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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3947/4001

3947話

年末なので、3話同時更新です。

直接こちらに来た方は2話前からどうぞ。

「あれが……レイの住んでいる家か? 何だか他の屋敷に比べると……」


 ニラシスが、マリーナの家を見て戸惑ったように言う。

 実際、その気持ちはレイも分かっているので、頷いてから口を開く。


「驚くのも無理はないが、元々はマリーナだけが住んでいた家だしな。このくらいの大きさで全く問題はなかったんだ。……今は俺も含めて結構な人数が住んでるけど」


 このくらいのと口にしたレイだったが、それはあくまでも貴族街にある他の屋敷と比べての話だ。

 街中にある普通の家と比べると明らかに大きい。

 貴族街の手前の高級住宅街に建っている家と同じくらいか、あるいはそれより少し小さいといった程度だろう。


「それに、家の大きさは貴族の屋敷に負けてるけど、快適さという意味ではこの家以上の家はちょっとない……いや、もしかしたらあるのかもしれないが、俺は知らないな」

「そんなに凄い家なのですか?」


 ビステロの問いに、レイは歩きながら頷いて説明を続ける。


「あの家の主であるマリーナは、天才的な精霊魔法の使い手だ。……そうだな、お前達にも分かりやすく言うと、フランシスが数人、あるいは数十人集まっても精霊魔法ではマリーナに勝てないと言えばいいか」

「そんな……嘘でしょう……?」


 イステルが信じられないといった様子で言う。

 イステルはセト好きの件もあって、恐らくこの中で一番フランシスと仲が良い。

 そして、だからこそフランシスの精霊魔法の技量についてそれなりに詳しいのだ。

 ガンダルシアにおいて……いや、グワッシュ国において、そして周辺諸国――当然だがミレアーナ王国は除く――にも、フランシスの精霊魔法の技量については知れ渡っており、フランシス以上の精霊魔法の使い手はいないと言われている。

 そんなフランシスが、数人、数十人であっても精霊魔法で勝てない。

 そう言われ、イステルはすぐに納得出来ない。


「いや、事実だ。その辺はフランシスも認めてるしな」


 実際にはマリーナに精霊魔法で勝てないとは認めているものの、数人、数十人自分がいても勝てないとまでは言っていないのだが。

 ただ、双方の実力を知っているレイにしてみれば、恐らくそれで間違いはないだろうと思える。


「そんなことが……」

「まぁ、詳しい話は中に入ってから……ああ、いや。その前にもう遭遇したか」


 イステルと話していたレイは、自分の後ろに視線を向ける。

 するとその視線の先……レイ達がやって来た道を歩いて、近付いてくる人影がある。


「って。うえ? え? あれ……」


 そう口にしたのはハルエス。

 完全に混乱した様子なのは、視線の先にいるマリーナの美貌に驚いたというのもあるし、同時に何故か胸元と肩が大きく開いたパーティドレスを着ていたからだろう。

 これが例えば、どこかのパーティ会場で会ったのなら、違和感もないだろう。

 だが、ここはパーティ会場でも何でもない通路だ。


(まぁ、貴族街の道として考えれば……そして夕方だということを考えれば、不自然ではないのか?)


