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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3957/3983

3957話

「きゃあああっ!」

「ほら、大丈夫だ。セトに乗ってしっかりと掴まっていれば、落ちることはないから安心しろ。セト好きのイステルなら大丈夫だろ?」

「そ、それはそうですけど……きゃあっ!」


 最後にセトによって運ばれているイステルとカリフ。

 すると予想外なことに、イステルの口からは盛大な悲鳴が上がっていた。

 カリフの方は怖がってはいつつも、悲鳴を上げてはいない。

 ……それが、悲鳴を上げるような余裕もないのか、それともそこまで怖がってはいないのか。

 その辺はレイにも分からなかったが。


「グルゥ?」

「大丈夫だ、今まで通りだから」


 セトが走りつつも、何か失敗してる? と喉を鳴らす。

 だが、レイは悲鳴を上げるイステルが落ちないように固定しつつ、セトに問題ないと告げる。

 なお、背の上での並び順は、イステル、レイ、カリフとなっていた。

 なので、悲鳴を上げるイステルが落ちないように、レイはしっかり固定することが出来ているのだ。

 ……イステルにしてみれば、想い人に後ろから固定されているのだ。

 つまり抱きしめられているのだが……今はそれを喜ぶような余裕はない。


(これはちょっと予想外だったな。教官としては、こういう苦手なのを克服させるべきなのか? ……もっとも、目を瞑った状態でセトに……いや、激しく動く何かに掴まるなんて体験、そう簡単にするようなものじゃないだろうけど)


 イステルの様子にレイはそんな風に思いつつ、周囲の様子を確認する。

 既にセトも何度も行き来してるので、少しずつだが移動速度は速くなっていた。

 それこそ、もしそのような大会があれば優勝出来てもおかしくはない程に。


(ないか)


 そんな大会が開かれる筈もない。

 自分で自分の考えていることを馬鹿らしいと思いつつ、レイは口を開く。


「ダンジョンのある場所が見えてきたぞ」


 そんなレイの声が聞こえたのか聞こえなかったのか、イステルは相変わらず悲鳴を上げたままだ。

 ……遠くの方に見える、ダンジョンのある場所。

 正確にはその近くにいるニラシス達が、そんなイステルの悲鳴によって顔を向けてくる。

 まだ目隠しをしているので、あくまでも声の聞こえてくる大体の方向にだったが。

 そんな中で、他の生徒達と違ってニラシスのみはかなりレイに近い方向に顔を向けているのは、教官と生徒達の違いということだろう。

 やがてセトが足を止めると、ようやくイステルの悲鳴が収まる。


「ほら、到着したぞ」


 そうレイが言うと、イステルが這々の体といった様子でセトから降りる。

 カリフも同じくセトに乗っていたので、イステルが降りたと判断したらしく、何とかセトから降りる。


「さて、これで全員揃ったな。……それで、俺達はこれからダンジョンに潜る訳だが、お前はどうする?」

「俺はそろそろ拠点に戻る。ここに一人でいると、危険なのは間違いないだろうし」

「だろうな。分かった。今回の件は助かった。感謝する」

「何、気にするな。これも依頼なんだから」


 そう言うと、冒険者は軽く手を振り、その場を立ち去る。


「さて……そんな訳で、これからダンジョンに入る訳だが……セトはここで留守番だな」

「グルゥ……」


 レイの言葉にセトが残念そうに喉を鳴らす。

 しかし、地下に続く坂道はそこまで広くはない。

 それこそセトが入るには、サイズ変更のスキルを使う必要があるだろう。

 だが、サイズ変更がいつ解除されるのか分からない。

 持続時間がどこまでなのか、それはまだレイにもセトにも分からないのだから。

 もし狭い場所でサイズ変更の効果が切れた場合、最悪セトが身動き出来なくなってしまう可能性も否定出来ない。


(それに……イステルが発狂しそうなんだよな)


