3936話
今日はクリスマスなので、3話同時更新です。
こちらは3話目なので、直接こにらに来た方は2話前からどうぞ。
眼下に広がる一面の緑。
ガンダルシアから旅立ってからも何度か同じような光景を見ているが……それは、あくまでも草原による緑の絨毯だった。
それと較べると、トレントの森はそんな緑の絨毯とは大分違う。
数え切れない程の木々が青々と生い茂っている。
それにより、一見すると同じように見えても受ける印象は明らかに違った。
それが具体的にどう違うのかと言われると、レイもすぐにこうだと口には出来ないのだが。
それでも明らかに違うのは……一面に広がっている緑が立体的であるという点か。
木の葉による緑と、木の枝の隙間から見える地面に生えている草の緑による違い。
また、それだけではなく葉が生い茂っている木の枝も、木々によって高い場所であったり、低い場所であったりといったようになっている。
そんな違いは、レイにどこか立体感のある緑だなと思わせるには十分だった。
あるいは、人より鋭い五感……特に視覚を持つレイだからこそ、そのように思ったのかもしれないが。
「とはいえ……ゾゾ達はまだ見つからないな。こうして景色を眺めている分には、かなりいい感じなんだけど」
太陽の光がトレントの森に生えている木々に降り注ぐこの光景は、かなり目を奪われる。
その光景だけを眺めていても、いつまでも飽きないと思える程に。
……実際には、そう思っても三十分も見ていれば飽きるのだろうと、レイは心の片隅で思うのだが。
とにかく、そんな景色を見ながらゾゾ達を捜すレイ。
(ゾゾを見つけるのは難しいかもしれないけど、ゾゾと一緒に行動しているリザードマンの子供達なら、それなりに見つけられるかもしれないな)
そんな風に思いながらの捜索だ。
そして……
「グルゥ」
レイにとっては予想外……いや、セトの能力を考えれば当然なのかもしれないが、すぐにセトが見つけたと喉を鳴らす。
そんなセトの見ている方を見るレイ。
するとそこでは、武器を手にオークと戦っているリザードマンの子供達の姿があった。
「って、おい。ちょっと無茶じゃないか?」
思わずそう呟く。
これが例えば動物……もしくはゴブリンやコボルトといった敵が相手なら、レイもそこまで気にすることはなかっただろう。
だが、オークは不味い。
勿論、ゾゾ……いや、ゾゾではなくても、大人のリザードマンがいれば、オークを相手にしても対処するのは難しくはないだろう。
だが、子供のリザードマンが大人のオークと戦うというのは……
「あれ? 意外と動きが悪い?」
セトは翼を羽ばたかせながら、空中に留まっている。
そんなセトの背の上で、レイはオークとリザードマンの子供達の戦いを見る。
木々の枝に遮られ、しっかりと見ることが出来ている訳ではない。
だが、そんな様子で見ても木々の隙間から見えるリザードマンの子供達はオークとしっかりと戦えているように思えたのだ。
その理由の一つ……いや、最大のものが、オークの動きが鈍いということだろう。
完全に把握出来た訳ではないのだが、それでもレイが見たオークの動きは決して万全のようには思えない。
「グルゥ、グルルルゥ、グルゥ」
「ああ、なるほど。そういうことか」
セトが、あのオークはかなりのダメージを受けた状態だと喉を鳴らす。
そんなセトの鳴き声に、レイはなるほどと頷く。
恐らくゾゾが……あるいはゾゾと一緒に行動している別のリザードマンが、オークにある程度のダメージを与えてから、リザードマンの子供達に攻撃をさせているのだろうと。
(野生動物の中には、獲物を弱らせてから子供に与えることで、狩りの仕方を教えるとか、そういうのを何かで見た記憶があるし、ゾゾ達がやってるのも、恐らくはそういうことなんだと思う)
それが、リザードマンとしての本来の姿なのか、あるいはトレントの森に転移してきたことによって、今までと違ってそうしなければならないと思ったのか。
その辺はレイにも理解は出来なかったが、とにかくゾゾや他のリザードマンの大人達が子供の安全を守りつつ、それでいながらしっかりと狩りの練習をさせようとしているのはレイにも理解出来た。
