3953話
新年、あけましておめでとうございます。
今年も1年、よろしくお願いします。
新年ということもあり、今日は3話同時更新です。
こちらは3話目なので、直接こちらに来た方は2話前からどうぞ。
妖精郷とギルム、長とダスカー。
どちらの立場が強いのかと言われれば、やはり長の方が強い。
純粋に戦力という意味ではダスカー率いるギルムの方が強いのだが、妖精郷にとってギルムは必ずしも必要な相手ではない。
それこそいざとなれば、今の妖精郷を捨てて別の新しい場所に妖精郷を作るといった手段もあるのだ。
それに対し、ダスカーとしては妖精郷の存在は色々な意味で大きい。
妖精の作るマジックアイテムの価値は非常に高く、穢れの件のように、妖精郷の長には人が知らない伝承が伝わっている。
また、既に絶滅したと思われていた……それこそ、お伽噺の存在でしかないと思われていた妖精を間近に見ることが出来るのだ。それだけではなく話したり触れ合ったりといったようなことも出来るとなれば、妖精を一目見たいと思う者が多くギルムを訪れるだろう。
そういう意味で、ギルムにとって妖精郷は非常に大きな存在であるのは間違いなく、それがギルムにとって大きな被害を与えるようなことであればまだしも、そうでない場合はダスカーとしても長の要望を聞く必要があった。
それが、例えガンダルシアにおいてレイの同僚や生徒達にギルムの秘密を知られるようなことになる可能性が高くても。
「そんな訳で、急だがダスカー様からの指名依頼だ。ただし、この依頼はかなり危険が予想されるから。断ってもいい。そしてこれが重要だが……この依頼の件については、誰かに話すのを禁止される。武勇伝とか、そういうのを下手に酒場でした場合、最悪ギルドから処分がくだったり、もっと最悪の場合は警備兵に捕まる可能性もある」
領主の館でダスカーとの話し合いを終えたレイは、すぐにマリーナの家に戻ってきて、ニラシス達に事情を説明する。
幸い、まだニラシス達はマリーナの家から出ていなかったので、行き違いになるようなことは避けられた。
レイの口からされた説明は、トレントの森については可能な限り隠す必要があるので、詳しい説明ではなく大雑把な説明だったが。
「急にそう言われても……しかも、何だか妙に縛りが厳しくないか?」
「そうだな。ニラシスの言葉は否定しない。実際、言う通りだと思うし」
レイもダスカーから出された条件はかなり厳しいと思う。
もしレイがニラシスの立場であれば、恐らく断ってもおかしくないと思うくらいには厳しいし、何より怪しい内容なのは間違いなかった。
だが同時に、レイはダスカーの、そしてギルムの事情についても十分に理解している。
トレントの森が、ギルムにとってどれだけ大きな存在なのかも分かるだけに、半ば板挟みといった感じだった。
「まず、聞かせてくれ。指名依頼ってのは、具体的に何をすればいいんだ?」
これ以上レイに事情を話すように言っても、それは無理だと判断したのだろう。
ニラシスは無駄なことはせず、具体的に自分達がどのような依頼を受けるのかと、レイに尋ねる。
また、それはニラシスだけではなく、アーヴァインを始めとした他の生徒達にとっても興味深いことだった。
「ダンジョンの探索だ。それも最近見つかったばかりのダンジョンで、恐らくは出来てからそこまで時間は経っていないと思われる」
「ダンジョンか」
レイの説明に、微かにだがニラシスは安堵した様子を見せる。
ガンダルシアの冒険者として、ダンジョンの探索が得意だというのを自覚しているからだろう。
勿論、たまには護衛の依頼であったり、盗賊の討伐の依頼を受けたりもしている。
だが、それでもやはりガンダルシアの冒険者として、一番得意なのはダンジョンの探索なのだ。
だからこそ、指名依頼の内容がダンジョンの探索だったのはニラシスにとって安堵出来る要因なのだろう。
「それで、最近出来たダンジョンだったか? だとすれば、そこまで深くはないんじゃないのか?」
「恐らくは、だけどな。最近出来たというのは、あくまでも予想でしかない」
何しろ、レイが冗談半分にトレントの森にダンジョンがあるんじゃないかと口にしたところ、それを本気にした妖精がダンジョンを探しに行き、それで見つけてしまったダンジョンなのだから。