 いや、不自然だろう。

 レイは自分の考えを即座に否定する。

 場所と状況を考えれば、そこまで無理はないように思えるシチュエーションではある。

 だが、その場合は馬車で移動するなり何なりする筈で、パーティドレスを着ているのに、歩いて移動するということはない。

 ……もっとも、レイにとってはマリーナはパーティドレスを着ているというのが前提にあるので、こうしてマリーナを見てもそこまで驚きはなかったが。

 ただ、それはあくまでもレイがマリーナという存在を深く知っているからだ。

 そうではない者達、初めてマリーナを見る者達が、驚きで動けなくなってもおかしなことではない。


「あら、ギル……いえ、マリーナさん」


 そしてレイ以外にもう一人、マリーナのことをそれなりに知っているミレイヌが近付いてくるマリーナを見て、そう言う。

 既にギルドマスターの座を譲っているにも関わらず、それでもまだギルドマスターと言いそうになるのは、それだけマリーナがギルドマスターだった印象が強いせいだろう。

 実際、マリーナがギルドマスターをやっていた時に世話になった多くの冒険者は、マリーナのことを名前ではなくギルドマスターと間違って呼ぶことが多い。

 ミレイヌもその一人だった。

 そんなマリーナは、当然ながら自分の家の側にいるレイの存在には気が付いていた。

 十分に近付いたところで、強烈なまでの女の艶を無意識に発しながら笑みを浮かべ、口を開く。


「あら、レイ。お帰りなさい。それにミレイヌも久しぶりね。……それで、そっちがガンダルシアの冒険者育成校の教官と生徒かしら?」

「ああ、貴族街の見学と、どうせなら夕食をご馳走しようと思ってな。ミレイヌはセトに会いに来たのと、夕食が終わった後でこいつらが貴族街を出る時に送って貰おうと思って」

「そうなの? なら、歓迎しないといけないわね。さ、入ってちょうだい。すぐに夕食の準備をするから」


 そう言い、マリーナはニラシスと生徒達に笑みを向けると、レイ達を追い越して家の中に入っていく。

 そうしてマリーナがいなくなると……そこにあるのは、静寂。

 レイとミレイヌはお互いに視線を交え、それぞれに納得した様子を見せる。

 マリーナに慣れている二人だからこそ、マリーナの放つ強烈なまでの女の艶と絶世の美貌、そして胸元が大きく開いたパーティドレスという三つを備えマリーナがいても、普通に接することが出来る。

 しかし、マリーナと初めて会うニラシス達にしてみれば、初対面でマリーナを見た今、すぐに動けという方が無理だった。

 それでもマリーナがいなくなって数分が経つと……


「凄い……そう、何て言えばいいのか分からないけど、凄いとしか言えない人だな」


 ようやく我に返ったニラシスが、何とかそう口に出す。

 そしてニラシスが我に返ると、それに続いて他の者達も次々に我に返っていく。

 そんな中で、最後に我に返ったのはイステルだったのが、レイにとっては少し意外だった。

 もっとも意外なのはあくまでもレイだけで、それ以外の者達……イステルがレイに好意を。それもただの好意ではなく男女間の好意を抱いていると知った者達は、それも当然だと思っていたが。

 イステルも、間違いなく美人だ。

 今はまだ子供から大人に変わりつつあるといったところだが、もう数年もすれば多くの者が目を奪われるだろう美貌を持つのは間違いないと思える程に。

 だが……たった今遭遇したマリーナは、美の怪物とでも呼ぶべき存在だったのだ。

 一目見ただけで、女として自分に勝ち目がないと認めてしまう程に。


「どうした? 元気がないけど。……まぁ、マリーナは色々と特殊だし、驚いた気持ちは分かるけど」

「レイ教官、すいませんけど、少し黙っていて下さい」


 カリフがレイに向け、そう言う。

 カリフから見ても、レイがイステルをそのような……女として意識していたということはなかった。

 そういう意味では、今こうして声を掛けてくるのも女としてではなく、生徒に対する心配からなのだろうが、ガンダルシアを出発してからの旅路でイステルと仲良くなったカリフにしてみれば、今はイステルに声を掛けないで欲しかった。


「ん? まぁ……そう言うならいいけど」


 何となく空気を読んだレイが、そう返す。

 カリフの様子を見る限り、今は自分が声を掛けない方がいいのだろうと。


(イステルも当然だが自分の美貌には自信があったところで、マリーナと会ってしまったんだしな。自信をなくすのも当然か。その辺りについては、女同士でしか分からないこととかもあるんだろうし)


 レイが思ったのは、純粋に女として自分の美貌に自信のあったイステルが、マリーナを見て負けたと思ったのだろうということだった。

 それは決して間違っている訳ではないが、正解でもない。


「その、だな。レイ……お前、ここに住んでるって言ってたよな? そしてさっきのダークエルフ……マリーナさんだったか? その人が自分の家って言っていたのもある。だとすれば、お前はあんな美人と一つ屋根の下で暮らしているのか?」


 ニラシスのその問いに、アーヴァイン、ザイード、ハルエス、ビステロの男達がレイに視線を向け、どう答えるのかと待つ。

 とはいえ、答えを待つのは同じでも、そこにある表情は二つに分かれていた。

 元々がレイの……深紅のファンだったアーヴァインとザイードは、さすが深紅といった感嘆の表情を浮かべており、ハルエスとビステロは程度の差こそあれ、あのような美人と一緒に暮らしているレイに羨ましそうな視線を向けている。

