3956話
三が日なので、今日は3話更新です。
こちらは三話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。
「そこの木のある場所を右に!」
案内役の冒険者が指示をすると、セトは即座にその言葉に反応する。
レイと冒険者はセトの動きに合わせて身体を動かすものの、目隠しをしているザイードは体勢を整えるのは難しかった。
それでもザイードの後ろに乗っている冒険者がザイードをフォローする。
身体の大きさという点ではザイードが冒険者よりも大きいが、それでも冒険者はギルムのギルドで優秀な冒険者であると認識されているだけに、ザイードのフォローをするのはそう難しいことではない。
その後も、右、左といったように冒険者が指示を出し、セトはそれに従って進み続け……
「見えてきた。あそこ。穴が開いてる場所だ。分かるか?」
「穴?」
冒険者の口から出たのは、レイにとって意外な言葉だった。
大抵、ダンジョンというのは洞窟のようになっていることが多い。
だが、どうやら今回のダンジョンは違ったらしい。
セトが走っていた足を止め、そこでレイも初めてダンジョンをしっかりと確認出来るようになる。
「穴……というか、地下に続く道といった感じか」
セトの背から降りて、ダンジョンを見たレイの口調には少し苦いものがある。
そのように思ったのは、やはりこのトレントの森の中央にある地下空間を思い出した為だろう。
(あそこと、何か関係があったりしないよな? もしそうだった場合、この地下には、また別の世界と繋がっている空間があるとか? ……ウィスプの件を考えると、多分そんな事はないと思うんだが)
レイにしてみれば、今回の一件ですぐにどうこうといったようなことになるとは思えない。
思えないが、それはあくまでもレイの予想でしかない。
そしてレイは自分がトラブル誘引体質であるのを知っている。
そう考えれば、やはりこのダンジョンの探索はしっかりと……ミスがないように行う必要があるだろうと、そう思えた。
「取りあえず、ザイードはここで待っていてくれ。……護衛は任せていいんだよな?」
後半は冒険者に向かっての言葉だったが、それを聞いた冒険者は特に嫌がる様子も見せずに頷く。
「分かっている。そっちの件については任せてくれ。ただ……出来れば早く他の連中も連れて来てくれると嬉しいな。大抵のモンスターなら俺がどうにか出来ると思うが、高ランクモンスターが出てくると、俺に対処するのは難しいし」
「分かっている。道も覚えたし、大丈夫だ。……多分」
「おい?」
レイが最後に付け加えた言葉に、冒険者は心配そうに言う。
レイとセトは自分達が微妙に方向音痴気味だというのを理解している。
この場所については覚えた為に問題ないとは思うものの、それでも本当に大丈夫かと言われると、正直微妙なところがあるのも事実。
「大丈夫。すぐに戻ってくるから。……ザイード、少し待っていてくれ」
「分かりました」
ザイードはレイの言葉に、素直に頷く。
レイはそんなザイードに念の為にミスティリングに収納していた盾と槍を返す。
「目隠しはまだ取って欲しくはないけど、もし本当にモンスターに襲撃されたりしたら、その時は構わないから目隠しを取って応戦しろ」
「分かりました」
「それじゃあ、頼んだぞ」
冒険者とザイードの二人に向かってそう告げると、レイは再びセトの背の上に乗り、軽くセトの首を叩く。
するとそれを合図にして、セトは走り出す。
(防御用のゴーレムがもう一個あれば、ザイード達も守れたんだけどな。……どうせなら防御用のゴーレムは二個貰うんだった。いや、その場合は魔の森の素材をもっと渡す必要があったかもしれないが)
レイはそんな風に思いつつ、周囲の様子を確認する。
これが普段……それこそレイとセトだけで、あるいはマリーナやヴィヘラ、ビューネといった仲間と一緒に行動しているのなら、もう少し自分の考えに集中したかもしれない。
だが、今は教官をしているニラシスはともかく、生徒達が一緒なのだ。
冒険者育成校でギルムに行くメンバーに選ばれるだけあって、全員が才能のある者達なのは間違いない。……ハルエスはレイの推薦だったが。
そんな生徒達の生死が懸かっている以上、レイとしてもあまり気軽に行動するといったことが出来る筈もない。
