョンの核という同じのでこうも毎回地形操作のレベルが上がるってのは、一体どういうことなんだろうな?」


 モンスターの魔石は、一度魔獣術に使ってスキルを習得出来れば、二度目に同じモンスターの魔石では新たにスキルを習得したり、あるいはレベルアップしたりはしない。

 これが希少種や上位種、あるいは微妙にであっても違う種類であればそのモンスターの魔石が一個目ということになり新たにスキルの習得やレベルアップが出来るのだが。

 そんな中での唯一の例外が、今年の冬に行った屋敷だった。

 何らかの研究所の痕跡……それも普通の屋敷に擬態したような、そんな危険な建物の探索をした時に出て来たモンスターは、何故か以前倒したモンスターの魔石であったり、その屋敷で何度も倒したモンスターであっても、新たな魔石という扱いになった。

 それこそレイやセトにとってはボーナスステージに等しい場所。

 そのような例外はあれども、とにかく普通のモンスターの魔石ではそのようなことは出来ない。


「あるいは、ダンジョンの核がモンスターの魔石というのと同じ分類になっていて、それぞれのダンジョンの核が色々な種類のモンスターと同じとか、そういう感じか? ……まぁ、取りあえず今のうちに試してみるか」


 ニラシス達が地下にいて、目隠しをしている今なら地形操作を使っても問題ないだろうと判断し、試してみることにする。

 念の為にセトから少し離れたレイは、デスサイズを手にスキルを発動する。


「地形操作」


 レイのすぐ側にあった地面が急激に上に向かって伸びていく。

 四角柱のような形で伸びた地面の高さは、十五m程。


「レベル六の時は十mくらいだったことを考えると、五mくらい伸びたのか。……レベル四までと比べると、やっぱり一気に強力になるな」


 十五m地面を隆起させ、同時に十五m地面を沈没させることも出来る。

 つまり双方を上手く組み合わせれば、三十mの高さを利用出来るということになるのだ。


「後は広さだが……どうやって試すか。……いや、どうせセト籠に乗って帰るんだし、それなら問題はないか。分かりやすく……」


 そうレイは思い、自分のいる場所からギルムとの間で、地形操作を使える最大の場所で一m程だけ、地面を隆起させる。

 後は、ギルムに向かう際にどのくらいの距離の場所でそうなっているのか、確認すればいいだろうと考え、笑みを浮かべながらデスサイズを収納し、セト籠を取り出すのだった。

【デスサイズ】

『腐食 Lv.九』『飛斬 Lv.七』『マジックシールド Lv.四』『パワースラッシュ Lv.八』『風の手 Lv.七』『地形操作 Lv.七』new『ペインバースト Lv.六』『ペネトレイト Lv.七』『多連斬 Lv.六』『氷雪斬 Lv.八』『飛針 Lv.六』『地中転移斬 Lv.四』『ドラゴンスレイヤー Lv.二』『幻影斬 Lv.五』『黒連 Lv.五』『雷鳴斬 Lv.三』『氷鞭 Lv.三』『火炎斬 Lv.二』『隠密 Lv.二』『緑生斬Lv.一』


地形操作:デスサイズの柄を地面に付けている時に自分を中心とした特定範囲の地形を操作可能。レベル二は半径三十mで地面を五十cm程を、レベル三は半径五十mで地面を一m程、レベル四は七十mを百五十cm程、レベル五は半径一kmを五m程、レベル六は半径二kmを十m程、レベル七は半径三kmを十五m程上げたり下げたり出来る。

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