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レジェンド  作者: 神無月 紅
ギルムへの一時帰郷

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3924/4003

3924話

年末なので、2話同時投稿です。

こちらは2話目なので、直接こちらに来た方は前話からどうぞ。

「あら、レイ。お帰りなさい」


 夕方、家に戻ってきたマリーナは、レイを見てもそう短く声を掛けるだけだ。

 数ヶ月ぶりの再会だというのに、レイがマリーナの家にいるのに全く驚いた様子がない。


「えっと……その、何だ。もう少し驚いてもいいんじゃないか?」

「レイ、忘れたのか? この家はマリーナの精霊魔法によって守られている。そうである以上、レイがこの家に入ってきたのを、ここから離れた場所にいても察知出来るというのはおかしな話ではない」

「……ああ、なるほど」


 エレーナの言葉に、レイはマリーナが自分を見ても特に驚いた様子がない理由について理解する。

 レイとしては、久しぶりの再会なのだからもう少し驚いて欲しいとおもったのだが。


「ふふっ、ごめんなさいね。本当ならレイが来たと聞いた時、すぐにでも帰ってきたかったのだけど……今日はちょっと大きな事故があって、その怪我人の治療で忙しかったの」


 そう告げるマリーナからは、本人が意図している訳ではないだろうが、強烈な女の艶を感じさせる。

 慣れているレイなので抵抗は出来るのだが、もしここに他の男がいれば、恐らく……いや、間違いなくマリーナの女の艶にやられて動けなくなるか、あるいは欲望に流されて襲い掛かるか、というぐらいの強烈な女の艶を。


「大きな事故って……大丈夫なのか?」

「怪我人の方という意味では、問題ないわ。幸い、死人も出ていないし。ただ、増築工事の現場という意味では、少し遅れが出たのは間違いないでしょうね」

「そうか。……事故の原因は?」

「慣れていない人が無理をした結果と聞いてるわ」

「それはつまり、今年初めて増築工事の仕事をした奴が無理をしたということか?」

「そうなるわね。厄介なことだけど、今までにも何度か同じようなことがあったし……仕方がないことではあるんでしょうね」

「ドワーフ達が怒ってないといいんだが」


 全員がそうだという訳ではないが、工事現場を仕切っているのはドワーフが多い。

 そんなドワーフ達にとって、つまらないミスで仕事が遅れるというのは決して好ましいことではなく……


「……怒ってないと思う?」

「やっぱりか」


 マリーナの言葉から、事故を起こした者が激怒されているのは間違いないと思われた。

 とはいえ、それは仕方がないことでもあるだろう。

 ドワーフ達にしてみれば、増築工事がそれだけ遅れたということを意味してるのだから。


「そうね。まぁ、それでもここまでの大きな事故はあまりないけど、それなりの事故は結構あるわ。そう考えると、今日の規模の事故で死人が出なかったのが不幸中の幸いでしょうね」

