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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3934/4016

3934話

「んん……二日目ともなると、大分慣れたな。いや、元に戻ったという方が正しいのか?」


 朝、起きた後で寝惚けた状態から復活すると、レイは周囲の様子を確認する。

 周囲を警戒する必要もないので、こうしてゆっくりとした朝の時間を十分に楽しむ。

 とはいえ、いつまでもこうしてベッドの上でゆっくりとしていることも出来ない。

 庭の方から漂ってくる、食欲を刺激する香り。

 このままここにいれば、それこそ朝食の時間に間に合わなくなってしまう。

 いや、それだけではなく、どうせなら朝食は出来たてを食べたいと思うのは当然だろう。

 そんな訳で、身支度を終えると庭に出る。


「あら、おはようレイ。今日は遅かったわね」


 朝食の準備をしていたマリーナが、そう声を掛けてくる。


「そうか? 朝食の準備が出来る前に来たんだから、早いってことはないだろうけど、遅くもないと思うんだが」

「だって、ほら。……今朝の模擬戦はもう終わってしまったわよ?」


 その言葉と共に、中庭の一部……エレーナとヴィヘラを示すマリーナ。

 レイがそちらに視線を向けると、そこでは二人が軽く息を切らせているところだった。


「別に俺は絶対に模擬戦に参加したいって訳でもないしな。……いやまぁ、訓練の為にはそうした方がいいんだろうけど」


 そうレイは言いつつ、椅子に座る。

 既にもう夏も真っ盛りになっているだけに、朝でもそれなりに気温は高い。

 勿論日中と較べるとまだ涼しい方だったが、それでも少し動けば汗を掻く……人によっては動かなくても汗を掻く程度の暑さではある。

 そんな中、マリーナの家の敷地内は精霊によって快適な空間となっており、快適な温度だ。

 もしレイが簡易エアコン機能を持つドラゴンローブを着ていなくても、特に汗を掻いたりといったことはないだろう。


「精霊魔法ってのは、相変わらず便利だな」

「そうね。私もそう思うわ。もっとも、精霊魔法は普通の魔法以上に才能が全てだから」

「……だろうな」


 マリーナにそう返しながら、レイはガンダルシアの冒険者育成校の学園長をしているフランシスを思い出す。

 フランシスもかなりの精霊魔法の使い手なのは間違いないが、それでもマリーナと較べるとどうしても劣る。


「とはいえ……レイがそういうことを口にしても、あまり説得力はないと思うんだけど」


 マリーナは自分が精霊魔法の才能があるのを知っている。

 それこそ天才と言われても決して間違いではないだろうと、そう思えるくらいには。

 だが同時に、レイはそんな自分よりも魔法的な才能では間違いなく上なのだ。

 普通の魔法と精霊魔法という違いはあれども、そこにある才能の差は決定的だ。

 レイの持つ莫大な魔力と、その魔力を利用して普通では考えられないような威力や効果を発揮する魔法の数々。

 レイの魔法使いとしての難点は、その魔法が莫大な魔力を使うことを前提としているので、普通の魔法使いには到底使えないということか。

 それと完全に天才肌の……感覚派の魔法使いなので、自分の使っている魔法について他の魔法使いに理論立てて説明することが出来ないというのもレイの魔法使いとしての欠点だろう。

 ただ、全体的に見てレイより優れた魔法使いはいない……とまでは言わないが、それでもかなり希少な存在だろうとマリーナには思えた。


「俺の魔法は、自分で言うのもなんだけど色々と特殊だしな」


 レイの魔法の発想元となるのは、日本にいる時に楽しんだ、アニメ、漫画、小説、ゲームといった、いわゆるサブカルチャーの類だ。

 他にも話題のファンタジー映画とかもその中には入っているが。

 この世界においては、存在しない……訳ではないが、いわゆる娯楽小説のような物はかなり少ない。

 その代わりに、吟遊詩人がいたりするのだが。

 だが、アニメや漫画のように絵として強く印象づけるといったようなことはない。

 あくまでも吟遊詩人の話す物語は、それを聞いた者の想像力によって補完されることになる。

 だからこそ、レイのように強力な魔法を即興で作るといったことは、この世界の魔法使いには難しかった。


(もしそういうことが出来るとすれば……それこそ俺と同じ境遇の奴。タクムとカバジードか)


