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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3951話

「美味いっ! 何だこれ……本当に美味い……」


 ハルエスが鶏肉の丸焼きを食べるとそんな声を出す。

 レイの出したマジックアイテムの窯で焼かれた、鳥の丸焼き。

 中には野菜や木の実。キノコが詰められており、それを鳥の表面は外側はカリッと、中はしっとりと柔らかく焼き上げられた鶏肉。

 クルミに近い木の実と酸味の強い果実を使って作ったソースも、焼いた鶏肉に合う。

 真っ先に声を出したのはハルエスだったが、他の生徒達も多かれ少なかれ美味い料理に舌鼓を打っていた。

 その料理の美味さに、自分達の使っているテーブルや椅子が高級な家具であるというのをすっかり忘れているかのようだった。


(どうやら、マリーナの料理はお気に召したようだな)


 美味い美味いと食べている生徒達を見つつ、レイは自分も料理を口に運ぶ。

 その瞬間、口の中に広がる濃厚な味。

 ハルエス達がこれを喜んで食べているのは、納得出来る味だった。


「嬉しそうね」

「ええ、私の作った料理をこうして喜んで食べて貰えるんだもの。これで喜ぶなという方が無理でしょう?」


 マリーナはヴィヘラの言葉に笑みを浮かべてそう言う。

 マリーナにしてみれば、それだけ自分の作った料理を食べて貰うのは嬉しいのだろう。

 また、鳥の丸焼きはそれなりに火加減に注意する必要がある料理だ。

 マジックアイテムの窯の中でも、場所によって温度は違う。

 その為、こまめに鳥の位置を変えるといったことをする必要があった。

 もっともそれが楽しめるからこそ、料理を得意としてるのかもしれないが。


「難点を言えば、もう幾つかの食材が欲しかったというところかしら」


 鳥の中に入れる具材が幾つか、マリーナにとっては足りなかったらしい。

 そんなマリーナの言葉に、同じテーブルのレイ達はこれでか? と思う。

 レイはともかく、公爵令嬢や元皇女といったように美食を食べる機会の多いエレーナやヴィヘラにとっても、鳥の丸焼きは十分に美味いと思えるのだ。


「これでも十分に美味しいと思うのだが……」


 しみじみとエレーナが呟く。


「そう言って貰えると嬉しいけど……クジャの実と、サラス茸、クワイスの根があればもう一段……いえ、二段は美味しくなったのよ」


 残念そうに言うマリーナに、少し離れた場所でセトに料理を食べさせているミレイヌが呆れたように口を開く。


「マリーナさんが言ってる食材って、どれも結構希少な物じゃないですか。そう簡単に手に入らないと思いますよ」


 こう見えて、ミレイヌはそれなりに料理が得意だ。

 セトにメロメロになっているのを見ればそうは思えないのかもしれないが。

 それだけに、マリーナが口にした食材についても、どういうものなのか想像出来たらしい。


「普通の街ならそうかもしれないけど、ここはギルムよ? 普通にそういうのが売っていてもおかしくはないと思わない?」

「それは……」


 マリーナの言葉に、ミレイヌはまさかと思いつつ、同時にもしかしたらとも思う。

 マリーナが言うように、ここはミレアーナ王国唯一の辺境にあるギルムだ。

 そうである以上、それこそここで入手出来ない物はない……というのは少し大袈裟かもしれないが、大半の物は入手出来る筈だった。

 勿論、希少な品は相応に高額なのだが。


「折角来てくれたんだから、どうせなら喜んで貰いたいでしょう?」


 マリーナの家に来る者はそう多くはない。

 最近でこそエレーナがいるということで面会に来る者は多いが、それはあくまでもエレーナの客であり、こうしてマリーナが料理を作って歓迎するといった相手ではない。

 今こうして中庭で一緒に食事をしているニラシス達は、そういう意味で歓迎すべき客なのだ。

 そのような相手に料理をご馳走するのは、マリーナにとって間違いなく喜びだったのだろう。


(こうして多くの人数がいるのなら、焼き肉……バーベキューとかやってもいいかもしれないな。……網とかそういうのは作らないといけないだろうけど)


 日本にいる時、レイの家では夏に地元で行われる花火大会の時、そしてお盆……正確にはお盆に肉を食べるのはどうかということで、十五日くらいに親戚が集まって外で焼き肉をやっていた。