 そんな視線を向けられつつ、レイは何を言っている? といったようにニラシスを見る。


「さっきも言っただろう? あの家には俺以外に何人もが暮らしているって」

「……言ってた。言ってたが、それでも改めて聞かせてくれ。レイはあの人と一緒に暮らしてるのか?」

「……暮らしている」


 改めて聞いてきたニラシスに、レイは一体何なんだ? と思いつつも、そう答える。

 するとそれを聞いたニラシスは、呆れたように顔を横に振る。


「嘘だろ……何だってそんなことが……レイ、俺は今、初めて……じゃないが、レイを羨ましく思ったぞ」

「ニラシスが何でそんな風に思ったのかは分かるわ。けど、こう考えるの。レイだからしょうがないって。……マリーナさんでそういう風に思っていたら、一緒に暮らしている人達に会った時、一体どうなるか分からないわよ?」


 嫉妬の視線でレイを見るニラシスに対し、そう言ったのはミレイヌ。

 もっとも、ミレイヌはミレイヌで、いつでもセトと遊ぶことが出来るという意味でレイに嫉妬しているのは間違いなかったが。

 ただ、ニラシスに言ったようにレイだからということで納得しているところがあるのも事実。

 レイは色々な意味で……本当に色々な意味で特別な存在だけに、嫉妬しながらもレイだからということで自分を納得させているのだ。


「お前達が何を言ってるのかは分からない……訳じゃないけど、とにかくいつまでもここにいるだけだと、見回りの連中に怪しまれる。面倒はごめんだろうから、さっさと中に入るぞ」


 レイも自分が非常に恵まれているのは理解出来る。

 そんな自分に対し、嫉妬するというのも理解出来るが……何も、レイも全く何の苦労もなく今のような待遇でいる訳ではない。

 それこそ普通の冒険者なら、一生に一度経験するかどうかといった騒動……もしくは大冒険と言ってもいいのかもしれないが、とにかくそんな大きな騒動を何度も経験し、その全てに生き残り、勝利してきたからこそ、今のレイがあるのも事実。

 決して楽に今の状況を手に入れられた訳ではないのだから。


「分かったよ」


 レイの言葉に何かを感じたのか、ニラシスはそれ以上は何も言わず、マリーナの家の敷地内に向かって歩き出したレイの後に続く。

 他の面々も……特にセトと会うのを楽しみにしているミレイヌは、待ちきれないといった様子でマリーナの家の敷地内に入る。


(どうやら全員無事に入れたみたいだな)


 全員が敷地内に入ったのを見て、レイは安堵した。

 マリーナの精霊魔法によって。この家の敷地内には悪意を持った者は入ることが出来なくなっている。

 ミレイヌやニラシス、そして生徒達が一緒であるのなら大丈夫だとは思っていたものの、それでも万が一のことを考えると少しだけ心配だったのも事実。

 だが、実際にはこうして全員が家の敷地内に入ることが出来た。

 そのことに安心しつつ、レイは中庭に向かう。


「え? レイ教官? 何故家じゃなくてそっちに……」


 アーヴァインの戸惑ったような声に、レイは心配するなといったように口を開く。


「今の時間なら多分こっちで正解だ。……いや、もうちょっと早くても中庭に向かっただろうけど」


 そんなレイの説明に何故? といった視線が集まる。

 この中では恐らくレイ以外に事情を知っているミレイヌだったが、そのミレイヌはセトに会えるのを楽しみにしている為か、疑問の視線をスルーしている。


「以前言ったかもしれないが、現在この家には何人かが滞在している。その中の一人はミレアーナ王国の貴族派の中でも重要人物でな。だからこそ、色々な奴が毎日のように面会に来ている。これで他の貴族の屋敷のように広ければともかく、そうでない以上は家の中で面会を希望している相手に会うかもしれないだろ。中にはそれを不満に思う奴もいるかもしれないし」


 エレーナに会いに来るのは、やはり貴族派の者が多い。

 そして貴族派の中にはプライドが高い……あるいは傲慢な性格の者も多く、そのような者と家の中で遭遇した場合、面倒なことになるのはレイにも容易に想像出来る。

 そんなレイの言葉に、話を聞いていた面々も納得するのだった。

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