 レイと同じく、日本から来た者達。

 もっともタクムは日本にいた身体そのままでこのエルジィンに来た転移者であるのに対し、カバジードはこの世界でベスティア帝国の皇子として産まれた転生者という違いはあったが。

 レイの場合は、転移者と転生者の中間といったところだろう。

 日本で事故にあって魂だけでこの世界に来て、ゼパイル一門が作った今の身体にその魂が宿ったといった、特殊な……本当に特殊な存在なのだから。


「私からしてみれば、普通の魔法だろうが、精霊魔法だろうが、魔法を使える時点で羨ましいんだけどね」


 模擬戦の疲れも癒えたのか、ヴィヘラが椅子に座りながらそう言ってくる。

 ヴィヘラは自分で言ったように、魔法は使えない。

 そのことに微妙に疎外感を覚えているのも事実だ。

 ……もっとも、魔法使いというのは基本的に希少な存在だ。

 そういう意味では、魔法を使えない者の方が普通なのだが。

 それはヴィヘラも分かってはいる。分かってはいるのだが……ただ、それでもヴィヘラにしてみれば、この場にいるレイを愛する女のうち、エレーナとマリーナはそれぞれ魔法を使え、そしてレイもまた魔法使える。

 それ以外の……アーラとビューネは魔法を使えないが、その二人は別にレイを想う女ではないので、ヴィヘラは今回の件では数に入れてなかった。

 そういう意味では、ヴィヘラが疎外感を覚えても仕方がないことではあった。もっとも……


「魔法を使えない? その代わりに浸魔掌などという、とんでもないスキルを使えるヴィヘラが、贅沢を言わないで欲しいのだがな」


 こちらもまた模擬戦の疲れを癒やしたエレーナが椅子に座りながらそう言う。

 そう、ヴィヘラは魔法こそ使えないものの、その魔力を使ったスキル、浸魔掌を使える。

 相手の防具を無視して体内にダメージを与えることが出来るという浸魔掌は、まさに一撃必殺と言ってもいいだけの威力を持つ。

 相手がどれだけ強力な防具を装備していても……それこそ、レイのドラゴンローブであっても、浸魔掌であれば意味がないのだ。

 それはある意味でレイの使う魔法以上に強力なスキルだ。


「俺もエレーナの意見には賛成だ。浸魔掌は圧倒的な攻撃力を持つしな」

「あら、レイとエレーナにそうして褒めて貰えるのは嬉しいわね。……けど、そうね。魔法を使えないのは少し残念に思うけど、浸魔掌を使えるのは私にとって本当にとても大きな意味を持つわ」


 ヴィヘラにとっても、浸魔掌というスキルは必殺技と呼ぶべき存在であり、それがある限り負けないと、浸魔掌さえ命中させれば勝てるという思いは、戦いに良い意味での余裕をもたらす。