 レイにとっては、外でやる焼き肉はバーベキューと呼べばいいのか、それともイメージにあるような、肉や野菜を串に刺して焼くのをバーベキューと呼べばいいのか、少し迷うところだったが。

 ともあれ、親戚の家であったり友人であったりが集まってやるバーベキューは、美味い料理を食べられるというのもあり、レイにとって楽しい時間だった。

 何気に夏ということでレイの獲ってきた鮎の評判がよかったのも、レイにとっては嬉しかったが。

 そんなバーベキューは、今こういう時にやれば賑わうのではないか。


(今更だけどな)


 今日は無理でも、いつかやれるようにバーベキュー用の焼き台を鍛冶師に注文するべきか。

 そう思っていると、マリーナが追加の料理を二つのテーブルに置いていく。

 それは鳥の丸焼きを食べている間、窯の中で焼かれていた料理。

 とはいえ、パン生地の中に具材を入れて焼いただけという……肉まん、もしくは中華まんに近い料理だった

 蒸すのではなく、焼いているのだが。

 勿論それだけではなく、普通に焼いたパンもある。

 ただし、焼き中華まん……いや、中には肉が多く入っていることから、焼き肉まんとでも呼ぶべき料理の方が、普通のパンよりも好評だったが。


「熱っ、美味っ」

「肉汁が、肉汁がぁっ!」


 そんな声がもう一つのテーブルの方から聞こえてくる。


「そう言えば、これと似たような料理で生地の中にスープが入ってるって奴を知ってるけど、作れるか?」


 焼き肉まんを食べつつ尋ねるレイに、最後のパンをテーブルの上に置いたマリーナは難しい表情を浮かべる。


「スープを? ……それは無理じゃない?」


 そう口にしたのは、マリーナではなく、ちょうどセトとイエロに食べさせる料理を取りに来ていたミレイヌ。


「何でだ?」

「だって、スープでしょう? このパンみたいにしっかりとした具材なら分かるけど、液体をどうやって入れるのよ?」


 ミレイヌの言葉に、レイはどうだったかと少し考える。

 しかし、その考える内容……いわゆる元ネタは、レイが実際に料理を作った経験からではなく、TVの料理番組であったり。あるいは料理漫画であったりするのだが。


「えっと……何だったか……そう、煮ごこり? 煮こごり? そういうのにして生地で包むんだったと思う」

「煮ごこりや煮こごりってのを、まず説明して貰わないと分からないわね」


 料理が得意なマリーナではあるが、だからといって自分の知識にないものを作って欲しいと言われても困る。

 だからこそ、それを知っているレイに、それがどういうものかを聞いたのだが……結局のところ、料理については全く詳しくない、それどころか料理漫画の知識くらいしかないレイに、それが説明出来る筈がない。


「あー……その、ほら。ゼリーみたいな状態になってる奴。……ゼリーで通じるか?」


 レイはこの世界に来てからゼリーは食べたことがない。

 なので、ゼリーといった表現で通じるかと思ったが……


「ええ、分かるわよ。甘いお菓子でしょう?」


 マリーナのその言葉に、取りあえずこの世界にもゼリーがあるのかと納得する。

 もっとも、そのゼリーが具体的にどのようなものなのか……自分の知ってるものなのかどうかは、まだ分からなかったが。


「分かるならいいけど、そういうのを生地の中に包んで焼けば、スープ状になるんだよ」

「でも……それだと、スープが焼けた生地に染みない?」

「……言われてみればそうだな」


 レイが想像していたのは、いわゆる小籠包に近い料理だ。

 小籠包が蒸すのに対し、こちらは焼くといった方法ではあったが、そもそも何故小籠包ではスープが生地に染みないのか。

 実際に小籠包を食べたことがあるのなら、もしかしたらレイもその理由を分かったかもしれない。

 だが、レイが知っている小籠包はあくまでもTVの料理番組や料理漫画でのことだけだ。

 実際にはどのようにして作るのかということは分からない。

 なので、当然ながらマリーナが聞いてきたような、焼いている時に生地がスープに染みるのではないかというものに対しても、答えることが出来なかった。


(そもそもカレーパンとかもそうだしな。もし焼いてる途中でスープが生地に染みないとかなら、カレーパンだってああいう汁気のないカレーじゃなくて、普通のカレーを使えばいい訳で)


 だが、実際にはカレーパンは汁気のないカレーだ。

 こちらもまた料理漫画の知識だったが、カレーパンのカレーを水でのばすと普通のカレーになるというのを、レイは知っていた。


「取りあえず、俺が知ってる料理にはそういうのもあるって覚えておいてくれ。あくまでも俺が知ってるのはそういう料理があるってだけで、実際の作り方は分からないが」


 それじゃあ意味がないのでは?