「だといいんだが。……ともあれ、少しの間よろしく頼む」

「あら、別にわざわざそんなに畏まらなくてもいいのよ? ここはレイの家でもあるのだから。レイが帰ってくるのなら、ここでしょうし」


 そう言い、マリーナは笑みを浮かべる。

 そんなマリーナの笑みに引きずられるように、レイも笑みを浮かべていた。


「コホン。それで、マリーナ。今日はこうして久しぶりにレイが戻ってきたのだ。そう考えると、今日の夕食は豪華なものとしてもいいのではないか?」


 そんな二人の雰囲気に割って入るようにエレーナが口を挟む。

 マリーナはエレーナに少しだけ不満そうな表情を向けつつも、仕方がないと口を開く。


「そうね。どうせなら今日は豪華にいきましょうか。レイ、お肉をお願い出来る?」

「構わないけど、何を出す? ガメリオンか?」


 冬の風物詩ともいえるガメリオンは、当然ながら本来なら夏の今、食べられるような肉ではない。

 いや、塩漬けのような保存食とした肉であれば話は別だが、生肉となるとレイのようにミスティリングに収納されているというような例外を除き、殆ど出来ない。

 希少なマジックアイテムを使って保存していたりといった者もいるかもしれないが。


「……いえ、そうね。どうせならクリスタルドラゴンの肉にしましょう。勿論、レイが構わなければだけど。……どう?」


 マリーナに視線を向けられたレイは、すぐに頷く。


「久しぶりの再会だし、クリスタルドラゴンの肉にしよう」


 レイはあっさりとクリスタルドラゴンの肉を選ぶ。

 ミスティリングに収納されているクリスタルドラゴンの肉は、それこそこういう時に食べるべきだと思ったからだ。

 問題なのは、クリスタルドラゴンの肉は非常に美味い肉で、一定の料理技術を持っている者がいれば、どのように料理をしても不味くなることはないということだろう。

 それこそ本職の料理人……それも、領主の館で働いているような料理人であれば、クリスタルドラゴンの肉をより美味く調理をすることも出来るだろうが。


「そう、じゃあクリスタルドラゴンの肉を使うとして……どういう料理にする?」

「下手に手を加えない方がいいと思う。以前食べた時の経験からすると、それこそステーキとかの単純な料理が向いてるだろうし」


 質の高い肉というのは、下手に調理をするよりも、シンプルに塩胡椒をして焼いて食べるのが向いている。

 例えば、日本にあったいわゆる高級和牛。

 それらの肉はプロの料理人ならまだしも、そうではない者ならシンプルに塩胡椒をして焼くのがベストだと、レイは日本で読んだ料理漫画でやっていたのを見た覚えがある。


(まぁ、高級和牛というのはその多くが脂身だったりするから、ステーキであっても食べすぎると胃もたれしそうだけどな)


 ともあれ、レイの意見が採用され……早速、料理の下準備に入る。

 もっともメインはクリスタルドラゴンの肉のステーキで、それについてはレイがミスティリングから出した肉と、ギルムで多く出回るようになった香辛料、後は調理器具としてマジックアイテムの窯を取り出す。

 レイにしてみれば、この窯は本当に久しぶりに使うような気がする。

 ガンダルシアでは家に帰ればメイドのジャニスが料理を作ってくれたし、ダンジョンの中で食事をする時もミスティリングに収納されている料理を食べるだけだった。

 ガンダルシアからギルムに向かう時の野宿でも、この窯を出すようなことはなく、普通にミスティリングから出した料理を食べていた。

 これで野営の時に動物やモンスターを倒して肉を本格的に焼くといったことがあれば、まだ少し話は違ったのかもしれないが、あったのは精々がセトが湖で獲った魚やカニだけだった。

 そんな訳で、レイとしても本当に久しぶりに窯を取り出す。


(ガンダルシアに行く前には、この窯も結構使っていたんだけどな)


 マリーナの家で食事をする時、この中庭でよく食べていた。

 その時、料理をするのに窯を使ったり、あるいは冷めた料理を温めるのに窯を使ったりといった具合に。

 何しろ、この窯はレイの魔力で動いているので非常に高性能だ。

 それこそ、プロ仕様……あるいはプロから見ても羨ましい程の性能を誇る窯だ。

 ……もっとも、そこまでの高い性能を持つ窯であっても、料理については初心者よりはマシ程度のレイであったり、料理上手ではあるがプロではないマリーナといった者達が完全に使いこなせている訳ではないのだが。