(こういうのを、嘘から出た実っていう……うーん、どうだろうな)
そう疑問に思うレイだったが、今はそれよりもニラシス達に事情を説明する方が先だと思い直す。
「あくまでもそのダンジョンを見つけたのが最近……というか、今日だというだけだ」
「なら、今までそのダンジョンが見つからなかっただけで、実は前からあったダンジョンという可能性もあるのか?」
「どうだろうな。その辺は俺も分からない」
妖精達はそれなりに妖精郷の外に出ている。
そんな妖精達が今までそのダンジョンを見つけることが出来なかったというのは、やはり最近ダンジョンが出来たからではないのかとレイには思えた。
もっとも、トレントの森にダンジョンがあるというのは分かっているものの、具体的にどこにあるのかというのまではレイにも分からない。
そうなると、もしかしたら普段妖精達が行かないような場所にダンジョンがあって、それで見つけるのが遅くなったという可能性も否定は出来なかった。
「結局は行ってみるしかないと。……そのダンジョンの情報は何もないのか?」
「今のところはな。ただ、何度も言うように恐らくは出来てからそんなに時間が経っていないダンジョンだ」
「あの、レイ教官。そもそもの疑問なのですが、何故私達に依頼……それも指名依頼を? こう言ってはなんですが、ギルムには私達よりも腕の立つ冒険者は多い筈ですが」
イステルの問いに、レイは何と答えればいいのか迷う。
実際、レイも何故長がニラシス達に指名依頼をするように言ってきたのか、分からないのだから。
(もしかしたら、俺の同僚や生徒がどういう相手なのか、見てみたいという好奇心からか?)
そう予想するレイだったが、それはある意味で当たっているが、ある意味で外れている。
実際には長が自分の想い人であるレイがわざわざ教えている相手を見てみたいという、そんな思いから、ダスカーに指名依頼をするように要請したのだから。
(どうやって誤魔化すか)
要請については、当然ながら話すことは出来ない。
そうなると、何かもっともらしい理由が必要になる。
「ダスカーのことだから、レイの同僚やその生徒達の実力を見てみたいと思ったんじゃないかしら?」
そう助け船を出したのは、話を聞いていたマリーナだった。
ダスカーと親しいからこそ、ある程度の事情は予想出来ているのだろう。
「マリーナの言う通りだと思う。それに……折角ギルムに来たんだ。増築工事の荷物運び以外にも、それらしい経験をさせてやろうという思いもあったのかもしれないな」
「その割には、指名依頼とはいえ、かなり厳重に行動を縛るようだけど?」
ハルエスがそう突っ込む。
事実、体験をさせるだけならここまで厳しく依頼内容を他言無用にしたりといったことは、普通しないだろう。
だが、現実にはそのような条件で依頼をされてるのだから、気にするなという方が無理だった。
「元々そういうつもりだったところで、偶然ダンジョンについて知った……そんなところか。後はまぁ、ダンジョンのある場所が色々と問題だな」
「そんなに重要な場所なのか?」
「そうなる。とはいえ、具体的にどこにあるのかというのは教えることが出来ないから、もし依頼を受けた場合はダンジョンのある場所まで目隠しをして貰うことになると思う」
「……そこまで重要な場所で、俺達の様子を見る為に? それ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「ニラシスが心配するのも分かるが、取りあえず依頼そのものに裏がないのは俺が保証する。ただ、それはあくまでも依頼についてであって、実際に探索するダンジョンで何かある可能性は十分にあるが」
恐らくは出来てからまだそれ程経っていないだろうダンジョン。
だが、それでもダンジョンはダンジョンだ。
どのようなダンジョンかの情報がない以上、しっかりと警戒をする必要があるのは間違いなかった。
「……で、もし受けた場合の報酬は?」
「ああ、それについてはダスカー様とも話してきた。とはいえ、そんなに難しいことじゃない。基本的にはニラシス達がダンジョンで見つけた物は全て貰ってもいい。ただし、未知のモンスターが出て来た時は俺やセトに戦わせて欲しい。それとダンジョンの核もこっちで貰う」