「今ここで降りると混乱させるだろうし、降りるのはオークを倒し終わってからにするか」
「グルゥ!」
レイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。
セトとリザードマンの子供達は、そこまで親しい訳ではない。
勿論全く接触していないという訳ではないし、セトがリザードマンの子供達を相手に遊んでいるところをレイも見たことがあったが。
それでも、他の……それこそギルムやガンダルシアのセト好きと呼ばれる者達と較べると、関わりは薄い。
しかし、それでもやはりセトはリザードマンの子供達が心配なのか、地上を食い入るように見つめていた。
そんなセトを見れば、レイも声を掛けたりは出来ず、戦いの様子を見守り……
「あ」
「グルゥ!」
オークの振るう棍棒がリザードマンの子供に向かって振るわれたのを見て、レイとセトの口からそれぞれ声が漏れる。
だが、棍棒を振るわれたリザードマンの子供を、他の子供が助ける。
盾と長剣――あくまでも子供が持てるサイズだが――を手にしたその子供は、盾でオークの振るった棍棒の一撃を防ぐ。
幸いなことに、盾で棍棒の一撃を受けることは出来たが……体重の差はどうしようもなく、その子供は吹き飛ばされる。
敵の攻撃を真っ向から盾で防ぐのではなく、受け流すといった技術があれば吹き飛ばされることはなかっただろうが、まだ未熟な子供にそれを期待する方が間違っている。
オークが吹き飛ばしたリザードマンの子供に追撃の為に動こうとしたところで、槍を持つ別のリザードマンの子供がオークを牽制する。
先程庇われたリザードマンの子供も、庇った相手に行かせるかとオークの背後から攻撃をしていた。
オークはそれを鬱陶しいと棍棒を振るうが、先程自分達の仲間が吹き飛ばされた光景を見ていたリザードマンの子供達は即座にオークから距離を取る。
そうして多人数を活かしつつ、少しずつだがオークにダメージを与えていく。
連携そのものはまだ拙いものの、それでもオークには対処出来ないくらいのものではあった。
そして元々大人のリザードマンによってダメージを与えられていたオークは、次第にその動きが鈍くなり……
「お」
槍を持ったリザードマンの子供の一撃が、オークの喉を貫く。
ただ、それでもオークは倒れない。
これはオークが頑丈だから……ではなく、どうしても子供ということでオークを一撃で殺すことが出来なかったのだろう。
とはいえ、一撃で死ななかったからといってオークにダメージがない訳ではなく……最終的に、オークは他のリザードマンの子供達によって滅多刺しにされて死ぬのだった。
『わああああああっ!』
オークが死んだことで、リザードマンの子供達が揃って歓声を上げる。
レイやセトに……そしてゾゾのような腕の立つリザードマンにしてみれば、オークというのは雑魚に等しい。
だが、リザードマンの子供達にしてみれば、多少協力してもらったとはいえ、それでも自分達で倒したのだ。
そのことに喜ぶなという方が無理だろう。
そうして一通り喜びの声を上げ……上空でそれを聞いていたレイは、落ち着いたところでセトに声を掛ける。
「セト、そろそろ降りてもいいぞ」
「グルゥ」
レイの指示に従い、セトは翼を羽ばたかせながら地上に向かって降下していく。
特に気配を消したりといったことはしていなかったので、当然ながらリザードマン……子供達ではなく、大人達もセトの存在に気が付く。
何人かの大人は空を飛ぶモンスターの襲撃と咄嗟に武器を構えるが……大人の中の一人、レイが探していたリザードマンのゾゾは、降りてくるセトを見た瞬間、地面に片膝をついて俯く姿勢を取る。
「ゾゾ?」
他の大人のリザードマン達が、いきなりのゾゾの仕草にそう声を掛け……空から降りてきたのがセトであると知ると、すぐにゾゾの行動の意味を知る。
もっとも、ゾゾ以外のリザードマンはレイに忠誠を誓っている訳ではない。
色々と助けて貰ったという意味で感謝はしているが。
そして子供達は一体何が起きたのかと驚いたり、セトについて覚えていた者はセトを見て嬉しそうにしたりする。
そんな中、セトが地面に降りると、レイもセトの背から降りる。
「お久しぶりです、レイ様」