 自分で言っておきながら、レイは自分の言葉にそう突っ込む。

 とはいえ、基本的に料理が得意という訳でもないレイは、あくまでも料理番組や料理漫画の知識しかない。

 それこそ現在ギルムでは普通に食べられるようになったうどんは、大雑把にしか作り方を覚えていなかったのを、料理人が試行錯誤してしっかりとしたうどんになったといったように。

 ……あるいは、レイが以前行ったことがある場所で作ったカツを始めとした揚げ物の類であれば、作り方そのものはそう難しくはないので、料理人がそこまで試行錯誤しなくてもよかったのだが。


「うーん……スープをゼリー状にして生地の中に入れる、ね。……ちょっと面白そうではあるけど、私には無理ね」


 マリーナが残念そうに言う。

 マリーナは料理がそれなりに得意なのは間違いないが、それはあくまでも素人にしてはだ。

 言ってみれば、趣味で料理をやってるようなもので、本職の……プロには敵わない。

 それこそレイがうどんの大雑把な作り方だけを教えても、満腹亭の亭主のようにすぐにうどんを完成させることは出来なかった筈だ。

 勿論、それはすぐには無理ということで、時間を掛ければ可能ではあるのだろうが。


「そうか、まぁ、出来ればちょっと食べたいと思っただけだし、気にしなくても……うん?」


 今はそこまで気にしなくてもいい。

 そうレイが言おうとしたのだが、その途中で言葉を止める。

 ミレイヌに料理を食べさせられていたセトが、不意にマリーナの家の入り口に視線を向けたのに気が付いたからだ。

 そして数秒遅れてレイが……更にそこから少し遅れ、エレーナ、マリーナ、ヴィヘラが、そしてアーラとビューネが……といったように、それぞれの視線がマリーナの家の入り口に向けられる。

 美味い料理を楽しんでいたニラシスや、生徒達も遅れて視線を向け……やがて、レイに見覚えのある人物……騎士が一人中庭に入ってくる。

 マリーナの家は精霊魔法によって悪意を持っている者は入れないようになっている。

 そんな中でこうして入ってきたということは、悪意を持っている人物ではないということだろう。

 そしてレイにはその人物に見覚えがあった。

 領主の館で何度か話したことのある、狼の獣人の騎士。


「お前は……」


 声を出したレイに視線を向けると、騎士はレイを見て小さく頷き、マリーナの前に立つ。


「マリーナ様、実はとある問題が起きまして、レイを借りたいのですが……構わないでしょうか?」

「レイを? とある問題って……具体的には何かしら?」

「その……ここでは少し」


 騎士の視線が、もう一つのテーブルから自分を見ているニラシス達に向けられる。

 そんな騎士の動きで、マリーナも何が起きたのか……いや、正確には何が起きたのかは分からないが、とにかく部外者に言えないような何かが起きたのだろうというのは予想出来た。


「レイ、どうする? ダスカーはレイをご指名のようだけど」

「行くに決まってるだろ。……少しでも急いだ方がいいのか?」


 前半をマリーナに、そして後半を騎士に向かってそう言う。

 すると騎士は、そんなレイの言葉に即座に頷く。


「ああ。そうして欲しい。セトに乗ってきてもいいということだ」

「……それ程のことか」


 騎士の言葉に、レイは驚く。

 基本的に、ギルムの中で空を飛ぶのは禁止されている。

 その例外が、外から来た時に直接領主の館とマリーナの家に降りることなのだが……同じギルムの中で、マリーナの家から領主の館まで移動するのにセトで飛んでもいいというのは、余程の何かがあったということなのだろう。


「悪いな、食事の途中だけとちょっと行ってくる」


 中庭にいる面々にそう言い、レイはセトに近付いて行くのだった。

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