 以前サイズ変更を試した時、セトは手乗りインコならぬ、手乗りセトになった。

 その小さなセトは非常に愛らしく、だからこそセト好きのイステルがもしそれを見たら、暴走してもおかしくはなかった。

 また、その辺りの事情を抜きにしても、ここはトレントの森だ。

 地上の安全を確保しておくのは必須だろう。

 もっともレイのミスティリングには先程までレノラ達を守っていた防御用のゴーレムもある。

 最悪、それを使って地下に通じている道を中心にして、防御用のゴーレムの障壁を張るといった手段もあるのだが。

 ただ、セトがいればレイも防御用のゴーレムを使う必要はないだろうと思えたが。


「じゃあ、地上はセトに任せるとして……行くぞ。既に知ってると思うが、これから進むのは地下に続く坂道だ。転ばないように注意してくれ。中に入ったら目隠しを取るから」

「分かった。……じゃあ、早く行こう。いつまでも目隠しをしてるのは不安だしな」


 ニラシスがそう口にする。

 その言葉に他の生徒達も頷いていた。


「じゃあ、まずは手を繋いで歩くぞ」


 レイがそう指示をし、生徒達や教官達の間で手を繋ぐように指示をする。

 そして先頭をレイが進み、その次にニラシスが、その後は生徒達がそれぞれ坂道を降りていく。


「うわ」

「……おい?」


 坂道を少し進んだところで、レイは思わずといった様子でそう告げる。

 それを聞いたニラシスは、不安に思ってそうレイに言う。

 あるいはニラシス本人が不安に思ったのではなく、生徒達が不安に思ったかもしれないので、自分が率先して聞いたのかもしれないが。

 そんなニラシスに対し、レイは少し困った様子で口を開く。


「出来たばかりというのもあるのかもしれないし、あるいはそういう性質を持つダンジョンなのかもしれないが……明かりがない」


 レイがこれまで挑んだダンジョンの多くは、床や壁、天井が発光しているものが多かった。

 あるいは、それこそダンジョンの中が草原になっていれば、本物ではないにしろ、太陽の明かりといったものもあり、そちらでも明かりに困ることはない。

 だが、今レイがいる場所は暗い。

 勿論、外と繋がっている場所から明かりが入ってきたりしているし、それを抜きにしてもレイは夜目が利くので、明かりがなくてもそこまで困らない。

 だが、それはあくまでもレイだからだ。

 他の面々……教官のニラシスはともかく、生徒達に夜目を期待するのは難しいだろう。

 スキルやマジックアイテムでもあれば、もしかしたら暗い場所でもしっかりと見ることが出来るようになるかもしれないが。


「明かりか。……なら、どうする?」

「俺の方でどうにかするから、少し待ってくれ」


 そう言うと、レイはニラシスから手を放し、ミスティリングからデスサイズを取り出す。

 取り出したデスサイズを左手に持つと、右手でパチンと指を鳴らす。

 すると無詠唱魔法によって、ファイアボールが生み出される。

 ただしそのファイアボールは、熱を感じさせない。

 明かりに特化した、そんなファイアボールだった。

 それを確認し、レイは後ろを向いて口を開く。


「目隠しを外してもいいぞ」


 そうレイが告げると、そこでようやくニラシス達が目隠しを取る。

 もっとも、目隠しとはいえ簡単なものだ。

 布で目を覆い、それを頭の後ろで結んでいるだけなのだから。

 ……兜を被っているザイードのみは、目隠しを外すのに兜を脱ぐ必要があったので、やりにくそうにしていたが。

 そうして久しぶり……数時間ぶりに目隠しを取ったニラシス達は、レイが無詠唱魔法で出したファイアボールの薄らとした明かりにも最初は眩しそうにしていた。

 それでもすぐに目が慣れると、周囲の様子を興味深そうに確認する。

 レイ達が現在いるのは、地下につづく坂道を少し進んだところだ。


「これは……何と言うか、ガンダルシアのダンジョンとは随分と違うな。敢えて似ているところとなると、洞窟の階層か?」


 ニラシスの言葉に、レイは天井を見る。

 地下に向かう坂道の天井は、当然のように土が固められて出来ている。

 ニラシスが言う洞窟の階層は、狭いという意味では同じだったものの、それでも土ではなかった。


「まぁ、そうだな。似ていると言えば似てるか。さて、そんな訳で……何だかんだと時間は掛かったけど、ここからが本当の意味で依頼の開始になる。そんな訳で、預かっていた装備品を返すぞ」