行きと帰りではどうしても通る道の印象が違ってくる上に、トレントの森として多くの木々が生えている以上、道をしっかりと覚えるのは難しい。
それでも木々のちょっとした形、地面にある少し大きめの石、茂みの形……そのような目印を覚えていると……不意に森を抜ける。
抜けた先にあるのは、防御用のゴーレムが張った障壁によって、馬車ごと守られている面々。
幸いなことにレイやセトがいない間にモンスターが襲撃してくるといったようなことはなかったらしい。
そのことに安堵しつつ……だが、馬車のある場所がレイの記憶していたより少し離れた場所だったことに気が付く。
「セーフ。ギリギリ、セーフ」
どうやらセトが走る道を間違えたが、それでも大雑把には間違っていなかったと知り、レイは安堵しつつ、そう呟く。
当然ながら障壁の中にいる面々……より正確には目隠しをされていないレノラと御者はレイとセトの存在に気が付いており、ニラシス達に何かを話していた。
(恐らく、俺達が来たと教えて安心させてるんだろうな。……まぁ、入って行った場所とは違う場所から出てきたから、その件についても教えてはいるのかもしれないけど)
そんな風に思いつつ、セトが障壁に近付いたところで、その障壁を解除する。
「ザイードは無事に送ってきた。そんな訳で、次だ。二人ずつ連れて行くぞ。ちなみにダンジョンは、洞窟とかそういうのじゃなくて、地面に穴があって、そこから地下につづく坂道があるような感じだった」
「……レイ、次は俺を連れていってくれ。ここはレイのゴーレムのお陰で防御面に心配はないんだろう? なら、俺は先に向こうに行って、ザイードを含めた生徒達を守りたい」
目隠しをした状態でか?
微妙に自分の顔があるのとは違う方を見ているニラシスにそう言おうかと思ったレイだったが、ニラシスの性格を考えると、普通にそうだと頷きそうな気がしたので、ギルド職員のレノラがいる前ではやめておく。
「分かった。じゃあ今回はニラシスと……もう一人は、そうだな。アーヴァインでいいか」
「え? 俺ですか?」
アーヴァインは、まさかここで自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、驚きの声を上げる。
「そうだ。腕の立つ奴は多い方がいいだろうし。ニラシスが言ってたように、ここは俺の防御用のゴーレムが障壁を張ってるから、心配はいらないしな」
その言葉にアーヴァインも納得し、そしてレイが協力して二人をセトの背に乗せる。
なお、二人が持っていた武器はザイードの時と同じくミスティリングに収納された。
「じゃあ、またすぐに戻ってくるから、もう少し待っていてくれ」
残る面々にそう言い、防御用のゴーレムに障壁を張らせる。
それを確認したレイは、すぐセトの背に跨がる。
「じゃあ、セト。頼んだ」
「グルゥ!」
レイの言葉にセトは喉を鳴らし、そして走り出す。
なお乗る順番はアーヴァイン、レイ、ニラシスの順番だ。
これは先頭のアーヴァインがセトの首に掴まり、一番後ろのニラシスがレイに掴まるといった形だ。
そうしてセトが走り始め……レイは先程と同様に周辺の特徴から道を覚える。
「なぁ、レイ」
「悪い、ニラシス。今はちょっと道を覚えるのに集中させてくれ」
「……分かった」
レイに何かを聞こうとしたニラシスだったが、そう言われてしまうと反論出来ない。
目隠しをしている今の状況で、道を間違えるというのがどれだけ致命的なのかはニラシスも分かっているのだろう。
そんな二人の会話を聞いたアーヴァインも、声を掛けない方がいいだろうと黙り込む。
黙り込むのだが……目隠しをした状態でセトに乗って走るのだ。
見えない分だけ、かなりのスリルが……怖さがある。
セトも可能な限り揺らさないようにしてはいるが、まずは出来るだけ早くダンジョンまで到着するのを目的としてるので、今は乗り心地よりも速度を優先していた。
それでも最低限、セトの背から落ちないように配慮はしてるのだが。
セトは走り続け……先程の冒険者の案内を思い出しながら、ダンジョンを目指す。
するとやがてダンジョンのある場所と、そこにいる冒険者とザイードの姿が見えてくる。
こちらもまた、敵に襲撃された様子はない。