「あら、久しぶりね。……じゃあ、今日はこの窯を使ってクリスタルドラゴンの肉を焼きましょうか。ただ、それだけだと足りないから、他にも幾つか料理を作るわね」


 そう言い、マリーナは嬉しそうな様子で家の中に入っていく。


「マリーナさん、嬉しそうでしたね」

「うむ。久しぶりにレイの為に料理を作れるのが、それだけ嬉しかったのだろう。……私もそれは羨ましいとは思う」


 アーラとエレーナがそう言葉を交わす。

 エレーナも紅茶を淹れる技術はアーラに習ったこともあり、かなり上手い。

 ……その割には、今日レイが帰ってきた時に淹れた紅茶は、アーラが淹れたものだったのだが。

 それについては、後でエレーナが気が付き、残念に思っている。


「ねぇねぇ、クリスタルドラゴンの肉ってどのくらい美味しいの?」


 話が終わったと判断したのだろう。

 ニールセンがレイの側まで飛んできて、そう尋ねる。


「そうだな。……簡単に言えば、批評出来ないくらいに美味い」

「ちょっと何よそれ。結局一体どのくらい美味しいのか、それだと分からないじゃない」

「というか、ニールセンはクリスタルドラゴンの肉は食べたことがなかったか?」

「え? そうだっけ?」


 レイの表現を不満に思ったニールセンがそう言うが、レイにしてもどう表現すればいいのか分からないのは事実。

 何より、以前妖精郷で食べたことある筈なのだが……と思いつつ、口を開く。


 そう思うレイだったが、とにかく美味いとしか表現出来ないのは間違いない。


「なら、食事が終わった後でニールセンにはクリスタルドラゴンの肉がどういう味だったのか、話して貰うか」

「いいわよ。そういうのは私に任せなさい!」


 そう言い、飛びながら空中で胸を張るニールセン。

 そんなニールセンの様子にレイは笑みを浮かべる。

 あの肉の味を、どう表現するのだろうと思いながら。

 貴族のエレーナ、長年生きてきて美味い料理を食べた経験は数えれきないマリーナ、出奔したが皇族出身のヴィヘラ。

 そして美味い料理を食べた回数はそんなに多くはないが、日本で料理漫画を好んで読んでいたレイ。

 レイだけは若干方向性が違うが、とにかくそんな面々であってもクリスタルドラゴンの肉の美味さをきちんと表現出来ないのだ。

 そうである以上、ニールセンは一体どのような表現をするのか、レイは楽しみだった。


「ただいま。……レイ?」

「……ん」


 レイがニールセンと話していると、不意にそんな声が聞こえてくる。

 声のした方に振り向けば、そこにはレイが予想したようにヴィヘラとビューネの姿があった。

 ビューネはレイを見てもいつものように表情を変えていない。

 ただ、言葉を出すまでに数秒の沈黙があったのが、レイを見てのビューネの驚きを示していた。

 そして、ヴィヘラは驚きに目を見開き……そして、一歩、二歩と歩き……やがてレイの前に到着する。

 潤んだ瞳のままレイに手を伸ばし……


「って、おいっ!」


 瞬間、レイは後ろに跳び退く。

 そしてレイの身体のあった場所に伸びていたのは、ヴィヘラの手。

 ……ただし、レイの身体に触れようとしたその手には魔力が集まっていた。

 魔力を察知する能力がないレイにはそれは分からなかったが、それでもヴィヘラが伸ばした手がただの手ではないのは、本能的に察していた。


「あら、残念ね。もう少しで浸魔掌を当てることが出来たのに」

「……冗談はその辺にしておいてくれ」


 肝を冷やしながら、レイはヴィヘラにそう言う。

 浸魔掌というのは、ヴィヘラが使うスキルだ。

 掌から魔力を放ち、相手の体内を攻撃するという凶悪な技。

 相手の体内に直接ダメージを与えるということは、それはつまり幾ら頑丈な鎧を身につけていても無意味だということになる。

 それこそ、レイの持つドラゴンローブも浸魔掌の前では無意味になる。

 それだけ凶悪な攻撃力を持つのだ。

 勿論、レイもヴィヘラが本気で……それこそ、自分を殺す気で浸魔掌を使った訳ではないのは、理解している。

 だが、それでも浸魔掌が凶悪な威力を持っているのは間違いない。

 だからこそ、レイとしてはヴィヘラの今の行動を咎めたのだ。

 しかし、そんな言葉を掛けられたヴィヘラは、その言葉を特に気にした様子もなく口を開く。


「レイはダンジョンで思う存分強者と戦ってきたのでしょう? なら、少しくらい私と戦ってもいいと思うんだけど」


 そう不満そうに言うヴィヘラ。

 一種の戦闘狂で、強者との戦いを好むヴィヘラにとって、ダンジョンを探索しているレイはそれだけ羨ましい存在なのだろう。

 実際にはレイはまだそこまで深くまでは潜っていないので、ヴィヘラが期待するような強者となると……イレギュラー的な存在だった、十階のリッチしかいないのだが。


「教官の仕事もあるから、まだそこまで深い場所までは潜ってないんだよな。ヴィヘラが期待するような強い相手となると、もっと深い場所にいかないと無理だと思うぞ」


 実際には十五階まで潜ったレイは、ガンダルシアの中でも明らかにトップ層の一人なのだが。

 ガンダルシアにおいては、五階、十階、十五階がそれぞれ壁として存在しており、その壁を超えることが出来る者はどうしても少なくなる。

 冒険者育成校はその壁を越える為の冒険者を育てるという意味もあるのだ。

 ……いや、冒険者育成校である以上、それが一番大きな理由なのは間違いないのだが。


「ふーん。教官の仕事はどうなの?」

「どうと言われてもな、悪くはないとしか言えない。俺がやってるのは結局模擬戦だけだし。座学とかそういうのは、俺にとって関係ないし」


 そう言うレイの言葉に、ヴィヘラは少しだけ興味深そうにするのだった。

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