 レイはミスティリングに収納してあった装備品をそれぞれに返していく。

 だが……


「ザイード、どうする?」

「それは……」


 レイの問いに、ザイードは迷ったように言う。

 この坂道はかなり狭い。

 ザイードの特徴でもある巨大な盾は、かなり場所を取る。

 狭いとはいえ、それでも盾を持って全く動けないといった狭さではない。

 しかし、それでも盾を手にしたザイードが好き勝手に動けるかと言われれば、それは微妙なところだろう。

 また、当然ながらこれはパーティでの行動だ。

 ザイードはある程度動けるが、そうなると他の者達が同じように動けるかと言われれば……それは微妙なところだろう。

 とはいえ、ならザイードが盾を持たなければいいという訳でもない。

 大きな盾を持つザイードは、一行の中で壁役……タンクとして大きな意味を持つ。

 そのような存在がいるからこそ、安心してダンジョンを進むことが出来るのも間違いのない事実。


(それに、狭いというなら、俺も同じだしな)


 レイの武器は現在出しているデスサイズと、今はまだミスティリングに収納されている黄昏の槍。

 どちらも長柄の武器である以上、当然ながらこのような狭い場所では扱いにくい。

 それでもザイードの盾と違うのは、長柄の武器ではあっても……いや、だからこそ突きを放つのに使えるということか。


「レイ教官、まずはこの坂道を下りてみたらどうでしょう? もしかしたら、坂道の先は広い場所になってるかもしれませんから」


 アーヴァインのその言葉に、レイはそれもそうかと納得する。

 今レイ達がいるのは、ダンジョンの中ではあっても、まだ入り口でしかない。

 この先に進めば、もしかしたらしっかりとした広い空間になっている可能性は十分にあった。


「そうだな。アーヴァインの言う通りだ。じゃあ、まずは下に行こう。……出来れば普通に戦えるような空間のあるダンジョンだといいんだけど」


 グルゥ、と。

 レイはそんな鳴き声が聞こえてきた気がした。

 あるいはまだ地上からはそこまで深く潜っていないので、本当にセトの鳴き声が聞こえたのかもしれないが。


(そう言えば、今更……本当に今更の話だが、長はどうやって俺達の様子を見てるんだろうな)


 このダンジョンの探索を、レイだけではなくニラシス達と共に行うことになったのは、長からの要望があってこそだ。

 レイの同僚と、生徒達の実力を見たいと。

 そうである以上、長は当然のように今の状況を認識している筈だったのだが……それが具体的にどのようにやっているのか、レイは分からない。

 まさかここまで事態を大きくしておきながら、実は見てませんということはないだろうと思えたが。


(長はサイコキネシスが使えるし、俺が知らない何らかの方法でその辺りを把握してる……そう思っておくか。それが正しいかどうかは、生憎と分からないけど)


 そう思いながら、レイはファイアボールの明かりを頼りに坂道を下りていく。

 すると数分も経たないうちに、坂道は終わり……


「何とかなる……か?」


 下りた先にあった通路は、坂道よりも間違いなく広い。

 だが、だからといってフルプレートメイルと巨大な盾を装備したザイードが自由に動き回れるような場所かと言われれば、何とかなる……かも? と思うような広さだった。

 ただし、良いこともある。


「明かりの心配しなくてもよさそうだな」


 そこまではっきりとした明かりという訳ではないが、それでも十分に周辺の様子を確認出来るだけの明かり。

 レイにとっては十分な明かりだった。


「あー……悪い、レイ。出来れば明かりについてはまだ出しておいてくれないか? 俺達はいいが……」


 言いにくそうな様子のニラシスの言葉に、レイもすぐに納得する。

 生徒達の誰か――あるいは全員――は、夜目が利かないのだろうと。

 そもそも、夜目というのはそう簡単に使えるようになるものではない。

 レイの場合は、ゼパイル一門の作った身体なので、最初から夜目が利いたが、それは本当に特殊な例だろう。

 ニラシスは夜目が利くようだったが、それも相応の訓練をして手に入れた能力の筈だ。

 であれば、生徒達の夜目が利かないというのは、そうおかしな話ではない。


「分かった。じゃあ、明かりはそのままにしておく」

「悪いな、魔法を使わせ続けて」

「……え?」

「は?」


 申し訳なさそうなニラシスの言葉に、レイは何を言っている? といった声を出す。

 ニラシスはまさかレイからそんな間の抜けた声が返って来るとは思わず、こちらもまた同様に間の抜けた声を出すのだった。

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