レイに向かい、片膝を突き、頭を下げたままでゾゾがそう言う。
正直なところ、レイはこうして自分が敬われるのは決して好んでいない。
だが、久しぶりである以上は、ゾゾがそうしたいのなら少しくらいならいいかと思いながら、口を開く。
「久しぶりだな。今日はちょっと様子を見に来たんだが、ゾゾは子供達と一緒に出掛けているという話だったから、一応上から捜してみたんだが……こうして会えて何よりだ」
「お手間を取らせてしまい、申し訳ありません」
「気にするな。今日俺が来るってのは前もって連絡をしていなかったんだ。そうである以上、ゾゾが出掛けていたのは仕方がないことだ。それに……子供達に戦い方を教えるのは重要だろう?」
レイはセトと遊んでいるリザードマンの子供達を見ながら、そう言う。
リザードマンの子供達にしてみれば、レイやゾゾが自分達に理解出来ない話をしていたので、暇だったのだろう。
そこにセトがいたのだから、一緒に遊ぶというのは当然の流れだろう。
「ありがとうございます」
「まぁ、堅苦しいのはこの辺にして……折角倒したんだ。オークの解体は早くやった方がいいんじゃないか?」
「レイ様のお言葉に甘えさせて貰います」
レイに向かってそう告げると、ようやくゾゾは立ち上がる。
そしてセトと遊んでいた子供達を呼び、オークの解体の仕方を教える。
「じゃあ、俺達も行ってくる」
他のリザードマンの大人達もそう言うと手伝いに向かう。
リザードマンの子供達が大人達に教わりながら必死に解体してるのを見て、レイはここでドワイトナイフを出すのは違うだろうなと思い、何もしない。
子供達に解体の仕方を学ばせている中で、ドワイトナイフを使って一瞬にして解体というのは、明らかにリザードマン達の邪魔となる。
それくらいはレイも分かるが、だからといって自分も解体するかと言われると、正直微妙なところだ。
何しろ、ドワイトナイフを入手してからは基本的に解体はドワイトナイフで行っているのだから。
つまり、この状況でレイが出来るのは解体が終わるのをただ見ていることだけだ。
「グルゥ?」
「う……その、だな。……そう言われても……」
手伝わないの? と喉を鳴らすセトに、レイはどう答えればいいのか迷う。
ドワイトナイフを使わない以上、レイの解体の技量は……決してどうしようもないくらいに下手という訳でもないが、自慢出来る程のものでもない。
「これはリザードマン達が教える解体の方法だろう? 俺達とは違うやり方の可能性もある。そうなると、下手に俺が教えるのは邪魔になる」
苦しいか?
口にしたレイも今の言葉……言い訳は少し苦しいように思える。
だが、こうして言ってから気が付いたのだが、今の自分の言葉は決して間違っているようには思えなかった。
レイの解体のやり方は、日本にいた時に鶏の解体を手伝った時に覚えた方法と、この世界に来てから試行錯誤しながら独自に覚えたやり方、そして他の冒険者に教えて貰ったやり方を組み合わせたやり方だ。
そんなレイと違い、リザードマンは異世界から来た以上、独自の解体のやり方があってもおかしくはない。
また、人――と自分を呼んでもいいのかレイは微妙な思いだが――のレイとリザードマン達では、身体のつくりも違う。
その辺りも考えると、やはり解体の方法がレイの知っているものと違ってもおかしくはない。
おかしくはないが、そうなると今度はそれがレイには微妙に気になる。
もしかしたら、自分の知っている解体の方法より、もっと分かりやすい、もしくはやりやすい解体の方法があるのではないかと。
「うん、そうだな。手伝うとまではいかないが、どういう感じかちょっと様子見をするくらいはいいだろ」
セトにそう言い、解体をやっている場所に近付く。
リザードマン達はレイが近付いても特に気にしてはいない。
子供達に解体の方法を教えていたゾゾは、レイが近付いてきたことに驚いた様子だったが、今は子供達に教えている最中なので軽く頭を下げるだけだ。
そうしてレイはリザードマン達の解体の方法を見るが……その技量は間違いなくレイよりも上だったが、レイが期待したような未知の技術といったようなものはなく、残念に思うのだった。