 だからといって、戦い全てに浸魔掌を使うといった単純な戦闘の組み立てをしないのは、ヴィヘラがそれだけ非凡な才能の持ち主である証だろう。

 そんな会話をしつつ、レイは朝食を食べるのだった。






「それで、レイはこれからどうするのだ? 私としては、こうして一緒にいて貰っても構わないのだが」


 朝食後、マリーナとヴィヘラ、ビューネが仕事に行くと、家に残っているのはレイとエレーナ、アーラの三人とセトとイエロの二匹のみとなった。


「そうだな。昨日も言ったと思うが、今日は妖精郷に泊まる予定だ。だから午後……昼食を食べてから少ししたら妖精郷に行くとは思うが、そうなると午前中は暇だな」

「でしたら、それこそ久しぶりですし、レイ殿はここでゆっくりするというのはどうでしょう?」


 コトン、と。レイの前に紅茶を置きながら、アーラがそう言う。

 アーラにしてみれば、エレーナの気持ちを代弁したといったところか。

 その言葉は、レイにとって悪いものではない。

 レイにとっても、今日は特に何かやるべきことがある訳でもないのだから。

 このまま家でゆっくりとするというのは、決して悪い選択肢ではないのだから。


「とはいえ、俺が家でゆっくりしてると……それはそれで、そっちに迷惑だったりしないか? 今日も面会を希望する者が来るんだろう?」


 エレーナには、毎日のように面会を希望する者がくる。

 そのような者達とのやり取りも、エレーナがギルムにいる理由の一つだ。

 だからこそ、レイが家にいるのはエレーナにとって迷惑なのではないかと、そう思ったのだが……


「レイがいるのが、迷惑な訳がない」


 エレーナが即座に……それこそ考え込むまでもなく、そう断言する。

 エレーナにとって、それだけ当然のことだからなのだろう。


「そもそも、私に会いに来た者の中には、レイについて聞いてくる者も多い」

「そうなのか?」


 それはレイにとって意外だった。

 とはいえ、少し考えれば何となくその言葉の意味……裏にあるものは予想出来たが。

 何しろレイはクリスタルドラゴンの一件がある。

 レイに直接その件について尋ねるのが禁止されているのは、エレーナに面会に来る者であれば当然のように理解しているだろう。

 また、エレーナに直接クリスタルドラゴンについて聞く……というのは禁止されている訳ではないが、それでもあまり好まれないのは間違いなかった。

 だからこそ、エレーナに対してレイがどうしているのかといったようなことを遠回しに聞こうとする者は多い。

 そのような者達にとって、そこにレイがいるというのを知れば喜びこそすれ、不満を抱く者はいない。

 勿論、全員が全員そのように思っている訳ではない。

 中にはレイの持つクリスタルドラゴンの情報については興味がない……もしくは情報収集能力が低い為に、クリスタルドラゴンについては何も知らないような者もいて、そういった者達はレイの存在を不満に思うだろうが。


「うむ。レイに直接聞くのは禁止されているが、そんな中でも私に聞くのは何も問題はないしな」

「それはそれでどうかと思うけど」


 レイの呟きに頷いたのは、アーラだ。

 クリスタルドラゴンについて知りたいというのはアーラも理解出来る。

 だが、だからといってその件をエレーナに聞くというのは、エレーナに心酔しているアーラにしてみれば、到底許せることではない。

 それでも不満を爆発させないのは、エレーナが問題ないと態度で示している為だ。

 もしエレーナが不機嫌になっていれば、恐らく……いや、間違いなくアーラはその力を振るったであろう。

 剛力と称するのが相応しいアーラだ。

 その場合、力を振るわれた者がどうなったのかは、レイには分からない。

 結局レイは、今日の午前中はエレーナの勧め通り、マリーナの家でゆっくりすることにしたのだった。






「んん……ん?」


 精霊のお陰で、夏に外で寝ていても決して暑くはない。

 そして当然ながら、寒くもない。

 そんな時間の中で昼寝をしていたレイは、寄りかかっていたセトが動いたことで目を覚ます。


「セト? どうした?」

「グルゥ」


 レイの言葉に、ごめんなさいと喉を鳴らすセト。

 レイも別にその件でセトを責めている訳でもないので、軽く伸びをしてからセトを撫で……


「ああ、なるほど」


 セトの前にイエロがいて、地面に転がっている……それこそ犬や猫のように腹を見せる形で寝転がり、それでいながら動いているのを見て、セトが動いた理由を察する。

 朝食が終わり、エレーナとアーラと自分だけが残った中で話をしていたが、やがて約束の時間になったのだろう。面会を希望する者が訪ねてきたので、レイは中庭でゆっくりとすることにしたのだ。

 なお、エレーナの面会は中庭でやることもあれば、中でやることもある。

 今日はレイが中庭でゆっくりしていたのもあってか、中で面会をすることにしたらしい。

 ……レイは知らなかったが、エレーナとの面会は多くの者が快適な環境にいられるということで、かなりの希望者がいる。

 勿論エレーナとの面会をすることが出来る者は貴族派の貴族であったり、あるいは大きな商会の会長であったりするのだが。

 そのような者達であれば、冷房のマジックアイテムくらいは持っている者も多いのだが……冷房のマジックアイテムと精霊によって快適な空間にされているマリーナの家は、大きく違うらしい。

 アーラから面会する客がそのように言っていたというのを聞かされたレイは、何となく日本でもエアコンの冷房は嫌だと言っている者がいたなと思い出す。

 かといって、扇風機だけにしておくと熱中症に陥る可能性もあるので、エアコンは適切に使う必要があると何かで見た覚えがあった。

 そんな快適な空間でこうしてゆっくり出来る自分は幸せなのだろうと、そうレイは思うのだった。

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