そのことに安堵しつつ、レイはセトの背の上で冒険者に向かって軽く手を振る。
向こうもそれを返し、そうしてセトは足を止めた。
「さて、ついたぞ。降ろすからちょっと待ってくれ」
目隠しをしている以上、下ろすのにも自分が協力をする必要があるだろう。
そう思っていたのだが、ニラシスとアーヴァインの二人はレイが手を貸す前に、自分でセトの背から降りる。
目隠しをされていても、ニラシスとアーヴァインにとって、このくらいは問題なく出来るということなのだろう。
「……じゃあ、これが武器な。俺が戻ってくるまでは目隠しを外さないで待っていてくれ」
「分かった。俺が言うまでもないと思うが、出来るだけ早く頼む」
そう言うニラシスとアーヴァインに武器を返し、レイは再びセトと共に馬車のある場所に戻るのだった。
「さて、これが最後だな」
レイはセトの背に乗っているイステルとカリフを見つつ、そう呟く。
レイとセトはきちんと道を覚え、こことダンジョンのある場所を往復するごとにその時間は短くなっていった。
レイとしては、ぶっちゃけ生徒達を乗せている時はともかく、ダンジョンから馬車のある場所に戻ってくる時は空を飛んだ方が手っ取り早いんじゃないか? とも思ったのだが。
ただ、セトがトレントの森を往復するごとにタイムが短くなっていることを嬉しく思い、少しでも早く地上を走って移動するということで、空を飛べばいいのでは? とは言い出せなかった。
……もっとも、空を飛べばどうしても目立つので、ダンジョンの探索を秘密裏にするには、目立たない方がいいだろうという思いもそこにはあったが。
「ご苦労様です。では、私達もレイさんが行ったらギルムに戻りますね。……ダンジョンの探索、気を付けて下さい」
これが最後だというレイの言葉に、レノラはそう言う。
レノラにしてみれば、正直なところダンジョンの探索にここまで手間を掛ける必要があるのか? という思いがあった。
これまでの実績から考えると、ここまでしてレイ以外の人物が必要なのかとも。
勿論、セトの背に乗っているイステルやカリフがガンダルシアにおいて冒険者育成校でレイの生徒であるというのは知っている。
知ってはいるが、それでもそこまでする必要があるのかという思いがあるのは止められない。
上からの指示である以上、どうしようもないのも事実ではあったが。
「そんなに心配そうな顔をするなって」
レノラは不安を表情に出しているつもりはなかったのだが、レイにそう言われてしまう。
何だかんだと、レイはレノラとの付き合いが長い。
純粋に付き合いの長さだけなら、ケニーと共にレイがこのエルジィンにきてからトップクラスの人物だろう。
それだけに、レノラのこともそれなりに理解はしていた。
「レイさんが帰ってこなかったり、帰ってきても怪我をしていたりしたら、もっと不安になるんですからね。だから、レイさんはしっかりと……無傷でとは言いませんが、ちゃんと帰ってきて下さい」
それは、レノラの本心。
ケニーのようにレイに対して男女間の好意を持ってる訳ではない。
だが、友人として……いや、弟のようにレイを思っているのも事実。
だからこそ、レイのことが心配だったのだろう。
「その辺については、多分大丈夫だ。何かあっても、セトと一緒ならどうとでも対処出来るだろうから、安心して待っていてくれ。それに……そもそも、恐らくは出来てからそんなに時間が経っていないダンジョンだ。恐らくは中もそこまで広くないとは思う」
そう言いつつも、ダンジョンである以上は何が起きてもおかしくはないだろうとレイには思えたが。
それこそダンジョンは予想通りに動くといったことは基本的にない。
だからこそ、レイは大丈夫だと思っているが、同時に予想以上の何かが起きてもおかしくはないと思えてしまう。
もっとも、そのようなことになったら、その時はその時で対処すればいいだろうとレイは思っていたが。
「分かりました。レイさんがそう言うのなら、大丈夫だと信じます。……では、私はギルドに戻りますので」
「ああ、基本的には探索だけをするつもりだが、もし狭かったり浅いダンジョンなら攻略したという報告をするかもしれないから、楽しみにしていてくれ」
そう言うレイに、レノラは改めて無理をしないように言うのだった。