「なるほど。……話は分かったが、その条件でいいのか? マジックアイテムとかが見つかったら、どうするんだ?」
ニラシスはレイがマジックアイテムを集める趣味があるのを知っている。
その為にそう聞いてきたのだろうが……
「出来たばかりの可能性が高いダンジョンだしな。とてもじゃないが、マジックアイテムがあるとは思えない。とはいえ……そうだな。もし何かいいマジックアイテムがあったら、その時は俺が金を支払って買わせて貰うってことでどうだ?」
「俺は構わないが……お前達は?」
ニラシスに視線を向けられた生徒達は、それぞれ頷く。
色々と思うところはある。
だが、折角のこの機会を逃すということは、生徒達にとっても考えられなかったらしい。
「よし、じゃあ決まりだな。……勿論、色々と話を聞いて、それで問題ないと判断すればだ。もし何か怪しいことがあった場合は、どんな罰則があっても引き受けないからな。俺だけならまだしも、こうして生徒達が一緒にいるんだ。俺はこいつらを無事にガンダルシアに帰す義務がある」
そう言い切るニラシスに、生徒達は驚きの視線を向ける。
勿論、ニラシスが教官としてしっかりと自分の仕事をしているのは理解してた。
だが……それでも、それはあくまでも表向き、もしくは表面的なものでしかないと思っていたのだ。
だが、実際にこうしてしっかりと自分達の心配をしてくれる。
それは生徒達にとって間違いなく嬉しかったことなのだろう。
「何を心配してるのかは分かるが、ダスカー様の性格を考えれば、妙なことはしないと思うぞ」
もっとも、ギルムにとって不利益になると思えば切り捨てられる可能性は十分にあるが……というのは、レイは口にしない。
基本的にダスカーが人格者なのは間違いない。
だが同時に、ダスカーはギルムを治める領主であり、ミレアーナ王国の三大派閥の一つを率いる身だ。
もし自分にとって看過出来ないレベルの不利益をもたらすような者がいた場合、それこそ容赦なく切り捨ててもおかしくはなかった。
レイもそれは十分に知っている。
それを知った上でも、他の……それこそ今まで何度もレイにちょっかいを出してきたような、そして逆襲された痛い目を見ても懲りないような、そんな貴族達と比べれば……いや、比べるのもダスカーに失礼な程だ。
「レイがそう言うなら、取りあえず信じるよ」
そう言うニラシスだったが、その目は必ずしもレイの言葉で完全に納得したようには見えない。
ニラシスもレイのことを信用してはいるものの、それでもここがレイの地元……それもニラシスが見た限り、かなりダスカーに気を許しているように思えたからこその反応だろう。
勿論ニラシスも領主の館で最初にダスカーと会ってから、その後も何度か顔を合わせている。
その時の印象からすると、一角の人物なのは間違いないのだろう。
しかし、ニラシスも冒険者としてそれなりの経験をしてきたのだ。
そんな経験の中には、どうしようもない貴族からの依頼といったようなものもあった。
だからこそ、ニラシスもレイの言葉を完全には信じないし、ダスカーも同様に完全に信じたりはしていないのだろう。
「じゃあ、依頼は受けるということでいいんだな?」
最後の確認といったように念を押して尋ねるレイに、ニラシスは生徒達を見る。
そんなニラシスの視線に、生徒達は全員が頷く。
生徒達も、希望し……その上で選抜されて、ギルムに来たのだ。……ハルエスだけは、レイの推薦だったが。
そんな面々だけに、冒険者の本場と呼ばれるギルムで依頼を……それも領主からの指名依頼でダンジョンに潜るのだから、やる気はあっても怯むようなことはない。
そのような意思が込められた瞳で、頷きを返したのだ。
「この依頼、受ける」
生徒達全員が頷いたのを見て、ニラシスはそうレイに告げる。
……実はニラシスは、生徒達の中に怯えている者がいたら、その生徒は依頼に同行させないつもりだった。
だが、生徒達は全員がやる気に満ちた決意を瞳に浮かべていた。
だからこそ、ニラシスは生徒達全員を連れて依頼を受けると……そう断言したのだろう。
話が決まると、レイとニラシスは明日の朝にギルドの前で合流することを約束し、ニラシス達はミレイヌに引率されて領主の館に帰るのだった。




